The Outsider

橘樹太郎

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第2章:邪竜と黄金色の竜

第8話:雷鳴

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 クーデリア公国の城にて───庭では親子が穏やかに談笑していたが母親は話している途中で顔色を悪くした。
「母上、大丈夫ですか?」
 息子が彼女を心配すると、一人の若いメイドが駆け寄った。
「ヘーゲル様、ご無理はなさらずに」
「いいえ、大丈夫よ・・・」
 王妃は心配そうにする息子の頬に触れて微笑んだ。
「アデル、あなたは本当にお父さんに似ているわ・・・」
「母上・・・」
 アデルはメイドと共にヘーゲルを支えながら寝室へと向かう。そして部屋に入りベッドへ寝せると、メイドは"スリープ"の魔法を唱えて彼女を眠らせた。
「クレア、いつもありがとう」
「いえいえ、私はクーデリア家の従者ですから」
 クレアは微笑んでそう言うと、表情を変えて王妃を見た。
「しかし、嫌な時代になったものです・・・」
「父上は、まだ・・・」
「残念ながら・・・ラモン様の傷は治ったのですが未だ目覚めないのでもう暫く時間が掛かりそうです」
 アデルは静かに頷くと、彼は涙を流した。
「アデル様?」
「あっ、ごめん。後継がこんなのじゃ、嫌だよね・・・」
「大丈夫ですよ、泣きたい時は泣いて、体から毒を出してください」
 そう言って彼女は、彼に胸を貸して頭を撫でる。壁には一家が描かれた肖像画が飾っており、ラモン大公とその妻であるヘーゲル王妃、皇太子のアデルと、その隣に彼より年上の少女がいた。
 その頃、スレイは鳥のさえずりや森の穏やかな音に反応して目を覚ました。
 彼が重い瞼を開くと、そこにはドレスを着たエルフの女性がいて、彼女は額を撫でながら彼と目を合わせた。
「お目覚めですか?」
 スレイは彼女の胸が近くにあり、しかも膝に頭を乗せている事実に気付き恥ずかしくなってしまった。
 赤面した彼は、すぐにエルフの女性から離れて口を腕で抑える。そう、自分の息が明らかに荒れているのだ。
「大丈夫ですよ、私達は貴方"達"に危害は加えません」
 言葉から察したスレイは、我に返ってある質問をした。
「ベアトリスも・・・」
 彼女はその名前を聞いて首を傾げるが、思い出したように声を出した。
「そのの事も心配なさらずに。この里にちゃんと居ますから」
 そう聞いて彼は安堵する。そして、目の前にいる彼女を改めて見た。
 横に尖った長耳に長い金髪、そして綺麗な翠色の瞳───彼女がエルフだと彼は再認識した。
 そのエルフは、立ち上がってカーテシーお辞儀をして自己紹介した。
「初めまして、私は"エレミラ"。貴方達を里の者が発見し保護したのですが・・・迷惑だったらすみません」
 スレイは彼女の言葉で状況を理解しようとするが、頭が追い付かない。余裕が無いのか、それとも不安が過っているのか、彼自身にも分からなかった。
 その理由は彼の体にあった。彼は魔物に襲われたが、酷く惨たらしかった傷痕は綺麗に消えており、触っても痛みを感じることは無かった。
「大丈夫ですか?」
「はい・・・」
 彼は不思議に思ってそれを表情として出すと、彼女は笑った。
「精霊さん達のおかげですよ」
 そう言われて彼は、納得したように呟いた。
「ありがとう・・・精霊さん達」
 精霊へのお礼を済ませた彼が彼女に付いて行くと、この里の全貌を知る事ができた。
 この里は、"精霊の森"と呼ばれる場所で、彼女達は集落を築いて自給自足で生活していた。
 エレミラなどのエルフは勿論のこと、ドワーフや蜥蜴人リザーディアンなどの亜人種も住んでいた。
 場所自体は森の木々に囲まれており、壁のようにツタが覆っているのと、それに重なって結界や魔法によって外から見つかることは無かった。
