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第1章:始まりの3年間
第2話:この地に降りて
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「スレイ・アルフォード・・・」
レーヴァが不思議そうにそう呟いた。
「そんなに名前が気になるのか?」
「───だって、今までの天星人は『自分の名前を思い出せない』って言っていた人が多いのよ?」
「でもそれ昔の話だろ?」
「確かにそうだし、私も本や資料で見ただけだからあまり知らないけど・・・」
「大体、王国も何で得体の知れない奴らを保護したいんだか・・・」
彼が眉間に皺を寄せて不機嫌な表情をした。
「国を発展させる為よ・・・私達が使うこの武器だって、元々は天星人から教えられた物だと聞いているわ。」
そう言って、彼女はレイピアを収めている方とは逆に付いている腰のホルスターから銃を引き抜いてそれを眺めるように弄んだ。
「そんなに過信してると、いつか寝首を掻かれるってのに・・・俺が前にいた村みたいにな」
「ジョッシュ・・・」
彼女は銃をホルスターに収めて、彼の方に視点を移す。彼は苛立っているような雰囲気を出していた。
「大体、俺は天星人を助けるのは嫌なんだよ・・・銃士隊になりたいから仕方なく助けたんだ」
その言葉を最後に二人はお互い黙る。しかし、そんな彼等の沈黙を壊す人物が来た。
「二人とも相変わらず仲が良いな」
険悪な雰囲気などお構い無しに歩いて来たオールバックの少年を見て、彼等はすぐに暗い表情から普段の表情に変えた。
「"ヴィルト"!」
二人に名前を呼ばれて、ヴィルトという少年は左腕を少し上げて気さくに挨拶した。
「で、騎士様は何でここに?」
「まだ騎士見習いよ、狙撃手さん」
「おっと失礼───まぁ本当の事を言うと、入口正門の辺りで聞いたから大体のことは分かってる」
そう言ってヴィルトは、ジョッシュの右肩を軽く2回叩いて彼に言った。
「お手柄だな、嫌だろうけど」
「・・・ああ、だがこれも銃士隊になる為だ」
ジョッシュが拳を握りながらそう言うと、彼は鼻で笑いながら歩き出した。
「またな」
別れの言葉を告げて、彼は二人の元から去って行った。
「あっ、私も行かなくちゃ。先輩達に叱られ ちゃう」
レーヴァもそう言って去り、一人になったジョッシュは呟いた。
「・・・ったく、調子狂うな」
一方スレイと名乗る少年の所へ来たレーヴァは、同じ騎士である上司と共に彼を連れて王国へと向かった。
王国行きの馬車は、王都へと直行できる街道を通り、何も無ければ道中は安全だった。
馬車は御者の代わりに上司の二人が座って手綱を握っている為、荷台の中にはスレイとレーヴァしか居なかった。
「───やっぱり、王都に行くのは心配?」
彼女が、向かい合わせに座っている彼の表情を伺い訊いた。
今の彼は暗い表情をしながら俯いており、もしかしたら緊張しているのかもしれない、と彼女は思った。
「〔仕方ないわ・・・この世界に来たばかりなのに、王都まで来させられて・・・この後あるのは軽い取調べだもの〕」
彼女は、何とか彼の緊張を解そうとした。
「貴方が以前いた所がどんな所かは分からないけど・・・王都は凄いのよ。通りには露店もいっぱいあるし、何より中央にはお城もあるのよ」
彼女は何とか不安を取り除こうとしたが、彼は表情を変えず無言だった。
「〔あ、反応に困ってるかも・・・どうしよう〕」
彼女は彼が握っている両手を優しく両手で包んでこう言った。
「だから心配しないで、ね?」
レーヴァが笑顔でスレイにそう言うと、彼の視点は一瞬別の人物が映った。
『"イルス"、貴方を───』
長い金髪にドレスのような服を着ていた女性の姿が一瞬、彼女と入れ替わりでノイズと共に映ると、彼は言葉を発した。
「"ベアトリス"・・・?」
「えっ・・・?」
彼女の唖然とした声に反応した彼は、すぐ我に返って謝った。
「す、すみません・・・」
謝罪を受けた彼女はすぐにフォローした。
「気にしないで、もしかしたら元の記憶が蘇りつつあるのかもしれないから・・・私の方こそ、いきなり手を握ってごめんね」
そんな話をしていると、馬車が停止して上司の一人が荷台に顔を出した。
「城に着いたぞ」
