The Outsider

橘樹太郎

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第2章:邪竜と黄金色の竜

第5話:旅立ち

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 スレイ達はリデア王女を救出した後、ガルア王国の国王に状況説明をしてから帰路に着いた。
 スレイ達が馬車へと乗り込む。王女を救出する前は狭いと思えるような人数だったが今では随分と余裕があった。
 自分が生きている事に自信を持てなかったスレイは、自分の震える手を抑えながら帰路に着いた。
 この任務で戦死したアストリア王国の勇士達は後にガルア王国の方で捜索し、見つけ次第祖国へと送られるようで、任務に従事した者達は疲弊を癒すよう先に祖国へ帰って行った。
 ガルア王国から出て2日が経ち───任務を共にした者達が次々と倒れていく中、自分が生きている事に実感が持てなかったスレイは物思いにふけていた。
「〔王女救出の為に出発し、その先で別国の兵士からの奇襲───この任務で流れた血は誰が償う事になるのだろうか〕」
 スレイにとって心配だったのは救出対象である王女が民衆の憎悪に晒されるのではないかという不安だった。
「〔自分が心配しても仕方ないのは分かってる・・・ただ、リデア王女だってこんな事になるとは思ってなかった筈だ〕」
 スレイが考え事をしていると、リデア王女がジョッシュの肩へ寄りかかる。それを見たシェイルが彼をからかい始めた。
「ジョッシュ良いなぁ・・・」
「うるせぇ」
 しかし王女の様子がおかしい、隣に座っていたジョッシュが声をかけてみるが、彼女は乱れた呼吸で反応した。
 その光景を見たシェイルがふざける様な表情をやめてクレイグに馬車を止めるよう頼んだ。
 馬車は止まり、シェイルがリデア王女の様子を見た。
「リデア王女、ちょっと失礼します」
 王女の額に手を当てると何やら熱い。シェイルは手首の脈を測りながら言った。
「風邪のようですね、お大事に」
「重症か?」
 ジョッシュが心配そうに言った。
「いや、別に普通の風邪だからちゃんと療養させれば治るけど、このまま王国まで向かうとなると悪化する恐れがあるかも」
「となると、どこかの村で一泊するべきでは?」
 スレイが提案するが、クレイグが却下した。
「いや、この辺に村は無い。あるとしても引き返す事になるぞ」
「それなら治癒魔法で・・・」
「スレイ、魔法は色々複雑でな。病状によっては治らないものもあるんだ」
「そうなると困りましたね・・・」
「ただ、レベッカに訊いたら分かるかもな」
 そうしてクレイグは他の馬車に停止するよう伝え、走っていた馬車の隊列はその場で動きを止めた。
 荷台から降りたレベッカはリデアの様子を見ながら考えていた。
「どうだ?」
 クレイグがレベッカに訊くと、彼女は腕を組み、首を横に傾げた。
「そうね・・・万病に効く魔法は伝説の話だから私の知ってる魔法では対処できないわ」
「それなら調合薬ポーションはどうですか?」
 シェイルがレベッカに提案した。
「確かに、ポーションの調合を間違えなければ風邪を治すことはできるわ」
 そうしてレベッカは病を治す調合薬の製作に取り掛かる。シェイルや医療の知識がある者は彼女に従事し、残りの者は周囲の護衛と材料の採集に向かった。
 それから約1時間が経った頃、フィル率いる採集部隊が戻り、彼らはお互いに労った。
「採集した材料はこれだ」
 フィルがレベッカに見せる。薬草をはじめとした様々な材料を見て、彼女は頷いた。
「ありがとう、これで調合薬を作れるわ」
 スレイは護衛中にポーションを作っている光景を見る。製作キットは予め持参していたようで、残すは調合に必要な材料のみだった。
「なぁ、気になるのか?」
 ジョッシュの声に驚きながら反応したスレイに対して、彼はからかうように笑った。
「な、何だよ・・・」
「いや、お前にも"未熟な子供っぽい所"があるんだなって」
「し、仕方ないだろ。ああいうの間近で見るの初めてなんだから・・・」
「ま、確かにそうだけど護衛も疎かにするなよ。親父に怒らどやされるからな」
