8 / 74
8 ドアが開くと砂の海③
しおりを挟む
放心した父に押し出されるようにしてエレベーターを出ると、そこは延々と続く砂の海だった。
「砂? ……砂漠だ! ねえ、ここエジプトなの?」
どういう構造なのかは知らないが、隼斗たちの乗ったエレベーターは砂漠のど真ん中に到着したものらしい。
「待て待て待て、待て、隼斗。砂漠がある国は、エジプトだけじゃないだろう」
「でもさ、エジプト展の副賞なんだよ? 逆にエジプトじゃないほうが、びっくりだって」
隼斗は駆け出した。
「うわぁ、すごい。なにこれ! どこまで行っても砂だらけ! くすぐったい」
沈むスニーカーになおも侵入してくる、砂。その感触に、踊り上がる。
まるで空中に縫いとめられたように動かない父母を置いて、隼斗とアカネはどんどん砂丘を登り始めた。
「ほら! 見てよ、あっちのほう!」
目を凝らして望む先に、きらきらまたたくひとつの線が見える。
川ね、とアカネがうなずいた。
「川だって? うそだ、だってここ砂漠だよ? あんなに大きな川があるわけないじゃん」
「……雨季、とか」
「じゃあ、あっちは? あれは、何?」
今度は真逆の方を向いて、隼斗は声を上げる。熱せられた砂漠のかなたに、おぼろげな三角形の何かが浮かび上がっていた。
「ピラミッド、じゃないかしら」
それでもアカネは、でもね、と隼斗の顔をのぞき込む。
「あんたの……それ、タブレットに、ギザって書いてあった」
「じゃあ、ギザなんじゃないの、ここ」
違うわ、と今度ははっきりとアカネは否定した。
「だって、本当にここがギザなら……ピラミッドは三つあるはずなのよ。ほら、クフ王、カウラー王、メンカウラー王って。知らない?」
言われた隼斗は、首をひねる。
「ほら、思い出して。よくテレビの特番でやっているでしょう。ギザは観光地化が進んでいて、スフィンクスの視線の先がファーストフード店だとか、なんとか、そういうの」
しかしここには、砂と川以外、現代風の建物など何もない。
「砂? ……砂漠だ! ねえ、ここエジプトなの?」
どういう構造なのかは知らないが、隼斗たちの乗ったエレベーターは砂漠のど真ん中に到着したものらしい。
「待て待て待て、待て、隼斗。砂漠がある国は、エジプトだけじゃないだろう」
「でもさ、エジプト展の副賞なんだよ? 逆にエジプトじゃないほうが、びっくりだって」
隼斗は駆け出した。
「うわぁ、すごい。なにこれ! どこまで行っても砂だらけ! くすぐったい」
沈むスニーカーになおも侵入してくる、砂。その感触に、踊り上がる。
まるで空中に縫いとめられたように動かない父母を置いて、隼斗とアカネはどんどん砂丘を登り始めた。
「ほら! 見てよ、あっちのほう!」
目を凝らして望む先に、きらきらまたたくひとつの線が見える。
川ね、とアカネがうなずいた。
「川だって? うそだ、だってここ砂漠だよ? あんなに大きな川があるわけないじゃん」
「……雨季、とか」
「じゃあ、あっちは? あれは、何?」
今度は真逆の方を向いて、隼斗は声を上げる。熱せられた砂漠のかなたに、おぼろげな三角形の何かが浮かび上がっていた。
「ピラミッド、じゃないかしら」
それでもアカネは、でもね、と隼斗の顔をのぞき込む。
「あんたの……それ、タブレットに、ギザって書いてあった」
「じゃあ、ギザなんじゃないの、ここ」
違うわ、と今度ははっきりとアカネは否定した。
「だって、本当にここがギザなら……ピラミッドは三つあるはずなのよ。ほら、クフ王、カウラー王、メンカウラー王って。知らない?」
言われた隼斗は、首をひねる。
「ほら、思い出して。よくテレビの特番でやっているでしょう。ギザは観光地化が進んでいて、スフィンクスの視線の先がファーストフード店だとか、なんとか、そういうの」
しかしここには、砂と川以外、現代風の建物など何もない。
0
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ママのごはんはたべたくない
もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん
たべたくないきもちを
ほんに してみました。
ちょっと、おもしろエピソード
よんでみてください。
これをよんだら おやこで
ハッピーに なれるかも?
約3600文字あります。
ゆっくり読んで大体20分以内で
読み終えると思います。
寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。
表紙作画:ぽん太郎 様
2023.3.7更新
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる