14 / 37
14 虹色アンモナイト⑦
しおりを挟む
チョコレート色のコートの襟を立て、ルゥが先になって歩き出す。
草原と言うからには広大な場所を想像したが、ルゥが立ち止まったのは、商業ビルの乱立する建築予定地だった。
立ち退きのためすっかり寂しくなった一画に、小さな平屋が残されている。
ルゥは玄関先がよく見える場所に大河を連れていき、そこで待つように言った。
チャイムを鳴らすと、すぐに年老いた男が顔を出す。人好きのする笑みを浮かべた老人は、ひと通りルゥが話し終えると、「うれしいねぇ」と、くしゃりと目尻を下げた。
「すると、わしはそのきれいな化石の受取人にふさわしいと、選んでもらえたのじゃな」
アンモナイトを受け取るため、老人は両手を重ねた。その指先が虹色のアンモナイトに触れたとき、宙に光の玉が現れた。
驚きのあまり大河は声を上げたが、老人はまるで動じずルゥとことばを交わしている。
ひとつふたつ、またたきをする間に、光の玉はどんどん増えて空中を舞った。
「いつもありがとう、小さなお嬢さん。大切にするよ」
気のせいかとも思ったが、目をこすっても光は消えない。それどころか、まるで雪でも降り出したかのように一面、光の玉に包まれていく。
「捕まえて、大河」
いつの間にか戻っていたルゥが、両手を振り回して飛び跳ねている。
「触れるの、これ?」
「そう。あれは、伽藍堂が存在し続けるために必要なもの、なの」
そっと手のひらで受け取ると、淡い光の玉はいっそう輝きを増した。
大河が光の玉をかき集め、ルゥが小瓶に詰める。すぐに小瓶はいっぱいになった。
「もっと瓶はないの? まだまだ集められるのに」
「いいの、これに入るだけで。残りは大地に染み込んで、また空に上がっていくのよ」
大切な報酬を手に伽藍堂に戻ると、一気に踊り場まで駆け上がった。
「ただいま!」
大河が声を張り上げると、ルーレットが満面の笑みで出迎えてくれた。
「やあやあ、来ましたね。ふたりとも、ごくろうさまでした。さあ、その小瓶を見せてください。……とても良い光ですね。これでまた少しだけ、店が続けられますよ」
古い洋館では蒸気が噴き上がり、機械音がさらに大きく響き渡った。
「大河君、おかえりなさい」
草原と言うからには広大な場所を想像したが、ルゥが立ち止まったのは、商業ビルの乱立する建築予定地だった。
立ち退きのためすっかり寂しくなった一画に、小さな平屋が残されている。
ルゥは玄関先がよく見える場所に大河を連れていき、そこで待つように言った。
チャイムを鳴らすと、すぐに年老いた男が顔を出す。人好きのする笑みを浮かべた老人は、ひと通りルゥが話し終えると、「うれしいねぇ」と、くしゃりと目尻を下げた。
「すると、わしはそのきれいな化石の受取人にふさわしいと、選んでもらえたのじゃな」
アンモナイトを受け取るため、老人は両手を重ねた。その指先が虹色のアンモナイトに触れたとき、宙に光の玉が現れた。
驚きのあまり大河は声を上げたが、老人はまるで動じずルゥとことばを交わしている。
ひとつふたつ、またたきをする間に、光の玉はどんどん増えて空中を舞った。
「いつもありがとう、小さなお嬢さん。大切にするよ」
気のせいかとも思ったが、目をこすっても光は消えない。それどころか、まるで雪でも降り出したかのように一面、光の玉に包まれていく。
「捕まえて、大河」
いつの間にか戻っていたルゥが、両手を振り回して飛び跳ねている。
「触れるの、これ?」
「そう。あれは、伽藍堂が存在し続けるために必要なもの、なの」
そっと手のひらで受け取ると、淡い光の玉はいっそう輝きを増した。
大河が光の玉をかき集め、ルゥが小瓶に詰める。すぐに小瓶はいっぱいになった。
「もっと瓶はないの? まだまだ集められるのに」
「いいの、これに入るだけで。残りは大地に染み込んで、また空に上がっていくのよ」
大切な報酬を手に伽藍堂に戻ると、一気に踊り場まで駆け上がった。
「ただいま!」
大河が声を張り上げると、ルーレットが満面の笑みで出迎えてくれた。
「やあやあ、来ましたね。ふたりとも、ごくろうさまでした。さあ、その小瓶を見せてください。……とても良い光ですね。これでまた少しだけ、店が続けられますよ」
古い洋館では蒸気が噴き上がり、機械音がさらに大きく響き渡った。
「大河君、おかえりなさい」
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる