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一話完結:どういう事? どっちも王子みたいですよ

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「ギンチヨ様、また、婚約者がいらっしゃいました」

 侍女のジジが、あわてた様子で、第1応接室に入って来ました。


「は?」
 私は、侯爵家の令嬢、銀髪のギンチヨ、18歳です。

 今、私を迎えに来た婚約者、隣国のクロガネ王子と、にこやかに、お茶を楽しんでいるところです。



「婚約者のクロガネ王子は、私の目の前にいらっしゃいますよ」

 目の前のクロガネ王子は、黒髪のイケメンです。私より少し年上に見えます。


「ギンチヨ嬢、重婚は罪ですよ」
 クロガネ王子は、冗談めかして、言いました。

「だから言ったのに……」
 そう言った彼は、クロガネ王子の従者です。

 黒髪のイケメンですが、不機嫌そうな顔です。見た目は、若いですね、私と同年代でしょうか。


「私の婚約者は、隣国のクロガネ王子様、ただ一人です」

 両国の絆を強固にするための政略結婚に、重婚などありえません。

「それが、その婚約者の方も、クロガネ様と名乗っていまして……」

 侍女のジジは困っています。ここで冷静にならねば! と、思いましたが、こんなの無理です。


「べ、別室に通しなさい」

 今日は他に来客の予定がありませんので、第2応接室が空いているはずです。

 お父様とお母様は、既に登城していますので、呼び戻すのに、時間がかかります。


「クロガネ王子様、少々、席を外させて頂きます」

「僕はかまわないよ」
 彼は微笑んでいますが、内心は怒っているのだと思います。


    ◇


 第2応接室に入ります。

「お待ちしておりました、クロガネ王子様、ギンチヨでございます」

「初めまして、クロガネです。素晴らしい令嬢と婚約できることを幸せに思います」

 彼も、黒髪のイケメンです。にこやかに挨拶を交わします。私と同年代に見えます。

 横に、黒髪でイケメンの従者が立っています。こちらは少し年上のような感じです。

「長旅でお疲れのことと思います。ここで、しばらくご休憩をお願いします」

 そう言って、第2応接室を出ます。


    ◇


「どういう事、ジジ? どっちもクロガネ王子みたいですよ」

「私だってわかりませんよ」

 二人で、オロオロしてしまいます。


「そうだ、護衛の兵はどうなの? 人数が多い方が、きっと本物よ」

「最初のクロガネ様は東門、次のクロガネ様は西門から入りまして、どちらも同じ規模の護衛兵が、門前に待機しています」

「それなら、どちらも本物?」


「ただ、隣国の王子様の護衛にしては、どちらも兵の人数が、少ない感じがします」

「なら、どちらも偽物?」
 もう、訳が分かりません。


「そうだ、おじい様なら、クロガネ様の顔を知っているはずです。すぐに呼んできてちょうだい」

「それが、どこに行ったか分からなくて……」


「また、メイドさんのお尻を追いかけているですね、好色ジジィが!」

「仕方ないです、二人の王子を大会議室に通しなさい。事情を話して、どちらが本物か、確かめます」


「それから、紛らわしいので、最初のクロガネ王子を第1、次のクロガネ王子を第2と、区別して呼びましょう」



    ◇



「僕が、本物のクロガネです」

「いや、俺が本物のクロガネだ」

 二人の主張が真っ向から対立します。

 二人を並べてみると、第1クロガネ王子の黒髪は少し青っぽく光り、第2クロガネ王子の黒髪は少し赤っぽく光ります。

 どちらも、姿絵と似ています。


「早速ですが、本物のクロガネ王子様は、胸にキズが残っていると釣書に書いてありましたので、申し訳ありませんが、胸を見せて頂けませんか?」

 二人のクロガネ王子がボタンを外します。

「まさか……」

 二人とも鍛え上げられた大胸筋で、ほれぼれと…… いや、どちらも胸にキズが見えます。どちらも本物です。


「ジジ、例の物を」

「承知しました」

 猫のカールを大会議室に入れました。


 クロガネ王子は、猫好きですが、猫アレルギーであることも、釣書に書いてありました。

「「「「はくしょん!」」」」

 二人の王子と、二人の従者、全てクシャミをしました。

「なんてこと……」

 隣国は、全員、猫アレルギーなんですか?


「僕は、国の宝剣を持ってきている。証拠として見せようか?」

 第1クロガネ王子が言いましたが、宝剣が本物か当家の誰も見分けることが出来ないので、無駄です。


「俺は、国の秘密事項を知っている。証拠として話そうか?」

 第2クロガネ王子が言いましたが、そんな秘密事項が本当かどうかなんて当家の誰も判らないし、本当だったら聞いた者が消される恐れがあります。


「万事休すですね」
 策が尽きました。


「あ、こら!」
 ジジが、声を上げました。

 猫のカールが箱から逃げて、部屋を走り回っています。

 ずいぶんと昔に隣国から贈られた猫なので、久しぶりの隣国の香りに興奮しているようです。

「捕まえて下さい」
 ジジが追いかけます。

「よぉ、カール、久しぶりだなぁ」

 従者の一人が猫のカールを抱き上げて、箱に入れてくれました。

「へ~くしょん!」
 オヤジみたいなクシャミをする従者さんです。


「ジジ、猫を外に出して」

 ジジが、猫のカールを入れた箱を持って、一旦、廊下に出ました。


「ギンチヨ様、おじい様を捕まえました」
 ジジが、好色ジジィを連れて、入って来ました。

「おじい様、助けて下さい。隣国のクロガネ王子様が、二人いるんです。どちらが、私の婚約者なのか、確認をお願いします」

 この好色ジジィが最後の切り札です。


「男の顔を見ても、つまらんなぁ」

 と言いつつ、おじい様は、二人のクロガネ王子を見ました。

「ん? どちらもクロガネちゃんじゃ無いよ、お色気が足りん」

 おじい様は、期待通りの答えを出しました。

「ありがとうございました、おじい様」


「では、この方がクロガネ王子様ですね」
 私は、もう一人を示します。

「おぅ、クロガネちゃん、久しぶりじゃな、色っぽいおねえちゃんを紹介してくれんかの~」

 言われた第1クロガネ王子の「従者」が、答えに困っています。



「クロガネ王子様、色っぽいおねえちゃんとは、どういうことですの?」

 私は、声を一段下げ、目を薄くして、彼をにらみます。

「誤解だ、ボクは、じいちゃんのような好色男ではない!」
 第1クロガネ王子の従者が、慌てて答えます。

「認めましたね、自分がクロガネ王子だと!」

「ずいぶん昔に贈って頂いた猫の名前がカールであること、知っているのは幼い頃に名前を付けたクロガネ様だけですからね」

 私は、ニヤリと笑います。

 他の三名は、笑いをかみ殺しています。




 他の三名は、クロガネ王子の影武者でした。

 王子が、会った事もない令嬢との婚約を嫌がったので、仕方なく影武者が入れ替わることで、無理やり連れて来たのだそうです。


「駄駄っ子のクロガネ様、私では不満ですか?」

「……ボクは、ギンチヨ嬢がいい」


 ふふ、借りてきた猫のようですね。
 私に一生頭の上がらない旦那様が、ここに出来上がりました。



 ━━ FIN ━━
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