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第1章:始まりの3年間
第1話:目覚め
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『やっと、会えましたね』
その声が聴こえて、一つの意識が目覚める。その場所は暗く、自分が存在しているかさえ曖昧で、そして目の前には今にも消えそうになりながらも、朧げに光放つものがあった。
『───君は誰なんだ? 君が俺を呼んだのか?』
光放つ存在は彼の質問を肯定し、話を始める。声は女性のようで、温かく懐かしく感じていた。
『私の名前は"イリス"───あなたに"戻って来て欲しくて"こちらに呼びました』
しかし、彼にとって『戻って来て欲しい』という言葉の意味は解らなかった。
『・・・すまないが、俺は君を知らない。俺はあの時───』
彼は途中で言葉に詰まる。
以前の自分が何をしていたか、どうしてこうなっているのかが、彼には理解出来ず、思い出すこともできなかった。
『・・・思い出せないのですね。』
『何故それを・・・』
その声はまるで以前の彼を知っているような言い方をした。
彼は声の主に自分が疑問に思っている事を問いかけようとしたが、うまく言葉が出てこなかった。
それと同時に彼の視点は点滅する。それに対して彼女はこう言った。
『・・・残念ながら時間が来てしまいました』
その意識は薄れていき───まるで夢から醒めるような感覚だった。
『───再び会う事ができれば少しでもお話します。生き延びて───』
その言葉を最後に、彼の意識は完全に消えた。
場所は移り変わり───そこは晴れ晴れとした草原。背嚢を背負い、防寒着のような服を着た二人の男が草原を歩いていた。
彼らのうち一人は髭を蓄えた壮年の男で、もう一人は10代半ばの若い少年で、二人共、右肩からライフルを下げていた。
「なぁ、親父───この辺で終わりにしないか?」
男は気怠そうにしていた少年の提案に対し、彼は頷いた。
「そうだな───兎5匹、お前としては大したもんだ」
自分が獲った事を褒められた少年は、嬉しそうにある事を言った。
「じゃあ、俺の事を"銃士隊"に───」
「駄目だ、まだ訓練も碌に受けてないだろ?
まぁ、今回のことでなれる見込みはできたな」
少年はそう言われてしまい不貞腐れる。彼は"銃士隊"と言う部隊に憧れていた。
会話が終わり、そのまま二人が歩いていると、少年が空を見上げた。
「今日が青空で良かったぜ。この草原で眠りたい気分だが───」
しかし、彼が空を見ると、そこには薄らと青く光る"何か"が流れていた。
「おいおい、何だあれ・・・」
気になった少年が、首から掛けていた双眼鏡に目をつけてその"何か"を見た。
その"何か"は流れ星のようで、色は青白く、今にでも地上の何処かに落下しそうだった。
「ありゃあ、まさか───」
「───"転星人"だな、助けに行くぞ」
少年は、隣で同時に見ていた男が言った事に唖然とした。
「おいおい嘘だろ・・・天星人を助けるってか?」
「何か問題でもあるか?」
「問題も何も・・・王国の方でも見てる筈だから俺たちが行かなくても良いだろ」
「・・・銃士隊は戦いや狩りだけでは無く、人の救助も任務の内だ」
「けどよ・・・」
「嫌だったら、先に帰っても良いんだぞ?」
男がそう言うと、少年は頭を掻いて舌打ちしながらも、仕方なく同行した。
二人は転星人の落ちた所を割り出して、そこまで歩いて行く。少し長い道のりではあるものの、二人は突き進んで行った。
その道中で森に入っていくと、そこには木々に囲まれた屋敷があった。
「なぁ、親父・・・あんなところに屋敷なんてあったか?」
「恐らく、俺たちが産まれるより前に作られた屋敷だ。今更人が住んでいるとは思えん」
そんなことを話していると、屋敷1階の窓中からは青白い光が射した。二人は窓から射した光に驚き、それぞれ木の影に隠れた。
「"ジョッシュ"、ライフルを準備しろ」
「言われなくても」
男が少年の名前を呼び、"ジョッシュ"という少年は肩に掛けてあるライフルを手に取った。
二人が屋敷に入る。そこはエントランスで、至る所に火事の跡が見える。そして天井には大きな穴が床を突き抜けて開いていた。
そこに天星人はおらず、男はジョッシュに指示した。
「俺は1階を調べる、お前は2階を調べろ」
「ああ」
「ただ、用心しろ。そして、見つけても撃つな」
「・・・分かってる」
二人は手分けして天星人の捜索に当たる。屋敷とは言え、部屋数は全階合わせて10部屋ぐらいで、彼等はスムーズに探索を進めることができた。
ジョッシュは2階中を探索し、最後に残った部屋に入るところだった。
「よし、此処で最後だな」
彼が最後の部屋に入ろうとしたが、扉が開かなかった。
「扉がつっかえてるのか?」
そう思った彼が足底で扉を2、3回蹴ると、扉がやっと開き、中に入る事が出来た。
中に入ると、部屋の真ん中に机があり、周りには本棚らしき物がある。彼は此処が書斎だと推測した。
そして、部屋に入ってからすぐ左には椅子が倒れていた。
「この椅子で扉を止めていたのか」
そう言って、辺りを調べようとすると背後から足音が聴こえてきた。
彼は後ろを振り向きながら、背中から倒れ込み、こちらに来た存在にライフルを構えた。そこには、下の階を調べていたはず男がいた。
「なんだ、親父か・・・」
「油断はしていない様で大したもんだ。どれ、立てるか?」
「ああ、大丈夫」
男はジョッシュがこの部屋に来る前に1階の探索を終えて、特に気になるものは何も無かったことを彼にに伝える。
そして、彼が部屋中を眺めると、この部屋のある点に違和感を示した。
「どうしたんだよ、親父」
彼は寝室の壁際にある本棚を見ると、本棚には一冊の本のみが縦に置かれている。そこに不自然さを感じていた。
「怪しいな・・・」
彼がその本を取ろうとすると、本が手前に傾き、何かの仕掛けが作動する音が聴こえ、本棚が左に動く。
そこには何処かに続く入り口があった。
「隠し扉・・・そんな技術がこの時からもうあったのか」
彼はジョッシュに用心するよう指示して、その中に入っていく。
隠し扉の向こうは隠し通路となっており、階段が下へと続いていた。
階段を降りた彼等が扉を開けると、そこは隠し部屋だった。
部屋にある中央のテーブルには火のついたランタンがあり、その奥には壁に寄りかかって倒れている少年がいた。
見た目はジョッシュと同じぐらいの年で青黒い髪の、ローブの様な服を着た少年だった。
「・・・コイツが例の天星人?」
「恐らくな・・・」
そう言って、男は意識を失っている少年に話しかけた。
「おい、大丈夫か?」
話しかけられて少年は瞼をゆっくり開くが、まだ意識が朦朧としていた。
「仕方ない、ここから連れ出すぞ」
ジョッシュは男の指示を受けて、渋々天星人の少年に肩を貸す。一方で彼は部屋の雰囲気に何か違和感を覚えていた。
その違和感の原因は分からないが、この部屋には何かある───そう思い、部屋を隈無く見ていると、先程少年が倒れていた所に手帳が落ちている事に気付いた。
少年が落とした私物なのか、彼は手帳を拾い、不思議そうに手帳を開こうとしていた。
「───なぁ親父、手を貸してくれよ。コイツの救助が先だろ?」
ジョッシュの言葉で我に帰った男は、返事をしながらすぐに彼を手伝った。
天星人の少年を助けた二人は、屋敷から出て、森を抜けた。
「なぁ、これからどうするよ?」
「まず、一発撃ってからだな」
男がそう言って信号銃に弾を装填すると、それを空に向けて撃った。
放たれた信号弾は黒色で、現在位置を知らせる為に彼はこの色を使用した。
それから再び草原の方を通って街道に入ると、ある人が声をかけてきた。
「おいアンタ、"クレイグ"さんかい?」
そこには中年の男がいて、彼は男を"クレイグ"と呼んだ。
「ああ、ダリルか。すまないが村まで運んでくれないか?」
「お安い御用で」
ダリルという男は御者のようで、彼は快く引き受けてくれた。
2人は馬車の荷台に天星人の少年を運び、その後に2人は、背負っていた背嚢を馬車の荷台に置いた。
クレイグは此処までの経緯を彼に話し、一方でジョッシュがライフルを荷台に置き、乗り込もうとしていた。
だが、彼が乗り込もうとした時、後ろの茂みから音が聞こえた。
彼がその音に気づいて後ろを振り向くと、茂みから黒い物体が彼に向かって飛んだ。
それは四足の獣で、そちらの方が一足早く獲物に牙を立てていた。
不意を突かれた彼が死を覚悟したその時、獣は横に吹き飛ばされる。どうやら彼を襲ったのは野生の狼だった。
彼が左に視点を移すと、そこには片手で拳銃を構えたクレイグがいた。
「・・・すまねぇ、親父」
「急いで村に戻るぞ」
二人は荷台に乗り込み、御者は馬を走らせた。
馬車が村まで走ると、後ろから何十匹かの獣が走ってくる。野生の狼だ。
「ジョッシュ、ライフルを構えろ───決して馬車に近づけるな」
「ああ、返り討ちにしてやる!」
二人は襲ってくる狼をライフルで撃つ。一匹、二匹、三匹───と襲ってくる狼を次々と撃ち抜いた。
それから数十分後、ようやく狼達は追うのをやめて逃げていった。やっと縄張りから逃れたようだ。
「ふぅ・・・あぶねぇところだった」
ジョッシュはライフルを下げて溜息をついた。
「あそこが奴等の縄張りだとしたら、知らずに通ったこちらが悪いかもな・・・」
「そんな事言ってても、あいつ等が襲わなければ良い話だったろ」
申し訳ないと思っているクレイグに対し、ジョッシュが反論する。この議論をすると終わらないからか、すぐにこの話は終わった。
それから暫くして、馬車が彼等の村に着いた。
「着きましたぜ」
「感謝する」
そう言って、ジョッシュとクレイグは荷台から天星人の少年と自分たちの荷物を運び出した。
御者にお金を渡したクレイグは、助けた天星人を運ぶ為に他の仲間を呼びに行った。
ジョッシュが馬車の側面にに寄りかかっていると、ある1人の少女が向かってきた。
「お疲れ様、ジョッシュ」
彼が目を向けると、そこには騎士の格好をした金髪の少女が前屈みになって彼を見ていた。
「何だ、"レーヴァ"か・・・王国側では見てなかったのか?」
「見てたから来たのよ・・・王都外の管轄は銃士隊だから別に遅くても文句言わないでね」
「はいはい、"麗しき"騎士様」
彼の嫌味を無視して、レーヴァが話をした。
「───で、彼が例の天星人?」
彼女が担架で運ばれていく天星人の少年を指差しながら言った。
「ああ、元々助けるつもりは無かったが・・・」
「ジョッシュ、そんな事言っちゃ駄目よ」
眉間に皺を寄せて表情を曇らせるジョッシュを彼女が宥めた。
「私、彼に色々聴きたい事があるから行くわ」
「任務か?」
「それもだし、あの天星人に興味があるもの」
「はいはい、そうかよ」
微笑む彼女に、彼は手で追い払うようにした。
天星人の少年は、何処かの建物に運ばれていき、そこには、村長や騎士などと言った、数名の人物がいた。
「クレイグさん、彼が例の天星人かい?」
眼鏡をかけた初老の男がクレイグに訊いた。
「そうです、"カルロ"さん」
「───何とも、天星人をこの目で見たのは久方ぶりだな」
「はい、私も驚きました。まさか狩りを終えた後に来るとは・・・」
そんな話をしていると、後からレーヴァが遅れてやって来た。
「クレイグさんにカルロさん、お久しぶりです」
「おお、レーヴァか久しぶりだな。騎士団の研修は頑張っているか?」
「はい」
レーヴァとクレイグと会話をしていると、天星人の少年が目を覚まし、ゆっくりと体を起き上がった。
「此処は・・・?」
不思議そうに周りを見る少年に、彼女が真面目な表情に変えて話しかけた。
「ここは"ヴァートレスの村"だ」
「ヴァートレスの村・・・?」
「そうだ、貴方は銃士隊の者に助けられて此処に運ばれた」
少年に大まかな経緯を説明した後、彼女は彼に質問をした。
「今度は私の質問に答えてもらいたい。貴方の名前は?」
