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2章 足を焚べて、声を焚べて、恋を焚べて

6.マルグリット様と私

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 馬車の戸が開くと、ふわりと甘く瑞々しい花の香りが鼻腔を擽る。目にも鮮やかな花に見惚れつつ、屋敷の門を潜ったとき────軽やかな足音が近付いてきた。庭に植えられた花々が霞むほどの、麗しい顔に満面の笑みを浮かべた女性。わたくしが礼をするよりも早く、彼女の美しく白い指先が私の手をしかと握る。

「いらっしゃい、レミニシア様!」
「お招きいただきありがとうございます、マルグリット様」

 彼女は、マルグリット・エメ・ガブリエル様。魔術学園に通われる先輩であり、あのジスラン様のお姉様で、兄様と婚約話が一度だけ持ち上がったご令嬢です。
 どうして私がマルグリット様に、ガブリエル邸に招かれたのかと言うと、ベルリオース家に招待状が届いたから。今度の週末に、ジスラン様には内緒で来て欲しい、と。

「あらあら、そんなに畏まらないで? 無理を言ったのは私の方なんだから……と、お客様を案内もしないでいるなんて褒められたことじゃないわね。今日は天気が良いから、お庭でティーパーティーをしましょ?」

 私の手を引いてお庭へと進んでいく、マルグリット様。初めてお会いしたときは、愛らしい方だと思ったけれど、積極的にお話しようとは思わなかった。心のどこかで、私から兄様を奪ってしまうかもしれない人、と見てしまっていたからかもしれない。
 なんて愚かなのかしら。マルグリット様はこんなにお優しい方なのに。

「改めて、今日は来てくれて本当にありがとう」

 薔薇の花が咲き誇る庭園の真ん中に、真っ白なテーブルとチェア。すでにガブリエル家の使用人の皆さんが支度を済ませてくれていたらしい。
 私の対面に座るマルグリット様はにこにこと笑みを浮かべている。
 白磁の頬をほんのり赤らめて、それは心からの喜びである証で、私は自分の狭量さを思い知らされるばかり。
 だって、私はまだマルグリット様が兄様の婚約者になるかもしれない可能性を恐れている。

「今日お招きした理由はね、レミニシア様には謝りたかったからなの」
「え? マルグリット様が、私に?」
「だって、ほら。私の愚弟がレミニシア様を泣かせてしまったでしょう? 可愛らしい女の子を泣かせるなんて、我が愚弟ながら許されることじゃないわ。ええ、法がジスランを許しても、私が許さないわ」

 え、えーっと?

「淑女に涙を流させたのですから、お礼の花束を持って地に額を擦り付けて許しを請いなさい……と叱ったのですけど、それはやりすぎだからとお父様に止められてしまって。だから、ジスランに謝罪する気がなかった訳でも、誠意が足りなかった訳でもないのよ?」

 頬に手をそえて、ほうっと憂い気に溜息をつくマルグリット様はうっかり跪いて「あなたの憂いを晴らす栄誉をお与えください」と請い願ってしまいそうな美しさがあるのだけど、かたちの良い唇から飛び出すジスラン様への厳しい言葉の数々に、なんと返事をしたら良いのかしら。

「私からも謝りたかったのだけど、イクシス様の許可が下りなくて……こんなに遅くなってしまってごめんなさい。改めて愚弟が申し訳ありませんでした」
「と、とんでもございません、マルグリット様! 私の方こそ大変失礼をしてしまったし、それに……」

 兄様は私に少し待つように言ってから、マルグリット様とジスラン様を早々に帰してしまったと記憶している。仮にも婚約者になるかもしれない女性とその弟を、一体どんな理由で追い返したのかしら。
 加えて、兄様はジスラン様には当たりがきつい、とも聞いている。それは私を想ってのことだと理解していても、イコール免罪符である筈がない。

