GELADEN~装弾済み~

如月 風佳

文字の大きさ
9 / 29
犬の巣

疑問

しおりを挟む
 「…」

気を失っている美奈子を凝視するケン。

「ケン、どうかした?」

アキラの言葉にケンはスッと指を指した。美奈子の左手を。
それにしても、指一本でも見事に“清潔感”を醸し出してくる手だ。

「これ、見て…」

押し黙るような声に周りは美奈子の左手に注目する。

「時計か…?」

「腕時計だよ…」

ヒビキが最初に疑問符で尋ねたのはあまりにもそれが十代の女の子の持つような物の状態ではなかったからだ。酷く錆びて止まっている。文字盤は埃で曇ってしまっていて、見えないほどだ。

「これ…、何で錆びてるんだと思う?」

ケンの言葉に周りは顔を見合わせて、首を傾げた。
ヒビキはホールドアップして見せ、美奈子を寝かせたソファーの向かいに座り、銃を出すとシリンダーを外し、弾を詰め始めた。

その時、美奈子が目を覚ました。

「あ、目覚ました!」

シンがそう叫んで美奈子の飛びついた。美奈子は酷い夢の続きを見るハメになった人間のように一瞬で顔が真っ青になったが、「すみませんでした…」と詫びてきた。
すかさず、アキラが笑って見せる。

「いやいや、悪いのはコイツだから☆」

と、ヒビキを親指で指す。美奈子は目を凝らしてヒビキを見た。

「……」

向かいのソファーにドッシリと座り、煙草を咥えたヒビキが“何か”を磨いている。
その“何か”がさながら、映画の中でしか見たことが無いような形状をしていたので美奈子は思わず仰け反った。

「そ…そっ…!」

腰を抜かしたような美奈子の反応にヒビキは「そ?」と首を傾げつつ、煙草の火種をクイッと持ち上げて、煙に顔を顰めながら“銃に弾を込めている”!!!

「じ…っじゅっ!!」

「じゅ?」

また首を傾げてくるヒビキに美奈子は「えっとぉ…」と息を呑んでから…。

「そ、それ…本物ですか?」

「当たり前だろ?」

スパッと返ってきた言葉に美奈子はひっくり返りそうになった。今までの生活では“銃っぽい物”を“本物ですか?”と問うた時に返ってくる答えといったら…

『「まっさかぁ~…」』

だったのにっ!!! 
思わず、ヒビキの答えに「まっさかぁ~」と言ってしまっていた美奈子にヒビキは平然と言った。

「いやいやマジで。」

「…」
(マジでかっっ!!!)

その言葉に何処まで突き落とされたか…。なんでこの人…銃なんか持ってんの?!!そういえば、さっきシンが飛び出してきたときもアキラと共に即座に銃を構えていたのを見たけどっっ!!

 「あっ!!!!」

美奈子はパンッと手を叩いた。それにヒビキ以外の周りがビクリと反応する。とても面白く珍しい生き物が珍行動をとるのを見ている観客のようだった。

「解った!!解りました!!! ヒビキさん警察官だ!!!」

その言葉にヒビキはあの美しい深紅の瞳を丸く見開いた後、大爆笑し始めた。

「私服警察官っ!そうですよねっ!!」

「私服警察官!!!!」

大爆笑のヒビキにアキラとケンも口を覆う。笑いを噛み殺しているのだ。

「いやぁ、それは絶対に無いと思うなぁー…、」

「ヒビキが警察官…っっ!!」

アキラが背中を向けて密かに笑い始めた。

「えっと…ぉ、じっ…じゃあ…軍人さん?」

ニッポンの軍人が銃を持つのだかどうだかよく解らないが、とりあえず美奈子の頭にはそれぐらいの職種しか出てこなかった。ヒビキはまだ笑っている。合成側の安っぽいソファーに顔を埋めて…。

「ち、違うんですか…」

なんだか、いろいろ不安になってきた。この人たち何者だろう。

「俺は1番近いと思ったけど?」

ケンの言葉にヒビキは笑いをようやく収め、ニシャリと美奈子に笑って見せた。

「俺らがなんで銃を持ってるか…、教えてやろうか?」

その挑発的な顔といったら、ゾクリとさえした。悪魔のように笑うから。

「犯罪者だから。」

その良質の声から零れたイタズラっぽい言葉に、美奈子はまた気が遠くなるのを感じた。
周りではアキラとケンがため息をつき、頭を抱えているのが解った。


 「このカバっ!」

アキラのチョップがヒビキの頭に直撃する。

「いってぇーなっ!ホントの事だから仕方ないだろっ!!? ここは2350年だし、俺らは犯罪者だろうがよ…。それとも、“殺し屋”って言えばよかったか?」

「どっちも止めろ…。」

アキラは目を伏せ、頭痛に耐えるような重々しい表情をした。美奈子は…今度は気を失わなかった。しかし、何を問いかけてもボンヤリと天井を見ているだけで応答が無い。今、シンが必死に置いてあった本で美奈子に風を送っているところだ。一瞬にして高熱を出した脳みそを少しでもさませられる結果になればいいのだが…。

ヒロはケンの指示で部屋から出て行き、濡らしたタオルをもって帰ってきた。センスの欠片も無い感じに美奈子の頭にタオルを置く。まるで温泉にでも浸かっているように。

「美奈子ちゃんにしてみれば、2004年がテロで崩壊したって聞かされたほうがマシだったかもしれないね…」

別の部屋から替えの電球を発見したケンは不似合いな部屋の照明、シャンデリアの電球を取り替えていた。

もう夜になってきた…。電気が無いのはさすがにキツイだろう。自分達はいいとしても女の子二人は不安だろうと気を回したのだった。

台に乗って電球を取り替えているケンの言葉にヒビキは「そうか?」と顔を顰める。

「君の言い方がもっとマシだったらそうじゃなかったかもしれないけどね。」

呆れるように微笑むケン。その手が電球をセットし終わるとパッと灯りがともった。

 「あの…」

か細い声で美奈子が何か言った。「大丈夫?」とケンがトンと台から降りると顔を覗き込んでくる。

「私には、ヒビキさんや皆さんは普通の方々に見えます。」

その言葉に周りの雰囲気が少しだけ変わった。

「普通?普通に見える?!やった!ケン!やったね!!普通だって!!」

シンは目を輝かせて、美奈子に飛びついた。嬉しい!!!と。ケンは何も答えないままだった。

「違うだろ。」

それを一括するようなヒビキの声にシンはビクリと体を縮めた。ヒビキは美奈子に歩み寄り、彼女の小さい輪郭の先を指で持ち上げた。

「“人を殺したにしちゃあ普通”って言う意味だろ。“普通”の人間のように振舞ってるって…。」

美奈子はその眼力に蛇に睨まれた蛙のように硬直し動けなくなった。
なんという気迫だろうか。普通の男性から醸し出るそれとは桁が違う。今までこんな見据えられただけで動けなくなるような事があっただろうか?

「俺らは慣れてるんだよ…。」

 “慣れてる?”と聞き返えしたつもりだったのだが、口からは空気しか発せられていなかった。

「教えてやるよ…、お前らの時代…2004年の先にある未来(今)を。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...