 このように人間からの干渉を受ける事を好まない筈なのに、スレイにとっては何故ベアトリスと一緒に助けてくれたのか分からなかった。
「あの・・・どうして自分達を助けたんですか?」
「どうして・・・ですか」
「いえ、感謝しているのですが・・・」
 この里を歩いている最中、彼は睨まれているような視線を感じており、それでも助ける義理はあったのか訊きたかったのだ。
「私の言葉になりますが、傷付いている人を見捨てる事は無かったからです」
「しかし・・・我々は極悪人かもしれませんよ?」
「極悪人が私の膝で寝ていた事実ことに顔を赤くしますか?」
 それを言われて彼は顔を俯いて赤面した。
「ふふっ、可愛らしいですね」
 彼女は追加でそう言い、彼は何も返せなかった。
 そして、ある場所まで来ると楽しそうな会話が二人の耳に届いた。
「あなた綺麗だね!!」
「ありがとう、妖精さん」
 そこには、バスローブのような格好をしたベアトリスが、澄んだ水に足を浸からせながら妖精達と話していた。
 一体の妖精が二人が来たことに気付いて声を出した。
「あっ、"王女様"!!」
 エレミラが"王女"と呼ばれている事に驚愕した彼は、黙って彼女の方向を見た。
王女お姫様様・・・だったんですね」
「ごめんなさい・・・この事は秘密にしておきたかったので」
「どうしてですか?」
「私の実家は別の大陸にある"エルグラシア"という場所にあって、家出・・・と言った方が合ってるかもしれませんね」
 お淑やかで服装などを見るに、何処か良家のエルフである事は察していたが、まさか別大陸から来た王女だなんて、彼は思いもしなかっただろう。
「しかし、ご家族は何か思うのでは・・・」
「それについては心配ありません、文通を交えていますし」
 他人事にも関わらず、そう聞いてスレイは安心した。
 そんな彼にベアトリスは抱き付いた。
「ベアトリス、一体───」
 顔を合わせると彼女は涙を流していた。
「良かった、私・・・」
「ベアトリス・・・」
 スレイも抱き返そうとしていたら、妖精からの茶々が入った。
「あっ、女の子泣かせたー!」
「いけないんだー!」
 そんな事を言われた彼は困惑し、ベアトリスが顔を上げて妖精達の誤解を解こうとする。エレミラはその光景に対して微笑んだ。
「ふふっ、貴方達はお互いを大切に思っているのね」
 そう言われて二人は照れるようにお互い顔を背けてそれぞれ仕草をした。
 その後、二人はいつもの服に着替えてエレミラから荷物を受け取る。服は元通りで汚れも取れていた。
 荷物は無事だが、ベアトリスの杖は魔物の襲撃で破損してしまった為、彼女は困っていた。
「もしかして杖が無いの?」
「はい・・・あれが無いと魔法がまだ使えなくて」
 困っている彼女に対して、エレミラは杖を渡す。
「これは私の故郷にある木で作られたもので、折れにくいと思うわ」
「ありがとうございます!!」
 ベアトリスは彼女に頭を下げて受け取った。
「エレミラ様、持って来ました」
「ありがとうございます」
 何かを持ってきたエルフの青年にエレミラが感謝すると、彼はスレイやベアトリスを睨んだ後、すぐ立ち去った。
「ごめんなさい・・・ここでも貴方達の存在を快く思わない者もいて」
 申し訳ないように暗い表情《かお》をするエレミラに対して、スレイの疑惑は確信に変わる。彼女は人間に対し、嫌悪感をあまり抱いてないようだが、他の人はそうでは無かった。
「そういえば、その袋の中身は・・・?」
 話題を変えるように、スレイが先ほど持ってきた袋について訊くと、彼女は気持ちを切り替えて説明した。
「これはポーションです」
 彼女は袋の中身を開いてポーションを見せる。ガラスの容器に青白く光る液体が入っており、効果を説明した。
