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犬の巣
優しい人殺し
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「…」
無意識につかみ取っていた。そして、刃を出し…首筋に当て…
「おい。―――それぐらいの力じゃ楽に死ねないぜ?」
その声にビクリとしてナイフを取り落とした。窓枠に肘をついたヒビキが美奈子をじっと見ていた。
「あ…あの…」
美奈子の狼狽をよそにヒビキは軽々と窓から部屋へと入ってくると、美奈子の歩み寄りその足元にあるナイフを拾った。
「死にたいんだろ?それって結構…力いるんだぜ?」
その言葉に口篭る。正直答えられない。信じていたものが打ち破られ、親も友達もいない異国の未来の世界にいきなり放り出されたのだ。どんな言葉を聞いても、頭は生きていたいと思っていても、気持ちは死に向かって当然だとも思う。
「…わかりません…死にたいのか…」
ヒビキは少し彼女を見た。
「そうか…」
解かる、その気持ちは…
信じていたものがなくなってしまった瞬間と言うのは…
大体、消え失せてしまいたい気持ちになる。
しかも、それが幼い頃から信じていた物なら尚更である。
どんな言葉をかけられようとも打ち消せないものだ。それは仕方が無いと思う。
(十枚の金貨で母親が帰ってくるはずないつーの…)
幼い頃の自分の事を思い出した。10歳になる前のこと。運び屋として働く前のこと…。運び屋を辞めた日のこと…。
(そりゃあ…死にたくなるよな…)
「まったく…」
ため息混じりに呟く。畜生、俺、女は殺さない主義なんだけどなぁ。
「はいはいはい…じゃあ、撃つよ。」
ヒビキは銃を向けた。
――― カチャ…
「え?」
自分に何が向けられていたのかはっきり言えば、理解できなかった。なんだろう、コレ。
冷たい鉛が額に押し当てられる。
「殺してやるよ。死にたいんだろ。俺流の優しさだ。」
ガチャリとその威力を物語るハンマーの重みのある音。
「俺、女は殺さんタイプなんだけどね。お前好きだからさ。苦しんでるの見たくないわ。」
少し笑った笑顔に美奈子は大声で泣き出した。
怖いのではなかった。
癒されたのだ。この言葉に。虐めや家庭での問題…死にたいと思っても死ねなかった。怖くて怖くて死ねなかった。
誰かが、そっとベッドに寝ている自分に毒を注射してくれないかと祈っていた…。
誰か自分を連れ出して、痛みもなく殺してくれないかと祈った。
トラックの前に誰か突き飛ばしてくれないかと祈っていた。
それでも昨日と同じように朝が来て、
学校に行かなければならなかった。
死にたい…ではなく、
この世から消えうせたかったのだ。
『私ね、美奈子が殺してって本気で言ったら、殺してあげられる人になりたいよ。その人のために罪を被ってあげるの。』
唯は、少し悲しそうに笑った。
美奈子は「ありがとう」と笑ったが…実際は“殺してくれ”などど言い出せるはずがなかった。
自分の為に彼女を罪人にする事なんて出来なかったし、心を傷つける事なんて出来なかった。
自分を殺した罪悪感で死んでもらってはこちらが辛いのだ。
ヒビキは美奈子が泣き出したので優しく微笑んだ。
「死にたくなったら、いつでも殺してやるから。まだもう少しだけ、頑張れよ…。」
美奈子は頷いた。彼なら、自分を殺した罪悪感に耐えてくれるだろう。覚えていてくれるだろう。罪はもう数え切れないほど背負っているから、自分を殺した罪に囚われることは無いだろう。
「どうして…そんな事言ってくれるんですか…?」
鼻を啜りながら、問いかけた。
ヒビキは苦笑する。
「お前だけに教えてやろうか…?」
ニヤと笑うヒビキが覗き込んできた。
「え…。」
「俺もそれを望んだから…」
そう言って美奈子の髪を撫で、ソファーに座るように促す。深くソファーに座り、泣いている女の髪を撫でる。彼は年上であるから故…と言うより、その生きてきた過程の濃さから形成された慣れがあった。女に対してだけではなく、酷い過去を持つ者を何度もこうしてきたのかもしれない。落ち着きがあり、受け止められる器あってこその表情だった。
例えば彼の雰囲気を2004年の男性は同じ年で醸し出せるだろうか?
只ならぬ過去があると人間大人びて見えるものである。
一体ヒビキはいくつなのだろう…。
無意識につかみ取っていた。そして、刃を出し…首筋に当て…
「おい。―――それぐらいの力じゃ楽に死ねないぜ?」
その声にビクリとしてナイフを取り落とした。窓枠に肘をついたヒビキが美奈子をじっと見ていた。
「あ…あの…」
美奈子の狼狽をよそにヒビキは軽々と窓から部屋へと入ってくると、美奈子の歩み寄りその足元にあるナイフを拾った。
「死にたいんだろ?それって結構…力いるんだぜ?」
その言葉に口篭る。正直答えられない。信じていたものが打ち破られ、親も友達もいない異国の未来の世界にいきなり放り出されたのだ。どんな言葉を聞いても、頭は生きていたいと思っていても、気持ちは死に向かって当然だとも思う。
「…わかりません…死にたいのか…」
ヒビキは少し彼女を見た。
「そうか…」
解かる、その気持ちは…
信じていたものがなくなってしまった瞬間と言うのは…
大体、消え失せてしまいたい気持ちになる。
しかも、それが幼い頃から信じていた物なら尚更である。
どんな言葉をかけられようとも打ち消せないものだ。それは仕方が無いと思う。
(十枚の金貨で母親が帰ってくるはずないつーの…)
幼い頃の自分の事を思い出した。10歳になる前のこと。運び屋として働く前のこと…。運び屋を辞めた日のこと…。
(そりゃあ…死にたくなるよな…)
「まったく…」
ため息混じりに呟く。畜生、俺、女は殺さない主義なんだけどなぁ。
「はいはいはい…じゃあ、撃つよ。」
ヒビキは銃を向けた。
――― カチャ…
「え?」
自分に何が向けられていたのかはっきり言えば、理解できなかった。なんだろう、コレ。
冷たい鉛が額に押し当てられる。
「殺してやるよ。死にたいんだろ。俺流の優しさだ。」
ガチャリとその威力を物語るハンマーの重みのある音。
「俺、女は殺さんタイプなんだけどね。お前好きだからさ。苦しんでるの見たくないわ。」
少し笑った笑顔に美奈子は大声で泣き出した。
怖いのではなかった。
癒されたのだ。この言葉に。虐めや家庭での問題…死にたいと思っても死ねなかった。怖くて怖くて死ねなかった。
誰かが、そっとベッドに寝ている自分に毒を注射してくれないかと祈っていた…。
誰か自分を連れ出して、痛みもなく殺してくれないかと祈った。
トラックの前に誰か突き飛ばしてくれないかと祈っていた。
それでも昨日と同じように朝が来て、
学校に行かなければならなかった。
死にたい…ではなく、
この世から消えうせたかったのだ。
『私ね、美奈子が殺してって本気で言ったら、殺してあげられる人になりたいよ。その人のために罪を被ってあげるの。』
唯は、少し悲しそうに笑った。
美奈子は「ありがとう」と笑ったが…実際は“殺してくれ”などど言い出せるはずがなかった。
自分の為に彼女を罪人にする事なんて出来なかったし、心を傷つける事なんて出来なかった。
自分を殺した罪悪感で死んでもらってはこちらが辛いのだ。
ヒビキは美奈子が泣き出したので優しく微笑んだ。
「死にたくなったら、いつでも殺してやるから。まだもう少しだけ、頑張れよ…。」
美奈子は頷いた。彼なら、自分を殺した罪悪感に耐えてくれるだろう。覚えていてくれるだろう。罪はもう数え切れないほど背負っているから、自分を殺した罪に囚われることは無いだろう。
「どうして…そんな事言ってくれるんですか…?」
鼻を啜りながら、問いかけた。
ヒビキは苦笑する。
「お前だけに教えてやろうか…?」
ニヤと笑うヒビキが覗き込んできた。
「え…。」
「俺もそれを望んだから…」
そう言って美奈子の髪を撫で、ソファーに座るように促す。深くソファーに座り、泣いている女の髪を撫でる。彼は年上であるから故…と言うより、その生きてきた過程の濃さから形成された慣れがあった。女に対してだけではなく、酷い過去を持つ者を何度もこうしてきたのかもしれない。落ち着きがあり、受け止められる器あってこその表情だった。
例えば彼の雰囲気を2004年の男性は同じ年で醸し出せるだろうか?
只ならぬ過去があると人間大人びて見えるものである。
一体ヒビキはいくつなのだろう…。
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