The Outsider

橘樹太郎

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第2章:邪竜と黄金色の竜

第16話:戦士達への鎮魂歌

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 4人は疲弊して意識を失ったスレイを連れて野営地へと戻る。彼の事は、ハンスが背負って連れて行った。



 朦朧とした意識の中、スレイは霧の中で目を覚ます。その霧は黄昏のように明るく、暖かさを感じていた。

 彼が立ち上がると、目の前にはマントを付け、兜を被った謎の人物がいた。

「───もどって来たか、アルフォードの勇士よ」

「俺は、一体・・・貴方は?」

「───我が名は"ヴァルムート"・・・又の名を"竜剣王"」

 竜剣王という異名を聞き、スレイはベアトリスの言っていた事を思い出す。しかし、彼にはこの人物が何者かまでは思い出す事が出来なかった。

「俺は、かつて貴方と面識があったとベアトリスから聞いてます」

「イリスと会えたようだな。しかし、その言い方では我を憶えていないという事か」

「すみません・・・」

「無理もないだろう。お前は一度死んだ身・・・そして生まれ変わった別の世界で死に、この世界へ再び戻って来た。それが"仕組まれたもの"だとは、あの娘イリスも気付けなかっただろう」

「どういう事ですか・・・? ベアトリス───いや、イリスが俺をこの世界へ・・・」

「それはそうかもしれない。だが、"お前を殺したのは彼女ではない"」

「それではまるで・・・!」

 スレイは自分がベアトリスを疑っているような言われ方をされて、驚きと怒りを見せるが、それでも彼は動じずに答えた。

「勘違いするな───お前を殺したのは、"王の手先"だ。あの娘はお前の魂を見失わないよう、エヴォルド元の世界へ戻したまでの事・・・しかし、もう奴等の"尖兵としての因子"は備わっているようだな」

「因子・・・?」

「気を付ける事だな。おまえの運命は、もう───」

 竜剣王を言葉が最後まで聞き取ろうとしたが、目の前が眩い光に包まれた後、暗転した。



 その後───スレイはテントの中で目を覚ました。

「ここは・・・」

「目覚めたのね」

 隣にはイシュメラが座っており、彼女は彼が目覚めるまで見守っていたようだ。

「安心して、此処はテントの中だから」

 それを聞いた彼は安心するが、ベアトリスの事が気がかりとなり訊く。しかし彼女は申し訳なさそうな表情で首を横に振り、彼は落ち込んだ。

「ごめんなさい・・・」

「いえ、良いんです。自分の責任ですから・・・」

「でも、必ず見つけるから」

「ありがとうございます・・・」

 2人がベアトリス救出を誓い合っていると、モルドレッドが顔を出した。

「おい、スレイは大丈夫か?」

「はい、ここまで運んで頂きありがとうございます」

「ここまで運んだのは帽子のアイツだ」

「えっ?」

「今後について話し合う、お前達も来い」

「はーい。行くよ、スレイ君」

 そしてスレイとイシュメラもテントから出て、5人は焚き火跡を中心に座った。

 モルドレッドが今までの状況をまとめるように話を始める。オルテナ大陸征服を狙う魔王軍、影で暗躍する邪竜教団、それぞれの冤罪から始まった王国と公国の戦争、そして連れ去られたベアトリス・・・彼女が魔王軍に囚われているのは明確で、問題は魔王軍の拠点が何処にあるかだった。

