少年王と時空の扉

みっち~6画

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9 ドアが開くと砂の海④

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「あぁ、それ知ってる。前にお正月のクイズ番組でやってたのを見たよ。ねえ、父さん?」
 話を振るも、父は放心したまま砂を見つめている。
「もう帰るなんて言わないよね?」
 隼斗にとっては、ありえない現実にまゆをひそめるよりも、今が楽しければそれでいい。
 父は質問には答えず、「夢だよな」と何度も繰り返しつぶやきながら、腕時計を見下ろした。
「……午後四時か」
 扉が閉まるわ、と母がそう白な顔のままつぶやく。
 父がよろめきながら伸ばした指先が、虚空をつかんだ。扉を閉ざしたエレベーターは、見る見るうちに輪郭をぼやかし、最後には完全に消えてしまった。
「おれたち、とんでもないことに巻き込まれたのかも知れないぞ」
 頭を抱えた父は、隼斗の胸で揺れる金のメダルを忌々しげに見やった。
「どうして? すごいじゃん。きっとこれ、新開発のVRゲームなんじゃないの」
 つばを飛ばしながらコブシを握る隼斗の説には、だれも賛同しない。
「なんで? きっとそうだってば。でなきゃ、あんなのいないと思うし」
「あんなの?」
 不満げにアゴをしゃくる隼斗を見やり、父は目を細める。
「うん。あれ、あれ」
 うきうきと弾む隼斗の視線の先には、砂丘から突き出る巨大ミミズがそびえ立っていた。
 まるでビルのようなその姿を前に、皆の顔が引き締まる。
「おーいっ、こっちだよ」
 パンパンと両手を打ち鳴らして巨大ミミズを呼びつける隼斗を、父が抱きかかえた。
「やめろ!」
 その後のことばは、慎重にひそめられた。
「あんなのに襲われたら、ひとたまりもない……うわっ、来た来た来た! みんな、逃げろ!」
 父の掛け声で、一家は弾かれたように飛び出した。
 足場の悪い砂地の上は、夢を見ているときのように重くて進まない。
 隼斗のすぐ横を、アカネが走っている。肩にかけたボディバッグが揺れ、そのたびにストラップの鈴が、しゃらしゃら鳴った。
 音につられたのか、巨大なミミズは、まっすぐにアカネを追い始める。
「姉ちゃん、危ない! ……あっ!」
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