The Outsider

橘樹太郎

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第2章:邪竜と黄金色の竜

第7話:戦渦

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 スレイとベアトリスが旅立った後のこと───ジョッシュは自分の親友から宛てられた手紙を読んでいた。
「・・・へぇ、スレイもなかなかやるじゃん」
 背後から声を掛けてきたのはシェイルだった。
「デートな訳ねーだろ・・・二人揃ってよく分からんところへ旅に出るんだぞ? 詩人でも思いつかねぇよ」
「だが、スレイアイツは運が良かったかもな」
 偶々歩いてきたヴィルトがそう言い、二人は不思議そうに首を傾げた。
「何でだよ?」
「噂によると、クーデリア公国との戦争が始まるらしいぞ?」
 その話を聞いた彼等は唖然とした。
「戦争って・・・怖がらせようとしたって無駄だぞ?」
「・・・いや、本当だ」
 その噂を本当だと、クレイグが現れた。
「親父・・・どういうことだよ」
 冗談だと思いたかったのか、ジョッシュは睨みつけるように言った。
「───前日にクーデリア公国から宣戦布告の文書が届いた。まだ国民には知らせていないが、俺たちや軍には伝わっている」
「そりゃあ、災難ですね・・・」
 その話にヴィルトが憐れむように言った。
「今からベルトラン村長の家で会議がある。お前達も来るといい」
 そう言って彼等の隊長は先に向かった。
 三人も彼に付いて行き、村長の家に入る。他の家より広々とした間取りで、会議を始めるには十分だった。銃士隊員が続々と集まっており、バートンもそこにはいた。
「クレイグ、それにお前達も来たか」
「そりゃあ、あんな話を聴いたら嫌でも来ますよ・・・」
 シェイルが冗談そうに呟いた。
「まぁ、そうだろうな」
 そして、会議が始まり───宣戦布告の話で集まっていた各隊員はそれぞれの反応を示した。
「王国からの情報だと、公国軍は平原を進軍中だと言われている。しかし、それは大部隊の話で、錬金術研究所を狙って進軍している"別働隊"が存在していることが判明した」
「別働隊?」
「恐らく、文化の発展を担っている場所があそこだから早めに叩きたいのだろう」
 村長が大方の事情を話し、クレイグがその後を引き継いだ。
「そこで、我々が与えられた任務は───研究所の防衛だ。あそこでは我々が使っている銃などの製造を先導して行なっている。もしここで公国軍に占領されたら、我々の戦力ちからは減るだろう」
「・・・任務開始はいつですか?」
「任務開始は"今"からだ」
 そして話は終わり、各銃士隊員は建物から出ていく。そしてジョッシュはカルロの家へ行き、彼等に挨拶をした。
「───と、いう訳で行きます」
 彼から宣戦布告の話と研究所防衛の話を聴いたカルロは、眼鏡の奥から悲しい目をした。
「そうか・・・生きて帰ってきてくれ」
 しかし、レーナは彼を睨むだけで何も言わなかった。
「レーナ、君も───」
 彼女は何か不満だったのか、無言で自分の部屋に戻る。それに対してカルロが謝った。
「すまない・・・彼女も悪気があるわけではないんだ」
「いいえ、大丈夫です」
 ジョッシュは彼に一礼して戦地へ向かう。敵が来ないことを望むが、それが無理な望めない事も彼の中にはあった。
 銃士隊を乗せた馬車の隊列は、研究所を目指していく。荷台の揺れとこれから戦争が始まる事から、吐き気を催す者もいた。
 そんな中、ジョッシュは今から向かう場所について考えていた。
 錬金術研究所───それはアストリア王国で設立されたもので、元々は錬金術の研究が主な業務だったが、天星人の出現により、今は彼等が伝えた技術の再現、製造なども行なっている。
 そんな所だからこそ、狙われる確率は高く、何度か侵入されかけることもあった。しかし、侵入されてもすぐに解決する事から防犯セキュリティは万全だと言われていた。
 馬車は研究所に辿り着き、一両ずつ検問されていく。そして全両が守衛からの許可を貰い、領地内に入って行った。
 馬車から出た隊員達は、エントランスで歓迎される。歓迎してくれたのは研究者の服を着た美女だ。