彼女は上司の指示を聞いて返事をした。
「行きましょう、スレイ君」
そう言って彼女は片手を彼に差し出した。
彼は騎士達に同行して共に城の入り口へと向かう。城の前には守衛がおり、彼らは事前に通達されているのか、すぐに扉を開けた。
城に入り、広いエントランスに足を踏み入れる。中央にはシャンデリアがあり、階段などが左右にある。そして、目の前には彼らを出迎えてくれる者がいた。
「ようこそ、アストリア城へ」
彼等を達を出迎えたのは、左目に片眼鏡を付けた黒い長髪の美丈夫な男だった。レーヴァ達騎士はすぐに跪き、スレイもそれに合わせた。
「宰相"トラヴィス"様───ヴァートレスの村から天星人を連れて参りました」
そう言って、上司に当たる騎士が彼を指した。
「なるほど・・・彼がですか」
そう言って、トラヴィスは騎士達に立つよう言った。
「では、参りましょうか」
彼は、レーヴァやトラヴィスに同行する事になった。
彼女の上司である騎士達は、書類を作成する為に別行動を取った。
「レーヴァ殿、王国アカデミー騎士科2年連続首席おめでとうございます」
トラヴィスが歩いている最中にそう言った。
「え?いやそんな事、大したことでは・・・」
彼の言った言葉に顔を俯けた彼女が謙遜する。スレイが横から見ると、彼女の表情は少し赤くなっていた。
「いえいえ、2年も首席を取れるのは相当な努力があったからでしょう。話によると、剛ではなく、柔で対抗したとか」
「はい。私には力が無いので、技や速さでカバーしました」
彼女からそう聴いて、彼は納得したような顔をした。
「そういえば───そちらの方は、"エヴォルド"に来る前の記憶はあるかい?」
彼の言葉に、スレイは思わず立ち止まってしまう。それと同時に二人も止まった。
「───あ、まだスレイ君は私達の住んでいる世界のことを知らないんですよ」
「これは失礼しました。まずは我々の住む世界について教えるべきですね。では、まず研究棟へ行きましょう」
彼に付いて行き、研究棟へ向かう。研究棟は城内にある中庭の奥にあり、中庭には橙色のドレスを着た少女が従者と遊んでいた。
「スレイ君、大丈夫?」
レーヴァがスレイを気遣う。まだ目覚めたばかりの彼にとって、どのぐらい体力があるのか分からなかったからだ。
「いえいえ、大丈夫です」
「なら良かった。まだこの地に降りたばかりだから、体力的に大丈夫かなと思って」
そう言って彼女が柔かに微笑む。確かに城は広く、研究棟まで少し遠いが、まだ息切れをしている訳ではなかった。
研究棟まで辿り着くものの、スレイは息を切らしていた。
「この城は広いですから、疲れるのは仕方ないと思います。検査の前に休憩を取りましょうか」
トラヴィスがそう言って、扉を開ける。その先は図書室のような部屋で、天井にはプラネタリウムのような壁画が広がっていた。
「凄い・・・」
スレイが感嘆を漏らすように呟く。彼にとっては真新しかったようだ。
「こちらが研究棟です。城の書物庫を兼ねており、魔術、薬学、生物学なども研究しております」
トラヴィスが説明し終えると、彼は所定の部屋まで案内する。そこで天星人の検査をしていると聞いた。
「お掛けになってください」
スレイがソファに腰をかける。レーヴァは彼の隣で立ったままだった。
「レーヴァ様も座ってください」
「しかし・・・」
「大丈夫です、私から話しておきます」
彼にそう言われて、彼女は遠慮しがちにスレイの隣に座った。
「では、貴方の名前は?」
「スレイです。スレイ・アルフォード」
スレイの名前を聞いて、彼は少し驚きを見せた。
「ほう・・・これは興味深いですね。自分の名前を覚えているなんて」
「いや、実は───」
スレイは何かを言おうとしたが、うまく言えなくて話すのをやめた。
「何が聞けるのか気になりますが、無理に離さなくても良いですよ」
「すみません」
「いえいえ。では、アルフォード君、まずこちらですることの説明をします───この部屋ではこの世界に降り立つ者達である天星人の観測、そして検査を行っています」
「宰相、無礼な事を言って申し訳ありませんが、彼に説明をした方が良いかと・・・」
「おっと、そうでしたね」
そう言って彼はある本をテーブルに置いて開く。それはこの世界についての書物だった。
「この世界の名前は"エヴォルド"と言い、3つの界層、そして7つの大陸から成り立ちます」
彼ががページをめくって説明していった。
「それで天星人というのは、このエヴォルドの世界に降りて来る者達の総称です」
スレイは天星人の説明を聞き、ある程度理解する。
天星人とは、彼以外にも居て、彼等が知っている知識や技術が現地の人に伝わり、国や村の発展にも繋がるようだ。
しかし彼は天星人に行う検査の事が気になり、トラヴィスに質問した。
「検査って、どんな事をするのですか?」
「検査と言っても、解剖する訳ではありません。
単に身体に含まれる魔力検査や現時点での筋力を測る身体検査、または現時点の知識を調べる知力検査などをします。そして最後に、私が幾つかの質問をします」
彼はトラヴィスの説明に一応の理解を示し、検査が始まった。
様々な検査機器を使い、緊張はするものの、自分を知る良いきっかけになると彼は思っていた。
それから数刻置いて───検査が終わり、結果はすぐに出た。
結果は筋力や魔力は平均、知力も問題無しで、身体にも異常無しと診断され、隣でレーヴァは特に理由なく安心していた。
トラヴィスは彼に幾つかの質問をする。それは、彼が"スレイになる前の記憶"についての質問で、彼はそれに答えられなかった。
彼に訊いたトラヴィス曰く、『エヴォルドに降りた際の記憶障害』と言っており、何ヶ月かしたら記憶が戻るかもしれないと告げた。
「これで検査は終わりです」
「お役に立てず、申し訳ありませんでした」
スレイはトラヴィスに謝罪したが、彼は首を横に振った。
「いえいえ、我々がこうして天星人を検査している理由は、国の発展だけでは無く、義務としているからです。天から降って来た人とはいえ、見過ごす事はしないのがこの王国です」
「しかし、天星人と現地の人とはどうやって区別を?」
「実は区別が付かないのですよ。一応、降って来た所を確認区別は付くのですが、それ以外では分かりません」
トラヴィスに別れを告げて研究棟を後にしたスレイは、レーヴァと共に城のエントランスまで向かった。
エントランスには彼女の上司である一人の騎士が立っていた。一人は髪をオールバックにしている厳つい顔の男で、もう一人は身長の高い優男だった。
「よぉ、レーヴァ」
厳つい顔の男がレーヴァに言った。
「クリブさん、ロベルさん、お疲れ様です。」
彼女は頭を下げて挨拶すると、優男の方が彼女に言った。
「お疲れさん、俺たちの仕事はここで終わりだ」
「分かりました。しかしロベルさん、スレイの事をどうしますか?」
「ああ、彼の事はクレイグさんがヴァートレスの村に連れて行くそうだよ」
「クレイグさんが?」
「うん。多分彼なりに考えがあるかもしれないね」
ロベルが彼女との会話を終えると、彼はスレイの方を向いて言った。
「クレイグさんは城の正門前で待っているから彼に会うと良いよ」
スレイは王都まで送り届けてくれた騎士達に頭を下げて後にする。そして城から出ると、ロベルの言葉通りクレイグが待っていた。
「ようやく来たな。名前は"スレイ"で良いな?」
彼が自分に向けて頷くのを確認したクレイグは彼に"ある物"を渡した。
「これは・・・」
それは一冊の手帳で、後ろには"スレイドル・アルフォード"と、名乗った名前と少し違う名前が記されていた。
「お前の名前はここから取ったのか?」
「・・・はい」
「別に怒る気はないんだ、お前に"預けて"おこうかと思ってな」
「自分に、ですか?」
「ああ、名前が思い出せないのは本当だろうし、誰かが使った形跡も無いから、メモ帳として使うと良いだろう」
彼は少し悩んだが、その手帳を受け取る。そしてクレイグが本題に入った。
「この世界についてまだ知らない事だらけだろうが、俺から提案したいことがあるんだ」
「提案、ですか?」
「ああ。俺たちの住む村、ヴァートレス村に住まないか?」
「良いんですか?」
「ああ。ただお金や国への納品をする必要はあるからそこが問題だ」
「確かに・・・」
「そこでだ───俺が所属している銃士隊に入らないか?もしかしたら、お前がいた世界では剣より銃を使うのが主流だったかもしれないからな」
スレイがクレイグの提案を聞いて悩むと、それを見て彼はこう言った。
「別に強制って訳じゃない。一応訓練生を辞退する事も可能だから考えてみると良い」
それを聴き、スレイは決断した。
