少年王と時空の扉

みっち~6画

文字の大きさ
5 / 74

5 時を刻むエレベーター⑤

しおりを挟む
「ここ暗いね、父さん」
「ひるむな、隼斗。突き進め」
 一段が非常に高く、気を抜くと転がり落ちそうになる。
「母さんたち、ちゃんと付いてきてる?」
 踊り場で、隼斗は後ろを振り仰いだ。
 エレベーターホールのきらびやかな照明を背景に、仁王立ちの人影が、くっきりと浮かび上がって見えている。
「まだそこにいるの? 早く来てよ」
 それでも、その人影は全く動く気配がない。
 不満げな隼斗の耳元で、突然「いるわよ」と母の声がする。
「あれ? 母さん来てたの? それじゃあ、階段の上にいるのは、だれ?」
 母の隣に姉の姿もある。ほかのお客さんと見まちがえたのか、と隼斗は肩をすくめた。
 再び階段を下りようとする隼斗だったが、踊り場の正面の壁に、光の筋が浮かび上がっているのに気が付いた。
 それは、ちょうど隣の部屋にいる人間が、少しだけドアを押し開けて見せたかのような光だ。
 ドアなんてあっただろうかと隼斗は首をかしげたが、父はまるで気にするふうもなく手を伸ばす。
「非常口かな? なぁ、隼斗。向こう側をのぞいてみようか。……でも、ドアノブがないな」
 母とアカネも加わって探したが、やはり手をかけるノブも溝も見つからない。
「待って、父さん。これ、もしかして……」
 暗闇に目を凝らすと、扉の横の壁に、三角と逆三角のボタンがうっすらと光っている。
「エレベーターだよ!」
「ああ、そうだな。もう一基あったんだなぁ。よし、乗るか」
 しかし、父がボタンを押しても扉は開く気配を見せない。
 壊れているのかな、とため息を取り落とした隼斗は、ふいに背後に気配を感じて、あわてて振り返った。
「おめでとうございます」
 目の覚めるような青いスーツを着込んだ男が、営業スマイルを炸裂させて立っている。
「時空管理局主催、夏休み特別企画に当選しましたことを報告致します」
「――は?」
 大口を開けて、隼斗は首をかしげた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ママのごはんはたべたくない

もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん たべたくないきもちを ほんに してみました。 ちょっと、おもしろエピソード よんでみてください。  これをよんだら おやこで   ハッピーに なれるかも? 約3600文字あります。 ゆっくり読んで大体20分以内で 読み終えると思います。 寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。 表紙作画:ぽん太郎 様  2023.3.7更新

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

処理中です...