「この森を抜けた先にカイゼル町がある。そこから情報を収集しよう」

 5人はカイゼル町へと向かい、ある家を訪ねる。そこはガレストルとエイミーの住む家で、スレイ達は扉を叩いた。

「あっ、今開けまーす・・・って、スレイ君達じゃない? それにモルドレッドさんも・・・あれ? ベアトリスちゃんはどうしたの?」

「・・・それは───」

 スレイが表情を曇らせて本当の事を話そうとした瞬間、彼の両肩に触ってイシュメラが顔を出した。

「あぁ、ベアトリスちゃんなら用事あって先に帰ったわ」

「そう? 残念だわ・・・せめてまた会いたかったけど・・・」

「〔イシュメラさんどうして・・・〕」

 横から顔を出しているイシュメラに対してスレイは目を合わせてそう思うが、その視線に察した彼女は人差し指を唇に当てて秘密にするようジェスチャーした。

「久しぶりだな、エイミー。ガレストルアイツは?」

「ああ、兄さんなら・・・」


 時を同じくして、ガレストルはクーデリア城を訪れており、彼はギルバート侯爵と面会していた。

「ギルバート侯爵、私に何か御用でしょうか?」

「そこまで畏まらなくて良い、話があるんだ。掛けてくれ」

 ガレストルは言われた通りに椅子へ座ると、同じくギルバートも彼の向かい側にある椅子に座った。

「"騎士サー"ガレストル、ここに呼んだのは他でも無い、ヘーゲル様だ」

「もう騎士ではありませんが・・・ヘーゲル様が?」

「彼女の代理として私が話すのだが・・・ガレストル、其方に騎士の爵位を再び叙爵しよう」

 そう言われたガレストルは驚いた表情をするものの、何か思う事があるような表情になった。

「・・・すまない。剥奪した爵位を再び返すなんて都合が良過ぎるよな・・・」

「いいえ、違います」

「というと?」

「私は、祖国から授けられた任務を全う出来ず、そして自分の指揮する騎士団を危険に晒しました───騎士としても人間としても失格です」

「だから、自分には爵位を返してもらう資格が無いと?」

「そうです」

 それを聞いたギルバートは溜め息をいた後、話を始めた。

「ガレストル、君は確かに失敗したかもしれない、それに犠牲も出した。しかし、それで君の人間性が決まった訳ではない」

「しかし、私は部下を犠牲に───」

「君は、自分を買い被り過ぎではないか?」

 その言葉を聞いたガレストルは少し驚いたようにギルバートの方を向いた。

「・・・確かに個々の命は大切だ。君が思い悩む気持ちも解る。だからと言って、君がどれほど優秀な騎士であろうが、一度でも失敗はする・・・それは有り得ない事か?」

「しかし、あの失敗は・・・」

「確かにあれは大きな失敗だったかもしれない。しかし、その失敗から経験した事を今後どう活かしていくか・・・そこじゃないか?」

「確かに・・・」

「確かに私は非情な人間かもしれないがな・・・だが君は、私たちの様な"現場へ行かない貴族"や"ディガン騎士団"とは違う───そこは無くさなくていい」

 しかし、ガレストルはまだ悩む様な表情を見せ、ギルバートは最後にこう言った。

「君がどうしても戻る気になれないのならそれでも良い。私の方から伝えておく───」

「いいえ、大丈夫です」

 ガレストルの答えは決まった。
 
「───私の命はクーデリアと共にあり、命とあらばそれに殉ずるのが我が使命・・・」

 その言葉にギルバートは笑みを浮かべ、騎士として戻った彼に同行するよう指示した。


「そんな事が・・・」

 エイミーから話を聞いたスレイ達は、それぞれ反応を示していた。

「でも、何で城へ?」

「詳しい事は分からないけど、ギルバートさんから召集の手紙が来てね」

 ガレストルが召集された事もだが、ギルバートの事を知らないスレイにとっては不思議そうな表情かおをしており、エイミーはそれに気付いた。

「あぁ、ギルバートさんは兄さんの上司に当たる貴族の人でね。どうして兄さんが呼ばれる事になったか分からないけど・・・」


 彼女から話を聞いたスレイ一行は、最寄りのトラベルサークルでイシュメラの家に転移し、そこで話し合う事にした。

 それから転移後、スレイはある事を思い出す。それはトハの村にあった屋敷での置き手紙の事で、色々な事があったせいか忘れていた。

「あ、あの・・・モルドレッドさん、カルラさん」

「どうした?」

「今更ながら思い出したのですが、トハの村にある屋敷の置き手紙───あれはどちらかが書いたものですか?」

 カルラは自分が書いたと頷くが、スレイは何処から入ったのか訊く。すると、彼女は屋根裏からと答えた。