「分かってるよ」
 しかし、そんな平穏を妨げるように飢えた獣の群れがスレイ達に襲いかかった。
 護衛中、一人の兵士が遠くで何かが蠢いているのを発見する。最初は疲労による幻覚かと思われていたが、それはすぐに正体が分かった。
「ブラックホーンの群れだ!!」
 その兵士は他の人にも分かるような声量で伝え、スレイやジョッシュなども臨戦体勢を取った。
「おいおい、こんな時に・・・!」
 タイミングの悪さを恨みながらも、アストリアの勇士達は魔物を迎え撃った。
 襲ってきた魔物はブラックホーンという黒い雄牛の魔物であり、その群れであった。
 魔導士達はプロテクの魔法を唱えて自分達の範囲に結界を張り、兵士達は盾を構える。そして各銃士隊員は盾の隙間からライフルを構えた。
「全員、撃ち方用意───」
 クレイグがそう言って、スレイ達銃士隊員は、ライフルの引き金に指をかける。魔物の群れはもうそこまで迫っていた。
 緊張の一瞬、魔法で張られた結界に突撃を始める黒牛の群れに対してクレイグは指示を下した。
「撃て!!」
 一斉にライフルの銃口から火が噴き、弾丸が飛び出す。そして黒き雄牛にそれぞれ命中した。
 ブラックホーンの群れは次々に倒れていくがそれでも勢いは衰えず、寧ろ他の魔物が銃声が鳴り響いたせいか他の魔物がこちらに呼び寄せられてしまった。
「他の魔物も迫ってくるぞ!!」
 魔物はブラックホーン以外にも引き寄せられる。人肉を好む鳥のヒトクイダカに理性のない凶暴な半獣、リカントロープなどの魔物が襲ってきた。
「クソっ、こんな時に・・・!」
 絶望感に苛まれていたその時───魔物の群れを端から蹴散らす人影が二つあった。
 スレイ達や魔物の視線がその人影達に釘付けになる。その正体は昇る日の光によって曝された。
 一人は赤と白の鎧に茶色の頭巾《フード》に隠された顔、そして大柄な身体の人物で、もう一人は傘帽子を被った白い婦人服の人物だ。
「やるか?」
「後悔しても知らないぞ」
 その2名はそれぞれ剣と刀を改めて構え、魔物の群れを斬り込む。魔物の標的ターゲットもその二人に変わり、次々と襲ってきた。
 しかし、それでも二人組は刀剣を振るい、向かってくる魔物を斬り倒していく。一匹、また一匹と怪物達は斬り伏せられていった。
「強いな・・・」
「隊長、どうしますか?」
 フィルが自分の部下に訊かれて、彼は同じ隊長である二人にも言った。
「クレイグ、どうする?」
「レベッカの状況次第だが・・・」
「薬はもうできたわ!」
 馬車から出たレベッカは調合薬を持ってリデア王女が眠っている馬車に向かおうとする。しかし、それと同時に限界に近かった結界が魔物の攻撃で割れ、一斉に襲い掛かった。
「くっ・・・!」
 魔導隊長はすぐプロテクの魔法を何人かの人間に個別で唱え、魔物に攻撃されても一応は耐えられるようにした。
 しかし、防御魔法を唱えた直後、レベッカは一匹のブラックホーンに吹き飛ばされ、1台の馬車にぶつかった。
 突き飛ばされた彼女は吐血しながらも大事には至らなかったことへ安堵するが、病を治す為に作ったポーションを失くしてしまった。
 人間と魔物の混戦状態となってしまい、調合薬が地面を縦横無尽に転がる。その光景にスレイは気付いた。
「まずい、このままだと・・・」
 ライフルや拳銃の弾は切れており、他の隊員に弾を貰いたいがその暇はない───そんな時に彼は近くに倒れていた兵士の鞘から剣を引き抜いて覚悟を決めた。
「〔俺を・・・俺を導いてくれ〕」
 ───右手に持った剣を握り、走る。そして立ち塞がるモンスターを斬り倒していく。その感覚はまるで"憶えている"かのようで、無我夢中でポーションを掴もうとしている最中に視界にノイズが走っていた。
 ようやく薬を掴み取るが、背後から迫る怪鳥の存在に気付くのが遅く、振り向いた時には手遅れかに思われた。
 しかし、その魔物は横からの弾丸に吹き飛ばされた。
「大丈夫か、相棒」
 ジョッシュの射撃により窮地を救われたスレイは彼に感謝した。
 その後、襲ってきた群れを退けた一同は再び帰路につく準備を始め、王女にはポーションを与えた。
「大丈夫だとは思うけど、あとはお祈りするだけね」
「んな無責任な」
「フィル、ここは彼女に任せよう」
 スレイは冒険者らしき二人組に礼をしに近付いた。
「助けていただきありがとうございます」
 近くでその二人組をよく見ると、細かなところまですぐ分かる。一人は大柄の男でフードの奥からでも髭を蓄えているのが見える。鎧は赤と白を基準にしているが、至る所に傷や焦げた跡が付いており、歴戦の猛者を彷彿とさせる外見だ。
 そしてもう一人は、アイネとの話題で上がった『黒髪の女剣士』に似た風貌で、上品な婦人服に艶のある美しい黒髪が腰まで流されていた。
 その剣士達は何か事情でもあるのか、素顔を絶対に晒そうとしなかった。
「いや、我々は当然のことをしたまでだ」
 男の剣士が口元に笑みを浮かべて謙遜すると女剣士が咳払いをした。
「おっと、我々はここで失礼するよ。君達の旅に導きがあらんことを」
 そう言って彼らは立ち去り、歩いて何処かに消えていった。
 その後、剣士達は礼をした銃士隊員を話題に出した。
「"奴ら"には出くわさなかったな」
「アストリア王国に潜んでいる可能性はあったんだがな・・・まだ"転生"してないのか?」
「それはあり得ない・・・私は確かに"あいつ"の情報を仕入れた」
「だったらあの若造に訊いてみるか?」
「いや、彼らは先を急いでいるのだから邪魔をするわけにもいかないだろう。それに、あの者と会うことはないだろう───」
 日は昇り、疲れ果てた戦士達は帰還を再開する。その過程で短期間でも王女の療養をする為、道中の村に駆け込んだ。
 村長に隊長達が事情を話した後、彼らは村の安全と王都からの仕送りを交換条件に出して滞在することにした。
 それから5日が経過し、リデアの状態が回復した。
 即席で調合した薬ではあるものの彼女の風邪に効いたようで、あとは自分達の国へ帰るだけとなった。
 お世話になった所へと別れを告げ、捜索隊は故郷を目指した。
 そんな中、王女は揺れる馬車の中で目が覚めた。
「私は───」
 彼女には上着がかけられており、それが誰のものかすぐに分かった。
「大丈夫か?」
 その上着はジョッシュのもので、彼女がそれに気付くと頬を赤くしていた。
「お、おい・・・大丈夫か?」
「はっ、すみません。私としたことが・・・」
 彼女は我に返って彼に向き合った。
「はい、もう大丈夫です」
「それは良かった」
「あの、上着をかけていただきありがとうございます」
 彼女は嬉しそうに優しく微笑むと、彼はその笑顔が眩しく感じて目を逸らした。
「〔こんな綺麗な笑顔見ると調子狂うな・・・〕」
 そんな彼の照れている状況を見て、シェイルが茶化し始めた。
「おいおいジョッシュ、お姫様にでも惚れたか?」
「うるせぇ」
 馬車の中は一転して明るい空気に包まれる。本来は王女に対し敬うべきなのだが、彼女にとって、気軽に話してくれるジョッシュは親身に感じていた。
 そして馬車が停止する。外に出るとそこはヴァートレスの村で、さまざまな人が出迎えており、そこにはトラヴィスやレーヴァもいた。
 馬車の荷台からは捜索隊の面々が降りてきて、それぞれ迎えに来た家族や友人、恋人と再会を喜んだ。
 中には大切な人が帰って来ない事に対して激昂する者も居れば悲しむ者もおり、その光景は生き残った者達に罪悪感を植え付けた。
 そんな時、スレイへとある少女が後ろから抱きついてきた。
「えへへ、おかえり。あとジョッシュも」
「おいおい、俺はついでかよ・・・」
 彼に抱きついてきたのはレーナで、後からベアトリスとカルロも歩いてきた。
「二人とも無事で何よりだ」
「お帰りなさい」
 二人も顔見知りの人達から歓迎されて嬉しく思っていた。
 三人の隊長は宰相であるトラヴィスにリデアを引き渡し、彼は深く頭を下げた。
「皆様、ありがとうございます。こちらに陛下がいないので私が代わりに感謝します」
「私からも、本当にありがとうございます」
「いえいえ、これが我々の仕事なので」
 彼らは謙遜しながらも礼を返した。
 王女が馬車に乗り王都へ帰るのを見届けた後、クレイグはその場に残ったレーヴァと話を始めた。
「お前はいいのか?」
「ええ、私は護衛の内には入ってないから」
「それでなのか。レーナには挨拶したか?」
「もうしたわ。あの娘、カルロさんに預けてから『錬金術師になりたい』って言い出しちゃって」
「そいつは面白いな」
「そうよね、まぁ私がとやかく言える立場じゃないけど」
「まぁやりたい事は今のうちにやらせておいたほうがいい。俺の歳になると後戻りがしにくいからな」
 二人が話している一方でスレイ達も話を続けていた。
「あー、王女様綺麗だなぁ・・・」
「お前には無理だよ」
 リデア王女に対しレーナが憧れを抱いていると、ジョッシュが茶化す。彼女はそれに対して頬を膨らませた。
「悪かったよ、なら」
 彼はそう言って彼女をお姫様のように抱えるが、ある事を指摘した。
「お前・・・重くなったか?」
 デリカシーのない言葉に対して彼女は堪忍袋の雄が切れた。
「何ですって・・・? そんな事を言う人はお仕置きよ!!」
 そう言いながら彼の頬を引っ張った。
「痛い痛い!俺が悪かったって!!」
 二人の戯れ合いにスレイ達が笑っていた。
 一方その頃、クーデリア公国にて───任務から帰還したガレストルが失敗した責任を追求されていた。
 場所は会議室で行われており、その中央に任務の責任者である騎士団長、その周りには貴族達が椅子に座っていた。
「ガレストル卿、この失敗どう責任を取るつもりだ!!」
 一人の貴族が彼に怒鳴り散らすと、他の者もそれに続いた。
「だからこの者に任せるのが間違いなのだ!!」
「この失敗は国を危険に晒したのだぞ!?」
「所詮平民ね・・・」
  彼は自分の失敗を悔やみ静かに拳を握る。その時、一人の貴族が大声で静かにさせた。
「静粛に!!」
 その男はギルバートという侯爵で、周りが静まったと同時に彼は話を始めた。
「ガレストル卿、其方は非常に優秀な騎士でその事はここに居る誰もが知っている筈だ」
「ありがとうございます」
「しかし、この失態は許されるものではないのは確かだ」
「重々承知しております」
「あの事件が起き、大公陛下は今も生命の危機に瀕している。それ以来、国内では貴族を惨殺するなどの事件も起きて混乱を極めている」
 クーデリア公国では貴族制度を撤廃するように平民から抗議されており、大公はそれを聞き入れようとしていた。
 その矢先に彼は暗殺されかけ重傷を負ってしまう。治癒魔法で一命は取り留めたが、当たりどころが悪く今は床に臥せていた。
 そんな時に見つかったのが"弾丸"で、オルテナ大陸でこれが使われている国は一つしかなく、それがアストリア王国だった。
 アストリア王国では天星人の受け入れを率先して行っており、その恩恵か大陸内では一番発達している国となった。
 その為、クーデリア公国の評議会ではアストリア王国がこの事件に関わっていると睨んでおり、揺さぶりをかける為にガルア王国へ留学していたリデア王女の誘拐をガレストル率いるヴァルヘルム騎士団に命じた。
「エレア様からは許可を得ている。だからこそこの失態は許されないのだが───」
 ギルバートは表情を曇らせる。彼にとってこの任務を大公夫人に許可してもらうのは心が痛むことであった。
「分かっています、私はどんな処遇でも受けるつもりです」
 そう言ってガレストルはその場で膝をつく。すると周りを囲む貴族達が話し合いを始めた。
「処刑すべきだ、この任務は万死に値する」
「いや、処刑はやり過ぎだ。せめて今の地位を剥奪するだけでも・・・」
「そんな事では大公に示しがつかないじゃない、甘いわ」
「静粛に!!」
 話し合いは不毛だと判断してギルバートが中断した。
「ガレストル、其方への処遇はエレア様から伝えられている───其方は騎士ナイト及びヴァルヘルム騎士団団長の座を剥奪する」
 騎士ナイトの地位を剥奪された男は勲章を目の前の貴族に渡すと、会議室から立ち去った。
 部屋から出て廊下を歩いていると、その先に一人の青年が待っていた。
「それで、どうでしたか?」
「ヘイルか、お前にも分かってる筈だ」
「まぁ、あらかた検討はつきます」
「だったら話が早い」
 そう言って立ち去ろうとするが、彼は呼び止めた。
「これからどうするんです?」
「これから考えるとしよう。騎士団はお前が率いてくれ」
「言われなくてもそうするつもりですよ」
 ガレストルが立ち去った後、青年は窓から見える快晴を見ながら呟いた。
「果たして俺に務まるかどうか・・・」
 一方その頃、ヴァートレスの村にて───スレイは自分の家で眠っていた。
 彼は夢を見ていた、また今とは違う別の世界での夢。その世界で妹を亡くし放心していた時に出会ったのが通り魔死神だった。
 未練失うものは無いと思っていたのにも関わらず生きたいという思いが、彼をその死神から逃亡させた。
 鋭利な刃物で斬りつけられても逃げ続けるが、運命はそれを許さなかった。
 逃げた先は大通りで、逃げてきた道を見ても居なかった事に安心したのも束の間、死は突然訪れた。
 背後からの光が強くなり、その方向を見ると───トラックがこちらに向かってきた。
 逃げようにも手遅れで彼はそこで生涯を閉じた───筈だった。
 夢から目を覚まし、全てを理解する。自分は死んでこの世界エヴォルドに生まれ変わった───言うなれば"転生"だ。
 しかし何故この世界にいたような別の記憶を持っているのか、そこが彼にとって疑問だった。
「〔そういえばあの手帳───持ち主の名前は書いてあるのにどうして白紙なんだろう?〕」
 転生した直後に着いた屋敷を彷徨い見つけた手帳には謎が多く、まるで導かれるように手に取ったものだ。
 今は机に置いているが、何故か手帳が開いていた。
 風が吹いて開いたのか、閉めようと机に近づくとそのページには文字が浮かび上がっていた。
 この状況に対し驚くが、その時脳裏に謎の映像が浮かんだ。
 黒い大きな竜と大量の魔物、そして燃え盛る大地に禍々しい赤い空───この世のものとは思えない光景が広がっていた。
 映像が終わった後、スレイは謎の既視感を覚える。黒い大きな竜───それはベアトリスを救助する前に見た夢で見たことがあった。
 手帳を詳しく見ると、そこにはある言葉が浮かび上がっていた。
『トハの村にある屋敷にお前が知りたいものがある』
 その文章が信じられるものかは分からないが、今の彼にはそれを信じる他無かった。
 装備を整え、夜明け前に銃器のメンテナンスを始める。幸いにも部品の交換をせずに済んだ。
 夜が明けて家から出ると、そこで偶然カルロと出会った。
「スレイか、狩りにでも行くのか?」
「いいえ、少し旅に出ます」
「旅か・・・君の無事を祈るよ」
「ありがとうございます」
 話を終えて村から出て行く。そしてそのまま歩いていると聞き覚えのある声がスレイを呼び止めた。
「スレイさん!!」
 彼が後ろを振り向くとそこにはベアトリスがいて、彼女は走ってきたのか息を切らしていた。
「どうしたんだ?」
「カルロさんがこれを・・・」
 息を切らしながらも渡したものは一本の剣で、鞘から抜いて刃を見たが何も変わらなそうにも感じた。
「どうしてこれを?」
「旅に必要だと聞きました、その剣には様々な素材を合成させているそうです」
 彼女は剣について話し終えると、少し息を整えた後にある事を頼んだ。
「あの・・・私もスレイさんの旅に同行させてもらえないでしょうか?」
 その言葉を聴き、彼はすぐ拒む。この旅は危険でいつ村こちらに戻るか分からないのだ。
「君を危険にさらしたくないんだ」
「それは私も同じです───確かに、スレイさんと会ったのは数日くらいかもしれません。ただ、それでも私にとって"大切な人"です」
 彼女の視線は真っ直ぐ彼を捉えており、その瞳にも強い意志を感じていた。
 スレイはジョッシュのある言葉を思い出す。それは、ベアトリスが治癒魔法を扱う神官だと言うことだった。
「・・・確かに、傷を治せる人がそばにいれば安心だ」
 彼は笑って彼女に言う。それを聴いて彼女も笑顔で喜んだ。
「ありがとうございます!!」
「でもあまり危険なことはしないように、戦闘は俺がやるから」
「ただ、それでも無茶はしないでください」
 そうして二人は旅に出る。しかし、待ち受ける運命を未だに彼等は知らなかった。
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