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犬の巣
世界のこと
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「事の始まりは、この国が反乱軍の戦争に敗れて、完璧に崩壊してしまったトコからだ。」
ヒビキは新しい煙草に火をつけ話し出した。が…「あぁ、俺あんま歴史詳しくないから細かなトコは頼むな…」とケンにそう言った。美奈子は愕然とした。今、この人は“私の住んでいた時代”を“歴史”といっている…。今更ながら、ぞっとする展開に自分が置かれている事を知る。
「昔は“今”の年代を詳しく言えるヤツはいなかったんだけど、土とか地層とか調べた結果、2350年ぐらいなんじゃねぇーかって話。――――なぁ?」
上の空のような口調で、美奈子のとってはとんでもない事を喋っている。テーブルの淵に右足を乗せブーツから折りたたみナイフを出し、テーブルの上に置いたので美奈子はギョッとした。
しかし、ヒビキは肩を竦めて笑って見せるだけだ。
“武器はもう持ってないから怖がるな”と言われたように感じた。
そして、“なぁ?”と話をふられたアキラは頷き、ヒビキの続きを引き受けた。
「壊滅状態だった世界をどうにか生き延びた人たちが、次々に子孫を増やして、国は復旧していったんだけど。人々はまた同じように、“政治”を立ち上げて、国をどうにかしようと話し合って、人間同士で差別をし、宗教で揉め、領土を奪い合い、木を育てては切り倒したんだ。核を作り、戦争を初め、殺し合い、殺した。数百年経過しても人間は相も変わらず同じ過ちを繰り返し続けた。
だから、そんな政府に反抗する人間ももちろん現れた。」
アキラの声は、こんなにも冷たかっただろうか。こんなにも心臓に突き刺さるような寂しい声をしていただろうか?
「このままじゃあ、せっかく立て直された国が2200年の世界崩壊同様…崩壊してしまうってことで、“政府”は頭を絞って、ここでやっと先代と別の行動をとり始めたわけ。力をもった政府は反乱軍による二度目の国の崩壊が無いように、あるチームを作り上げた。」
ヒビキの声は恐ろしいほど耳に残る。夢の中で囁かれる悪魔の声にも似た質の良いの声。
「そのチームに名は…なかったが…反論すれば直ちに銃を引くこと、その鍛えぬかれ、人並外れた瞬発力や忍耐力…攻撃力から“獣”だとか “悪魔”だとか言われてた。」
ヒビキはニシャリと笑う。その反対方向から穏やかな声質のはずのケンの声が聞こえた。しかし、その声は驚くほど冷たく冷めている。
「その上…政府の言いなりだったから、命令はどんな事でも従うっていうから…影では、皮肉交じりに…“政府の犬”なんて呼んでたヤツもいる。」
コクリと息を呑む。周りの声が何十にも響いて聞こえる。
何十にも何十にも、膨れ上がり、膨れ上がり…。
「…!」
美奈子は口を覆いそうになる。体がふわふわする。吐きそうだ。
視界が定まらないが、ヒビキのニシャリと笑っていた表情は今はもうそこには無く、彼女を見据えるように変化していた。顔だけははっきりと見える。そして…その形のいい唇が次の言葉を吐き出した瞬間、身体の浮遊感も、吐き気も、眩暈もビタリと止まった。まるでカメラのピントが一瞬にして合ったような感覚だった。
「それが俺達だったってわけ。」
ヒビキはそういうと、自分のシャツの襟を伸ばし、“それ”を見せた。
「このタトゥーはその証拠だ。」
服の間から覗いたヒビキ素肌から覗く右の鎖骨。そこには、先が槍のように尖った真っ黒い十字架に羽が生えたタトゥーがある。
気がつけば、ケンの左手の甲にも…、アキラの鎖骨にも…。シンの右足のふくらはぎにも…。
「“犬の烙印”さ…。」
「チームは拠り所の無い者・過去に犯罪を犯した者を集めて、30ほど作られていてね。瞬発力・忍耐・頭脳・集中力・攻撃力・すべてに徹底的な訓練を積まされて、最強のチームに仕立て上げられた俺等の仕事は反乱軍の抹殺や犯罪者の討伐だったんだ。」
アキラはゆっくり窓のほうへ近づくと窓を開け、雨戸を開けた。ひやりと肌寒い風が部屋の夜の香りを運びこむ。もうすっかり夜だ。ヒビキは窓をあけた途端に部屋のシャンデリアの電気を消した。
何となくだが、美奈子にも解った。“昔”の癖なのだろうと。
「任務は成功。街の人間も反乱軍のリーダーが雲隠れしたのと同時にすぐさま反抗しなくなった。誰もが死にたくは無かったんだ。国に逆らう事は死を意味したからな。」
美奈子は真っ青な顔でコクンの慎重に頷く
「だが…」とヒビキは煙草の煙を吐き出しながら呟く。夜の冷たい風が吹いて、ヒビキの手に挟まれた煙草の火種は彼の深紅の目のように赤い光を見せた。
「政府は時期に俺らに恐怖を感じ始めた。」
そう…、すべて冷酷なまでに仕事をこなす…“犬”に。
そして、時期に“犬”達の処刑を執行し始めたのだという。
“もし、俺達が裏切れば、勝ち目などない事を知っていたからだろーな”とヒビキは肩を竦めた。
反乱軍の肉親は彼等の体に銃弾が突き刺さるのを見て、怒鳴り散らしたという。
『息子を殺しやがって!! 息子を返せ! 快楽殺人犯め』
泣き叫び、怒鳴り散らす反乱軍の肉親の声に、政府という組織は嘲笑っていたとアキラはハッキリといった。おそらく、“ものの例え”ではなく、彼はその情景を目の当たりにしたのかもしれない。
『これで、政府に反抗しようとするものはいなくなるだろう』
嫌な声を思い出すようにアキラの顔が歪んでいた。
ヒビキはため息を零していった。
呆れ果てる…といった表情だったのに、その目はまだ恨みを忘れていないのが解った。こんな人間の目を美奈子は始めてみた。それでもその瞳の色が「怒り」や「憎しみ」「恨み」の色に染まっているのだと、見ただけでわかった。
「これが、 まったくその通りでね。計算通りに事は進み、住民は俺らが政府の意に反し、行動し…人殺しをしていたのだと言う政府の言い分を信じ込んだ。」
美奈子の口から「そんな…」と、か細い声が漏れる。ヒビキは美奈子のその表情をじっと眺めた。こんな反応を自分達は向けられたことは無い。哀れみや同情など…“向ける価値も無いもの”として扱われてきたのだから。同情はいらない!とよくテレビなどで喚いているが、人によるのかもしれない。今は少なくとも同情心を向けられた“憤り”も“屈辱感”も無く、ただ、目の前の穢れない少女に「平気だよ」と笑ってやりたい気になった。
「最後には“犬たちは快楽殺人犯だったんだ”という何の脈略も無い思い込みが噂になってね…、住民たちは俺達の仲間を罰した政府への不満を半減させていったんだよ。」
ケンの言葉はいつもシンに昔話を読み聞かせているような声とはかけ離れた、冷たく無感情な声でそう締めくくった。
「すべては政府の思う通りになった。」
アキラの言葉にヒビキが続ける。
「だから、俺達は逃げた。」
彼の声はその薄暗い部屋に広がったが、夜風がかき消していった。
ヒビキは新しい煙草に火をつけ話し出した。が…「あぁ、俺あんま歴史詳しくないから細かなトコは頼むな…」とケンにそう言った。美奈子は愕然とした。今、この人は“私の住んでいた時代”を“歴史”といっている…。今更ながら、ぞっとする展開に自分が置かれている事を知る。
「昔は“今”の年代を詳しく言えるヤツはいなかったんだけど、土とか地層とか調べた結果、2350年ぐらいなんじゃねぇーかって話。――――なぁ?」
上の空のような口調で、美奈子のとってはとんでもない事を喋っている。テーブルの淵に右足を乗せブーツから折りたたみナイフを出し、テーブルの上に置いたので美奈子はギョッとした。
しかし、ヒビキは肩を竦めて笑って見せるだけだ。
“武器はもう持ってないから怖がるな”と言われたように感じた。
そして、“なぁ?”と話をふられたアキラは頷き、ヒビキの続きを引き受けた。
「壊滅状態だった世界をどうにか生き延びた人たちが、次々に子孫を増やして、国は復旧していったんだけど。人々はまた同じように、“政治”を立ち上げて、国をどうにかしようと話し合って、人間同士で差別をし、宗教で揉め、領土を奪い合い、木を育てては切り倒したんだ。核を作り、戦争を初め、殺し合い、殺した。数百年経過しても人間は相も変わらず同じ過ちを繰り返し続けた。
だから、そんな政府に反抗する人間ももちろん現れた。」
アキラの声は、こんなにも冷たかっただろうか。こんなにも心臓に突き刺さるような寂しい声をしていただろうか?
「このままじゃあ、せっかく立て直された国が2200年の世界崩壊同様…崩壊してしまうってことで、“政府”は頭を絞って、ここでやっと先代と別の行動をとり始めたわけ。力をもった政府は反乱軍による二度目の国の崩壊が無いように、あるチームを作り上げた。」
ヒビキの声は恐ろしいほど耳に残る。夢の中で囁かれる悪魔の声にも似た質の良いの声。
「そのチームに名は…なかったが…反論すれば直ちに銃を引くこと、その鍛えぬかれ、人並外れた瞬発力や忍耐力…攻撃力から“獣”だとか “悪魔”だとか言われてた。」
ヒビキはニシャリと笑う。その反対方向から穏やかな声質のはずのケンの声が聞こえた。しかし、その声は驚くほど冷たく冷めている。
「その上…政府の言いなりだったから、命令はどんな事でも従うっていうから…影では、皮肉交じりに…“政府の犬”なんて呼んでたヤツもいる。」
コクリと息を呑む。周りの声が何十にも響いて聞こえる。
何十にも何十にも、膨れ上がり、膨れ上がり…。
「…!」
美奈子は口を覆いそうになる。体がふわふわする。吐きそうだ。
視界が定まらないが、ヒビキのニシャリと笑っていた表情は今はもうそこには無く、彼女を見据えるように変化していた。顔だけははっきりと見える。そして…その形のいい唇が次の言葉を吐き出した瞬間、身体の浮遊感も、吐き気も、眩暈もビタリと止まった。まるでカメラのピントが一瞬にして合ったような感覚だった。
「それが俺達だったってわけ。」
ヒビキはそういうと、自分のシャツの襟を伸ばし、“それ”を見せた。
「このタトゥーはその証拠だ。」
服の間から覗いたヒビキ素肌から覗く右の鎖骨。そこには、先が槍のように尖った真っ黒い十字架に羽が生えたタトゥーがある。
気がつけば、ケンの左手の甲にも…、アキラの鎖骨にも…。シンの右足のふくらはぎにも…。
「“犬の烙印”さ…。」
「チームは拠り所の無い者・過去に犯罪を犯した者を集めて、30ほど作られていてね。瞬発力・忍耐・頭脳・集中力・攻撃力・すべてに徹底的な訓練を積まされて、最強のチームに仕立て上げられた俺等の仕事は反乱軍の抹殺や犯罪者の討伐だったんだ。」
アキラはゆっくり窓のほうへ近づくと窓を開け、雨戸を開けた。ひやりと肌寒い風が部屋の夜の香りを運びこむ。もうすっかり夜だ。ヒビキは窓をあけた途端に部屋のシャンデリアの電気を消した。
何となくだが、美奈子にも解った。“昔”の癖なのだろうと。
「任務は成功。街の人間も反乱軍のリーダーが雲隠れしたのと同時にすぐさま反抗しなくなった。誰もが死にたくは無かったんだ。国に逆らう事は死を意味したからな。」
美奈子は真っ青な顔でコクンの慎重に頷く
「だが…」とヒビキは煙草の煙を吐き出しながら呟く。夜の冷たい風が吹いて、ヒビキの手に挟まれた煙草の火種は彼の深紅の目のように赤い光を見せた。
「政府は時期に俺らに恐怖を感じ始めた。」
そう…、すべて冷酷なまでに仕事をこなす…“犬”に。
そして、時期に“犬”達の処刑を執行し始めたのだという。
“もし、俺達が裏切れば、勝ち目などない事を知っていたからだろーな”とヒビキは肩を竦めた。
反乱軍の肉親は彼等の体に銃弾が突き刺さるのを見て、怒鳴り散らしたという。
『息子を殺しやがって!! 息子を返せ! 快楽殺人犯め』
泣き叫び、怒鳴り散らす反乱軍の肉親の声に、政府という組織は嘲笑っていたとアキラはハッキリといった。おそらく、“ものの例え”ではなく、彼はその情景を目の当たりにしたのかもしれない。
『これで、政府に反抗しようとするものはいなくなるだろう』
嫌な声を思い出すようにアキラの顔が歪んでいた。
ヒビキはため息を零していった。
呆れ果てる…といった表情だったのに、その目はまだ恨みを忘れていないのが解った。こんな人間の目を美奈子は始めてみた。それでもその瞳の色が「怒り」や「憎しみ」「恨み」の色に染まっているのだと、見ただけでわかった。
「これが、 まったくその通りでね。計算通りに事は進み、住民は俺らが政府の意に反し、行動し…人殺しをしていたのだと言う政府の言い分を信じ込んだ。」
美奈子の口から「そんな…」と、か細い声が漏れる。ヒビキは美奈子のその表情をじっと眺めた。こんな反応を自分達は向けられたことは無い。哀れみや同情など…“向ける価値も無いもの”として扱われてきたのだから。同情はいらない!とよくテレビなどで喚いているが、人によるのかもしれない。今は少なくとも同情心を向けられた“憤り”も“屈辱感”も無く、ただ、目の前の穢れない少女に「平気だよ」と笑ってやりたい気になった。
「最後には“犬たちは快楽殺人犯だったんだ”という何の脈略も無い思い込みが噂になってね…、住民たちは俺達の仲間を罰した政府への不満を半減させていったんだよ。」
ケンの言葉はいつもシンに昔話を読み聞かせているような声とはかけ離れた、冷たく無感情な声でそう締めくくった。
「すべては政府の思う通りになった。」
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