「屋根裏から?」

「ああ、入り口どころか窓も全て閉まっていた。まぁ、屋根裏を除けばだが」

「屋根裏・・・自分達が探索した時には屋根裏は見てないですからね・・・でも、なんで屋根裏から?」

 スレイの問いに、ハンスが口を開いた。

「恐らく緊急用の出入り口だったんだろう。災害か火事かで上に逃げる羽目になった時の」

「へぇ、やけに詳しいじゃない?」

 イシュメラからそう言われるものの、ハンスは無視するように返答をせず、彼女は肩をすくめて呆れた。

「という事は・・・俺とベアトリスがあの屋敷に来るのを知っていたんですか?」

「ああ・・・"一応"だが」

「一応?」

 疑問に思うスレイに対し、カルラは答えに困っているような表情かおを浮かべたが、モルドレッドが彼女を擁護するように割って入った。

「実はな、カルラコイツにも"思い出せない"ようでな」

「思い出せない? どういう事?」

「イザベラ・・・お前は無意識の内に行動する事はあるか?」

「それは・・・私にもあるけど・・・どうして?」

「俺達が困っている理由ワケはそれさ。その紙を書いたのは事実だ。しかし、どうしてそこへと行き着いたのか・・・それが分からないんだ」

「うーん・・・理解出来ないわね」

 イシュメラのその一言に対し、スレイやハンスも何か思うところがあるものの、その違和感を上手く表現出来ずにいた。


 そこから少し経った後───スレイは外の空気を吸って気持ちを落ち着かせようとしていた。

 魔王軍、邪竜教団、戦争、そしてベアトリス・・・考える事は山積みだった。


 そんな中、スレイは狼煙が上がるのを目撃する。それは"赤色"の狼煙で、彼にはその意味が解っていた。

「〔あれは緊急の・・・!〕」

 スレイは助けに行こうと建物へ戻って装備を整えた。

「ねぇ、どうしたの?」

 イシュメラからそう訊かれたスレイは、さっき見た事を説明するが、そこにハンスも入ってきた。

「なぁ、それ罠って可能性もないか?」

 確かにハンスの言う通り、誰かが信号銃で誘き寄せている可能性も否定できない・・・しかし、スレイはそうであっても助けないといけない焦りに駆られていた。

 そんなスレイを見て、今まで行動を共にしていた2人は悩むが、モルドレッドがある事を言った。

「良いんじゃないか?」

 その言葉に3人は彼の方を向いた。

「モルドレッドさん、あまり軽く言うものじゃ・・・」

「その代わり、何があっても後悔はするなよ?」

 彼は不敵な笑みを浮かべながらそう言い、スレイは笑顔で返事をした。

「よし、そうと決まればイシュメラ、お前送ってやれ」

「えぇ!? 私が?」

「何だ、嫌なのか? 俺達3人は空を飛ぶ事が出来ないし、箒を操作する事も出来ないからな」

 そう言われ、イシュメラは悩むが、じっとしていられず焦るスレイを見て、彼女は溜め息をきながらも、それに了承した。


 そして、スレイはイシュメラの後ろに乗って、彼女と共に狼煙の場所へと向かった。


 狼煙の上がった場所に到着すると、そこには1人の騎士が負傷した状態で木にもたれかかっており、箒から降りたスレイとイシュメラはその騎士に駆け寄った。

「だっ、誰だ・・・」

「落ち着いてください、自分は銃士隊の者です」

 しかし、そう言われても今のスレイは冒険者の服装をしており、負傷した騎士は信じられなかった。

「銃士隊・・・? 嘘だ、服を着ていないじゃないか・・・」

「確かに今は諸事情あってこの格好ですが、信じてください」

 騎士は少し考えるように顔を顰めるが、一先ずは2人をを信じる事にした。

「・・・分かった、信じよう」

 その騎士がそう言うと、イシュメラからエイドを唱えられて傷を治癒してもらう。そして、痛みが落ち着いた彼は感謝した後、話を始めた。

「───私は"ヴァーガス騎士団"所属の騎士だ」

 ヴァーガス騎士団───それは、レーヴァが所属している騎士団ところで、スレイはすぐに反応した。

「その騎士団に、レーヴァさんはいますか?」

「ああ。だが私は、レーヴァ副団長と逸れてしまった・・・」

「なら、彼女は・・・」

「分からない・・・確か『トハの村で合流しよう』と」

「トハの村でですか?」

「ああ。我々が分断されるまでは、距離の近かったトハの村へ負傷者を運ぶ予定だったが・・・その最中にクーデリア公国の奴等から襲撃を受けてな」

「襲撃・・・そうなると負傷した人達は・・・」

「奴等、負傷者でも容赦無くった・・・騎士道精神も軍人としての誇りプライドも無いのか・・・」

 騎士の言葉を聞き、イシュメラは何かに気付いてスレイに耳打ちした。

「私、ソイツら知ってるかも」

「えっ、本当ですか?」

「直接会った訳じゃないけど・・・ソイツら"ディガン騎士団"って言う懲罰部隊の仕業だと思う。公国内でも評判の悪い騎士団ところで、悪い噂が絶えないわ」

 それを訊いたスレイは拳を握り締めるが、ここで憤りを感じても意味がないと気付いて、すぐに落ち着いた。

「とにかく、貴方を本隊へ連れて行きます」

「しかし、どうやって・・・?」

 箒は長さ的に2人しか乗れず、今3人がいる場所の近くには村や街などがない為、どうすべきか考えていた。

「・・・とにかく用心しながら歩きましょ。貴方は無理しないでね」

「あ、ああ・・・」


 そうして3人は森の中を用心して進む。公国の兵士や騎士に出くわすのもマズいが、魔物に遭遇する可能性も否めない為、行先に王国側の人間がいる事を祈った。


 そうして森を抜け───その先には銃口が見えた。

 スレイが見上げると、そこに居たのは銃士隊員で、最初は敵を見るような表情だったが、銃を向けている相手が訓練時代の同期だと気付いて、ライフルを下ろした。

「スレイ! 無事だったか!!」

「ミッチェル、会えて嬉しいよ」

「俺もだよ。で、そこの方は?」

 ミッチェルはスレイの隣にいるイシュメラを指して言った。

「えっと・・・冒険者として一緒に行動してる魔導士のイシュメラさん」 

「へぇ・・・初めまして。俺、ミッチェルと言います」

「ふふ、よろしく」

 イシュメラは笑顔で挨拶を返し、ミッチェルは見惚れそうになるが、すぐ我に返った。

「そう言えばミッチェル達は何を?」

「俺達は任務でこっちに・・・でも、もう解決したから良いよ」

「そうなんだ。それならちょっとミッチェルに頼みがあるんだけど───」

 スレイは一刻も早く本陣へ向かう為、ミッチェルに騎士を引き継いで、イシュメラと共に箒で空へと上がった。

「凄い2人だなぁ・・・」

「いやぁ、ホントですよ・・・」

 ミッチェルと騎士はそんな事を言いながら、箒に乗った2人を見送った。


 空に上がり、スレイとイシュメラは王国側の本部を目指す。2人の下には戦場が広がっており、黒い煙が空へと上がっていた。

 あまりにも悲惨で信じ難い光景に、彼等は茫然とするが、イシュメラは目の前から3人の竜騎士が向かって来た事に気付いた。

「おお、マズいわ・・・」

 箒は停止し、それに続いて騎士達が乗るドラゴンも停止した。

「ここは戦闘区域だぞ」

「いやぁ、私達道に迷いまして・・・ちゃんと区域からは出るので、ごめんなさーい」

 話を切り上げたイシュメラは、そのまま竜騎士達の左を通るが、1人の騎士が彼女を呼び止めた。

「待ってくれ、なぜ王国側に向かう?」

「何でって・・・故郷に行っちゃ駄目?」

「すまないがご同行願いたい、頼めるか?」

 竜騎士は箒に乗った2人の怪しさを感じて同行を求めるが、イシュメラはため息を吐いて言った。

「───見ず知らずの人には敬語を使うって、ママに教わらなかった?」

「何だと?」

「スレイ君、離れないよう私に掴まってて───」

 スレイはその言葉について訊こうとした瞬間、箒は急加速して竜騎士達を驚かせた。

 スレイはあまりの反動に驚いてイシュメラに掴まり、彼女は後ろから追ってくる竜騎士を撒く為に箒を操縦した。

 撒ければ良いのだが、追っ手は竜騎士ドラゴンナイト───天馬騎士ペガサスナイトと同じく、空は彼等のテリトリーだった。

 竜騎士が左右から2人の方に向かって来るが、巧みに箒を操ってそれを避ける。だが、それでも竜騎士は執拗に追跡し続けた。


 イシュメラは高度を上げ、雲の中へと入る。視界は悪くなるものの、それは竜騎士達向こうも同じだという考えによるものだった。

 雲の中を進み、2人は撒いたかと思い安心したその時───左からドラゴンの頭が現れ、彼等は驚いてスピードを出した。

 目の前からも竜騎士が現れ、イシュメラは避けるように箒の先端を斜め下に向けて雲の中から脱出した。


 竜騎士達も雲から出て2人を追おうとするものの、彼等は距離を離していた。

「随分と速いな・・・」

「どうします?」

「恥を晒す事になるが・・・仕方ない。我々も本部に戻ろう」

「もう恥なら晒してますけどね・・・」

「よせ、言うな」


 公国の竜騎士を撒いたスレイとイシュメラは一安心かに思われたが、2人のいる空は王国側の領土───つまり、今度は天馬騎士と出くわす羽目になった。