「・・・どこまで出来るか分かりませんが、頑張ってみます」
「よし、なら決まりだな」
この世界の事をまだ分かっていないスレイにとって、この選択がどうなるか、この時の彼にはまだ知る由も無かった。
レーヴァが不思議そうにそう呟いた。
「そんなに名前が気になるのか?」
「───だって、今までの天星人は『自分の名前を思い出せない』って言っていた人が多いのよ?」
「でもそれ昔の話だろ?」
「確かにそうだし、私も本や資料で見ただけだからあまり知らないけど・・・」
「大体、王国も何で得体の知れない奴らを保護したいんだか・・・」
彼が眉間に皺を寄せて不機嫌な表情をした。
「国を発展させる為よ・・・私達が使うこの武器だって、元々は天星人から教えられた物だと聞いているわ。」
そう言って、彼女はレイピアを収めている方とは逆に付いている腰のホルスターから銃を引き抜いてそれを眺めるように弄んだ。
「そんなに過信してると、いつか寝首を掻かれるってのに・・・俺が前にいた村みたいにな」
「ジョッシュ・・・」
彼女は銃をホルスターに収めて、彼の方に視点を移す。彼は苛立っているような雰囲気を出していた。
「大体、俺は天星人を助けるのは嫌なんだよ・・・銃士隊になりたいから仕方なく助けたんだ」
その言葉を最後に二人はお互い黙る。しかし、そんな彼等の沈黙を壊す人物が来た。
「二人とも相変わらず仲が良いな」
険悪な雰囲気などお構い無しに歩いて来たオールバックの少年を見て、彼等はすぐに暗い表情から普段の表情に変えた。
「"ヴィルト"!」
二人に名前を呼ばれて、ヴィルトという少年は左腕を少し上げて気さくに挨拶した。
「で、騎士様は何でここに?」
「まだ騎士見習いよ、狙撃手さん」
「おっと失礼───まぁ本当の事を言うと、入口正門の辺りで聞いたから大体のことは分かってる」
そう言ってヴィルトは、ジョッシュの右肩を軽く2回叩いて彼に言った。
「お手柄だな、嫌だろうけど」
「・・・ああ、だがこれも銃士隊になる為だ」
ジョッシュが拳を握りながらそう言うと、彼は鼻で笑いながら歩き出した。
「またな」
別れの言葉を告げて、彼は二人の元から去って行った。
「あっ、私も行かなくちゃ。先輩達に叱られ ちゃう」
レーヴァもそう言って去り、一人になったジョッシュは呟いた。
「・・・ったく、調子狂うな」
一方スレイと名乗る少年の所へ来たレーヴァは、同じ騎士である上司と共に彼を連れて王国へと向かった。
王国行きの馬車は、王都へと直行できる街道を通り、何も無ければ道中は安全だった。
馬車は御者の代わりに上司の二人が座って手綱を握っている為、荷台の中にはスレイとレーヴァしか居なかった。
「───やっぱり、王都に行くのは心配?」
彼女が、向かい合わせに座っている彼の表情を伺い訊いた。
今の彼は暗い表情をしながら俯いており、もしかしたら緊張しているのかもしれない、と彼女は思った。
「〔仕方ないわ・・・この世界に来たばかりなのに、王都まで来させられて・・・この後あるのは軽い取調べだもの〕」
彼女は、何とか彼の緊張を解そうとした。
「貴方が以前いた所がどんな所かは分からないけど・・・王都は凄いのよ。通りには露店もいっぱいあるし、何より中央にはお城もあるのよ」
彼女は何とか不安を取り除こうとしたが、彼は表情を変えず無言だった。
「〔あ、反応に困ってるかも・・・どうしよう〕」
彼女は彼が握っている両手を優しく両手で包んでこう言った。
「だから心配しないで、ね?」
レーヴァが笑顔でスレイにそう言うと、彼の視点は一瞬別の人物が映った。
『"イルス"、貴方を───』
長い金髪にドレスのような服を着ていた女性の姿が一瞬、彼女と入れ替わりでノイズと共に映ると、彼は言葉を発した。
「"ベアトリス"・・・?」
「えっ・・・?」
彼女の唖然とした声に反応した彼は、すぐ我に返って謝った。
「す、すみません・・・」
謝罪を受けた彼女はすぐにフォローした。
「気にしないで、もしかしたら元の記憶が蘇りつつあるのかもしれないから・・・私の方こそ、いきなり手を握ってごめんね」
そんな話をしていると、馬車が停止して上司の一人が荷台に顔を出した。
「城に着いたぞ」
彼女は上司の指示を聞いて返事をした。
「行きましょう、スレイ君」
そう言って彼女は片手を彼に差し出した。
彼は騎士達に同行して共に城の入り口へと向かう。城の前には守衛がおり、彼らは事前に通達されているのか、すぐに扉を開けた。
城に入り、広いエントランスに足を踏み入れる。中央にはシャンデリアがあり、階段などが左右にある。そして、目の前には彼らを出迎えてくれる者がいた。
「ようこそ、アストリア城へ」
彼等を達を出迎えたのは、左目に片眼鏡を付けた黒い長髪の美丈夫な男だった。レーヴァ達騎士はすぐに跪き、スレイもそれに合わせた。
「宰相"トラヴィス"様───ヴァートレスの村から天星人を連れて参りました」
そう言って、上司に当たる騎士が彼を指した。
「なるほど・・・彼がですか」
そう言って、トラヴィスは騎士達に立つよう言った。
「では、参りましょうか」
彼は、レーヴァやトラヴィスに同行する事になった。
彼女の上司である騎士達は、書類を作成する為に別行動を取った。
「レーヴァ殿、王国アカデミー騎士科2年連続首席おめでとうございます」
トラヴィスが歩いている最中にそう言った。
「え?いやそんな事、大したことでは・・・」
彼の言った言葉に顔を俯けた彼女が謙遜する。スレイが横から見ると、彼女の表情は少し赤くなっていた。
「いえいえ、2年も首席を取れるのは相当な努力があったからでしょう。話によると、剛ではなく、柔で対抗したとか」
「はい。私には力が無いので、技や速さでカバーしました」
彼女からそう聴いて、彼は納得したような顔をした。
「そういえば───そちらの方は、"エヴォルド"に来る前の記憶はあるかい?」
彼の言葉に、スレイは思わず立ち止まってしまう。それと同時に二人も止まった。
「───あ、まだスレイ君は私達の住んでいる世界のことを知らないんですよ」
「これは失礼しました。まずは我々の住む世界について教えるべきですね。では、まず研究棟へ行きましょう」
彼に付いて行き、研究棟へ向かう。研究棟は城内にある中庭の奥にあり、中庭には橙色のドレスを着た少女が従者と遊んでいた。
「スレイ君、大丈夫?」
レーヴァがスレイを気遣う。まだ目覚めたばかりの彼にとって、どのぐらい体力があるのか分からなかったからだ。
「いえいえ、大丈夫です」
「なら良かった。まだこの地に降りたばかりだから、体力的に大丈夫かなと思って」
そう言って彼女が柔かに微笑む。確かに城は広く、研究棟まで少し遠いが、まだ息切れをしている訳ではなかった。
研究棟まで辿り着くものの、スレイは息を切らしていた。
「この城は広いですから、疲れるのは仕方ないと思います。検査の前に休憩を取りましょうか」
トラヴィスがそう言って、扉を開ける。その先は図書室のような部屋で、天井にはプラネタリウムのような壁画が広がっていた。
「凄い・・・」
スレイが感嘆を漏らすように呟く。彼にとっては真新しかったようだ。
「こちらが研究棟です。城の書物庫を兼ねており、魔術、薬学、生物学なども研究しております」
トラヴィスが説明し終えると、彼は所定の部屋まで案内する。そこで天星人の検査をしていると聞いた。
「お掛けになってください」
スレイがソファに腰をかける。レーヴァは彼の隣で立ったままだった。
「レーヴァ様も座ってください」
「しかし・・・」
「大丈夫です、私から話しておきます」
彼にそう言われて、彼女は遠慮しがちにスレイの隣に座った。
「では、貴方の名前は?」
「スレイです。スレイ・アルフォード」
スレイの名前を聞いて、彼は少し驚きを見せた。
「ほう・・・これは興味深いですね。自分の名前を覚えているなんて」
「いや、実は───」
スレイは何かを言おうとしたが、うまく言えなくて話すのをやめた。
「何が聞けるのか気になりますが、無理に離さなくても良いですよ」
「すみません」
「いえいえ。では、アルフォード君、まずこちらですることの説明をします───この部屋ではこの世界に降り立つ者達である天星人の観測、そして検査を行っています」
「宰相、無礼な事を言って申し訳ありませんが、彼に説明をした方が良いかと・・・」
「おっと、そうでしたね」
そう言って彼はある本をテーブルに置いて開く。それはこの世界についての書物だった。
「この世界の名前は"エヴォルド"と言い、3つの界層、そして7つの大陸から成り立ちます」
彼ががページをめくって説明していった。
「それで天星人というのは、このエヴォルドの世界に降りて来る者達の総称です」
スレイは天星人の説明を聞き、ある程度理解する。
天星人とは、彼以外にも居て、彼等が知っている知識や技術が現地の人に伝わり、国や村の発展にも繋がるようだ。
しかし彼は天星人に行う検査の事が気になり、トラヴィスに質問した。
「検査って、どんな事をするのですか?」
「検査と言っても、解剖する訳ではありません。
単に身体に含まれる魔力検査や現時点での筋力を測る身体検査、または現時点の知識を調べる知力検査などをします。そして最後に、私が幾つかの質問をします」
彼はトラヴィスの説明に一応の理解を示し、検査が始まった。
様々な検査機器を使い、緊張はするものの、自分を知る良いきっかけになると彼は思っていた。
それから数刻置いて───検査が終わり、結果はすぐに出た。
結果は筋力や魔力は平均、知力も問題無しで、身体にも異常無しと診断され、隣でレーヴァは特に理由なく安心していた。
トラヴィスは彼に幾つかの質問をする。それは、彼が"スレイになる前の記憶"についての質問で、彼はそれに答えられなかった。
彼に訊いたトラヴィス曰く、『エヴォルドに降りた際の記憶障害』と言っており、何ヶ月かしたら記憶が戻るかもしれないと告げた。
「これで検査は終わりです」
「お役に立てず、申し訳ありませんでした」
スレイはトラヴィスに謝罪したが、彼は首を横に振った。
「いえいえ、我々がこうして天星人を検査している理由は、国の発展だけでは無く、義務としているからです。天から降って来た人とはいえ、見過ごす事はしないのがこの王国です」
「しかし、天星人と現地の人とはどうやって区別を?」
「実は区別が付かないのですよ。一応、降って来た所を確認区別は付くのですが、それ以外では分かりません」
トラヴィスに別れを告げて研究棟を後にしたスレイは、レーヴァと共に城のエントランスまで向かった。
エントランスには彼女の上司である一人の騎士が立っていた。一人は髪をオールバックにしている厳つい顔の男で、もう一人は身長の高い優男だった。
「よぉ、レーヴァ」
厳つい顔の男がレーヴァに言った。
「クリブさん、ロベルさん、お疲れ様です。」
彼女は頭を下げて挨拶すると、優男の方が彼女に言った。
「お疲れさん、俺たちの仕事はここで終わりだ」
「分かりました。しかしロベルさん、スレイの事をどうしますか?」
「ああ、彼の事はクレイグさんがヴァートレスの村に連れて行くそうだよ」
「クレイグさんが?」
「うん。多分彼なりに考えがあるかもしれないね」
ロベルが彼女との会話を終えると、彼はスレイの方を向いて言った。
「クレイグさんは城の正門前で待っているから彼に会うと良いよ」
スレイは王都まで送り届けてくれた騎士達に頭を下げて後にする。そして城から出ると、ロベルの言葉通りクレイグが待っていた。
「ようやく来たな。名前は"スレイ"で良いな?」
彼が自分に向けて頷くのを確認したクレイグは彼に"ある物"を渡した。
「これは・・・」
それは一冊の手帳で、後ろには"スレイドル・アルフォード"と、名乗った名前と少し違う名前が記されていた。
「お前の名前はここから取ったのか?」
「・・・はい」
「別に怒る気はないんだ、お前に"預けて"おこうかと思ってな」
「自分に、ですか?」
「ああ、名前が思い出せないのは本当だろうし、誰かが使った形跡も無いから、メモ帳として使うと良いだろう」
彼は少し悩んだが、その手帳を受け取る。そしてクレイグが本題に入った。
「この世界についてまだ知らない事だらけだろうが、俺から提案したいことがあるんだ」
「提案、ですか?」
「ああ。俺たちの住む村、ヴァートレス村に住まないか?」
「良いんですか?」
「ああ。ただお金や国への納品をする必要はあるからそこが問題だ」
「確かに・・・」
「そこでだ───俺が所属している銃士隊に入らないか?もしかしたら、お前がいた世界では剣より銃を使うのが主流だったかもしれないからな」
スレイがクレイグの提案を聞いて悩むと、それを見て彼はこう言った。
「別に強制って訳じゃない。一応訓練生を辞退する事も可能だから考えてみると良い」
それを聴き、スレイは決断した。
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