「……その、兄様こそ何か、配慮に欠ける発言をなさいませんでしたか?」
「さあ、どうかしら。もしかしたら愚弟に何かきついことを仰ったかもしれないけど……でもまあ自業自得なんだもの。レミニシア様が気にする必要はないわ」

 き、厳しい! 姉弟ってこんなものなの!?
 でも、マルグリット様の目には、ジスラン様への嫌悪感といった類いのものはうかがえない。身内ゆえの厳しさ、なのかしら。
 兄様と婚約するかもしれない姉の幸せを願っていたのだから、多分きっとお二人の仲は悪いものではないと思う。

「そういえば、今日はジスラン様は?」
「ああ、追い出したの。日が暮れるまで帰って来ないでねって」
「えっ!?」
「冗談よ、冗談。ここのところ、休日となれば殿下のところで調べものをしているみたい。まあ、だからレミニシア様をお招きしたのだけど。野暮な殿方はお呼びじゃないから」

 だからか、と得心がいった。相変わらずジスラン様に当たりがきつい兄様のことだから、マルグリット様から招待いただいたときも許可が下りないのでないのかと懸念していたけれど、予想に反して──とはいえ、眉間に皺は寄っていた──お許しいただけた。それは、兄様もジスラン様が殿下のもとに足繁く通われていることをご存知だったからだろう。

「それより、学園生活はどう? 愚弟がまたデリカシーに欠ける発言をしていない?」
「とても良くしてくださっています」
「ほんとに? 信じられない」

 目を円くして驚いてらっしゃるマルグリット様が面白くて、礼を欠いているのは承知だけれど、少しだけ笑ってしまった。

「マルグリット様とジスラン様は、気心が知れているからこその対応なのでしょう。仲がよろしいのですね」
「え、普通よ、普通」
「そうなのですか?」
「そうなのです。イクシス様とレミニシア様を基準に考えたら、世の兄弟姉妹は国交断絶レベル」

 マルグリット様は冗談が巧みで、ついに堪えきれず笑い声を上げてしまった。
 兄様は確かにお優しくて少し過保護かもしれないけど、マルグリット様が言うほどじゃないのに。

「ああ、でも魔術バカなところは嫌いね。父も愚弟も、年がら年中魔術のことばっかりで。5歳の誕生日のプレゼントが魔術書よ? 大きなテディベアが欲しいって言ったのによ?」

 因みに、以降この歳になっても誕生日プレゼントはテディベアよ、とマルグリット様がティーカップを傾けた。釣られて、私も紅茶で喉を潤した。

「私、結婚するなら女心が分かる殿方が良いわ。魔術師は論外。お父様もジスランも家族としては愛してるけど、殿方としては論外」
「論外」

 マルグリット様にお会いするまで、とても緊張していたけれど、マルグリット様はお顔が愛らしいだけじゃなくて、内面もとても強く美しい方だと思う。気付けば、私の緊張の糸は緩んでいた。
 ふと、マルグリット様が悪戯が成功した子供のような顔で「……安心していただけたかしら?」と言う。

「私には、イクシス様への興味関心が塵ほどもないってことよ」

 貴族の令嬢としてはしたなくも、私はぽかんと大口を開けてしまった。

「というか、神経が鉄鋼製の子息子女でもなければ、イクシス様とレミニシア様の間に入ろうなんて考えないと思うけれど」
「お、お待ちください、マルグリット様! 誤解があるような気がするのですけれど!」
「誤解? お二人は恋人なのではなくて?」
「違います!」
「うそぉ。お二人ともいつもあんなに二人だけの世界を作ってるのに?」
「わ、私は……兄様に相応しくありませんもの」

 マルグリット様はどこか楽しげに目を細めて「ふうん?」と呟いた。
 その反応の理由を私には分からなくて────だって、私の言葉こたえであって、想いがないとは一言も言っていないと、気付いていなかった。

「じゃあ、ジスランはどう? デリカシーのない魔術バカだけど、見た目と地位は保証するわ!」
「わ、私には勿体ないことですわ。ジスラン様には他に素晴らしい方がいらっしゃるかと」
「そうね。私、妹が欲しかったのだけど、ジスラン相手にレミニシア様は勿体なさ過ぎるわ」

 うんうん、と腕を組んで頷くマルグリット様。かと思えば、幼子のように目をきらきらさせながら「他に何かコイバナはないかしら!」と。
 コ、コイバナと言われても、貴族令嬢は政略的婚姻がほとんどで、胸を高鳴らせるような話なんて────と考えて、フルール嬢の姿が過った。

「では、その……」

 はっきり言って、乙女ゲーのプレイ記録こそあれど、まともな恋愛経験もないアラサーヲタクが役に立てるとは思えない。だから、マルグリット様にアドバイスをもらいたい、と私は詳細を濁しつつフルール嬢の話をすることにした。
 マルグリット様は最初こそ「身分違いの恋ね!」と目を輝かせていたけれど、話が進むにつれて訝しげに眉を寄せるのだった。

「……ロマンス小説だと身分の違いが理由になってくるけど、なんだかちょっと違う気がしない?」
「え?」
「ああ、正確には身分だけが理由じゃない、かしら? だって、お相手のことが本当に好きなら、自分が悪者になっても構わない覚悟で理由を告げると思うのよ。本当の理由でも良いし、偽りの理由でも良いし……そうじゃないとその女性は前にも後ろにも行けないわ」
「はい。彼女もどうすれば良いか分からない、と泣いていました」
「そうよね。理由を言わないところに保身というか、打算の意図が見え隠れしている気がするの。理由も言わずにただ会いに来るな、なんて卑怯じゃない?」

 凪いでいた水面に波紋が走る。幼いレミニシアが、その通りだと涙ながらに叫んでいる。
 どんな言葉でも良かった。「愛している」でも「どうでも良い」でも良かったのだ。
 言葉もなく待ち続けるほど強くもないし、きっかけもなしに諦められるほど情がない訳でもない。

「……私もそう思います」
「ねえ? 私だったら横っ面叩いてるわよ」

 私も、お父様の頬を叩いてやったら良かったのかしら。想像してみたけれど、お父様の頬を叩く私の姿はどうにも想像できなくて、それが無性におかしくて、堪えきれずに噴き出してしまった。
 まあ、叩けなくとも構わないけど。だって、兄様がいらっしゃるもの。お父様なんて知ったことじゃないし、どこかの愛人と仲良くやっていれば良いのよ。


 ◇


 レミニシアがガブリエル邸に行きたいと言ったとき、迷った末に許可を出した理由は二つある。
 一つは、ジスランが屋敷にいない可能性が高かったためだ。殿下のもとに足繁く通っては、ヴィクス家に残されている魔族に関する書物を読み漁っているらしい。
 そして二つ目にして最大の理由は、イクシスに届いた招待状────ベルリオース侯爵からの呼び出しだ。何を考えているのか、あの恥知らずはイクシスを愛人と思しき女の屋敷に呼びつけたのだ。
 断っても良かったが、正式に侯爵の爵位を継承していない今、ベルリオース侯爵の怒りを買うのは賢明ではない。
 告げようか、告げまいか。迷った末に、イクシスはレミニシアに何も告げなかった。たとえどんなに些細であったとしても、レミニシアの心を曇らせる男のことなど耳に入れたくはなかった。

「来たか、イクシス」

 いき遅れた男爵令嬢か、否、早くに夫を亡くした女男爵の屋敷だったか。
 しかし、イクシスにどうでも良いことだ。恥知らずな男が屋敷の主人も同然な顔をしているのにもかかわらず咎めないどころか、己にまで色目を使う女の地位や立場など興味はない。

