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一話完結:私にお尻を向けているので、八つ当たりで、蹴り上げました。

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「あ~、魔法実験室に忘れ物しちゃった」

 王立魔法学園、高等部2年生、伯爵令嬢、銀髪、青緑の瞳、自称美人のカズミンです。

 急いで実験室に戻り、入りました。
 部屋の中には、誰もいません。

「あれ? ラベンダーの香り……」

 するはずのない、花の香りがした気がします。
 周りを見渡すと、机の上に、作動しっぱなしの魔法陣がありました。

 あ、暴走している、「やば!」 爆発する!
 まぶしい、巻き込まれた、私、終わった……


 目を開くと、吹き飛んだドアが、目の前にあります。
 ここは……実験室の前の、廊下です。


 爆発に巻き込まれたはずなのに……

「大丈夫か? カズミン」

 私の手を、トキヲカ君が引っ張っています。
 彼は、黒髪に黒の瞳で、イケメンです。

「なに? なにがあったの?」

 私の記憶が混乱しています。とにかく“何か”を知りたいです。

 いや、その前に、手を放して、気になっている男子と手をつないでいるなんて、私は幸せ者です。


「伯爵令息が、魔法陣を開きっぱなしにしたんだ」
 トキヲカ君が、教えてくれました。


「知っていたなら、早く魔法陣を閉じなさい!」
 私は、顔だけ、激おこプンプンです。

 彼は、ガッツリ落ち込んで、四つん這いになってしまいました。

 私にお尻を向けているので、八つ当たりで、蹴り上げました。

「あ!」、股間に入っちゃった。

 ピコーンと音がして、トキヲカ君の頭の上に“+1”の表示が出たような気がしました。


「大丈夫? トキヲカ君?」

 悶絶している彼を、どうやって助けたらいいのか、わからず、私はオロオロするだけです。

    ◇

「厩舎が火事よ!」
 教室の中で、帰り支度をしていた時でした。

 友人の令嬢が、知らせてくれました。


 私のお気に入りの馬が心配なので、厩舎を見に行きます。

「あれ? ラベンダーの香り……」

 するはずのない、花の香りがした気がします。

 校舎の角を、厩舎の方へ曲がると、
 暴走した馬が、目の前に迫っています!

 あ、暴走している、「やば!」 轢かれる!
 馬のお腹が見える、私、終わった……


 恐る恐る目を開くと、曲がる手前にいました。
 暴走した馬が、目の前を通り過ぎていきます。

「大丈夫か? カズミン」

 私の手を、トキヲカ君が引っ張っています。

「なに? なにがあったの?」

 私の記憶が混乱しています。とにかく“何か”を知りたいです。

 また、彼と手をつないでしまいました。このまま、時が止まって欲しいです。


「伯爵令息が、火炎魔法を暴発させたんだ」
 トキヲカ君が、教えてくれました。


「気が付いたのなら、すぐに消火しなさい!」
 私は、顔だけ、激おこプンプンです。

 彼は、ガッツリ落ち込んで、四つん這いになってしまいました。

 私にお尻を向けているので、八つ当たりで、蹴り上げました。

「あ!」、股間に入っちゃった。

 ピコーンと音がして、トキヲカ君の頭の上に“会心の一撃:+3”の表示が出たような気がしました。


「大丈夫? トキヲカ君?」

 悶絶している彼を、どうやって助けたらいいのか、わからず、私はオロオロするだけです。

 以前も、こんな事、あったよね……なんだか、デジャブです。

    ◇

「大丈夫? ごめんね」

 まっすぐに立てないトキヲカ君を支えて、火事騒ぎで誰もいない治癒室に来ました。

「し、しばらく安静にすれば、大丈夫だから」
 彼の顔には、まだ油汗が浮かんでいます。


「あのさ、私は終わったと思ったけど、目を開けると生きていて、“何か”おかしいの」

 まとまりのない疑問を、彼に話します。

「実は、俺がやった」
 なんと、トキヲカ君が、白状しました。

「カズミンの記憶を、消すのを忘れたから」
 は? 突拍子もないことを言い始めました。


「俺は、巻き戻しのスキルを持っている」

 ひ? 一夜の夢物語ですか?

「未来では、魔王の復活が迫っているが、聖女が既に事故で亡くなっていて、復活を止められない問題が出ている」

 ふ? 復活? 魔王?

「それで、俺は、この時間軸まで戻り、事故で亡くなる前に聖女を助けた」

 へ? 聖女って、誰?

「しかし、巻き戻しのスキルには回数制限があって、実験室の事故で最後の1回を使ってしまい、俺は元の時間軸に戻れなくなった」

 ほ? 私のせいなの?

「でも、カズミンから蹴られたら、回数が増えた」
「これで、未来へ帰ることができる」

 ちょっと待って、帰るって、何?

「貴女の前に、いつか再び別の人間として現れ、再会する」

 ラベンダーの香りが……


「サヨナラだ」

 突然すぎますって!

「待って、私、トキヲカ君のことが……」


    ◇


 世界の人々から、トキヲカ君の記憶が、消えました。

「トキヲカ君、また消し忘れている」

 彼は、私の記憶の消去を、また忘れたようです。でも、ワザとかも。

 スキルは、巻き戻しじゃないし。ホントにどこか抜けているのよね。


 友人の令嬢から、伯爵令息が私と付き合いたいと言っていると、聞きました。

 令嬢に「断って」とお願いしたら、落ち込んだ伯爵令息を、令嬢が慰めています。
 いい雰囲気です。少しうらやましいと思いました。


   ◇


 卒業を前に、伯爵令息と友人の令嬢が婚約しました。

 おっちょこちょいの令息と、しっかり者の令嬢は、お似合いのカップルです。



 私は、トキヲカ君と会えるのを、ずっと待っています。

 今日、王立薬草研究所から、採用通知が届きました。


 中には、ラベンダーの押し花が同封され、「愛するカズミンへ」と、第二王子のサインがありました。



 ━━ FIN ━━





【後書き】
お読みいただきありがとうございました。
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