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03.娘と第二王子

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「こうなったら、だましてでも、婿を見つけます」

 これは、私の決意表明です。横に立つ娘は、あきれています。


「オリーブ、そんな事は、口に出して言うな」
 突然、後ろから男性の声が聞こえました。

 振り向くと、黒髪のイケメン、国王陛下の弟である王弟殿下が立っていました。

 娘と一緒にカーテシーをとり、挨拶します。


「学園時代と比べると、ずいぶんと礼儀正しくなったもんだな」

 彼と私は、学園の同級生で、同じサークルの仲間でした。私と夫は、そのサークルで知り合いました。

「王弟殿下のように娼館遊びばかりしている男性よりは、成長いたしました」

 彼は、覇権争いを防ぐため、意図して独身を貫いていることを、私は知っています。


「アイツを俺の遊びに付き合わせたのは悪かった。もう勘弁してくれ」

「遊び程度に怒りませんよ」

 私は、笑って流します。

 王弟殿下が、男爵であった夫の労をねぎらって、遊びに誘ってくれたことに、感謝しています。

 夫は、国王陛下の護衛兵であり、国王の贅沢三昧な振る舞いに、心労が溜まっていました。


「王弟殿下、娘に令息を紹介して頂けませんか」
 彼に、子供がいないことは知っています。

「第一王子の件は、すまなかった。色ボケ王子には、俺も、ほとほと困っている」

「王弟殿下は、ご自分がエロ親父と呼ばれていること、ご存じではないのですか?」

「俺は外で遊ぶだけだが、色ボケは内部、次元がまったく違う」

 そんなこと、私の娘の前で、胸を張って言われても、困ります。


「ジン、ちょうど良かった。この令嬢と踊ってくれ」
 王弟殿下が、近くにいた第二王子を呼びました。

「どうしました、ベルモット様」
 第二王子も黒髪です。

 王族同士なので、名前で呼び合っています。


「チェリー嬢とは同級生だろ。一曲ダンスしてこい」

「はい、喜んで」
 第二王子は、意外と素直に応じました。

 娘と二人、会場の中央へと向かいます。


「ジンは、友好国との政略結婚に使う道具だ。貴族たちは、それを知っているから、令嬢は誰も興味を示さない。可哀そうなヤツだ」

「そうは言いますが、当家では婿が欲しいのです。第二王子様は、条件から外れています」

「まぁ、練習だと思ってくれ」

 そうですね。娘も、誘ってくれる相手がいないので、夜会でのダンスは久しぶりかもしれません。


「意外に、二人ともダンスが上手いな」

「そうですね、意外にお似合いのカップルですね」
 王弟殿下と並んで、二人のダンスを眺めます。

「いい雰囲気ですね」
「どうだ、このまま二人を結ばせるか?」

「婿をもらわないと、私たちは路頭に迷うのですよ。どうだと言われても、困ります」

 彼の冗談を受け流しました。


 学生時代、まだ男爵家だった私は、王族とのダンスなんて、考えられませんでした。
 でも、夫によって、伯爵家となった今の私は、王族とのダンスが可能となっています。

 貴方は、今の私をダンスに誘っては、くれないのですね。


「そうだな、困ったときは俺に連絡をよこせ」
 王弟殿下が、名刺を出してきました。

「ありがとうございます」
 私も、名刺を出して、交換します。


 第二王子と娘も、結ばれない仲だと分かっていて、名刺を交換しています。

 この時、この名刺交換は社交辞令だと思っていました。

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