「これはしばらくの間、魔除けとなるポーションです。飲む事でも効果は発揮できるので、是非役立ててください」
 スレイは5本のポーションの入った袋を受け取り、一礼した。
 二人はエレミラ達に感謝をして精霊の森から出る。彼らの旅は再び再開したのだ。
「次は・・・ゲルゾの山ですね」
「そこからだな・・・」
 そんな会話をしながら二人が歩いていると、目の前の茂みが不自然に揺れる。スレイがベアトリスを後ろに隠してライフルを構えると、そこから一人の男が茂みを掻き分けて現れた。
「なんだ、お前らか」
「あなたは・・・」
「おい坊主、そんな物を人に向けるもんじゃないぜ?」
 スレイはそう言われてライフルの銃口を下げた。
「生きていたんですね!!」
 男の生存にベアトリスは喜んでいたが、スレイにとって何者かわからない以上、彼を怪しく見ていた。
「その目・・・俺を怪しいと思っているな」
 スレイは目つきの他にも、ライフルを強く握り締めており、彼に対して警戒を解けなかった。
「・・・あなたがどんな人か分からないからこそ、俺は怖い」
「普通はそうだろうな」
 警戒しているスレイをベアトリスが呼び、二人は彼を後にして話を始めた。
「あの人を仲間にしてもいいと思います」
「ベアトリス!?」
「あっ、ごめんなさい・・・でも、今の私達が冒険を続けるには強力な仲間が必要だと思うんです」
 彼女にそれを言われて彼は悩んでいた。
 確かに帽子の男はあの時襲ってきた怪人スケアクロウと戦って二人を逃がしてくれたが、だからと言って信じていいものなのか、そんな考えが彼の中にはあった。
「〔でも、ベアトリスが言っていることは本当事実だ・・・今の俺達がもしあの怪人や魔物にまた襲撃されたら今度こそ死ぬかもしれない〕」
 そう思ったスレイは考えを決めて、男の方を向いた。
「仲間になって欲しい」
「・・・見返りは?」
「えっ・・・」
「これから助けるんだ、見返りがないとな」
 恩着せがましいように彼は言って、スレイは不満を露わにした。
「・・・分かった、見返りは後でな。それまでは考えておけ」
 彼にそう言われて、二人は静かに頷いた。
「あなたの事を何て呼べば良いですか?」
「───"ハンス・シュミット"だ」
 ハンスが仲間になり、ベアトリスは喜んでいたが、スレイはまだ何か思うような目をしていた。
 三人でゲルゾの山を目指している最中、スレイがハンスに話しかけた。
「ところで、あなたは何者なんだ?」
「・・・何者か答えて、今のお前は信じるか?」
 そう言われてスレイは足を止める。彼がまだ疑っている言葉は相手はもう分かっていたようで、彼は図星を突かれた。
「それは───」
「まぁいい」
 ハンスはそう言って再び歩き出した。
「スレイさん、行きましょう?」
「ベアトリスは怖くないのか?」
「私も怖いとは思いますが・・・悪い人ではないと思います」
「どうして?」
「何となく雰囲気が・・・そんな感じです」
 そんな答えに唖然とするが、彼はそれでも再び歩き始めた。
 麓に辿り着いた三人は、今から登る山を見上げた。
 スレイにとっては、ヴァートレスの村近くにある山よりは低いだろうが、それでも麓から見上げる山は高く感じていた。
「この山が何なのか、お前達は分かっているのか?」
 ハンスからそう言われると、二人はわからないような表情をして彼は呆れた。
「あのな・・・ここには"魔女"がいるんだぞ?」
「"魔女"?」
 何も分からなそうな二人に彼は仕方なく説明する。ゲルゾの山には"雷撃と魔女"の異名を持つ人物がいて、山に登る者が居れば手当たり次第に雷で脅し、その上襲ってくるらしい。
「どうします・・・?」
 その話を聞いた二人が顔を合わせると、ベアトリスが不安そうに訊いた。
「〔そんな話を聞けば山を登りたくないよな・・・〕」
「行こう、いざという時は君を逃すから」
「いえ、そこまでは大丈夫です」
「えっ?
