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第2章:邪竜と黄金色の竜
第15話:真相
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ニカッと歯を見せて笑みを浮かべたモルドレッドは、彼女をイシュメラでは無く、"イザベラ"と呼んだ。
他の3人はその名前に唖然とし、イシュメラは気まずそうに青ざめた。
「おい・・・どういう事だ?」
「それはぁ・・・その・・・」
「落ち着け、"若いの"」
問い詰めようとするハンスに、モルドレッドが「若いの」と呼んで静止する。呼ばれた彼もそうだが、スレイとベアトリスもその呼び方に驚いていた。
「カルラ、ご苦労だった」
「・・・何も」
モルドレッドがカルラを労った後、4人の方へ向いて話を切り出した。
「話をしよう。それともお前がするか、"イザベラ"?」
「私はもう"イザベラ"じゃない、"イシュメラ"よ」
名前の訂正をして溜め息を吐いた後、イシュメラは他の3人に向かい合って話を始めた。
「驚かないで聞いて欲しいんだけど・・・実は私、イシュメラじゃなくて"イザベラ・ルイズ・クーデリア"───」
彼女は本当の事を言ったものの、どういう反応をしていいのか困っていた3人からは素っ気ない反応で返された。
「ちょ、ちょっと!! もう少し驚ぐぐらいしたら!?」
「すみません・・・こういう時、どんな反応をするべきか迷ってて」
「もう・・・」
頭を抱えるイシュメラに、ハンスが質問した。
「なぁ、クーデリアって事はお前は公国の姫様なのか?」
「まぁ・・・元だけど」
「ああ、この娘は"元"公国皇女だ。だろ?」
「ええ・・・モルドレッドさんの言う通り今はもう皇女じゃないわ」
「どうしてですか?」
「話せば長くなるんだけど───」
そう言って彼女は話を始める。現在から遡って20年前───大公と王妃の間には子供が出来た。
その子の名はイザベラと名付けられ、自慢の娘として愛情を注がれていた・・・それは弟が生まれた後も疎かにされず続いていた。
弟のアデルには勉強を教え、メイド見習いとして仕えていたクレアとは友達になり、彼女は幸せに暮らしていた。
ところがある日───イザベラはある話を耳にしてしまった。
それは彼女が15歳の頃───本を抱いて自室に戻ろうと夜の廊下を歩いていると、両親の寝室から何かを話し合うような声が聞こえてきた。
「あなた・・・イザベラに本当の事を話すべきでは?」
「解っておる・・・おるのだが・・・お前の身も危険に晒されるのだぞ?」
「確かに、私が"魔女の系譜"にいた事実は永遠に残るかもしれません。しかし、イザベラやアデルは無関係です!」
「だが・・・手紙の差出人はイザベラを渡さないとお前の真実を白日に晒すと・・・」
「別にそれは・・・」
「もし魔女だと知られたら、公国内では大きな内乱が起こり得る・・・止むを得まいが従うしか・・・」
───その話を聞いてしまったイザベラは本を落としてしまう。そのまま拾って静かに立ち去るべきなのだが、彼女はその話に唖然としてしまい、その場から動けなかった。
「そこに誰がいるのか・・・?」
ラモンは物音に気付いて部屋から出ようとするが、イザベラは父親が部屋から出る寸前で我に返り、そのまま走り去った。
───無我夢中で逃げ、彼女は隠し通路から城門の向こう側へと出る。その通路は万が一、城内で襲撃者がいた時の為に作られたものだが、お忍びで城下町へ遊びに行ってたイザベラにとっては絶好の逃走手段だった。
城下町へと出ていくが、この時は真夜中───巡回中の兵士などいない。こんな時間に出歩くのは危険だった。
歩いている途中、イザベラは謎の男達に捕まり、そのまま意識を失う───そして気付いた時には荷台の中で縛られていた。
手首や足首は勿論、身体を縛られている為かまともに動く事が出来ず、声を出そうにも猿轡を口に加えられているせいで口を開こうとすると涎が出てしまうだけだった。
男達は何かを話し合っていたが、彼等は誰かの依頼で人攫いをしているのが判明した。
「───んっ、んんっ・・・」
そんな声を出してしまい、彼等は気付いた。
「お目覚めか、お姫様?」
下衆な笑みを浮かべてそう言うと、彼女は彼等を睨み付けた。
「おいおい、こっちも雇われてんだぜ? ただ───」
1人の男が彼女の身体を見て、いやらしく笑った。
「まぁ、依頼人のところに着くまでは愉しませてくれよ・・・」
そう言って彼女を押し倒す。身体中を縛られている為に脚を伸ばす事も出来ず、魔法も上手く唱える事が出来なかった彼女は涙を流しながら殺意の目を向けた。
───そんな彼女の願いが届いたのか、雷鳴と共に馬車が急停車した。
今まで雷が降る気配など無かった為、1人の男が手綱を握っていた男に状況を訊くが、彼は「地面に雷が落ちた」と言った。
意味の分からない言葉だが、男達は追っ手が来たと想定し、イザベラを馬車から降ろして彼女を人質として扱う。そんな彼等の目の前にいたのは、厚いローブを着た猫背の人物だった。
その不気味な立ち姿に、一同は魔物だと思うが、それが人間だという事はすぐに判った。
相手は1人───囲めばすぐに倒せると踏んだが、その人物が手に持っていた杖底を地面に当てると、雷鳴と共に1人の男へ落雷した。
近かったせいか、イザベラはあまりの炸裂音に思わず驚いて目を閉じそうになるが、それでも彼女は見た。
ローブの人物が地面に杖底を当てる度、落雷は男達に命中する。しかもその的確に、殺さずに。
辱めを受けそうになって、殺意を感じていた彼女とは違い、不殺の信条でもあるのか、その人物は明らかに威力を調整しているようだった。
彼等は不利だと感じ、そのまま人質を突き放して馬車で逃げて行った。
痺れて動けなくなった仲間も連れて行った為、男達の仲間意識は強いようだが、ローブの人物は地面に唾を吐いた。
一方で、縛られたままもがいているイザベラに向かって軽くサンダーの魔法を命中させて手首と胸の上下に巻かれた縄を焦がした。
拘束から解放されたイザベラは、猿轡を外して自然の空気を吸った。
「・・・ありがとう、あなたは?」
イザベラが感謝すると、その人物はフードを外して素顔を見せる。その顔は醜く老いた女性で、目が悪いのか、目つきも悪かった。
「まずはお前から名乗るのが筋だろう?」
老婆からそう言われて、棘のある言い方が頭に来るものの、彼女は助けて貰った礼として名乗った。
「───イザベラ、それが私の名前」
その名を聞いて、老婆は彼女を下から上に全体を眺めた。
「・・・みたところ、良家の出身だな。だが、その目、その髪の色・・・まるでどこかの誰かにそっくりだ」
そう言われて、イザベラは両手を腰に当てて言った。
「ふーん・・・ならあなたは何者なの?」
「・・・家で話そう、箒に乗れ」
老婆が背中から外した箒に同乗し、そのまま彼女の家へと向かった。
老婆の家はゲルゾの山にあり、山の頂上に家を構えていた。
公国が管轄している筈の山に我が物顔で家を構えている事に、イザベラは困惑していた。
「えぇ・・・この山は公国の───」
「文句があるならここから突き落とすよ」
家に着いた後、老婆はクッションが縫われている椅子に座ってから話を始めた。
「小娘、お前は何か訳があって攫われていたのだろう? 教えろ」
「私にだって分からないわ・・・身代金目当てかもしれないし───って、貴女も名乗ってよ」
「ああ、忘れてた───あたしゃ"イシュメラ"。魔女だ───それも"雷撃の魔女"」
「雷撃の魔女・・・噂は聞いてる」
「そうか、それで?」
イザベラは一通りの悪評を言うが、イシュメラはどうでも良さそうに聞いており、彼女は自分の悪評を聞き終えた後、素気なく反応した。
「ああ、そう・・・あたしにはどうでもいい話だよ」
「ああ、そう・・・」
「それより、お前の苗字は何だい? まさかそんな身なりで貴族じゃないとか言い出すんじゃないよ?」
イシュメラからそう訊かれるイザベラ。彼女は嘘をつこうとしたが、この魔女に嘘を見抜かれた時が怖い為、本当の事を言った。
「私の苗字は"クーデリア"・・・」
彼女の苗字を聞いた瞬間、イシュメラは嘘だと思うように頭を抱えた。
「・・・なら、お前の母親の名は"ヘーゲル"か?」
その問いに、イザベラが「ええ」と言うと、イシュメラは更に溜め息を吐いた。
「・・・文句あるの?」
「そりゃあ・・・"あたしの娘"だからねぇ」
その答えにイザベラは声を出して驚く。彼女は自分の母親からそんな事実を聞いてないからだ。
「どうした? 自分の母親が魔女の系譜で、がっかりしたか?」
「いえ・・・そもそも貴女が母さんの親だなんて知らなかった」
「・・・ヘーゲルは魔女になる事を拒んで家から出た。そして今は大公の妃になったとは・・・あの親不孝者」
その後、イシュメラはぐちぐちと自分の娘の悪口を言い始め、イザベラはカッとなってしまった。
「───やめて」
「なんだって───」
「母さんの事を悪く言うな!!」
激昂したイザベラは両手から電流を編み出して、サンダーをイシュメラに撃とうとする。しかし、彼女は全く動じなかった。
「・・・お前、いつその魔法を会得した?」
「・・・何でそれを」
「いいから言え」
「・・・7歳の時」
そう聞いたイシュメラが頷いた後、笑みを浮かべてこう言った。
「本当にヘーゲルは勿体無い奴だ───」
「えっ・・・?」
「良いだろう、お前に選択肢をやろう。魔女になるならここに残れ。だが、魔女になりたくないならさっさと此処から立ち去れ」
選択肢を与えられたが、イザベラの答えは決まっていた。
「───魔女になる」
「ふっ・・・そうと決まれば今から始めるぞ、覚悟はいいな?」
こうしてイザベラは"雷撃の魔女"になる為の訓練を始め───そして現在。
「───これからはどっち呼びにすれば良いんですか?」
「好きな方でいいけど、イシュメラでいいわ。これが今の私だから───ところで、レッドさん、今度は貴方が話す番よ」
イシュメラがモルドレッドにそう言い、彼は真相を話し始めた。
「───クーデリア公国とアストリア王国の関係が悪化しているのは、"邪竜教団"の仕業だ」
その言葉にカルラ以外の聞いていた一同は驚きを示すが、スレイはすぐに根拠を訊いた。
「何故それを・・・」
「小僧、お前は確か、ガルア王国に向かう途中の森で自国の王女を探していたな? その時にクーデリア公国の兵士に襲撃されなかったか?」
「ええ・・・確か2回ほど」
「なら、そいつらは"有無を言わずに"襲って来なかったか?」
彼の言葉で、スレイはある事に気付く。確かにガレストル率いる騎士団と会った時は普通に会話や相手側も言葉を出していたのに、最初に遭遇した兵士達は無言で襲って来ていた。
同じ人だとは思えない程の雰囲気に、異様なまでの殺気───それはスレイも感じ取っており、あの頃を振り返るのは彼にとって酷だった。
「・・・あれはまるで───同じ人と思えなかった」
「・・・無理もない、奴等は自分達が信仰する奴さえ復活するなら自分の命など簡単に投げ出す連中だ」
「という事は・・・道中での死体は貴方が?」
「そうなるな。王女の護衛には紛れてなかったようだが・・・奴等、見事に公国の兵に紛れてやがる」
「あれ・・・という事はリデア王女がテントにいたのは・・・」
「ああ、俺が運んだ。お前達がこっちに近付いてくれたおかげで俺はあそこから離れることが出来た」
モルドレッドからそう聞き、スレイはリデアがあの時言っていた大柄な男性と彼は一致していた。
スレイが彼に感謝すると、ハンスがある疑問を提示した。
「・・・そこまで価値のあるやつなのか? 奴等が必死になって復活させようとしている奴は?」
「ああ。邪竜は一度この世界を征服した事もあるようで、他者を惹きつける程の力も兼ね備えているのだろう」
「でも、邪竜は英雄イルスとイリ───黄金色の竜によって滅ぼされたって話だけど」
「それは本当のようだが・・・奴等はどうしても邪竜を復活させたいようだ」
「それと両国の対立に何の関係がある?」
ハンスがモルドレッドに訊こうとした瞬間、ベアトリスが呟くように言った。
「───混沌の世界」
「ベアトリスちゃん、今なんて?」
「───えっ? どうかしましたか?」
まるで別人が乗り移っていたのか、無意識の内に言葉を発したベアトリスに対し、一同は彼女を奇妙に感じた。
まだある程度の事情を知っているスレイたち3人はともかく、モルドレッドとカルラはベアトリスの事情など全く知らなかった。
「おい、そこの娘。今何と言ったか、覚えてないのか?」
「えっ・・・はい・・・」
怪訝そうにするカルラをハンスは警戒するものの、モルドレッドは彼を宥めた。
「安心しろ、カルラは簡単に人を斬るような人間じゃないさ」
「その根拠は何処から?」
「一緒に旅してたからな」
「でも、私から見ても気難しそうに見えるんだけど・・・」
イシュメラからそう言われて、モルドレッドは溜め息を吐きながらカルラに止めるよう言う。彼女は指示に従ったものの、3人が隠している情報を求め、イシュメラは仕方なく話した。
「───ベアトリスちゃんは黄金色の竜が転生した姿"らしい"・・・のよ」
「"らしい"とは何だ?」
「私にだって解らないわよ・・・ベアトリスちゃんはスレイ君と一緒で天星人だし、天星人って別の世界からこっちの世界に降りて来た筈なのに、転生だと、まるで死んだみたいな感じになるし・・・」
「"情報通り"か・・・」
「何処が"情報通り"なの?」
「いや、こっちの話だ」
「勿体ぶらず教えてよ・・・こっちの事だって話したじゃない」
「話がややこしくなるぞ?」
「・・・やっぱやめとく。これ以上ややこしくなったら埒が明かなそうだし、また今度ね」
「そうか。まぁ話を戻すが、邪竜教団は同じ志を持つ魔王軍に資金提供しながら暗躍している。邪竜復活の為にな」
「それで行く先々で魔王軍が・・・」
「そんなに魔王軍と出会してるのか。奴等を尋問しなかったのか?」
「ええ・・・だって、大抵は喋れない奴よ。喋れる奴なんてすぐ逃げちゃう」
「まぁ、敵さんも隠し通したいだろうな。魔王軍とはいえ、奴らの規模はオルテナ大陸にある三国より遥かに小さい。もし国同士で脅威を認められたらすぐに壊滅するさ」
「そんなに小規模なのか?」
「ああ、噂によるとな。だが、"両国が争っている間"はこちらが不利だ。何にせよ、戦争を終わらせないと───」
「あっ・・・」
まるで現在進行で戦争が始まっているかのような物言いに、イシュメラは気まずそうな声を出し、ハンスとベアトリスも表情を固め、スレイは表情を曇らせて俯いた。
「・・・小僧、すまなかった」
「いや・・・良いんです。知らなかったので・・・」
事情を知らなかったとは言え、この話は今の彼にとって爆弾のようなもので、砂漠にいた時はなんとか爆発せずに済んだが、次もそうなるとは限らなかった。
神殿での惨劇を知っている者にとっては、あの鎧は諸刃の剣───モルドレッドとカルラが熟練の実力者だとしても、あの獣を止めるのは難しいとハンスやイシュメラは考えていた。
暗い表情で俯くスレイをカルラはじっと見つめ、彼女は彼に付いて来るよう言った。
「付いて来い」
「えっ? あっ、はい・・・」
「カルラ、小僧を連れて何処に行くつもりだ?」
「散歩だ」
「馬鹿言え・・・」
「なぁ、何で止めない?」
「もしかしてお前、カルラがスレイを斬るって思ってないか?」
「お前等の事はまだ信用出来ない」
「それはお互い様だろう?」
「ちょっと・・・2人とも喧嘩はやめてよ」
「私見てきますか?」
「嬢ちゃん1人では危ないから、行かない方が良い」
ベアトリスはモルドレッドにそう言われて、心配されている事への嬉しさと自分の身すら守れないような未熟さを指摘されているようで複雑な心境だった。
一方でスレイはカルラと共に近くの川の方まで来ていた。
綺麗に澄んだ水は日の光を反射し、緩やかな川の流れは見る者を落ち着かせる───カルラは刀を抜く気は無いようで、彼女はスレイに言った。
「戦争の話題が上がった時、お前の姿が一瞬だけ変化するのを見た。その時微かに血の匂いも感じた───私が見る限り、お前がそれに変化するのは本意じゃ無いと感じる」
その指摘通り、彼は頷いた。
「はい・・・貴女の言う通り、鎧は自分が認識しない内に装着されてしまう。全体とまではいかなくても、一部分だけの時もあった」
「それに心当たりは?」
「分かりません・・・ただ、不安や恐怖が気持ちにあると鎧が装着されていく気がして・・・」
それを聞いて、彼女は腕を組んだ。
「・・・それは精神の弱さから来るのかもしれない」
「はい・・・そうかもしれません」
「しかし、精神の弱さは鍛錬をすれば強くなるでも、理不尽を乗り越えるでもない。お前の中には、"同じ過ちを繰り返したくない"という思いがあるのではないか?」
そう言われた彼は、心当たりがあるように目を丸くしたが、その後すぐに表情を暗くして俯いた。
「でも、一体どうすれば・・・」
「此処を思い出せ」
彼女の言葉に対し、彼は理解できずに首を傾げると、彼女はその意味を説いた。
「この川の流れは何だと思う?」
「何だと言われても・・・」
「激しい流れか、緩い流れか、どんな音で流れているか」
「どうしてそんな事を・・・」
「・・・訊き方を変えよう。この場所に来て落ち着くか?」
彼女からそう問われ、彼は得心した。
川の穏やかな流れは傷付いた心を癒し、その音は殺伐とした心を清らかにする。耳を澄ませて感じ取る事で、彼女の言葉を何故か理解できた。
「確かに落ち着きます・・・でも、この川と何の関係が・・・」
「───もし、お前が自分自身を制御出来なくて不安があるのなら、この音を思い出せ。だが、確実にそうなるとは限らん。全てはお前と、お前の鎧次第だ」
「ありがとうございます・・・」
「勘違いするな、それはあくまで気休め・・・もし同行する中でお前が牙を剥く事になれば、私がお前を斬る」
無機質に放たれたその言葉を聞くと冷淡さを感じるが、スレイはそれでも構わないと頷いた。
その後、2人は野営地に戻っていく。そんな中、カルラはある事をスレイに話した。
「スレイ、お前はこの世界に降り立ってから"ザンガ"と言う侍を見なかったか?」
彼女が言った名前に心当たりがあるスレイは足を止めた。
「何故、ザンガさんを・・・?」
「奴とは色々あってな・・・そもそも私やモルドレッドは"天星人じゃない"」
「それは───どういうことですか?」
「───この世界に降り立つ者は2種類に分けられる。一つがお前やあの娘のように転生してこの世界に降り立つ者。そしてもう一方は"地上に召喚される者"だ」
「天と地・・・何か意味があるのでしょうか?」
「───それは分からない。私達をこの世界に赴かせた"女神"は本当の事を言わないからな」
彼女は袖を捲ってある物を見せる。それは、精密機器のような物で、表面は時計やつまみ、押しボタン式のスイッチなどが付いていた。
「それは一体・・・」
「これは"時空転移装置"と呼ぶ物らしい」
「らしい?」
「私にもよく分からん───"時空旅行者"という者達が使っていた物らしいが、詳しい事は聞いてない。これが無いとエヴォルドに干渉できないようだが・・・モルドレッドの奴は持ってなかったな。全く、何処に無くしたんだか───」
その話を聞いて、スレイは気難しそうな表情をした。
「ああ、すまんな。だが、隠し事はお互い無しにしたほうが良かろう?」
「まぁ、確かに・・・」
そんな話をしながら2人は野営地に戻り、他の仲間と合流する。戻る事には夕暮れだった。
「話は済んだのか?」
「ああ」
「なら、祝杯といこうか」
「えっ?」
「お前達に会えた事を祝ってな」
そして夜が更けて、6人は焚き火を囲んで食事をする。4人が来る前から魚や肉、キノコなどの食材は揃えていたようだ。
「若造ども、酒はいらんか?」
「駄目よ、まだ子供なんだから」
イシュメラにそう言われ、モルドレッドは残りの2人へと目を向けるが、2人は無言で断った。
モルドレッドはスレイを隣に座らせ、彼は酒瓶を持って話をした。
「───スレイ、お前には家族がいたか?」
「えっ?」
「勘違いしないで欲しいが、馬鹿にしてる訳じゃ無いんだ」
「あっ、大丈夫です───"前世"での自分には、妹ならいました」
「妹? 両親は?」
無言になるスレイに対し、何かを察した彼は親の話をやめた。
「すまんな・・・妹はいたのか」
「はい。モルドレッドさんには?」
「俺か? 俺には居なかったからな・・・」
「すみません・・・」
「謝る事ないさ」
彼は酔いが回っているのか、自分の事について語った。
「俺は、ある王に仕えていた。そいつは父でもあった。だが、俺は叛逆を起こして・・・討たれた」
その話を聞いたスレイは気まずさを感じていたが、何故叛逆を起こしたのか気になった。
「何故叛逆を?」
「馬鹿な話なんだけどな、それは───」
「あのさぁ、このおさけぇ、どこからもってきたのぉ?」
へべれけに酔ったイシュメラがモルドレッドに絡む。あまりの酔いっぷりにハンスは帽子を押さえて呆れた。
「おいおい・・・もう酔っちまったのか?」
モルドレッドからそう言われて、彼女は無邪気に笑う。顔は赤いが、呂律は何を言ってるのか聞き取れる程度には回っていた。
「秘密だ」
「またまたぁ・・・かくしてもむだぁだってぇ」
酷く絡むイシュメラを見て、スレイがモルドレッドに耳打ちした。
「イシュメラさんって、酔うと人が変わるんですね・・・」
「俺も驚いてる。俺が見ていた頃は子供ん時だったからかもな」
2人が酔っ払いについて話していると、ベアトリスがスレイの袖を摘んで反応させた。
それに反応した彼が彼女の方を向くと、フードを被って俯いており、小さな声で言った。
「・・・お花を摘みに行くので、一緒に来てもらえますか」
その言葉に彼は戸惑いを見せるものの、彼女を1人に出来ない為、付いて行くことにした。
「おい、こんな夜更けに危ないぞ」
「何かあったら信号弾を撃つので───」
スレイはそう言いながらも、ベアトリスから引っ張られて行った。
「あの娘、なんか妙だな」
「まぁ、いざとなれば坊主が助けを呼ぶだろ」
そんな中、スレイはベアトリスに引っ張られて、森の中を進んでいた。
彼は彼女に川の場所まで指示を出し、そんな彼女は振り向く事無く川まで辿り着いた。
ようやく解放された彼は、突然の出来事に頭が追いついておらず、彼女を心配した。
「ベアトリス、急にどうしたんだ?」
「スレイさん・・・嘘をついてごめんなさい」
「えっ?」
「本当はお花を摘みに来たのでは無く、私は───」
ベアトリスがフードを外し、素顔を見せる。その顔は彼女そのものだったが、瞳は紅く、両頬には黄色い鱗が模様の様に表れていた。
その素顔に唖然とするが、彼女は改めて名を名乗った。
「改めて自己紹介を。私は"イリステア・ファイ・リューン"───"イルス"、逢えて良かった・・・」
「待ってくれ、俺は"イルス"じゃない」
スレイは否定するものの、ベアトリスは首を横に振って更に否定した。
「いいえ、確かに貴方は邪竜と戦った英雄、"イルス・アルフォード"なのです」
「何でそんな確証が・・・」
「───それは私が貴方を呼んだからです」
そう言われて彼は驚愕するものの、まだ信じられない様子を見せていた。
「なら、信じてもらえそうな話を。私は、貴方のいる前世に行きました。そして貴方を見ていました───姿は違えど、魂はあの時の貴方でした」
「という事はあの時、妹に絵を描いたのは・・・」
「はい、私です。お望み通りに描けるかは不安でしたが・・・」
「俺の前でも喜んでたから安心してくれ」
「ほ、本当ですか!?」
嬉しそうにする彼女だが、笑みを浮かべながらも悲しげな目を誤魔化せていない彼に気付いて申し訳なそうに表情を暗くした。
「す、すみません・・・」
「えっ?」
「いえ、悲しい目をしていたので・・・」
そう言われて彼は納得したように笑顔を消した。
気まずい雰囲気となり、彼は話題を変えるように話をした。
「君は別世界を行き来できるのか?」
「いえ・・・"ある方"のお力を借りてですが」
「ある方?」
「"竜剣王"、憶えてませんか?」
その名を思い出そうとするものの、彼は思い出せず謝った。
「いえ・・・私も一方的に話し過ぎました・・・」
真実を聞かされたものの、実感が持てないまま無言の時間が始まった。
お互いが何処まで知っているのか、憶えているのか把握しきれていない状況の中、2人はそれぞれ何を言うべきか悩んでいた。
そしてお互いに口を開こうとしたその瞬間───ある者が邪魔をした。
スレイは何かに吹き飛ばされ、ベアトリスは彼の名を叫ぶが、その者は彼女の腹部を強く殴って失神させた。
彼はすぐに体勢を立て直して拳銃を構える。銃口の先にいたのは、怪人/スケアクロウ───トハの村で2人を襲い、ハンスと戦った魔物だ。
「お前はあの時の・・・!?」
「コノ娘ハ貰ウ」
「待て───!」
怪人は彼女を肩に抱えると、大きく飛び上がって暗闇に消えていく。スレイは発砲したかったものの、誤射を恐れて撃てなかった。
スレイは唇を噛み締めて悔しそうにするが、助けを呼ぶ事を優先して信号銃を夜空に向けて撃った。
そして空に放たれた閃光に気付いた4人がスレイの所へ辿り着き、イシュメラが彼に声を掛けた。
「大丈夫?」
「ベアトリスが・・・攫われた・・・」
それを聞いた4人が、それぞれ反応を示すが、ハンスは冷静に訊いた。
「誰に攫われた?」
「あの案山子みたいな怪人・・・トハの村で俺達に襲ってきた」
「チッ・・・あの時殺しとけば・・・」
「貴方達は知ってるのね?」
「ああ、どっかの指示で動いてるとは思ったが・・・」
「早く探すぞ。その娘、今救えないと敵の拠点で死ぬ事になる」
「決まりだな。だが、どうやって探す?」
「私に任せて」
イシュメラは目を閉じて少し沈黙した後、再び目を開いて他の4人に言った。
「場所は特定した。行くよ」
5人は森の中を歩く。どうやらスケアクロウは地面を歩いているわけではなく、木から木へと飛び乗って浮遊しているようだった。
「イシュメラさん、どうやって奴を・・・?」
「"ソナー"の魔法を使ったのよ。これで攫った奴の位置は"ある程度"分かる」
「確定じゃないのか?」
「ええ、だから行くしかないわ。私に付いて来て」
しかし、スレイは疑問に思う。先程までイシュメラとモルドレッドはお酒を呑んでいた筈・・・なのに、もう酔いから醒めていた。
「そういえばイシュメラさん、それにモルドレッドさんもお酒呑んでいた筈なのに、どうして酔いから醒めているんですか?」
「酔い醒めのポーションがあるからな」
モルドレッドの用意周到さには感心するものの、怪人を追う事が最優先である為、5人は先を急いだ。
森の中を奔走する事数刻置き───森から出たスレイ達は、目の前にある大きな岩の前に辿り着く。その上には2人いて、スケアクロウとローブを着た怪しげな人物だった。
「ベアトリスを離せ!」
「案山子野郎、今度こそ容赦しねぇぞ」
案山子の怪人と因縁がある2人がそう言うと、岩の上にいる2人は可笑しく高笑いした。
「何がおかしい!?」
「我々が考え無しにここにいると思うか?」
ローブの人物がそう言うと、カルラは抜刀体勢で周りを見た。
「どうしたの?」
「腐った肉の匂いがする・・・」
スレイは足を誰かに掴まれ、そこを見ると、地面から腕が突き出していた。
驚いて発砲したものの、命中したおかげで足から手が放されるが、仕留められた訳ではなく、"それ"は何体も地面から出てきた。
それの正体はアンデッド───所謂ゾンビやスケルトンの事で、ローブの人物がそれらを操るネクロマンサーだとイシュメラは推測した。
「どうです、私の死者を操る術は? 不死の相手には手も足も出まい」
高笑いするネクロマンサーをよそに、スレイは襲ってくるゾンビの頭に一発撃つ。しかし、命中してもよろけるだけで、再び体勢を戻して襲ってきた。
「頭に撃っても無駄よ。コイツらは死霊に取り憑かれただけの抜け殻───完全に倒すなら本体を叩くか、殻を使えなくするしか・・・」
イシュメラが戦っている途中、何かを思い出したように声を上げて、他の人を驚かせた。
「いきなり声を上げるな!!」
「あっ、ごめん・・・でも、私に付いて来て!!」
彼女が他の人にそう言い、4人は理由も分からず死者からの追撃を振り切って付いて行った。
「次は?」
「私が離れるよう合図をするからこの木にできるだけ敵を引き付けて」
理由を訊きたかったものの、今は目の前の敵に集中しないといけない事から、5人は木の方へと生ける屍達を誘導していった。
そして十分に引き付けた後、彼女からの合図で、スレイ達は木から離れていく。そして十分に離れるとイシュメラはハイサンダーを屍が群がっている木に落雷させ、その木は周りのものと一緒に大きく燃え上がった。
燃え上がり、屍は使い物にならなくなってしまう。ネクロマンサーは歯軋りをして憎たらしく思っていた。
「イシュメラさん、どういう事ですか?」
「雷が鳴ってる時、木には近付くな───子供の頃に聞いた話よ」
その話に対してスレイは納得するものの、ハンスは納得いかなそうな表情を浮かべた。
「・・・何その表情」
「別に・・・」
「まぁ、とにかくだ。手駒は全て無くせたし良かったな。お前の異名も伊達じゃ無いって事が分かった」
「当然よ。伊達に雷撃の魔女を名乗る程、馬鹿じゃないわ」
誇らしげに言うものの、その最後に小さい声で「ありがとう」と言う辺り、彼女も嬉しかったようだ。
「おのれ・・・よくも私の───」
ネクロマンサーが何かを言いかけようとするが、スケアクロウに顔を掴まれた。
「貴様ハ此処デ奴等ヘノ時間稼ギトナッテ貰ウ」
スケアクロウの掌からは緑色のガスが噴き出て、そのガスはネクロマンサーの口から全体に行き渡った。
そして案山子の怪人は仲間を岩の上から落とした後、ベアトリスを抱えて緑色の煙と共に消えていった。
「待て!!」
「待て、様子がおかしい」
カルラがスレイの片腕を掴んで止める。5人の目先には先程落とされたネクロマンサーが起き上がり、その者の目や口、鼻からは緑色の光が差した後、身体が膨れ上がって爆発した。
風船のように破裂し、5人は緑色のガスに覆われた。
ガスはすぐに薄れ、4人は咳き込みながらもお互いの生存を確認した。
しかし、ガスが薄れていくにつれ、目の前に姿を現したのは、鎧甲に身を包んだスレイだった。
「スレイ君・・・?」
イシュメラが心配そうに近寄るが、ハンスが彼女に叫んだ。
「今のスレイに近付くな!!」
「えっ?」
鎧を身に纏ったスレイは獲物を見つけた肉食動物のように彼女へ襲い掛かるが───モルドレッドが剣で防いで阻止した。
しかし、刃を掴んでいるスレイの力は凄まじいもので、モルドレッドが力負けしかける程であった。
「〔何だこいつ・・・ビクともしないどころか俺の方が押されている・・・!?〕」
「モルドレッドさん、その子は───」
「狂暴になったスレイは厄介だな・・・」
しかし、そんな劣勢の中、モルドレッドは不敵に笑みを浮かべた。
「〔だが、面白れぇ・・・少しぐらい楽しませろよ、坊主!!〕」
彼はスレイの腹部を蹴って力を緩ませた後、そのまま剣を横に振って距離を離した。
剣を構えるモルドレッドと、荒々しい息遣いをしながら体勢を立て直すスレイ。彼は鞘から剣を引き抜いて再び向かって来た。
モルドレッドはそれを迎え撃ち、2人は激しい剣戟を繰り広げる。鬼神の如く攻戦するスレイと、その攻撃を見極めているかのように防戦に徹するモルドレッド。彼はその中でも反撃できるチャンスを窺っていた。
そして鍔迫り合いが始まり、両者一歩も引かずに足を踏ん張らせた。
そして、その押し合いはモルドレッドが勝ち、彼は突き飛ばした後、スレイの顎をアッパーで殴り上げた。
しかし、洗血の鎧甲を身に纏っているスレイにはあまり効いていないのか、彼は上半身を後ろへ仰け反らせた後、すぐにモルドレッドの方へと向き合った。
そしてモルドレッドが剣を縦に振り下ろすものの、スレイはその剣を左右の手甲で防ぎ、そして彼の剣を吹き飛ばした。
手甲の刃に挟まっていたものの、剣の刃は折れずそのまま宙を待って地面に刺さる。モルドレッドは油断したと悔いるものの、後悔してももう遅い───スレイは自分の剣を拾って振ろうとしていた。
剣の届く範囲から離れようにも遅く、斬られる事を覚悟して両腕で顔を塞ぐが───振ろうとしていた剣はカルラの刀に防がれた。
「まだ終わりじゃ無いぞ、叛逆の騎士。早く自分の剣を取って来い」
「おう、助かる!!」
モルドレッドが剣を取りに行き、今度はカルラがスレイの前に立って鍔迫り合いをする。
「スレイ、思い出せ・・・! お前はまだそこにいるのだろ?」
カルラがそう問いかけると、スレイは手を緩めて鍔迫り合いを止める。彼女も落ち着いたと思って構えを解くが───再び主導権が変わったのか、カルラは首を掴まれた。
「ぐっ・・・」
彼女の足は地面から離れ、首を絞める力は増していく。お互い目を合わせていると、突然スレイが身体を震わせて、彼女を手から離した。
「立てるか?」
「ああ・・・」
2人の前では頭を抱えて苦しみ悶えるスレイがおり、そんな彼を見ても2人は剣や刀を構えた。
「行けるか?」
「ああ、いつでも」
準備万端な剣士達に反して、スレイはそのまま地面に手を付けて鎧甲から本来の姿を現した。
「・・・俺は、一体・・・」
身に覚えが無かったが、周りの光景を見て一瞬で状況を理解し、悔やむように唸った。
そんな彼を見て、2人は剣を収めて警戒を解き、先程の戦闘を一瞬の出来事として呆然としていたハンスとイシュメラは我に返った。
「───スレイ君!」
イシュメラはスレイの元に駆け寄り、心配そうに声を掛けるが、そのまま地面に倒れた。
他の3人も駆け寄るが、彼女は意識を失っているスレイの頭を自分の膝に乗せて頭を撫でた。
「大丈夫、彼は疲れているだけよ」
「これからどうする?」
「先に野営地へ戻るぞ、話はそれからだ」
他の3人はその名前に唖然とし、イシュメラは気まずそうに青ざめた。
「おい・・・どういう事だ?」
「それはぁ・・・その・・・」
「落ち着け、"若いの"」
問い詰めようとするハンスに、モルドレッドが「若いの」と呼んで静止する。呼ばれた彼もそうだが、スレイとベアトリスもその呼び方に驚いていた。
「カルラ、ご苦労だった」
「・・・何も」
モルドレッドがカルラを労った後、4人の方へ向いて話を切り出した。
「話をしよう。それともお前がするか、"イザベラ"?」
「私はもう"イザベラ"じゃない、"イシュメラ"よ」
名前の訂正をして溜め息を吐いた後、イシュメラは他の3人に向かい合って話を始めた。
「驚かないで聞いて欲しいんだけど・・・実は私、イシュメラじゃなくて"イザベラ・ルイズ・クーデリア"───」
彼女は本当の事を言ったものの、どういう反応をしていいのか困っていた3人からは素っ気ない反応で返された。
「ちょ、ちょっと!! もう少し驚ぐぐらいしたら!?」
「すみません・・・こういう時、どんな反応をするべきか迷ってて」
「もう・・・」
頭を抱えるイシュメラに、ハンスが質問した。
「なぁ、クーデリアって事はお前は公国の姫様なのか?」
「まぁ・・・元だけど」
「ああ、この娘は"元"公国皇女だ。だろ?」
「ええ・・・モルドレッドさんの言う通り今はもう皇女じゃないわ」
「どうしてですか?」
「話せば長くなるんだけど───」
そう言って彼女は話を始める。現在から遡って20年前───大公と王妃の間には子供が出来た。
その子の名はイザベラと名付けられ、自慢の娘として愛情を注がれていた・・・それは弟が生まれた後も疎かにされず続いていた。
弟のアデルには勉強を教え、メイド見習いとして仕えていたクレアとは友達になり、彼女は幸せに暮らしていた。
ところがある日───イザベラはある話を耳にしてしまった。
それは彼女が15歳の頃───本を抱いて自室に戻ろうと夜の廊下を歩いていると、両親の寝室から何かを話し合うような声が聞こえてきた。
「あなた・・・イザベラに本当の事を話すべきでは?」
「解っておる・・・おるのだが・・・お前の身も危険に晒されるのだぞ?」
「確かに、私が"魔女の系譜"にいた事実は永遠に残るかもしれません。しかし、イザベラやアデルは無関係です!」
「だが・・・手紙の差出人はイザベラを渡さないとお前の真実を白日に晒すと・・・」
「別にそれは・・・」
「もし魔女だと知られたら、公国内では大きな内乱が起こり得る・・・止むを得まいが従うしか・・・」
───その話を聞いてしまったイザベラは本を落としてしまう。そのまま拾って静かに立ち去るべきなのだが、彼女はその話に唖然としてしまい、その場から動けなかった。
「そこに誰がいるのか・・・?」
ラモンは物音に気付いて部屋から出ようとするが、イザベラは父親が部屋から出る寸前で我に返り、そのまま走り去った。
───無我夢中で逃げ、彼女は隠し通路から城門の向こう側へと出る。その通路は万が一、城内で襲撃者がいた時の為に作られたものだが、お忍びで城下町へ遊びに行ってたイザベラにとっては絶好の逃走手段だった。
城下町へと出ていくが、この時は真夜中───巡回中の兵士などいない。こんな時間に出歩くのは危険だった。
歩いている途中、イザベラは謎の男達に捕まり、そのまま意識を失う───そして気付いた時には荷台の中で縛られていた。
手首や足首は勿論、身体を縛られている為かまともに動く事が出来ず、声を出そうにも猿轡を口に加えられているせいで口を開こうとすると涎が出てしまうだけだった。
男達は何かを話し合っていたが、彼等は誰かの依頼で人攫いをしているのが判明した。
「───んっ、んんっ・・・」
そんな声を出してしまい、彼等は気付いた。
「お目覚めか、お姫様?」
下衆な笑みを浮かべてそう言うと、彼女は彼等を睨み付けた。
「おいおい、こっちも雇われてんだぜ? ただ───」
1人の男が彼女の身体を見て、いやらしく笑った。
「まぁ、依頼人のところに着くまでは愉しませてくれよ・・・」
そう言って彼女を押し倒す。身体中を縛られている為に脚を伸ばす事も出来ず、魔法も上手く唱える事が出来なかった彼女は涙を流しながら殺意の目を向けた。
───そんな彼女の願いが届いたのか、雷鳴と共に馬車が急停車した。
今まで雷が降る気配など無かった為、1人の男が手綱を握っていた男に状況を訊くが、彼は「地面に雷が落ちた」と言った。
意味の分からない言葉だが、男達は追っ手が来たと想定し、イザベラを馬車から降ろして彼女を人質として扱う。そんな彼等の目の前にいたのは、厚いローブを着た猫背の人物だった。
その不気味な立ち姿に、一同は魔物だと思うが、それが人間だという事はすぐに判った。
相手は1人───囲めばすぐに倒せると踏んだが、その人物が手に持っていた杖底を地面に当てると、雷鳴と共に1人の男へ落雷した。
近かったせいか、イザベラはあまりの炸裂音に思わず驚いて目を閉じそうになるが、それでも彼女は見た。
ローブの人物が地面に杖底を当てる度、落雷は男達に命中する。しかもその的確に、殺さずに。
辱めを受けそうになって、殺意を感じていた彼女とは違い、不殺の信条でもあるのか、その人物は明らかに威力を調整しているようだった。
彼等は不利だと感じ、そのまま人質を突き放して馬車で逃げて行った。
痺れて動けなくなった仲間も連れて行った為、男達の仲間意識は強いようだが、ローブの人物は地面に唾を吐いた。
一方で、縛られたままもがいているイザベラに向かって軽くサンダーの魔法を命中させて手首と胸の上下に巻かれた縄を焦がした。
拘束から解放されたイザベラは、猿轡を外して自然の空気を吸った。
「・・・ありがとう、あなたは?」
イザベラが感謝すると、その人物はフードを外して素顔を見せる。その顔は醜く老いた女性で、目が悪いのか、目つきも悪かった。
「まずはお前から名乗るのが筋だろう?」
老婆からそう言われて、棘のある言い方が頭に来るものの、彼女は助けて貰った礼として名乗った。
「───イザベラ、それが私の名前」
その名を聞いて、老婆は彼女を下から上に全体を眺めた。
「・・・みたところ、良家の出身だな。だが、その目、その髪の色・・・まるでどこかの誰かにそっくりだ」
そう言われて、イザベラは両手を腰に当てて言った。
「ふーん・・・ならあなたは何者なの?」
「・・・家で話そう、箒に乗れ」
老婆が背中から外した箒に同乗し、そのまま彼女の家へと向かった。
老婆の家はゲルゾの山にあり、山の頂上に家を構えていた。
公国が管轄している筈の山に我が物顔で家を構えている事に、イザベラは困惑していた。
「えぇ・・・この山は公国の───」
「文句があるならここから突き落とすよ」
家に着いた後、老婆はクッションが縫われている椅子に座ってから話を始めた。
「小娘、お前は何か訳があって攫われていたのだろう? 教えろ」
「私にだって分からないわ・・・身代金目当てかもしれないし───って、貴女も名乗ってよ」
「ああ、忘れてた───あたしゃ"イシュメラ"。魔女だ───それも"雷撃の魔女"」
「雷撃の魔女・・・噂は聞いてる」
「そうか、それで?」
イザベラは一通りの悪評を言うが、イシュメラはどうでも良さそうに聞いており、彼女は自分の悪評を聞き終えた後、素気なく反応した。
「ああ、そう・・・あたしにはどうでもいい話だよ」
「ああ、そう・・・」
「それより、お前の苗字は何だい? まさかそんな身なりで貴族じゃないとか言い出すんじゃないよ?」
イシュメラからそう訊かれるイザベラ。彼女は嘘をつこうとしたが、この魔女に嘘を見抜かれた時が怖い為、本当の事を言った。
「私の苗字は"クーデリア"・・・」
彼女の苗字を聞いた瞬間、イシュメラは嘘だと思うように頭を抱えた。
「・・・なら、お前の母親の名は"ヘーゲル"か?」
その問いに、イザベラが「ええ」と言うと、イシュメラは更に溜め息を吐いた。
「・・・文句あるの?」
「そりゃあ・・・"あたしの娘"だからねぇ」
その答えにイザベラは声を出して驚く。彼女は自分の母親からそんな事実を聞いてないからだ。
「どうした? 自分の母親が魔女の系譜で、がっかりしたか?」
「いえ・・・そもそも貴女が母さんの親だなんて知らなかった」
「・・・ヘーゲルは魔女になる事を拒んで家から出た。そして今は大公の妃になったとは・・・あの親不孝者」
その後、イシュメラはぐちぐちと自分の娘の悪口を言い始め、イザベラはカッとなってしまった。
「───やめて」
「なんだって───」
「母さんの事を悪く言うな!!」
激昂したイザベラは両手から電流を編み出して、サンダーをイシュメラに撃とうとする。しかし、彼女は全く動じなかった。
「・・・お前、いつその魔法を会得した?」
「・・・何でそれを」
「いいから言え」
「・・・7歳の時」
そう聞いたイシュメラが頷いた後、笑みを浮かべてこう言った。
「本当にヘーゲルは勿体無い奴だ───」
「えっ・・・?」
「良いだろう、お前に選択肢をやろう。魔女になるならここに残れ。だが、魔女になりたくないならさっさと此処から立ち去れ」
選択肢を与えられたが、イザベラの答えは決まっていた。
「───魔女になる」
「ふっ・・・そうと決まれば今から始めるぞ、覚悟はいいな?」
こうしてイザベラは"雷撃の魔女"になる為の訓練を始め───そして現在。
「───これからはどっち呼びにすれば良いんですか?」
「好きな方でいいけど、イシュメラでいいわ。これが今の私だから───ところで、レッドさん、今度は貴方が話す番よ」
イシュメラがモルドレッドにそう言い、彼は真相を話し始めた。
「───クーデリア公国とアストリア王国の関係が悪化しているのは、"邪竜教団"の仕業だ」
その言葉にカルラ以外の聞いていた一同は驚きを示すが、スレイはすぐに根拠を訊いた。
「何故それを・・・」
「小僧、お前は確か、ガルア王国に向かう途中の森で自国の王女を探していたな? その時にクーデリア公国の兵士に襲撃されなかったか?」
「ええ・・・確か2回ほど」
「なら、そいつらは"有無を言わずに"襲って来なかったか?」
彼の言葉で、スレイはある事に気付く。確かにガレストル率いる騎士団と会った時は普通に会話や相手側も言葉を出していたのに、最初に遭遇した兵士達は無言で襲って来ていた。
同じ人だとは思えない程の雰囲気に、異様なまでの殺気───それはスレイも感じ取っており、あの頃を振り返るのは彼にとって酷だった。
「・・・あれはまるで───同じ人と思えなかった」
「・・・無理もない、奴等は自分達が信仰する奴さえ復活するなら自分の命など簡単に投げ出す連中だ」
「という事は・・・道中での死体は貴方が?」
「そうなるな。王女の護衛には紛れてなかったようだが・・・奴等、見事に公国の兵に紛れてやがる」
「あれ・・・という事はリデア王女がテントにいたのは・・・」
「ああ、俺が運んだ。お前達がこっちに近付いてくれたおかげで俺はあそこから離れることが出来た」
モルドレッドからそう聞き、スレイはリデアがあの時言っていた大柄な男性と彼は一致していた。
スレイが彼に感謝すると、ハンスがある疑問を提示した。
「・・・そこまで価値のあるやつなのか? 奴等が必死になって復活させようとしている奴は?」
「ああ。邪竜は一度この世界を征服した事もあるようで、他者を惹きつける程の力も兼ね備えているのだろう」
「でも、邪竜は英雄イルスとイリ───黄金色の竜によって滅ぼされたって話だけど」
「それは本当のようだが・・・奴等はどうしても邪竜を復活させたいようだ」
「それと両国の対立に何の関係がある?」
ハンスがモルドレッドに訊こうとした瞬間、ベアトリスが呟くように言った。
「───混沌の世界」
「ベアトリスちゃん、今なんて?」
「───えっ? どうかしましたか?」
まるで別人が乗り移っていたのか、無意識の内に言葉を発したベアトリスに対し、一同は彼女を奇妙に感じた。
まだある程度の事情を知っているスレイたち3人はともかく、モルドレッドとカルラはベアトリスの事情など全く知らなかった。
「おい、そこの娘。今何と言ったか、覚えてないのか?」
「えっ・・・はい・・・」
怪訝そうにするカルラをハンスは警戒するものの、モルドレッドは彼を宥めた。
「安心しろ、カルラは簡単に人を斬るような人間じゃないさ」
「その根拠は何処から?」
「一緒に旅してたからな」
「でも、私から見ても気難しそうに見えるんだけど・・・」
イシュメラからそう言われて、モルドレッドは溜め息を吐きながらカルラに止めるよう言う。彼女は指示に従ったものの、3人が隠している情報を求め、イシュメラは仕方なく話した。
「───ベアトリスちゃんは黄金色の竜が転生した姿"らしい"・・・のよ」
「"らしい"とは何だ?」
「私にだって解らないわよ・・・ベアトリスちゃんはスレイ君と一緒で天星人だし、天星人って別の世界からこっちの世界に降りて来た筈なのに、転生だと、まるで死んだみたいな感じになるし・・・」
「"情報通り"か・・・」
「何処が"情報通り"なの?」
「いや、こっちの話だ」
「勿体ぶらず教えてよ・・・こっちの事だって話したじゃない」
「話がややこしくなるぞ?」
「・・・やっぱやめとく。これ以上ややこしくなったら埒が明かなそうだし、また今度ね」
「そうか。まぁ話を戻すが、邪竜教団は同じ志を持つ魔王軍に資金提供しながら暗躍している。邪竜復活の為にな」
「それで行く先々で魔王軍が・・・」
「そんなに魔王軍と出会してるのか。奴等を尋問しなかったのか?」
「ええ・・・だって、大抵は喋れない奴よ。喋れる奴なんてすぐ逃げちゃう」
「まぁ、敵さんも隠し通したいだろうな。魔王軍とはいえ、奴らの規模はオルテナ大陸にある三国より遥かに小さい。もし国同士で脅威を認められたらすぐに壊滅するさ」
「そんなに小規模なのか?」
「ああ、噂によるとな。だが、"両国が争っている間"はこちらが不利だ。何にせよ、戦争を終わらせないと───」
「あっ・・・」
まるで現在進行で戦争が始まっているかのような物言いに、イシュメラは気まずそうな声を出し、ハンスとベアトリスも表情を固め、スレイは表情を曇らせて俯いた。
「・・・小僧、すまなかった」
「いや・・・良いんです。知らなかったので・・・」
事情を知らなかったとは言え、この話は今の彼にとって爆弾のようなもので、砂漠にいた時はなんとか爆発せずに済んだが、次もそうなるとは限らなかった。
神殿での惨劇を知っている者にとっては、あの鎧は諸刃の剣───モルドレッドとカルラが熟練の実力者だとしても、あの獣を止めるのは難しいとハンスやイシュメラは考えていた。
暗い表情で俯くスレイをカルラはじっと見つめ、彼女は彼に付いて来るよう言った。
「付いて来い」
「えっ? あっ、はい・・・」
「カルラ、小僧を連れて何処に行くつもりだ?」
「散歩だ」
「馬鹿言え・・・」
「なぁ、何で止めない?」
「もしかしてお前、カルラがスレイを斬るって思ってないか?」
「お前等の事はまだ信用出来ない」
「それはお互い様だろう?」
「ちょっと・・・2人とも喧嘩はやめてよ」
「私見てきますか?」
「嬢ちゃん1人では危ないから、行かない方が良い」
ベアトリスはモルドレッドにそう言われて、心配されている事への嬉しさと自分の身すら守れないような未熟さを指摘されているようで複雑な心境だった。
一方でスレイはカルラと共に近くの川の方まで来ていた。
綺麗に澄んだ水は日の光を反射し、緩やかな川の流れは見る者を落ち着かせる───カルラは刀を抜く気は無いようで、彼女はスレイに言った。
「戦争の話題が上がった時、お前の姿が一瞬だけ変化するのを見た。その時微かに血の匂いも感じた───私が見る限り、お前がそれに変化するのは本意じゃ無いと感じる」
その指摘通り、彼は頷いた。
「はい・・・貴女の言う通り、鎧は自分が認識しない内に装着されてしまう。全体とまではいかなくても、一部分だけの時もあった」
「それに心当たりは?」
「分かりません・・・ただ、不安や恐怖が気持ちにあると鎧が装着されていく気がして・・・」
それを聞いて、彼女は腕を組んだ。
「・・・それは精神の弱さから来るのかもしれない」
「はい・・・そうかもしれません」
「しかし、精神の弱さは鍛錬をすれば強くなるでも、理不尽を乗り越えるでもない。お前の中には、"同じ過ちを繰り返したくない"という思いがあるのではないか?」
そう言われた彼は、心当たりがあるように目を丸くしたが、その後すぐに表情を暗くして俯いた。
「でも、一体どうすれば・・・」
「此処を思い出せ」
彼女の言葉に対し、彼は理解できずに首を傾げると、彼女はその意味を説いた。
「この川の流れは何だと思う?」
「何だと言われても・・・」