「待て。お前達、何者だ?」

「待ってください、自分は銃士隊所属のスレイ・アルフォードと言います」

「銃士隊所属・・・私達に同行してもらう」

 しかし、彼女達が連れて行こうとしている先は本部では無く別の方向・・・どう見ても、信じていないような節があった。

「あの、一体どちらへ?」

「何処かの兵舎に。2人の素性が判り次第、自由にするので」

「あー・・・駄目だこりゃ」

 イシュメラは呆れながら箒を旋回させてそのまま本部へと目指す。天馬騎士達も逃げた事に気付くものの、2人の乗る箒は加速していった。

「スレイ君、さっきは申し訳ないし、今も申し訳ない事するんだけど、本部に着いたらすぐに降りてくれない? 私あのお姉さん方と鬼ごっこしてくるから」


 そう言われたスレイはイシュメラに頷く。そして、本部へ到着したと同時に彼は降りて、イシュメラに感謝した。

「じゃあね、スレイ君。無事を祈ってるわ」

「ありがとうございます。イシュメラさんも、どうかお気を付けて」

 そしてイシュメラは箒を加速させて空へと再び飛ぶ。スレイはそれを見送った後、後ろを振り向くと、そこには銃口や剣や槍などの刃先が向いており、彼は直ぐに両手を上げた。

「スレイなのか?」

 ジョッシュがスレイに近付き、他の人達はすぐに武器を下ろして解散した。

「ジョッシュ!!」

 2人は握手した後、軽くハグをした。

「会いたかったぜ、兄弟!!」

「俺もだよ。ただ・・・すまない」

「何でお前が謝る必要あるんだ?」

「他の人が戦ってるのに、俺は・・・」

「よせ。俺はお前が生きてて良かったよ」

「・・・ありがとう」

「そんなに申し訳ないと思うなら、俺の頼みを聞いてくれないか?」

「どんな事だ?」

 ジョッシュはスレイに自身の頼みを伝える。それは、トハの村への同行で、どうやら村に単身で向かったシェイルが帰って来ないようだった。

 トハの村には彼の両親がいる為、再会を祝っている可能性もあるが、そもそも戦争は膠着状態となっているだけでまだ終わっていない。ジョッシュはレーヴァの事も心配だったが、単身で村に向かったシェイルの事も気がかりだった。


 スレイとジョッシュは、バートンに相談してトハの村へ向かう許可を得る。馬は殆どが前線に投入されている為、居ないと思いきや、運良く何頭か残っていた。

 ジョッシュに倣ってスレイも別の馬に乗ろうとした時、その馬は彼を知っているように顔を舐めた。

 不思議そうに目を合わせると、その馬が訓練生時代に縁のあるキャロラインだと言う事に気付いた。

「お前、その子に好まれてるな。ソイツ、連れて来られたけど暴れるから誰も使いこなせなかったんだ」

 じゃじゃ馬ぶりは健在で、スレイは何故自分に懐いてくれたのか不思議だった。



 その頃───トハの村でレーヴァは目覚める。しかし、彼女は袋で視界を遮られており、両手も後ろで縛られていた。

 袋を外されてから視界に映ったのは、燃えて火の粉を飛ばす家々と、横暴な公国の兵士達だった。

 彼女の左右には何人かの騎士団員がおり、彼等も同じ状況ではあるものの、唯一違うのは、両手が前に出されている事だった。

「お目覚めですかな? 麗しき女騎士様」

 レーヴァの目の前には顔立ちの整った青年がいて、彼は嘲笑うようにそう言った。

「デグレ団長、村長は死んでいました」

「はぁ・・・折角王国の騎士達の前で処刑しようと思っていたのに」

 目の前で悪趣味な発言をするその男は、目の前で不快さを表情に出すレーヴァよりも、他の捕虜に目を付ける。その捕虜は怯えており、両手を祈るように差し出していた。

「あーあー、こいつ神に祈ってるぜ?」

「頼む、家に帰してくれ・・・家族が・・・」

「家族? お前ここの村人にも言えるのかよ。どうしましょうか、団長」

 1人の部下にそう訊かれ、団長は少し考えた後、何か思い付いた表情をする。その何かとは、目の前で懇願する兵士の処刑方法だ。

 その兵士はうつ伏せにされた後、団員達はデグレの指示通り、子供を前に出す。そして、その子供に刃物を渡すと、うつ伏せにされた兵士を刺すよう指示を出した。

「領地内の人間を守れなかった癖に帰りたいとほざく人間はこうなるぞ」

 デグレがそう言うと、子供は涙ぐみながらその兵士に刃物を刺し、彼は苦痛の声を上げた。

 ───そして兵士の声が完全に消えた後、子供は両親の元へと返される。処刑された兵士の叫び声を聞いた恐怖心で1人の兵士が後ろを振り返って逃げるが、奴等は逃そうなどと思ってなかった。

 1人の団員が矢を放ってその兵士に命中させて殺す。それを見て他の団員は競技を見ているかのように笑った。

 中には無理して笑ってる者も居るだろうが、そんな事は関係無かった。

 レーヴァ達王国側の人間にとって、この騎士団は憎むべき者達・・・しかし、拘束されている以上、相手の思うがままだった。

「クソっ、離しやがれ!!」

 次に前出された者───それはシェイルで、レーヴァは驚きを隠せなかった。

 彼は他の人と違って縛られていないが、両腕を2人の兵士に取り押さえられていた。

「ここに来た理由は?」

 見下す様にニヤニヤしながらそう言ったデグレに対し、シェイルは彼の顔に唾を吐いた。

 顔に付いた唾に触れ、デグレはわなわなと震えて他の仲間に処刑を命じた。

 処刑方法は斬首・・・騎士団に所属する処刑人が両手で持つ大斧の刃が、取り押さえられたシェイルのうなじに近付いた。

「諸君、これが敗北者の末路だ」

「やれよクソったれ!!」

 その挑発通り、処刑人は大斧を縦に大きく振りかぶった後、シェイルの首に振り下ろされた。

 ───レーヴァの膝下にシェイルの首が転がると、デグレ達は喝采する。そして彼等は次は誰に誰を処刑しようと選ぼうとした瞬間───こちらの村に向かって来る2頭の馬を見つけた。

「団長、こっちに誰か来てますぜ? あれは───」

 その馬が近付き、団員はその馬に乗っていた者が銃士隊員だと気付くが、その時には既に遅く───彼は頭を撃ち抜かれた。

 馬に乗っていた者達はスレイとジョッシュで、彼等は馬から降りた後、捕虜の拘束を解いていった。

「レーヴァ、遅くなって悪い───」

 謝ろうとした瞬間、レーヴァの膝下にシェイルの首が転がっている事に気付く。彼は激昂しかけるが、ひとまず気持ちを抑えた。

 拘束が解かれた王国の兵士達は恐怖から村から逃げてしまい、結局戦えるのはスレイとジョッシュ、そしてレーヴァのみとなった。

「団員達の事は責めないで欲しい・・・」

「ああ、こんな奴等の捕虜にされてたなら仕方ないぜ・・・!」

 3人とはいえ、敵の数は多い・・・幾ら銃があったとしても倒しきれず、スレイには鎧甲があるものの、あれに変身する事にトラウマを感じてしまったのか、変身できなくなっていた。

 不利な状況だと思っていたその時、スレイ達の立ち向かう様子に感化されて村人達が農具や包丁などを持って、3人に加勢した。


 そして戦いが始まり、スレイ達は不利だと思われたが、徐々に形成は逆転していき、デグレ達騎士団は不利になっていた。

 団員の悲痛な声や助けを乞う声が聞こえてくるが、デグレは自分の命さえあれば良いと思って屋敷の方向へと逃げて行った。

「待て!!」

 デグレの後を追うジョッシュにスレイも追おうとするが・・・そんな彼の前には大柄の処刑人が現れた。

 大斧を持ち、シェイルの首を斬り落とした者・・・奴はジョッシュはおろか、スレイにとっても仇敵だった。

 スレイは拳銃を構えて撃とうとするが、右から来た敵の兵士に邪魔され、拳銃を投げ飛ばしてしまった。

 ライフルは残弾を持ち合わせていなかった為、スレイは鞘から剣を抜き、強く握り締めた。

 処刑人は大斧を横に振り、スレイはそれを間一髪で避ける。敵の挙動は斧の重さから遅いものの、それでも油断していると忽ち斧の餌食におそれがあった。

 処刑人の振る斧を、剣で受け流して斬り込もうとするが、横槍を入れるように他の敵から邪魔されてしまった。

 他の敵と鍔迫り合いする事になるが、スレイはその敵を蹴り付けた後、追い討ちをかけるように剣を突き刺す。そして、本来の相手に向うとするが、その瞬間に首を掴まれた。

 片手で身体を持ち上げられている感覚にスレイは動揺を隠せなかったが、このままだと窒息すると悟ったスレイはおぼつかない手で銃剣を抜き、それを処刑人の腕に刺した。
 
 相手は銃剣を刺された事でスレイを地面に落とし、そのまま言葉にならない声で苦痛の叫びを上げるが、その隙をスレイは見逃さず、剣で相手の腹部を刺した。
 
 処刑人は自身の獲物を落として跪く。スレイも疲労により同じく跪くが、彼の近くには拳銃が落ちていた。

 お互いに頭を上げて顔を合わせると同時に、スレイは拳銃を構える。引き金を引けば仇を取れる───しかし、彼は躊躇してしまった。

 麻袋の覆面から見えたは赤く充血しており、まるで怯えている様に見えた。

 撃って楽にするか、それともこのまま失血死するのを待つべきか・・・どちらにしろ、スレイ自身の手で決着を付けなければならなかった。

 処刑人が斧を掴んだと同時に一発の銃声が周りの音に混じっていく。薬莢が地面を転がり、スレイの目の前には巨体の屍が倒れていた。

 仇は取ったはずなのに、何故かスッキリしない・・・スレイはそんな気持ちで、自分が殺めた者を凝視していた。


 一方でジョッシュはデグレが逃げ込んだ屋敷に入ろうとするが、2発の銃弾が扉に風穴を開けた。

 ジョッシュは即座に横の壁に隠れたおかげで当たる事は無かった。

 彼はエントランスからの突入は危険だと考え、ライフルで窓を何枚か撃って割った。

 窓が割れた音を聴き、デグレはエントランスから別の部屋へと移動する。その隙にジョッシュはエントランスから突入し、相手が向かった部屋の扉付近に隠れた。

 開いた扉からライフルを構えたジョッシュは、後ろを向いているデグレの左腿に1発の銃弾を撃ち込んだ。

 左腿に銃弾を受けて倒れ込んだデグレは叫びながら手当たり次第に拳銃を乱射するが、命中する筈が無く、すぐに弾切れの音が聞こえてきた。

 ジョッシュはライフルを構えてデグレを追い詰める。しかし、デグレは先程の残忍さから打って変わって助けを乞い始めた。

 自分のやった事を嘆く様をジョッシュは信用できなかったが、シェイルの仇でもあるため、彼は目の前で不利になっている奴をどうしてやろうか考えていた。

「お前は親友ダチの仇だ・・・だが、此処でお前の頭を撃ち抜いてもスッキリしない。だから、戦犯として裁かれる事だな」

 頭を撃ち抜いて殺す事は簡単だと思ったジョッシュは、生き地獄を味あわせる為に戦犯として裁いて貰う方向に決める。
しかし、それはある意味無理な話だった。

 屋敷の扉から何人もの村人が来た後、ジョッシュは彼等に押し退けられる。そして村人は倒れているデグレの脚にピッチフォークを刺した。

 部屋内に悲痛の叫びが響き渡るが、それでも村人はお構い無しに憎むべき相手を取り囲み、包丁や農具などで惨殺した。

 ジョッシュは彼等に対し、過去の自分を重ねてしまい、止める事は出来ず、その場を後にした。


 村まで戻ってきたジョッシュはスレイやレーヴァと合流した。

「ジョッシュ、アイツは?」

 レーヴァからの問いにジョッシュは首を横に振った後、彼女に拳銃を返した。

「・・・ありがとう」

「別にいいさ」

 3人は馬のところまで戻る。トハの村には火の粉が舞っており、ディガン騎士団の団員達は因果応報とでも言うべきか、団長と同じように制裁を受けていた。

 馬に跨り、走らせようとしていたその時、スレイに話しかける少女がいた。

「あの・・・」

「どうしたんだい?」

「・・・私達を助けて頂き、ありがとうございました」

 少女からの感謝にスレイの心境は複雑だったが、「良いんだよ」と言って馬を走らせた。


 馬を走らせる中、スレイはジョッシュの後ろに座っているレーヴァを横目に思考していた。

 邪竜教団であるとして、何が目的なのか。邪竜を復活させるにしても、何が必要なのか。
 もし彼女が邪竜の信者なら、何故崇めるのだろうか───


 トハの村から本部へ戻り、スレイ達はヴィルトと再会する。お互いの無事を喜ぼうとしたが、クレイグがいない事に気付いた。