「もしスレイさんやハンスさんを置いて逃げたら、私は後悔すると思います」
「ベアトリス・・・」
「そろそろ行くぞ、ここで話していたら埒があかない」
 二人はハンスからの促しに笑顔で返事した。
 その前にスレイは、エレミラから貰ったポーションを二人に配って飲む。匂いは爽やかなのだが、口に入れると口内中が刺激される、まるでミントのような味だった。
 山道は外側を螺旋状に拓いており、内側には木々が生い茂っていた。
「この山については何か知っているのか?」
「あぁ。話によるとここは、"元々"クーデリア公国の領土だったらしいからな」
「元々?」
 ハンス曰く、元はクーデリア公国だったが、雷撃の魔女の存在で今はここの領土を手放したようだ。
 山を登るにつれ、辺りが徐々に霧が覆っていく。視界の悪さを考慮してか、ベアトリスはグリマーで自分を中心に明るくした。
「そういえばハンスあなたの戦い方は・・・」
「俺の戦い方に何だ?」
「いや、何というか・・・どんな原理でトランプとかを武器にしているのかと思って」
「───世の中にはいろんな奴がいる。一人や二人、魔法でもない能力を持っていたところで、不思議ではないだろう」
「それもそうか・・・」
 スレイは半ば強引に納得したものの、それでもハンスに関しては謎が多く、それを今の彼が知る事はなかった。
 そのまま歩き続けるが、ハンスが足を止め、目で何かを捉えようとしていた。
「ハンスさん、一体どうし───」
「嬢ちゃんは杖の光を消して、坊主に守ってもらえ」
 そう言われたベアトリスはグリマーを解き、スレイはライフルに挿弾子クリップを薬莢に押し込んだ。
 しかし、スレイは思いついたようにライフルを下ろして手帳を取り出した。
 困った時の手帳頼み───なのは彼自身も自覚はしているものの、無意識のうちに出してしまうのだった。
「おい、今そんな物だしても意味はないだろ」
 事情を知らないハンスに対し、ベアトリスは宥めた。
「大丈夫ですよ、あの手帳が知らせてくれるようです」
「手帳が?」
 スレイが手帳を開くと、空白のページから地図や彼らが今いる所の座標が映し出された。
 彼は手帳と照らし合わせてその方向を見る。そこには一見道がないように見えるが、その奥には獣道があった。
「あそこに行こう」
 手帳を信じて獣道を通ろうとしているスレイをハンスが呼び止めた。
「おい、本当に信じていいのか?」
 そう言われてスレイは一瞬迷うが、この手帳に何度も導かれてきたせいか、今更信じない訳にもいかなかった。
「・・・行こう」
 そう言って彼は強引に進み、ハンスやベアトリスも付いて行った。
 獣道を抜けた先は山の頂上で、そこは岩石や木が周りを柵のように囲っていた。
 その中央に建つ屋敷───彼らが今まで入った屋敷とは違い、二階建ての一軒家だった。
 黒塗りの塗装は低温による水蒸気のせいか光っており、煙突からは煙が出ていた。
「〔あれが魔女の屋敷───酸素はあるから一応住めるのか〕」
 スレイがそう思っていた矢先、ハンスからどうするか訊かれた。
「どうして俺に?」
「俺は雇われた身として居るだけだ、お前からの指示があれば聞ける範囲で聞こう」
 そう言われたスレイは指示を出す。ハンスにはあの能力ちからを小石を投げるよう
指示をする。もしかしたら結界が反応するかもしれないと彼は言い、もしもの為にベアトリスにはプロテクの魔法を自分達を守る結界としてかけるよう頼んだ。
 ハンスが能力を使って小石を投げると、直線上に投げた石が雷の音と共に下に落ちる。ベアトリスはその音に驚いてスレイの後ろに隠れた。
「ベアトリス・・・?」
「すみません、私この音は苦手で・・・」
 そう言われてスレイは納得したが、彼らは確かに捉える。そう、投げられた小石が空からの稲妻に当たり、突き落とされるのを。
 結界のせいだと思われていたが、その正体はすぐ判明した。
「───私に何か用?」
 三人が声の聞こえた方向を見るとそこには、箒に座った長い銀髪の若い女性がいた。
「お前が"雷撃の魔女"か?」
「いかにも」
 ハンスから訊かれた彼女が答えると、スレイの後ろに隠れているベアトリスに視界を移して言った。
「あなた達、賊ではなさそうね。大人しく私の領土から出て行けば悪いようにしないけど」
「いつからお前の領土になった?」
「あら、貴方もしかして公国から来た人?そっちの子達は王国の人だって服を見れば分かるけど」
 そう言いながら彼女は足に肘をつけて頬杖をついた。
「というか、いつから私に賞金がかけられたのかしら、普通はここに来ないけど」
「お前が無差別に人を襲ってるからじゃないのか?」
 ハンスからの指摘に彼女は不機嫌な表情かおを一瞬だけ見せ、その後は普通に笑みを浮かべた。
「ちょっと脅すから許してね」
 彼女がそう言うと、プロテクで張った結界に雷が落ちて波打った。
 スレイとベアトリスは驚くが、ハンスは動じずにただ、空を飛んでいる魔女を睨む。彼女は笑みこそ浮かべていたが、そのは笑っていなかった。
「私の"ハイサンダー"を一発与えれば割れるけど、いい? 逃げるなら今のうちだけど・・・」
 彼女がそんな話をしていると、小石が投げられ、彼女に当たろうとするが、その寸前で見えない壁に弾かれる。そう、彼女もプロテクを張っていたのだ。
「さぁ、来いよ───雷撃の魔女《かみなりおんな》」
「胡散臭そうだけど、手応えありそうね・・・!」
 戦いは始まり、ハンスから言われて二人は近くの岩陰に隠れる。その時にベアトリスが彼にプロテクを個別に張った。
 彼はトランプを3枚投げるが、3枚とも雷で撃ち落とされる。それでも彼は攻撃を続け、一枚のメダルをスナップを効かせて投げた。
 それに関しては雷撃の魔女も反応できず、命中するがそれはあくまで彼女が張った結界にだった。
 舌打ちするハンスに、怪訝そうに彼を見つめる魔女───どちらも引かなかった。
「あなたの戦い方・・・魔法っぽくないわね。どんな仕掛けトリック?」
 彼がそんな問いに答える気もなく、攻撃を再開する。トランプは先ほどの3枚でもう最後で、メダルも数枚───残りの投擲物が少なくなってきたところでスレイにある要求をした。
「坊主、銃弾をくれ!!」
 その頼みに戸惑いを見せるが、彼はライフルの挿弾子を一個投げてハンスに渡す。そしてそこから一発抜き取ると、彼は人差し指の上に弾のボディを乗せて親指で上から抑える。そして、狙いを定めたと同時に弾の底を片手の親指の爪で弾いた。
 弾丸は真っ直ぐ魔女の結界に当たりそれをを破った。
 弾丸が彼女自身に当たったわけではないが、結界を破ったことにより本人に攻撃しやすくなったが、彼女は自身の周りにに魔法陣を作り出してそこから"サンダー"を撃ち出した。
 彼はそれを避けるが、崖で追い詰められていたせいか一発の雷が地面に当たり、彼はバランスを崩してそのまま頂上から落ちた。
「ハンスさん!!」
 二人が岩陰から出て彼のところへ駆け寄る。幸い、金属棒を伸ばして柵に引っ掛けた事により落ちることはなかったが、それもいつまで持つか分からない。スレイは彼を引き上げようとし、ベアトリスは再びプロテクで結界を作った。
「一応、仲間意識はあるみたいね。でも、私も優しい訳ではないから」
 そう言って彼女は自身の目の前に魔法陣を作り出してそこから"サンダー"を撃ち出した。
 サンダーを喰らって結界に波紋が出来る。ベアトリスは必死に杖を握って"何か"を集中していた。
「坊主、その手を離してお前が攻撃を───」
「嫌だ、貴方をここで死なせたら必ず後悔する・・・!」
 スレイからそう言われて驚きながらも、彼は何とか体勢を変えて魔女を狙おうとしていた。
「〔お願い、"アロウ"で攻撃しないと───〕」
 ベアトリスがそう思っていた矢先、杖を地面に落として彼女は自身の周りアロウを4本顕現させる。そしてそれを相手に放った。
 予想外の出来事に驚きを見せた魔女は、箒から落ちそうになるが、間一髪で掴む。しかし、ベアトリスは未だに攻撃を止めなかった。
 ハンスをやっと引き上げて一息ついたスレイがベアトリスの異様な雰囲気に呆然とした。
「ベアトリス・・・?」
 彼は恐る恐る肩に触れ、彼女が振り向くと───明らかに瞳が違った。
 紅くドラゴンのような瞳───目の合った彼は全身に寒気がするように恐怖したが、彼女は一瞬微笑んだ後、意識を失い倒れた。
 彼女を抑えて抱きかかえたスレイは、彼女の名を呼ぶが、返事が無い。完全に意識を失っていた。
「坊主、一体何が・・・」
「分からない、何でこんな・・・」
 二人が彼女の様子に対して状況が飲み込めずにいると、魔女がこちらに歩いてきた。
 戦闘態勢に入る二人に対し、両手を軽く上げて戦闘の意思がない事を示した。
「今更信じろと?」
「信じないなら別に良いけど・・・取り敢えず私の屋敷いえに運びなさい」
 そう言われたが、スレイの頭はベアトリスが倒れた事で一杯だった為、ハンスは仕方なく彼女の提案に乗った。
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