「激しい流れか、緩い流れか、どんな音で流れているか」
「どうしてそんな事を・・・」
「・・・訊き方を変えよう。この場所に来て落ち着くか?」
彼女からそう問われ、彼は得心した。
川の穏やかな流れは傷付いた心を癒し、その音は殺伐とした心を清らかにする。耳を澄ませて感じ取る事で、彼女の言葉を何故か理解できた。
「確かに落ち着きます・・・でも、この川と何の関係が・・・」
「───もし、お前が自分自身を制御出来なくて不安があるのなら、この音を思い出せ。だが、確実にそうなるとは限らん。全てはお前と、お前の鎧次第だ」
「ありがとうございます・・・」
「勘違いするな、それはあくまで気休め・・・もし同行する中でお前が牙を剥く事になれば、私がお前を斬る」
無機質に放たれたその言葉を聞くと冷淡さを感じるが、スレイはそれでも構わないと頷いた。
その後、2人は野営地に戻っていく。そんな中、カルラはある事をスレイに話した。
「スレイ、お前はこの世界に降り立ってから"ザンガ"と言う侍を見なかったか?」
彼女が言った名前に心当たりがあるスレイは足を止めた。
「何故、ザンガさんを・・・?」
「奴とは色々あってな・・・そもそも私やモルドレッドは"天星人じゃない"」
「それは───どういうことですか?」
「───この世界に降り立つ者は2種類に分けられる。一つがお前やあの娘のように転生してこの世界に降り立つ者。そしてもう一方は"地上に召喚される者"だ」
「天と地・・・何か意味があるのでしょうか?」
「───それは分からない。私達をこの世界に赴かせた"女神"は本当の事を言わないからな」
彼女は袖を捲ってある物を見せる。それは、精密機器のような物で、表面は時計やつまみ、押しボタン式のスイッチなどが付いていた。
「それは一体・・・」
「これは"時空転移装置"と呼ぶ物らしい」
「らしい?」
「私にもよく分からん───"時空旅行者"という者達が使っていた物らしいが、詳しい事は聞いてない。これが無いとエヴォルドに干渉できないようだが・・・モルドレッドの奴は持ってなかったな。全く、何処に無くしたんだか───」
その話を聞いて、スレイは気難しそうな表情をした。
「ああ、すまんな。だが、隠し事はお互い無しにしたほうが良かろう?」
「まぁ、確かに・・・」
そんな話をしながら2人は野営地に戻り、他の仲間と合流する。戻る事には夕暮れだった。
「話は済んだのか?」
「ああ」
「なら、祝杯といこうか」
「えっ?」
「お前達に会えた事を祝ってな」
そして夜が更けて、6人は焚き火を囲んで食事をする。4人が来る前から魚や肉、キノコなどの食材は揃えていたようだ。
「若造ども、酒はいらんか?」
「駄目よ、まだ子供なんだから」
イシュメラにそう言われ、モルドレッドは残りの2人へと目を向けるが、2人は無言で断った。
モルドレッドはスレイを隣に座らせ、彼は酒瓶を持って話をした。
「───スレイ、お前には家族がいたか?」
「えっ?」
「勘違いしないで欲しいが、馬鹿にしてる訳じゃ無いんだ」
「あっ、大丈夫です───"前世"での自分には、妹ならいました」
「妹? 両親は?」
無言になるスレイに対し、何かを察した彼は親の話をやめた。
「すまんな・・・妹はいたのか」
「はい。モルドレッドさんには?」
「俺か? 俺には居なかったからな・・・」
「すみません・・・」
「謝る事ないさ」
彼は酔いが回っているのか、自分の事について語った。
「俺は、ある王に仕えていた。そいつは父でもあった。だが、俺は叛逆を起こして・・・討たれた」
その話を聞いたスレイは気まずさを感じていたが、何故叛逆を起こしたのか気になった。
「何故叛逆を?」
「馬鹿な話なんだけどな、それは───」
「あのさぁ、このおさけぇ、どこからもってきたのぉ?」
へべれけに酔ったイシュメラがモルドレッドに絡む。あまりの酔いっぷりにハンスは帽子を押さえて呆れた。
「おいおい・・・もう酔っちまったのか?」
モルドレッドからそう言われて、彼女は無邪気に笑う。顔は赤いが、呂律は何を言ってるのか聞き取れる程度には回っていた。
「秘密だ」
「またまたぁ・・・かくしてもむだぁだってぇ」
酷く絡むイシュメラを見て、スレイがモルドレッドに耳打ちした。
「イシュメラさんって、酔うと人が変わるんですね・・・」
「俺も驚いてる。俺が見ていた頃は子供ん時だったからかもな」
2人が酔っ払いについて話していると、ベアトリスがスレイの袖を摘んで反応させた。
それに反応した彼が彼女の方を向くと、フードを被って俯いており、小さな声で言った。
「・・・お花を摘みに行くので、一緒に来てもらえますか」
その言葉に彼は戸惑いを見せるものの、彼女を1人に出来ない為、付いて行くことにした。
「おい、こんな夜更けに危ないぞ」
「何かあったら信号弾を撃つので───」
スレイはそう言いながらも、ベアトリスから引っ張られて行った。
「あの娘、なんか妙だな」
「まぁ、いざとなれば坊主が助けを呼ぶだろ」
そんな中、スレイはベアトリスに引っ張られて、森の中を進んでいた。
彼は彼女に川の場所まで指示を出し、そんな彼女は振り向く事無く川まで辿り着いた。
ようやく解放された彼は、突然の出来事に頭が追いついておらず、彼女を心配した。
「ベアトリス、急にどうしたんだ?」
「スレイさん・・・嘘をついてごめんなさい」
「えっ?」
「本当はお花を摘みに来たのでは無く、私は───」
ベアトリスがフードを外し、素顔を見せる。その顔は彼女そのものだったが、瞳は紅く、両頬には黄色い鱗が模様の様に表れていた。
その素顔に唖然とするが、彼女は改めて名を名乗った。
「改めて自己紹介を。私は"イリステア・ファイ・リューン"───"イルス"、逢えて良かった・・・」
「待ってくれ、俺は"イルス"じゃない」
スレイは否定するものの、ベアトリスは首を横に振って更に否定した。
「いいえ、確かに貴方は邪竜と戦った英雄、"イルス・アルフォード"なのです」
「何でそんな確証が・・・」
「───それは私が貴方を呼んだからです」
そう言われて彼は驚愕するものの、まだ信じられない様子を見せていた。
「なら、信じてもらえそうな話を。私は、貴方のいる前世に行きました。そして貴方を見ていました───姿は違えど、魂はあの時の貴方でした」
「という事はあの時、妹に絵を描いたのは・・・」
「はい、私です。お望み通りに描けるかは不安でしたが・・・」
「俺の前でも喜んでたから安心してくれ」
「ほ、本当ですか!?」
嬉しそうにする彼女だが、笑みを浮かべながらも悲しげな目を誤魔化せていない彼に気付いて申し訳なそうに表情を暗くした。
「す、すみません・・・」
「えっ?」
「いえ、悲しい目をしていたので・・・」
そう言われて彼は納得したように笑顔を消した。
気まずい雰囲気となり、彼は話題を変えるように話をした。
「君は別世界を行き来できるのか?」
「いえ・・・"ある方"のお力を借りてですが」
「ある方?」
「"竜剣王"、憶えてませんか?」
その名を思い出そうとするものの、彼は思い出せず謝った。
「いえ・・・私も一方的に話し過ぎました・・・」
真実を聞かされたものの、実感が持てないまま無言の時間が始まった。
お互いが何処まで知っているのか、憶えているのか把握しきれていない状況の中、2人はそれぞれ何を言うべきか悩んでいた。
そしてお互いに口を開こうとしたその瞬間───ある者が邪魔をした。
スレイは何かに吹き飛ばされ、ベアトリスは彼の名を叫ぶが、その者は彼女の腹部を強く殴って失神させた。
彼はすぐに体勢を立て直して拳銃を構える。銃口の先にいたのは、怪人/スケアクロウ───トハの村で2人を襲い、ハンスと戦った魔物だ。
「お前はあの時の・・・!?」
「コノ娘ハ貰ウ」
「待て───!」
怪人は彼女を肩に抱えると、大きく飛び上がって暗闇に消えていく。スレイは発砲したかったものの、誤射を恐れて撃てなかった。
スレイは唇を噛み締めて悔しそうにするが、助けを呼ぶ事を優先して信号銃を夜空に向けて撃った。
そして空に放たれた閃光に気付いた4人がスレイの所へ辿り着き、イシュメラが彼に声を掛けた。
「大丈夫?」
「ベアトリスが・・・攫われた・・・」
それを聞いた4人が、それぞれ反応を示すが、ハンスは冷静に訊いた。
「誰に攫われた?」
「あの案山子みたいな怪人・・・トハの村で俺達に襲ってきた」
「チッ・・・あの時殺しとけば・・・」
「貴方達は知ってるのね?」
「ああ、どっかの指示で動いてるとは思ったが・・・」
「早く探すぞ。その娘、今救えないと敵の拠点で死ぬ事になる」
「決まりだな。だが、どうやって探す?」
「私に任せて」
イシュメラは目を閉じて少し沈黙した後、再び目を開いて他の4人に言った。
「場所は特定した。行くよ」
5人は森の中を歩く。どうやらスケアクロウは地面を歩いているわけではなく、木から木へと飛び乗って浮遊しているようだった。
「イシュメラさん、どうやって奴を・・・?」
「"ソナー"の魔法を使ったのよ。これで攫った奴の位置は"ある程度"分かる」
「確定じゃないのか?」
「ええ、だから行くしかないわ。私に付いて来て」
しかし、スレイは疑問に思う。先程までイシュメラとモルドレッドはお酒を呑んでいた筈・・・なのに、もう酔いから醒めていた。
「そういえばイシュメラさん、それにモルドレッドさんもお酒呑んでいた筈なのに、どうして酔いから醒めているんですか?」
「酔い醒めのポーションがあるからな」
モルドレッドの用意周到さには感心するものの、怪人を追う事が最優先である為、5人は先を急いだ。
森の中を奔走する事数刻置き───森から出たスレイ達は、目の前にある大きな岩の前に辿り着く。その上には2人いて、スケアクロウとローブを着た怪しげな人物だった。
「ベアトリスを離せ!」
「案山子野郎、今度こそ容赦しねぇぞ」
案山子の怪人と因縁がある2人がそう言うと、岩の上にいる2人は可笑しく高笑いした。
「何がおかしい!?」
「我々が考え無しにここにいると思うか?」
ローブの人物がそう言うと、カルラは抜刀体勢で周りを見た。
「どうしたの?」
「腐った肉の匂いがする・・・」
スレイは足を誰かに掴まれ、そこを見ると、地面から腕が突き出していた。
驚いて発砲したものの、命中したおかげで足から手が放されるが、仕留められた訳ではなく、"それ"は何体も地面から出てきた。
それの正体はアンデッド───所謂ゾンビやスケルトンの事で、ローブの人物がそれらを操るネクロマンサーだとイシュメラは推測した。
「どうです、私の死者を操る術は? 不死の相手には手も足も出まい」
高笑いするネクロマンサーをよそに、スレイは襲ってくるゾンビの頭に一発撃つ。しかし、命中してもよろけるだけで、再び体勢を戻して襲ってきた。
「頭に撃っても無駄よ。コイツらは死霊に取り憑かれただけの抜け殻───完全に倒すなら本体を叩くか、殻を使えなくするしか・・・」
イシュメラが戦っている途中、何かを思い出したように声を上げて、他の人を驚かせた。
「いきなり声を上げるな!!」
「あっ、ごめん・・・でも、私に付いて来て!!」
彼女が他の人にそう言い、4人は理由も分からず死者からの追撃を振り切って付いて行った。
「次は?」
「私が離れるよう合図をするからこの木にできるだけ敵を引き付けて」
理由を訊きたかったものの、今は目の前の敵に集中しないといけない事から、5人は木の方へと生ける屍達を誘導していった。
そして十分に引き付けた後、彼女からの合図で、スレイ達は木から離れていく。そして十分に離れるとイシュメラはハイサンダーを屍が群がっている木に落雷させ、その木は周りのものと一緒に大きく燃え上がった。
燃え上がり、屍は使い物にならなくなってしまう。ネクロマンサーは歯軋りをして憎たらしく思っていた。
「イシュメラさん、どういう事ですか?」
「雷が鳴ってる時、木には近付くな───子供の頃に聞いた話よ」
その話に対してスレイは納得するものの、ハンスは納得いかなそうな表情を浮かべた。
「・・・何その表情」
「別に・・・」
「まぁ、とにかくだ。手駒は全て無くせたし良かったな。お前の異名も伊達じゃ無いって事が分かった」
「当然よ。伊達に雷撃の魔女を名乗る程、馬鹿じゃないわ」
誇らしげに言うものの、その最後に小さい声で「ありがとう」と言う辺り、彼女も嬉しかったようだ。
「おのれ・・・よくも私の───」
ネクロマンサーが何かを言いかけようとするが、スケアクロウに顔を掴まれた。
「貴様ハ此処デ奴等ヘノ時間稼ギトナッテ貰ウ」
スケアクロウの掌からは緑色のガスが噴き出て、そのガスはネクロマンサーの口から全体に行き渡った。
そして案山子の怪人は仲間を岩の上から落とした後、ベアトリスを抱えて緑色の煙と共に消えていった。
「待て!!」
「待て、様子がおかしい」
カルラがスレイの片腕を掴んで止める。5人の目先には先程落とされたネクロマンサーが起き上がり、その者の目や口、鼻からは緑色の光が差した後、身体が膨れ上がって爆発した。
風船のように破裂し、5人は緑色のガスに覆われた。
ガスはすぐに薄れ、4人は咳き込みながらもお互いの生存を確認した。
しかし、ガスが薄れていくにつれ、目の前に姿を現したのは、鎧甲に身を包んだスレイだった。
「スレイ君・・・?」
イシュメラが心配そうに近寄るが、ハンスが彼女に叫んだ。
「今のスレイに近付くな!!」
「えっ?」
鎧を身に纏ったスレイは獲物を見つけた肉食動物のように彼女へ襲い掛かるが───モルドレッドが剣で防いで阻止した。
しかし、刃を掴んでいるスレイの力は凄まじいもので、モルドレッドが力負けしかける程であった。
「〔何だこいつ・・・ビクともしないどころか俺の方が押されている・・・!?〕」
「モルドレッドさん、その子は───」
「狂暴になったスレイは厄介だな・・・」
しかし、そんな劣勢の中、モルドレッドは不敵に笑みを浮かべた。
「〔だが、面白れぇ・・・少しぐらい楽しませろよ、坊主!!〕」
彼はスレイの腹部を蹴って力を緩ませた後、そのまま剣を横に振って距離を離した。
剣を構えるモルドレッドと、荒々しい息遣いをしながら体勢を立て直すスレイ。彼は鞘から剣を引き抜いて再び向かって来た。
モルドレッドはそれを迎え撃ち、2人は激しい剣戟を繰り広げる。鬼神の如く攻戦するスレイと、その攻撃を見極めているかのように防戦に徹するモルドレッド。彼はその中でも反撃できるチャンスを窺っていた。
そして鍔迫り合いが始まり、両者一歩も引かずに足を踏ん張らせた。
そして、その押し合いはモルドレッドが勝ち、彼は突き飛ばした後、スレイの顎をアッパーで殴り上げた。
しかし、洗血の鎧甲を身に纏っているスレイにはあまり効いていないのか、彼は上半身を後ろへ仰け反らせた後、すぐにモルドレッドの方へと向き合った。
そしてモルドレッドが剣を縦に振り下ろすものの、スレイはその剣を左右の手甲で防ぎ、そして彼の剣を吹き飛ばした。
手甲の刃に挟まっていたものの、剣の刃は折れずそのまま宙を待って地面に刺さる。モルドレッドは油断したと悔いるものの、後悔してももう遅い───スレイは自分の剣を拾って振ろうとしていた。
剣の届く範囲から離れようにも遅く、斬られる事を覚悟して両腕で顔を塞ぐが───振ろうとしていた剣はカルラの刀に防がれた。
「まだ終わりじゃ無いぞ、叛逆の騎士。早く自分の剣を取って来い」
「おう、助かる!!」
モルドレッドが剣を取りに行き、今度はカルラがスレイの前に立って鍔迫り合いをする。
「スレイ、思い出せ・・・! お前はまだそこにいるのだろ?」
カルラがそう問いかけると、スレイは手を緩めて鍔迫り合いを止める。彼女も落ち着いたと思って構えを解くが───再び主導権が変わったのか、カルラは首を掴まれた。
「ぐっ・・・」
彼女の足は地面から離れ、首を絞める力は増していく。お互い目を合わせていると、突然スレイが身体を震わせて、彼女を手から離した。
「立てるか?」
「ああ・・・」
2人の前では頭を抱えて苦しみ悶えるスレイがおり、そんな彼を見ても2人は剣や刀を構えた。
「行けるか?」
「ああ、いつでも」
準備万端な剣士達に反して、スレイはそのまま地面に手を付けて鎧甲から本来の姿を現した。
「・・・俺は、一体・・・」
身に覚えが無かったが、周りの光景を見て一瞬で状況を理解し、悔やむように唸った。
そんな彼を見て、2人は剣を収めて警戒を解き、先程の戦闘を一瞬の出来事として呆然としていたハンスとイシュメラは我に返った。
「───スレイ君!」
イシュメラはスレイの元に駆け寄り、心配そうに声を掛けるが、そのまま地面に倒れた。
他の3人も駆け寄るが、彼女は意識を失っているスレイの頭を自分の膝に乗せて頭を撫でた。
「大丈夫、彼は疲れているだけよ」
「これからどうする?」
「先に野営地へ戻るぞ、話はそれからだ」
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