「親父は・・・?」

「クレイグ隊長は・・・まだ"戦場"にいる」

 ヴィルトはクレイグの所在についてそう話し、ジョッシュは血相を変えて戦場へと向かった。


 戦場に向かったジョッシュを連れ戻す為にスレイやレーヴァも向かう。カイラン平原は完全にその名前とはかけ離れた光景になっていた。

 地面に生い茂る野原はほぼ無くなっており、塹壕や爆発の影響から様々なところに窪みが出来ていた。

 更に進むと、そこには見るに堪えない悲惨な光景が広がっていた。

 死体。王国や公国など、所属は関係なしにそこら中が死体だらけで、中には内臓が身体から出ている者や腐敗して蛆が湧いている者、身体が欠損している者がいた。

 スレイはこの光景に耐えきれず吐いてしまい、レーヴァが彼の背中を摩る。彼女は慣れているのか、動揺はしても吐くまではいかなかった。


 2人が惨い光景の中歩いて行くと、そこにジョッシュらしき後ろ姿を見る。彼は両膝を地面に崩れ落ちていた。

 ジョッシュの元へ駆け寄る2人だが、そんな彼の前に横たわっているのはクレイグだった。

 ───命の恩人であり、父親のように見守ってくれた男はもうそこにはいない。スレイにとっても彼の死を受け入れられず言葉を失った。

「ジョッシュ・・・クレイグさんは───」

「レーヴァ、それ以上は言わなくていい・・・」

「・・・ごめんなさい」

 ジョッシュは立ち上がり、深呼吸した後に2人に言った。

「───行こう、俺は親父の分まで生きる。それが親父達への・・・弔いだ」


 3人はクレイグに別れを告げてその場を後にする。そして本部へ戻る道中、彼等の前には何かが地面から落ちてきた。

 彼等の前に落ちてきたもの片脚で、驚きながらも何故落ちてきたのか不思議に思っていると───

 ───それは、一瞬の出来事だった。
 彼等を襲おうとしていた"何か"は、ある者に阻止され、吹き飛ばされる。3人は何が起こったのか解らず、砂埃が大きく舞った場所をよく見た。

 そこにいたのはファントムフェンリルと呼ばれる魔物で、スレイやベアトリスを襲った獰猛な魔狼だった。

 3人は反射的に武器を構えようとするが、そんな彼等の前に現れたのは異質な鎧に包まれた人物だった。

 身体全体を神秘的な装甲で覆い、丸い盾と剣を持った人物・・・スレイには分からなかったが、この世界で生きているジョッシュとレーヴァは分かった。

 戦乙女ワルキューレ───戦場で倒れた勇士の魂をヴァルハラへと導く役割を持つ種族で、ジョッシュやレーヴァでも目にするのは初めてだった。

 そのワルキューレは体勢を立て直したファントムフェンリルの威嚇に動じず、そのまま近付いた。

 威嚇を止め、魔狼は彼女に飛び掛かるが、それを盾で防がれてしまい、そのままそらへと投げ出された。

 そして、勝負は決まる─── そらに投げ出されたファントムフェンリルは飛び上がって追撃を仕掛けるワルキューレの剣により、身体を真っ二つに斬り裂かれた。

 真っ二つに斬り裂かれた魔狼は白い炎のように消滅し、倒された。


 先程の戦闘に驚きを隠せない3人へワルキューレは振り向き、兜に付いているバイザーを上げて素顔を見せた。

「人間、怪我はないか?」

 3人は唖然としながらも頷く。彼女は彼等の応答を確認した後、スレイと目が合った。

 ───お互いに目を合わせている中、奇妙な現象が起きる。スレイは頭痛と共に前世での記憶が次々と流れ始め、ワルキューレの方は剣を地面に刺して跪き、胸を抑えた。

「に、にい・・・さん───?」

 スレイは確かにその言葉を聴き取って驚愕する。彼は訊こうとしたが、別のワルキューレがその場に降りて来た。

「ヴァルキリー、何があったのですか? この者達は───」

「待ってください、姉様・・・彼等は魔物に襲われていた者達、私は何もされてません」

「・・・そうか。ヴァルキリー、帰還するぞ」

「しかし、本来の使命が・・・」

「それは他の姉妹に任せるが良い」

「・・・承知」

 ヴァルキリーと呼ばれるワルキューレは仲間の肩を借り、3人を後にしようとした。

 そんな時、スレイが呼び止めてワルキューレ達は足を止め、改めて3人の方を振り向いた。

「・・・助けてくれて、ありがとう」

「・・・私は人間を襲う魔物を発見し、排除したまでの事───本来の使命からは外れている」

 そう言った後、2体のワルキューレは空へと飛び上がり、スレイ達は遠い空を見つめていた。


 地上から離れ、上空ではワルキューレ達は帰路についていた。

「ヴァル、心臓むねの痛みは引いたか?」

「はい・・・申し訳ありません」

「別に謝る事では無い」

「姉様、1つ宜しいでしょうか?」

「ああ、構わないぞ」

「───私は、本当に戦乙女ワルキューレなのでしょうか? それにしても私には不具合バグがあります」

「・・・お前は確かに特異な存在だ。それでも私達姉妹の1人である事には変わり無い」

「・・・ありがとうございます」


 ワルキューレに助けられた後、スレイ達は本部へと戻る。本部は撤収準備に入っており、兵士達がテントなどを片付けていた。

 状況が分からない3人の元にバートンが来た。

「ああ、お前達か!!」

「バートンさん、この状況は一体・・・」

「戦争が終わったんだ」
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