「ようこそ、銃士隊の皆様。そしてこちらに来てくださり感謝しています。私は"セリア"、副署長をしております」
 彼女が隊長達を所長室へ案内し、隊員達はその場で待機していた。
「あのセリアって人、凄い綺麗だったな!」
 シェイルの言葉にジョッシュは呆れる。いつ戦いが起きるか分からない時に───と思っているが、彼も実際鼻を伸ばしていた。
 防衛に来た銃士隊員は50人───敵の数が分からないのもあれば、どんな編成で来るのかも不明である事から不安が高まっていた。
「別働隊がこっちに来てるなら、ここで迎え撃つ前に奇襲すれば良いんじゃないか?」
「確かに・・・もう王国内に入ってるなら包囲して奇襲する方が得策だと思えますね」
「敵の進行方向ルートが予想できなかったとか?」
「あり得るのか?」
「魔物で手一杯なのに今宣戦布告されたらあり得る話じゃないか? 偵察隊が逐次報告しているなら話は別だが・・・」
 隊員達が雑談しながら待機している頃、隊長達は所長室で座っていた。
 部屋は綺麗に整えられており、壁には研究所の外観が描かれた壁画が飾っていた。
 所長室の椅子にはグレートヘルムバケツ頭の人物が座っており、彼はクレイグ達に挨拶をした。
 怪人のようにも思えるその男は、ある種の不気味さを感じさせるが、彼等にとってそれは表に出すようなことでも無かった。
「イングベルト殿、こちらの防衛機能について教えてもらいたいです」
 イングベルトは少し頷くと、彼は研究所のセキリュティについて話す。建物の周りには五重の結界が張られており、魔物も神様のような存在や魔王でもない限り突破する事は不可能だとされている───但し内部に結界を張る装置があるためにそこを突かれれば一気に不利となるようだ。
 後は地下にいるゴーレム30体による防衛───ではあるものの、これは本格的な侵略が無い限りは使わないようで、正直使いたくない節もあるようだった。
「ただ、敵が内部にいる可能性も否定はできないと私は思います」
 クレイグがそう言い、イングベルトは兜の奥で関心した声を出した。
「興味深いですね、どうしてそう思ったのですか?」
 訊かれたクレイグは理由を述べる。別働隊の進行ルートが分からないのは、研究所まで向かうのに、出来るだけ騎士団や兵団と遭遇しないルートを通っているからだと、彼は言った。
「・・・そんな事ができるなら、恐らくこの研究所内にも内通者を潜り込ませていると私は思います」
 その後、憶測であるのをクレイグは言ったが、イングベルトはそれでも彼の話に関心を示した。
「そうなると相手は───シレーナかもしれませんね」
 シレーナという人物は、ガレストルなどと並ぶ公国将軍の一人で、魔導の使い手であると同時に人を誑かして自分の味方にする天才だと言われていた。
 所長室に一人の研究者が入り、焦りながら状況を説明した。
「公国の別働隊がこちらに向かって来ました!!」
「来たか・・・」
 銃士隊の隊長達はすぐエントランスへ戻り、セリアはイングベルトの指示で、他の研究者を地下へと避難させた。
 ジョッシュ達はそれぞれ隊長の指示に従い、班を作る。ジョッシュはバートンの班で所長室の護衛に当たった。
 クレイグはヴィルトやシェイルを部下に入れてエントランスの防衛に当たった。
「こちらに向かってくる敵は約3千。兵士に騎士、重装兵に魔導士───それに、竜騎士までいる」
「こっちは?」
「守衛50人、どれも兵士だ。そして派遣された俺たちで100人ぐらいだ。もし、研究者も含めたらそれ以上にはなるだろうが・・・」
「ゴーレムでも出す?」
「それでも勝てんな・・・この時点で頭数揃えても防衛に失敗するだろうな・・・」
 バートン達は所長室に行き、イングベルトに逃げるよう促すが、何故かそれを拒否した。
「お守りは出来ませんよ?」
 ジョッシュが失礼な事を言うが、それでも彼は構わない様な素振りを見せた。
 バートンが愛用しているリボルバーマグナムを出す。これに対し、彼はある種の興味を示した。
「ほぅ、リボルバーとは珍しいですね」
 銃士隊で標準装備とされている拳銃とは別に、バートンの使っている銃は生産されていないものだった。
「よくご存知ですね」
「いえいえ、弾は何ですか?」
「大口径用の弾です」
「マグナムということですか」
 よく知っている様な口ぶりに、バートンは驚く。
「何故そこまで・・・」
「気にしなくても大丈夫ですよ」
 彼はそう言っていたが、その声色は笑いを含んでいる様な声だった。
 二人が出て行こうとする前に、彼はあるものを手渡す。それは巻物《スクロール》で、中身は研究所の構造が描かれた地図だった。
「それは自分達の位置や敵の位置を知らせるための地図です。黒い点は生物、黄色い点が弾丸の場所です」
 魔法地図を貰い二人は出て行く。それを彼は兜の奥から鋭い目で見ていた。
 バートンは三人の隊員に対し、所長室の護衛に当たらせ、彼を合わせた残りの7人で施設内の巡回に当たった。
 地図は同じ班にいるベックに渡す。この研究所には実験室に錬金室、会議室や休憩室などさまざまな部屋があり、入ってくる敵を待ち伏せするにも十分だった。
「敵が来るまでにどれぐらいかかる?」
「さぁな・・・」
 アストリア王国側が不安を感じている一方、研究所外では、クーデリア公国の軍隊が囲んでおり、決壊さえ破ることができればすぐにでも制圧できる余裕を持っていた。
 大部隊を指揮しているシレーナは、肩にかかった長い髪を撫でながら向こうの状況を見ていた。
「いよいよここまで来たわ・・・」
「シレーナ将軍、各団隊が配置につきました」
 伝令兵の話を聞き、彼女は妖しい笑みを浮かべた。
「"内通者"に合図を出し、各団隊は作戦通りに進軍するよう伝えなさい」
 伝令が一礼して指示を実行しに行った後、彼女は地上で待機している竜騎士隊の所に来た。
 彼女が来ると、竜騎士は敬意を示す様に直立した。
「竜騎士隊、活躍を期待しております」
 そう言われ、彼等は返事をしてそれぞれのドラゴンに跨った。
 重装隊は研究所正門に立ち、その後ろでは弓兵隊が矢先を空に向けていた。
 そして、その時は来た。建物を覆っていた結界は1枚ずつ徐々に消えていき、最後の一枚になったところで門が開いた。
 その光景を見ていたクレイグ達はそれぞれ武器を構えて応戦しようとするが、重装隊は盾を構えたままその場で待機していた。
 一人の隊員が発砲しようとするが、クレイグが銃身を下げ、怪訝そうに敵を見た。
「何が目的だ・・・?」
 敵の動向に警戒しているが、それが彼らにとって命取りになった。
 羽を広げて空高く飛ぶ黒い飛行物体───それはドラゴンに跨った竜騎士隊だった。
 彼等は最後の結界が剥がれると同時に空から"何か"を落とした。
 その"何か"が地上に落ちると、炸裂し爆風と爆炎を噴き出す。辺りは黒い煙で包まれ混乱が起きた。
 敵に対する罵声や痛みからの叫び声───クレイグはその中で声を出し、彼は施設内への退却を勧告した。
 煙の中から抜け出し、続々と隊員や守衛が来る中、逃げ遅れた者の声が煙の中から聴こえた。
 中に逃げ延びた者は助けに行こうとするが、その声は風切り音と共に途絶えた。
 煙が晴れ、そこには先ほど待機していた重装隊が盾を構えてこちらに向かってくる。辺りには矢が地面に刺さっており、その雨に当たった隊員や守衛も惨たらしく倒れていた。
「全員、この場で敵を留めるんだ!!」
 そして、エントランスが交戦準備に入った頃、ジョッシュ達は施設内を歩いていた。
 しかし、ベックが地図を広げて今の状況を確認していると何かを発見した。
「左の方から生物反応・・・?」
 それに対してバートンは反応し、指示をする。
「全員、壁に隠れろ。誰が来るか分からん」
 逃げ遅れた研究者だと思われたその時だった。
 一人の隊員が顔を出すと、何かが彼の額に命中してそのまま倒れた。
 味方の死を惜しむ時間は無く、敵は剣や槍を構えて向かってくる。それを彼等は迎え撃った。
 銃で応戦するものの、敵の数が多く接近を許してしまった。
 各隊員はライフルから拳銃とバヨネットによる近接戦闘に切り替えて迎撃した。
「クソっ・・・!」
 取っ組み合いになったジョッシュはバヨネットで抵抗する敵の喉元を突き刺さした。
「これで・・・最後か?」
 何とか敵の襲撃を退けた彼等は前進する。敵の来た場所をよく見ると、大きな穴が壁に開いており、そこから梯子を掛けたようだった。
「場所を移すぞ、ここはもう駄目だ」
所長アイツはどうするんですか?」
「所長は分からんな・・・」
 そんな話が起きている中、所長室に複数の人間が来る。それは暗殺者アサシンのようで黒ずくめの格好をしており、彼等は護衛していた三人の銃士隊員を静かに仕留めた後、部屋の扉を開こうとしていた。
 部屋には一人、イングベルトが座っており、彼は机の上に革の箱を置いていた。
 敵が扉の前にいる中、静かに箱を開き、その中から二挺のリボルバーを取り出す。バートンが持っている物とは別で、さらに古い印象を与える銃だった。
 シリンダーに弾を一発ずつ入れ、銃の装填を完了させる。そして服のベルトには予備の弾を何発も備えた。
 そして部屋を蹴破って暗殺部隊が入ってくる。そんな彼等に態度を崩さず言った。
「───君達の望みは?」
 敵がそれに応えるはずもなく、近づいてナイフで首を斬ろうとするが、その瞬間───発砲音と同時にその人物が仰け反りながら倒れた。
「・・・残念だな、君達とは仲良くできなそうだ」
 アサシン達は持っている武器を構えて一斉に襲い掛かるが、彼は二挺のリボルバーで応戦する。彼は兜で視界が狭まっているにも関わらず、彼等が放つナイフの方向を計算しているかの様に避けて弾丸を的確に放った。
 そして、敵は隊長だけになり、彼はフェイントをかけて攻撃しようとするが、足を撃たれて阻止されてしまった。
「"俺"を仕留めたいなら、もう少し人数を呼ぶことだな」
 そう言って彼は自爆しようとした隊長の額を銃で撃ち抜き、勝負を終えた。
 所長室に引き返したジョッシュ達は、その前に転がる死体に驚く。敵の死体はどれも弾で撃ち抜かれたようだった。
「イングベルト所長・・・!?」
 彼等の前に現れたのは、二挺の拳銃を両手に持ったイングベルトだった。
「すまない、君達の隊員仲間を救う事はできなかった」
 彼が謝り、バートンは私情を挟まずに彼を許した。
「しかし、このまま行くとエントランスまではもう無理かもな・・・」
「君達、ここの研究者が作った"兵器"を試してみないか?」
 "兵器"という言葉に、ジョッシュ達は首を傾げるが、彼はついて来るよう言った。
 その部屋に辿り着くと、そこには小型タンクとそれを取り付けるためのベルトが置いてあった。
「この装備は?」
 そう訊かれて彼は説明する。この装備はライフルに付ける為のアタッチメントで、魔力マナを貯蔵している小型のマナタンクから、銃口に取り付けたパーツへ送り込む。そして、引き金を引くと魔力が発射される弾丸に凝縮され、通常よりも絶大な威力で発射されるようだ。
「ただ、それは爆風などをもたらすからそこは気をつけてほしい」
 彼等はそれを取り付け、エントランスへと向かう。ジョッシュは屋上から狙撃する様指示を受けた。
「所長はどうしますか?」
「私は地下に向かいます。ゴーレムが出せないのは少し不思議ですからね」
 そう言って彼は地下の方へと向かった。
 地下も入り組んでおり、地下の方には逃げてきた研究者の他に、清掃員や受付などの従業員もいた。
 イングベルトが来ると、研究者達は彼に対して一礼する。しかし、セリアの姿がなかった。
「副所長はどちらに?」
「それが・・・よく分からなくて」
 そう聞いた彼は、心当たりがある様に別の部屋に向かった。
 地下には大規模な実験場とゴーレムを停止させている場所などがある。彼はゴーレムの保管庫へ向かい、内通者と対峙した。
 意識を失ったセリアを盾にしたその男は研究者で、彼は拳銃を持っていた。
「研究者が内通者裏切り者とは、王国にはどう報告しようか?」
 イングベルトが内通者に向けて声を出すと、その男は反応し、彼女も目を覚ました。
「し、所長・・・?」
「おい、近づくとこの女の頭を撃ち抜くぞ!!」
 その内通者はどうやら所長室で敵襲を知らせた者で、彼が裏で手引きした様だった。
「簡単に懐柔されるとは・・・あの牝狐か?」
「うるさい黙れ!! 俺は富や地位を約束されたんだ!」
 しかし、その理由に対し「そうか」と言った彼はそのままリボルバーを1体のゴーレムに向けて発砲する。すると、その弾が弾かれて男の手を貫通した。
 男がその痛みに叫ぶと、セリアを離して彼女は解放された。
 意識が朦朧としている彼女は、倒れる寸前でイングベルトに抱えられた。
「大丈夫か?」
「はい・・・お見事です」
 そしてゆっくり彼女を床に寝せると、彼はゴーレムを起動させ、地上へと上げた。
 重装兵が研究所内部に入り込み、クレイグ達は退却を強いられていた。
 だが、バートン達が到着すると状況が変わった。
「クレイグ、他の隊員を避難させろ!!」
 バートンが叫び、敵の近くに仲間が居ない事を確認すると、彼は腰に取り付けたマナタンクを起動させ、銃口を重装隊に向けで発射した。
 引き金を引いた瞬間、銃口から青白い光が放たれてそれが敵の構えていた盾に当たり、爆発した。
 その爆風で周りの重装隊は倒れ込み、バートン達はその装備の威力に驚いた。
「まさかこんな力が・・・? よし、このまま一気に畳みかけるぞ!!」
 彼等は再び発射し、内部から敵を出していく。それを見たクレイグ達は驚きながらも彼等と共に戦った。
「ジョッシュは?」
「ジョッシュなら屋上で"蝿叩き"をしている」
 それを訊いたクレイグはヴィルトや一部の隊員を屋上へと向かわせた。
 戦況は徐々に公国から王国側へと傾いていく。内部の部隊が追い出され、ゴーレムが地上へと現れたことにより、研究所からの敵は次々と居なくなっていった。
 しかし、それでも敵からの猛攻は収まらない。シレーナはまだ諦めないでいるのだろう。
 ジョッシュ達は屋上で飛び交う竜騎士を迎撃する中、敵の猛攻が止まらない事を話していた。
「奴さん達、まだ諦める気がないようだな!!」
「結界は!?」
「多分、壊されたんだろうよ・・・!」
 この状況に苛立ったジョッシュは、ある提案をする。
「なぁ、敵の将軍さえ無力化出来れば勝てるんじゃねぇか?」
「馬鹿か、そんなもんで終わったら今頃───」
「やってみる価値はあると思うぜ」
「ミッチェル、お前もそう思うか?」
「でもよ、どうやって本陣まで辿り着く気だよ?」
「それなら俺に良い提案がある───」
 その頃本陣にて───シレーナはこの状況に対して苛立っていた。拠点の制圧に時間がかかるとは思っていなかったからだ。
「ゴーレムまで出すなんて・・・!」
 ゴーレムの登場によって公国側の負傷者は増える一方だった。しかも、このまま戦闘が長引けばアストリア王国からの増援が現れてしまうことはほぼ確実だった。
「シレーナ将軍!! アストリア王国の増援が南方から向かって来ました!!」
 唐突の伝令に驚くが、彼女は違和感を感じてその兵士を呼び止めた。
「あなた、今どこから来たの?」
「何処って・・・他の兵士と共に居ましたよ?」
 彼女は「ふーん」と言いながら、相手にするのを止める。しかし、その隙を見せたことが大きな間違いだった。
 彼女が背後を見せたと同時に拳銃を頭に向け、「動くな」と脅した。
「あなたは・・・」
「騙されたな」
 伝令兵の正体はジョッシュで、彼は笑ってそう言うが、彼女はため息を吐いて呆れた。
「貴方馬鹿ね・・・ここが敵の本陣だって分かってるの?」
「ああ、そりゃあ分かってやってるさ」
 すると、本陣の周りで敵襲を知らせる声と、退却を命じる声が聞こえて来た。
 どうやら王国の応援が来たようで、公国は完全に不利になり、ジョッシュは呆れながら「遅いよ」と言った。
 本陣の周りをアストリア王国の兵士や隊員達が囲み、彼女は屈辱を味わっていた。
「この・・・!」
 しかし、勝負はすぐ決まった。ジョッシュ達は銃を使わず、魔法を詠唱される前に敵の将を取り押さえる。女性である為か、手荒な真似は出来なかったが、彼女はそれでも抵抗を続けた。
 そして、やっと捕まえる事に成功したジョッシュ達は一息付いた。
 シレーナは身体を縄で縛り上げられ、猿轡まで噛ませられていた。
「美人さんなのに勿体ない・・・」
「お前も誑かされて俺たちを裏切るなよ?」
「そんなヘマしねぇよ!!」
 ジョッシュ達は軽口を叩き合っている中、クレイグやバートンはイングベルトと共にお互いを労っていた。
「防衛、お見事でした」
「いえいえ、我々は被害を出し過ぎた」
 研究所の防衛が成功した一方、アストリア城では王様が玉座で表情を曇らせていた。
「戦争が、始まるというのか───」
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