彼は名前を思い出すように少し悩むと、思い出したように名前を呟いた。
「スレイ───"スレイ・アルフォード"です」
その声が聴こえて、一つの意識が目覚める。その場所は暗く、自分が存在しているかさえ曖昧で、そして目の前には今にも消えそうになりながらも、朧げに光放つものがあった。
『───君は誰なんだ? 君が俺を呼んだのか?』
光放つ存在は彼の質問を肯定し、話を始める。声は女性のようで、温かく懐かしく感じていた。
『私の名前は"イリス"───あなたに"戻って来て欲しくて"こちらに呼びました』
しかし、彼にとって『戻って来て欲しい』という言葉の意味は解らなかった。
『・・・すまないが、俺は君を知らない。俺はあの時───』
彼は途中で言葉に詰まる。
以前の自分が何をしていたか、どうしてこうなっているのかが、彼には理解出来ず、思い出すこともできなかった。
『・・・思い出せないのですね。』
『何故それを・・・』
その声はまるで以前の彼を知っているような言い方をした。
彼は声の主に自分が疑問に思っている事を問いかけようとしたが、うまく言葉が出てこなかった。
それと同時に彼の視点は点滅する。それに対して彼女はこう言った。
『・・・残念ながら時間が来てしまいました』
その意識は薄れていき───まるで夢から醒めるような感覚だった。
『───再び会う事ができれば少しでもお話します。生き延びて───』
その言葉を最後に、彼の意識は完全に消えた。
場所は移り変わり───そこは晴れ晴れとした草原。背嚢を背負い、防寒着のような服を着た二人の男が草原を歩いていた。
彼らのうち一人は髭を蓄えた壮年の男で、もう一人は10代半ばの若い少年で、二人共、右肩からライフルを下げていた。
「なぁ、親父───この辺で終わりにしないか?」
男は気怠そうにしていた少年の提案に対し、彼は頷いた。
「そうだな───兎5匹、お前としては大したもんだ」
自分が獲った事を褒められた少年は、嬉しそうにある事を言った。
「じゃあ、俺の事を"銃士隊"に───」
「駄目だ、まだ訓練も碌に受けてないだろ?
まぁ、今回のことでなれる見込みはできたな」
少年はそう言われてしまい不貞腐れる。彼は"銃士隊"と言う部隊に憧れていた。
会話が終わり、そのまま二人が歩いていると、少年が空を見上げた。
「今日が青空で良かったぜ。この草原で眠りたい気分だが───」
しかし、彼が空を見ると、そこには薄らと青く光る"何か"が流れていた。
「おいおい、何だあれ・・・」
気になった少年が、首から掛けていた双眼鏡に目をつけてその"何か"を見た。
その"何か"は流れ星のようで、色は青白く、今にでも地上の何処かに落下しそうだった。
「ありゃあ、まさか───」
「───"転星人"だな、助けに行くぞ」
少年は、隣で同時に見ていた男が言った事に唖然とした。
「おいおい嘘だろ・・・天星人を助けるってか?」
「何か問題でもあるか?」
「問題も何も・・・王国の方でも見てる筈だから俺たちが行かなくても良いだろ」
「・・・銃士隊は戦いや狩りだけでは無く、人の救助も任務の内だ」
「けどよ・・・」
「嫌だったら、先に帰っても良いんだぞ?」
男がそう言うと、少年は頭を掻いて舌打ちしながらも、仕方なく同行した。
二人は転星人の落ちた所を割り出して、そこまで歩いて行く。少し長い道のりではあるものの、二人は突き進んで行った。
その道中で森に入っていくと、そこには木々に囲まれた屋敷があった。
「なぁ、親父・・・あんなところに屋敷なんてあったか?」
「恐らく、俺たちが産まれるより前に作られた屋敷だ。今更人が住んでいるとは思えん」
そんなことを話していると、屋敷1階の窓中からは青白い光が射した。二人は窓から射した光に驚き、それぞれ木の影に隠れた。
「"ジョッシュ"、ライフルを準備しろ」
「言われなくても」
男が少年の名前を呼び、"ジョッシュ"という少年は肩に掛けてあるライフルを手に取った。
二人が屋敷に入る。そこはエントランスで、至る所に火事の跡が見える。そして天井には大きな穴が床を突き抜けて開いていた。
