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35 太陽を背負った男⑤
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父には何か策があるのだと気づいた隼斗は、もっともらしく両腕を組んで胸に当てる。
「よいか! 何があろうと、この者に危害を加えてはならぬぞ」
父ヘムオンは、ぐるり群集を睨みつけた。
「石積み班長アムルをここに呼べ」
その名を聞いて、隼斗の心臓は飛び上がった。
彼には会いたくない。すがるように父に視線を送ったが、隼斗が何か言うより前に、騒々しくアムルが姿を見せた。
広場の入り口で膝を付いたアムルの胸に、例の黄金のメダルが揺れているのを見つけ、驚いた隼斗は思わず自分のメダルを握り締めた。
やはり、ふたつのメダルは違うものなのかと驚く隼斗をよそに、父ヘムオンは、アムルに対して厳しい顔を向ける。
「そのほう、この者の持ち物を盗んだそうではないか」
びくりと身を震わせたアムルは、目を伏せたままさらに身を沈ませた。
「いえ、これは……砂漠で倒れていたこの者を介抱した際、礼にと受け取った品でございます」
アムルはしゃあしゃあと言ってのけ、隼斗は怒りのあまり身を乗り出す。
「違う、盗んだくせに! ぼくは砂漠でアムルに助けてもらってなんか、ない」
「それでは言い分が違うではないか」
悪者を懲らしめる名奉行といった風情で、父ヘムオンは胸をそらせた。
いいえ、と激しく首を振り、アムルは穴が開くほど地面をねめつけながら、ことばを紡いだ。
「砂漠で出会ったとき、この者はすでに死にかけておりました。意識はもうろうとして、ことばも定かではなく……オレ、いや、私は自らの持ち物から水を取り出し、彼に与えました。その甲斐なく意識を無くしたこの者を私は死んでしまったものと思い込み、メダルを村に持ち帰りました。遺品として埋葬するために、です!」
どうか信じてくださいませ、とそこで初めてアムルは顔を上げた。
同情を誘う哀れな表情を浮かべ、父ヘムオンを見つめる。
「それなのにこの者ときたら、感謝の気持ちを持たず、私の仲間に暴力を加え、仕事を投げ出して逃走し……」
その唇が、止まった。長い長い沈黙のあと、アムルの唇が、ぶるりと震える。どうした、と待ちきれずに、父ヘムオンが先に動いた。
奇妙にゆがんでいたアムルのまゆ根が、ぴくり、とつり上がる。嫌な予感がした。
「よいか! 何があろうと、この者に危害を加えてはならぬぞ」
父ヘムオンは、ぐるり群集を睨みつけた。
「石積み班長アムルをここに呼べ」
その名を聞いて、隼斗の心臓は飛び上がった。
彼には会いたくない。すがるように父に視線を送ったが、隼斗が何か言うより前に、騒々しくアムルが姿を見せた。
広場の入り口で膝を付いたアムルの胸に、例の黄金のメダルが揺れているのを見つけ、驚いた隼斗は思わず自分のメダルを握り締めた。
やはり、ふたつのメダルは違うものなのかと驚く隼斗をよそに、父ヘムオンは、アムルに対して厳しい顔を向ける。
「そのほう、この者の持ち物を盗んだそうではないか」
びくりと身を震わせたアムルは、目を伏せたままさらに身を沈ませた。
「いえ、これは……砂漠で倒れていたこの者を介抱した際、礼にと受け取った品でございます」
アムルはしゃあしゃあと言ってのけ、隼斗は怒りのあまり身を乗り出す。
「違う、盗んだくせに! ぼくは砂漠でアムルに助けてもらってなんか、ない」
「それでは言い分が違うではないか」
悪者を懲らしめる名奉行といった風情で、父ヘムオンは胸をそらせた。
いいえ、と激しく首を振り、アムルは穴が開くほど地面をねめつけながら、ことばを紡いだ。
「砂漠で出会ったとき、この者はすでに死にかけておりました。意識はもうろうとして、ことばも定かではなく……オレ、いや、私は自らの持ち物から水を取り出し、彼に与えました。その甲斐なく意識を無くしたこの者を私は死んでしまったものと思い込み、メダルを村に持ち帰りました。遺品として埋葬するために、です!」
どうか信じてくださいませ、とそこで初めてアムルは顔を上げた。
同情を誘う哀れな表情を浮かべ、父ヘムオンを見つめる。
「それなのにこの者ときたら、感謝の気持ちを持たず、私の仲間に暴力を加え、仕事を投げ出して逃走し……」
その唇が、止まった。長い長い沈黙のあと、アムルの唇が、ぶるりと震える。どうした、と待ちきれずに、父ヘムオンが先に動いた。
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