The Outsider

橘樹太郎

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第1章:始まりの3年間

第9話:部隊として

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 雪が溶け始めた頃、訓練生から候補生に上がったスレイ達が最初に行う訓練は、馬に乗る事だった。

 銃士隊にとってこの技術は馬に乗る場面も多く、銃を扱うのと同じぐらい必要だとされていた。

「───馬を乗りこなすには、その馬を良く知る事が重要だ」

 今回の教官は、アストリア王国の元騎士である"デュラン"という髪が少し長い男で、クレイグとは騎士時代からの仲間とジョッシュはスレイに話した。

 候補生達は彼に馬術を教わりながら馬との接し方を学んだ。

 一通り教わった後に早速乗馬訓練が始まり、馬の乗り方などを修正されながら訓練に励んでいた。

「スレイ、次はお前の番だ」

「はい」


 スレイが馬に跨り手綱を軽く握ると、その馬は鼻息を鳴らして身を震わせた。

「えっ・・・」

 馬の不穏な様子に、デュランは悟るように少し笑った。

「ああ、"彼女"は準備万端のようだな」

 彼がそう言った瞬間、その馬は走り出した。

 スレイは乗っている馬が急に走り出した事に驚き、手綱を握って前屈みになった。

「おいスレイ、大丈夫か!?」

 ジョッシュがスレイに向かって叫ぶが、彼は馬から振り落とされないようにするのが精一杯で、ジョッシュの気にかける声は聞こえていないようだった。

「行くか」

 スレイの状況を見かねたデュランが指で口笛を鳴らすと、一頭の白い馬が彼の元へ駆けつけ、その馬に跨り走らせた。

 スレイが馬の制御に苦戦していると、彼の左側から白い馬に乗ったデュランが駆け付けた。

 彼は苦戦しているスレイに声をかけた。

「デュラン教官!」

「スレイ、今から私の指示を聴くんだ」

 そう言って彼は冷静に指示を出した。

「馬の乗り方を教えた時と同じやり方でいい」

「わ、分かりました」

「馬の手綱をしっかり握り、自分の方に引っ張るんだ。そして走る速度が遅くなったら手綱を緩めろ、良いな?」

 スレイは頷いて彼の指示を実践する。
手綱を自分の方へ引っ張り、荒れ狂う馬を抑えようと試みる。そして、彼女は騎手の意図を理解したのか速度を抑え始めた。

 スレイも速度が遅くなるのを感じて手の力を緩めた。

「上出来だ」

「ありがとうございます」

「だが、まだ終わりじゃないぞ? このまま旋回して他の候補生の元に帰るぞ」

「はい!」

 デュランが手綱を前後に動かすと、馬は加速した。

 彼はスレイより先に行き、騎士らしい素早い旋回を見せて戻っていった。

『イルス───貴方なら大丈夫、自分を信じて。』

 スレイは疾走の中、女性の声を聴く。幻聴のようにも感じたが、その声は時々夢に出てくる女性の声だった。

 いつもならこの声に動揺するが、今回はその声のお陰か、自信を持っていた。

「〔自分の感覚を信じて・・・〕」

 スレイは手首で手綱を前後に動かして、速度を上げるよう馬に指示をすると、彼女はその指示を理解して足を早めた。

 馬を走らせたスレイは、手綱を右側に引っ張って旋回を試みる。馬はそれに応じて動き、彼女は右に旋回した。

 彼は慣れたように馬を走らせて戻ってきた。

 彼の乗馬が終わり、後続の候補生達が乗り終わったところで馬術訓練が終了した。


 訓練が終わった後、ジョッシュはスレイと話をする。その話とは、馬術訓練を担当した教官のデュランについてだった。

「デュラン教官の馬、俺たちが乗っていた馬とは違うような気がする・・・」

「お前が乗った馬も大概な気がするが・・・」

 ジョッシュはスレイの言葉に突っ込んだ。

「あの人が乗っている馬は、"ヴァイス"って名前があって、あの白い馬───いや、彼はデュランさんにとって"弟"みたいなもんなんだ」

「なるほど───」

 スレイが相槌を打った瞬間、何かが頭の中で蘇る。その光景は、ベッドに横たわる少女と何かを約束しているようだった。

「スレイ?」

 呆然とするスレイにジョッシュが指を鳴らし、彼は我に帰った。

「あっ、ごめん」

「大丈夫か?そんなに"弟"って言葉が気がかりなのか?」

「いや、弟ってより"妹"かな・・・」

「はぁ?」

 スレイの言葉にジョッシュは困惑する。当の本人は彼のそんな反応を見て、また変な事を言ったと自覚して慌てた。

「いや、これは・・・」

「お前多分疲れてんだ、後1時間だから頑張ろうぜ」

 ジョッシュはフォローを入れながら慌てるスレイの右肩を軽く叩く。
スレイもひとまず落ち着いて彼の後を追った。


 広場に集められた候補生達は、何故広場なのか騒つく。まるで誰かが悪さでもしたような大袈裟ぶりだ。

 騒々しくしていた候補生達の前にバーグ教官長が壇上に上がって口を開いた。

「これから候補生には5人編成の部隊として動いてもらう。誰と組むかはこちらで決めている」

 彼がそう言うと、スレイ達候補生には羊皮紙が渡される。
そこには候補生の誰が誰と組むのかについて記されており、スレイはジョッシュ、ヴィルト、シェイルに"ディミトリ"と言う名前の人物と一緒の隊だった。

「〔ディミトリって確か覆面姿の・・・〕」

 スレイはディミトリという少年の方向を見る。彼は入隊してから1年間、あの覆面を外す事は無かった。

 もしかしたら何処かで外しているかもしれない、とスレイは思ったが、誰からもそんな話は聞いておらず、不思議な人物だった。

 スレイが紙を見ていると、後ろから誰かが肩を組んできた。

「よっ、俺たち一緒の部隊だな! 頑張ろうぜ!」

 後ろから来たのはシェイルで、他にもヴィルトやジョッシュ、少し遅れてディミトリもやって来た。

「〔一応顔見知りの人達だから安心かな・・・〕」

 スレイはよく関わっているジョッシュ達と同じ部隊で安堵していた。

 それから次の日、部隊としての訓練が始まった。

 座学も部隊行動についての事を学ぶようになり、陣形や隊長と隊員の関係、手による合図など、訓練生の時に学んだものより詳しく学んだ。


 そしてある日の事、部隊での模擬訓練が始まった。
 模擬訓練の内容は、訓練場内にある的を的確に制圧できるかというもので、部隊の連携が制圧を迅速にすると教わった。

 スレイにとって、この人選なら上手くいくと思っていた。

 ジョッシュ、ヴィルト、ディミトリは訓練で高成績を出していて、シェイルは社交的───しかし実際は違った。

「シェイル、同じ獲物を狙うな!」

「ヴィルト、俺の指示を従え!」

「指示ばっかしてないでジョッシュも動けよ!」

 訓練時の口論は続き、スレイは頭を悩ませる。
訓練が終わり、各部隊への評価を教官は下すが、スレイ達の部隊は最悪の評価だった。

「貴様らは自惚れ過ぎだ、部隊は連携が大事だと言っているだろ!!」

 バートンから叱りを受ける事が当たり前となり、他の部隊員からはこの事で揶揄われる事が多かった。


 銃士隊養成所の会議室にて、クレイグはバートンとスレイ達の部隊について話していた。

「まさかここまで酷いとはな・・・
ジョッシュに部隊をまとめるリーダーシップを期待しているのか?」

クレイグはバートンにそう言われると彼は図星をつかれたように無言になった。

「・・・そうなのか」

「ああ・・・」

「訓練に私情を挟むとまずいぞ」

「分かっているが、あいつの可能性を信じたいんだ」

「失礼な言い方で悪いが、期待できるか・・・」



 ジョッシュは部隊より自分本位での指示が目立ち、ヴィルトは自分の腕に絶対的な自信を持っているせいか、自身のプライドを優先しているのか、他の隊員の指示に従わない事の方が多かった。

 スレイは真面目ではあるものの、何を迷っているのか反応が遅かったり無駄な動作をする事が多く、他人の指示を待っている節があり、シェイルは他の人と連携を取りやすいが、熱くなりやすいのが致命的ですぐ敵陣に突っ込みやすかった。

 ディミトリは上手くやっているが、あまり他の部隊員と意思疎通をしない───と、教官達からはそんな評価だった。



「───とこんなもんだな、仕方ない部分もあるだろうが・・・」

 2人の教官はお互いため息を吐く。仕方ない部分あるが、何とかして彼等の部隊活動を成功させたかった。

「次の訓練では遠征がある。それまでに改善しないと地獄を見るぞ」

「そもそもアイツらは隊長リーダーを決めているのか?」

「一応ジョッシュが隊長を務める事に決まったらしいが・・・」

 ジョッシュ達彼等が仲間意識ではなく、共に戦う部隊としての意識を持てる日は来るのだろうか───クレイグはそう思って頭を悩ませていた。


 それから数日間、部隊の雰囲気は日が経つにすれ悪くなっていた───ジョッシュとヴィルトはあまり口を利かなくなり、シェイルは2人に対して何か言われて口論になっている事が多い。
大して変わっていないのはスレイとディミトリぐらいだった。

 次の制圧訓練時、教官での話し合いにより、砂時計を使って制限時間以内に制圧出来るか始まったが、それでもスレイ達の連携が上手くいくことは無かった。


 休みに入った後、彼は自分の家帰った。

「〔カスパル達の部隊と喧嘩になりかけたし、もうやだな・・・〕」

 彼は一人、自室のベッドに横たわりながら溜め息を吐く。
自分のミスに、度重なる部隊内での衝突、それに時々起こる走馬灯フラッシュバック───訓練に行きたくないと思ってしまった。

 そんな事を思っていると、ふと笑いが出る。その感覚に彼は既視感を覚えていたのだ。

「〔・・・あれ、こんな事、前にも思ったっけ〕」

 その気持ちがこの世界に来てからなのか、それとも前の世界からだったのか───彼自身にもよく分からなかった。

 家に居てもする事が無かった彼は外へと出て行く。外の空気を吸う事なら家でもできたが、散歩をすれば気も紛れるかもしれないと彼は思っていた。


 スレイが空を見上げながら歩いていると、彼を呼ぶ声が聞こえ、その方向を向くと、そこにはカルロがいた。

「スレイ君か、今日は休みなのか?」

「はい」

 しかし、彼はスレイの曇っているような表情を見てこう言った。

「・・・何か悩みがあるのか?」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 スレイは心配をかけないように誤魔化したが、それでも表情は変わらず彼を見ていたので誤魔化すのを諦めた。

「私の工房で話そう」


 カルロはスレイを自身の家へと招いた。

 彼の家に入ったスレイは、その工房を見渡す。天秤や城で見た魔力検知具などと言った測定器や、壁にかけられた袋に入った植物の葉や動物の骨、それに様々な金属部品が入った箱もあった。

「散らかっていてすまんな」

「いえいえ、大丈夫です」

「そうか、座ってくれ」

 二人は椅子に座り、話を始めた。

「何があったのか教えて欲しい」

「はい、実は───」

 スレイはカルロに最近の訓練状況を伝えると、彼はその話に相槌を打ちながら聴いてくれた。

「なるほど・・・君達の部隊ではあまり上手くいってないようだな」

「はい」

 カルロは少し考えた後に言った。

「・・・私はその手の専門家では無いから上手い事は言えないが、指揮官とそれに従う部下の状況が成り立っていないように見える」

「ですよね・・・」

「指揮官に対して部下は従うべきで、指揮官は部下の意見を尊重すべきだが───話を聞いている限りだとそれが無いように見える」

「指揮官と部下の関係ですか・・・」

「部隊に入った以上、部下による強引な単独行動は部隊の輪を乱してしまう・・・だからといって、指揮官なら絶対命令で良いという訳では無い」

 彼は話を続ける。

「薬品を調合するように部隊にもバランスが必要だと私は思う」

「バランスですか?」

「そうだ。自分の意思はあってもそれを強調し過ぎず、行動する───要するにお互いを気遣いながらの行動だ」

「気遣い、ですか・・・」

「私が出来なかったからあまり偉そうには言えないが・・・恐らく、君達は自分の事で精一杯になって他の事が見えなくなっているのかもしれない。
自分の事で精一杯なのは仕方ないが、少しでも他の仲間に目を向けてみるのが良いのでは無いだろうか?」

 スレイは彼の話を聴いて考えてみると、確かに自分含めてみんな他の仲間に目を向けず単独行動していると思えた。

「すみません、ありがとうございます」

「お役に立てたかな?」

「はい!」

 スレイは笑みを見せて彼の家から出て行く。その表情かおを見て、自信を取り戻したと確信した彼は嬉しく思っていた。


 休み明けの頃、スレイが訓練所に戻ると、シェイルが慌てて彼の元に来た。

「シェイル、どうした?」

「大変だ・・・今日が試験なのにジョッシュが居ないんだ!」

「えっ!?」

 スレイは驚きを隠せなかった。

「遅刻とかは?」

 ヴィルトが慌てる二人に割って入り、提案した。

「その可能性はあるけど・・・」

「とにかく探そう。俺はクレイグさんに話してくる───」

 そう言ってスレイは走ろうと振り向いたが、そこに立っていた人物を見て立ち止まった。

「ジョッシュ!」

「悪りぃ、遅くなっちまったな」

「馬鹿野郎・・・今日は試験なんだぜ?」

「ああ、知ってる。だから───今度こそ合格しようぜ、俺たちの力で」

 ジョッシュのの啖呵を聞き、3人はそれぞれ笑って頷いた。

「おい、ディミトリは?」

「・・・ここにいる」

 ジョッシュが周りを見てディミトリを探していると、すぐそばで声が聞こえて驚く。ジョッシュは尻もちをついたが、誤魔化すようにすぐ立ち上がった。

「よし、行くぞ!」

 彼の掛け声に四人は応じて付いて行った。


 そして試験が始まり、順番がスレイ達の部隊に回ってきた。

「緊張するな・・・」

 スレイがふと呟くと、ジョッシュが肩を叩いた。

「肩の力は抜いとけよ。いつも通り気楽に行こうぜ」

「そうだな」

「これからお前達の試験を始める───装備が整い次第、訓練場に集合しろ」

 バートンがスレイ達の方に来て言った。5人は装備を整え、すぐに訓練場へ向かった。


 訓練場に集まった彼等は、ジョッシュを中央センターに集まっていた。

「これから試験を始める、狼煙が上がったらスタートだ。では・・・・・」

 クレイグが信号銃を空に向け、信号弾を放つ。そして空に狼煙が上がった瞬間、スレイ達はライフルをそれぞれの的に構えた。

「ヴィルトは中央で後方支援を頼む! スレイとディミトリは左側を、俺とシェイルで右側を攻める!」

 ジョッシュの指示を他の4人が聞き、それぞれが指示通りの行動に移す。
ヴィルトは高所にある的を狙い、的確に命中させる。他の4人も残りの的を攻めていった。

「あいつら・・・ちゃんと連携しているな」

 バートンがスレイ達が連携して試験に臨んでいることに感嘆する。

「やっとだな・・・」

 クレイグはスレイ達が連携している事に溜め息を吐いた。

「どうした、クレイグ?」

「銃士隊にとってこれが当たり前だからな。やっと出来たからこれで安心できる」

「しかし、当たり前というものは人によって違う。俺たちだって、銃士隊設立時はあんなものだっただろ?」

「・・・そうだな」

 試験を見ていた彼等は、スレイ達の成長を感じると同時に自分達も『あんなものだった』と懐かしく感じていた。
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