「息災であったか?」
「はい」
「おまえの話は聞いている。私も鼻が高い」
「……恐縮です」

 貴様の為ではない、と舌を打ちそうになった。イクシスの努力はすべてレミニシアを守る為である。決して、この恥知らずの為ではない。
 案内された応接間で、イクシスは義理の父親と向かい合って座る。義理の父親の隣には不愉快な女が座った。

「おまえの爵位継承は、学園卒業と同時にしようと考えている」
「私はもっと早くとも構いませんが」
「爵位を継げば学園に通う時間も今より更に少なくなる。殿下の護衛も兼ねている側近としての役割を忘れるな」

 つまり、未来の公主にもっと媚を売っておけ、ということか。馬鹿馬鹿しい。
 媚を売らなければ手に入らない地位に興味はないし、媚を売らずとも得られるだけの才と結果は残している。
 そも、あの殿下は媚を売るだけの小物を重用するほど愚かでもない。この恥知らずは、そんなことも分からなくなっているようだ。

「それから、レミニシアの件だが」

 ふと、侯爵の口からレミニシアの名が出た。忘れた頃に届く侯爵からの手紙に、レミニシアの名が記されていたことはない。
 こうして、レミニシアのことを尋ねるなどいつ以来か。実の娘が怪我をした話をどこからか聞いて、父親としての情が再燃したとでも言うのだろうか。

「怪我をしたと聞いたが、令嬢として支障が出るような怪我か?」

 ああ、と。イクシスは内心でせせら笑う。この恥知らずがどこまでも愚かな男で安心した。
 もしもレミニシアへの情が再燃し、今までの埋め合わせをしたいと言われでもしたら、イクシスは自分が何をするか分からなかった。
 今でさえ、この男が許せずにいるのだ。幼いレミニシアを傷付け、今も肉親の情を断ち切れずに苦しむレミニシアを誰よりも傍で見ているのだから、もし仮に歩み寄ろうとしたのなら、怒りと憎悪を抑え切れなかっただろう。

「いえ、傷もほとんど残らないと」
「そうか。ならば良い。あれの嫁ぎ先が見つかった矢先のことで、さすがに肝を冷やしたぞ」
「────は?」

 今、この男は何と言った?
 呆然とするイクシスに気付いているのかいないのか、男は話を続ける。

「相手はヘルクヴィスト伯爵だ。二年前に奥方を亡くしておられる。令嬢にあるまじき傷痕があっても、見目さえ良ければ気にしないおおらかな男だ」
「……本気で言っているのですか? ヘルクヴィスト伯爵はレミニシアと三十も離れている。加えて、好色で家には妾を何人も住まわせていると聞きます」

 ヘルクヴィスト伯爵のもとに嫁いでも、レミニシアが幸福になれないことは明白だ。
 否、もし仮にヘルクヴィスト伯爵がレミニシアを愛し、他の妾共を追い出したとしても、許容できる筈がない。
 だが、恥知らずが実の娘への情を見せることはなかった。

「何か問題があるのか? あれとて貴族の娘に生まれた以上、家のための道具に過ぎない」

 貴族令嬢の存在価値は家の価値を高める男のもとへと嫁ぎ、男子を産み血統を繋ぐこと。イクシスも、そしておそらくはレミニシア本人も理解はしている。
 ただ父親というだけでレミニシアの関心を奪い、心に深い傷を付けたばかりか、今また更なる傷を付けようとする男がただひたすらに憎かった。

 ────何かが外れるような、割れるような音が響く。狂ったのはイクシスか、或いは世界か。

 ふと気付けば、ベルリオースの屋敷に戻っていた。周囲はすっかり暗くなっていて、屋敷の明かりが最小限に留められていることから、おそらく夜半過ぎといったところか。
 耳障りな音がする。吐き気を催す匂いがする。不快な感触がへばりついている気がする。今にも割れてしまう薄氷を歩いている危うい心地だった。

「……兄様?」

 見上げると、階段を小走りで下りてくるレミニシアの姿があった。
 瞬間、心地好い風がヴェールを舞い上がらせるように、イクシスははっと我に返る。
 レミニシアの格好は薄い寝間着にショールを羽織っただけの、とても令嬢がして良い格好ではなかったが、今は呆れよりも安堵が勝った。

「兄様、おかえりなさい。遅くまでお疲れさ、」

 レミニシアの華奢な身体を引き寄せる。ふわり、と甘い香りが鼻腔をくすぐった。柔らかな髪は心地が良くて、何度も何度も指で梳いた。

「に、兄様……? 何かございましたの?」
「……そうだな。とても不快な思いをした。だから、慰めてはくれないか」
「え、ええっと、兄様の為なら吝かではございませんが、今、ここで、でしょうか……?」

 言われて、イクシスは自分が玄関ホールにいることを思い出した。
 逡巡は一秒もなかっただろう。レミニシアの細く柔い身体を抱え上げ、足早に階上へと向かう。目指す先はレミニシアの部屋だ。
 侯爵家の令嬢にしてはひどく質素な部屋の奥、窓際の丸テーブルにはランプの炎が小さく揺らめいていた。
 腕の中のレミニシアが「兄様が行き先も告げずに出掛けたと聞いて心配で」と恥ずかしそうに明かす様が、愛おしくてならなかった。

「私を待っていたのか? こんな夜更けまで? いつ帰ってきても分かるよう窓辺にいて?」
「……呆れましたか?」
「まさか。おまえが考えている以上に喜んでいるが?」
「もう、兄様ったら……」

 柔らかなベッドに腰掛け、横抱きにしたレミニシアの目尻に口付けを落とす。肩が小さく揺れるもレミニシアが異を唱えることはなかった。

「今日はマルグリット嬢に呼ばれていただろう。楽しめたか?」
「はい、とても! マルグリット様が教えてくださったのですが、学園のカフェテリアには知る人ぞ知る裏メニューがあるそうなのです!」
「裏メニュー?」
「元々は、その月の最後の週に余った果実や菓子などをスタッフが処理していた特別盛りなのだそうですが、たまたま見かけた生徒が『是非自分も食べたい!』と交渉した結果、ワガママ盛りと名称を変えて裏メニューとして並んだのだとか」

 マルグリット様と挑戦してみる約束をしました、とレミニシアがころころと笑う。
 だが、ふと快い笑い声が止まった。薄暗くとも、レミニシアの紫の瞳が、じっとイクシスを捉えて離さない。気遣わしげに揺れる瞳に、イクシスはレミニシアの肩を抱く手に力がこもる。

「……兄様は、何がありましたか?」
「不愉快な貴族共を見た。あそこまで厚顔無恥でいられるのはいっそ長所だろう」
「まあ。お優しい兄様がそのようなことを仰るなんて、本当に見るに堪えない方々だったのでしょうね」

 レミニシアのきれいな柳眉がきゅっと寄り、不快感を露わにする。イクシスを気遣い、我が事のように腹を立ててくれたことは嬉しかった。けれど、自分の前では笑っていてほしい。柔い頬を撫でるとレミニシアは気恥ずかしそうにしながらも、イクシスの手にそっと触れた。

「……おまえは私を優しいなどど言うが、誰かに優しくできるほど寛大な男ではない」
「そんなことはありません。兄様は本当に、いつもお優しくて、」
「それはおまえにだけだよ、レミニシア」

 レミニシアの頬に、ぱっと朱が走る。視線を右往左往させて、それから拗ねたように唇を尖らせた。

「……あまり、そのような戯れを仰らないでくださいませ。でないと私、調子に乗って痛い目に合いそうですもの」

 戯れでもなんでもない、嘘偽りのない真実だ。悲しませたくないと、笑っていてほしいと、その為ならばどんなことでもしようと思えるのは、レミニシアにだけなのだから。

 ────願わくは、私の隣で。

 冷ややかな声が奥底から響く。腕の中のぬくもりを手放さない為にも迷っている暇はないだろう、と。
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