そこに天星人はおらず、男はジョッシュに指示した。
「俺は1階を調べる、お前は2階を調べろ」
「ああ」
「ただ、用心しろ。そして、見つけても撃つな」
「・・・分かってる」
二人は手分けして天星人の捜索に当たる。屋敷とは言え、部屋数は全階合わせて10部屋ぐらいで、彼等はスムーズに探索を進めることができた。
ジョッシュは2階中を探索し、最後に残った部屋に入るところだった。
「よし、此処で最後だな」
彼が最後の部屋に入ろうとしたが、扉が開かなかった。
「扉がつっかえてるのか?」
そう思った彼が足底で扉を2、3回蹴ると、扉がやっと開き、中に入る事が出来た。
中に入ると、部屋の真ん中に机があり、周りには本棚らしき物がある。彼は此処が書斎だと推測した。
そして、部屋に入ってからすぐ左には椅子が倒れていた。
「この椅子で扉を止めていたのか」
そう言って、辺りを調べようとすると背後から足音が聴こえてきた。
彼は後ろを振り向きながら、背中から倒れ込み、こちらに来た存在にライフルを構えた。そこには、下の階を調べていたはず男がいた。
「なんだ、親父か・・・」
「油断はしていない様で大したもんだ。どれ、立てるか?」
「ああ、大丈夫」
男はジョッシュがこの部屋に来る前に1階の探索を終えて、特に気になるものは何も無かったことを彼にに伝える。
そして、彼が部屋中を眺めると、この部屋のある点に違和感を示した。
「どうしたんだよ、親父」
彼は寝室の壁際にある本棚を見ると、本棚には一冊の本のみが縦に置かれている。そこに不自然さを感じていた。
「怪しいな・・・」
彼がその本を取ろうとすると、本が手前に傾き、何かの仕掛けが作動する音が聴こえ、本棚が左に動く。
そこには何処かに続く入り口があった。
「隠し扉・・・そんな技術がこの時からもうあったのか」
彼はジョッシュに用心するよう指示して、その中に入っていく。
隠し扉の向こうは隠し通路となっており、階段が下へと続いていた。
階段を降りた彼等が扉を開けると、そこは隠し部屋だった。
部屋にある中央のテーブルには火のついたランタンがあり、その奥には壁に寄りかかって倒れている少年がいた。
見た目はジョッシュと同じぐらいの年で青黒い髪の、ローブの様な服を着た少年だった。
「・・・コイツが例の天星人?」
「恐らくな・・・」
そう言って、男は意識を失っている少年に話しかけた。
「おい、大丈夫か?」
話しかけられて少年は瞼をゆっくり開くが、まだ意識が朦朧としていた。
「仕方ない、ここから連れ出すぞ」
ジョッシュは男の指示を受けて、渋々天星人の少年に肩を貸す。一方で彼は部屋の雰囲気に何か違和感を覚えていた。
その違和感の原因は分からないが、この部屋には何かある───そう思い、部屋を隈無く見ていると、先程少年が倒れていた所に手帳が落ちている事に気付いた。
少年が落とした私物なのか、彼は手帳を拾い、不思議そうに手帳を開こうとしていた。
「───なぁ親父、手を貸してくれよ。コイツの救助が先だろ?」
ジョッシュの言葉で我に帰った男は、返事をしながらすぐに彼を手伝った。
天星人の少年を助けた二人は、屋敷から出て、森を抜けた。
「なぁ、これからどうするよ?」
「まず、一発撃ってからだな」
男がそう言って信号銃に弾を装填すると、それを空に向けて撃った。
放たれた信号弾は黒色で、現在位置を知らせる為に彼はこの色を使用した。
それから再び草原の方を通って街道に入ると、ある人が声をかけてきた。
「おいアンタ、"クレイグ"さんかい?」
そこには中年の男がいて、彼は男を"クレイグ"と呼んだ。
「ああ、ダリルか。すまないが村まで運んでくれないか?」
「お安い御用で」
ダリルという男は御者のようで、彼は快く引き受けてくれた。
2人は馬車の荷台に天星人の少年を運び、その後に2人は、背負っていた背嚢を馬車の荷台に置いた。
クレイグは此処までの経緯を彼に話し、一方でジョッシュがライフルを荷台に置き、乗り込もうとしていた。
だが、彼が乗り込もうとした時、後ろの茂みから音が聞こえた。
彼がその音に気づいて後ろを振り向くと、茂みから黒い物体が彼に向かって飛んだ。
それは四足の獣で、そちらの方が一足早く獲物に牙を立てていた。
不意を突かれた彼が死を覚悟したその時、獣は横に吹き飛ばされる。どうやら彼を襲ったのは野生の狼だった。
彼が左に視点を移すと、そこには片手で拳銃を構えたクレイグがいた。
「・・・すまねぇ、親父」
「急いで村に戻るぞ」
二人は荷台に乗り込み、御者は馬を走らせた。
馬車が村まで走ると、後ろから何十匹かの獣が走ってくる。野生の狼だ。
「ジョッシュ、ライフルを構えろ───決して馬車に近づけるな」
「ああ、返り討ちにしてやる!」
二人は襲ってくる狼をライフルで撃つ。一匹、二匹、三匹───と襲ってくる狼を次々と撃ち抜いた。
それから数十分後、ようやく狼達は追うのをやめて逃げていった。やっと縄張りから逃れたようだ。
「ふぅ・・・あぶねぇところだった」
ジョッシュはライフルを下げて溜息をついた。
「あそこが奴等の縄張りだとしたら、知らずに通ったこちらが悪いかもな・・・」
「そんな事言ってても、あいつ等が襲わなければ良い話だったろ」
申し訳ないと思っているクレイグに対し、ジョッシュが反論する。この議論をすると終わらないからか、すぐにこの話は終わった。
それから暫くして、馬車が彼等の村に着いた。
「着きましたぜ」
「感謝する」
そう言って、ジョッシュとクレイグは荷台から天星人の少年と自分たちの荷物を運び出した。
御者にお金を渡したクレイグは、助けた天星人を運ぶ為に他の仲間を呼びに行った。
ジョッシュが馬車の側面にに寄りかかっていると、ある1人の少女が向かってきた。
「お疲れ様、ジョッシュ」
彼が目を向けると、そこには騎士の格好をした金髪の少女が前屈みになって彼を見ていた。
「何だ、"レーヴァ"か・・・王国側では見てなかったのか?」
「見てたから来たのよ・・・王都外の管轄は銃士隊だから別に遅くても文句言わないでね」
「はいはい、"麗しき"騎士様」
彼の嫌味を無視して、レーヴァが話をした。
「───で、彼が例の天星人?」
彼女が担架で運ばれていく天星人の少年を指差しながら言った。
「ああ、元々助けるつもりは無かったが・・・」
「ジョッシュ、そんな事言っちゃ駄目よ」
眉間に皺を寄せて表情を曇らせるジョッシュを彼女が宥めた。
「私、彼に色々聴きたい事があるから行くわ」
「任務か?」
「それもだし、あの天星人に興味があるもの」
「はいはい、そうかよ」
微笑む彼女に、彼は手で追い払うようにした。
天星人の少年は、何処かの建物に運ばれていき、そこには、村長や騎士などと言った、数名の人物がいた。
「クレイグさん、彼が例の天星人かい?」
眼鏡をかけた初老の男がクレイグに訊いた。
「そうです、"カルロ"さん」
「───何とも、天星人をこの目で見たのは久方ぶりだな」
「はい、私も驚きました。まさか狩りを終えた後に来るとは・・・」
そんな話をしていると、後からレーヴァが遅れてやって来た。
「クレイグさんにカルロさん、お久しぶりです」
「おお、レーヴァか久しぶりだな。騎士団の研修は頑張っているか?」
「はい」
レーヴァとクレイグと会話をしていると、天星人の少年が目を覚まし、ゆっくりと体を起き上がった。
「此処は・・・?」
不思議そうに周りを見る少年に、彼女が真面目な表情に変えて話しかけた。
「ここは"ヴァートレスの村"だ」
「ヴァートレスの村・・・?」
「そうだ、貴方は銃士隊の者に助けられて此処に運ばれた」
少年に大まかな経緯を説明した後、彼女は彼に質問をした。
「今度は私の質問に答えてもらいたい。貴方の名前は?」
彼は名前を思い出すように少し悩むと、思い出したように名前を呟いた。
「スレイ───"スレイ・アルフォード"です」
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