3 / 24
3
しおりを挟む「──レクリエーションゲームうう?」
広報の松島が大きな声を上げた。
放課後の生徒会室。
今日の議題はそのレクリエーションゲームだ。
「なにが悲しくて今どきコーコーセーにもなってそんなことしなきゃなんねえのよ」
「いや、それがウチの高校の恒例行事だし」
「えっ、おれ知らないよ?」
「あー…」
そうだった。こいつは去年の夏の終わりに転校してきたやつだった。
「そっかあ松島未経験か」
「え、その言い方なんかヤダ」
議録を取っていた平田が目を向けると、松島は心底嫌そうな顔をした。
まあとにかく。
「松島広報なんだから、周知とか事前連絡とかそういうの頼むよ。あと、なんかいい案あったら出して。明後日までな」
「あさってえ? えー急すぎ! 大体それいつやんだよ」
「5月の終わり」
「えっ遅くない? もう一ヶ月なくない?」
「まあね」
黙って聞いていた会計の薮内が深いため息とともに言った。
「毎年校内レクだけど、去年は評判悪くてブーイング凄くて、もうなくなったってみんな思ってたんだよ。何も言わないし。それが昨日言い出して来たんだ」
「昨日?」
そう昨日、と俺は頷いた。
事情を知る平田が苦笑する。
「今年はさあ、ほら、和田だから」
和田だから。
それだけでここに来てまだ一年経っていない松島が、ああー、と納得したような声を出した。
「そりゃしょうがねえか」
後方支援の生徒会顧問がぐうたらな和田では、どうしようもないことだとその場にいた全員が共通認識するなんてある意味凄い。
「はーん、なるほどね」
半分同情のこもった目で松島は俺を見た。
生徒会長は大変だね、とでも言いたそうだ。
それで、と松島は辺りを見回した。
「フクカイチョ―は? どこ行ったの?」
「休み」
ぶっきらぼうに俺が言うと、全員が八の字に曲げた眉をして、俺を見た。
「…嫌われてんね」
「強引に入れるから」
「そりゃあねー」
「うるさいよ」
ったく、どいつもこいつも。
じゃあ今日はこれで、と俺が言うと、全員が立ち上がり帰り支度を始めた。話はほとんど進まなかったが、まあしないよりはましと言ったところだ。
明後日までには内容を決めてとりあえず承認なんなりをしてもらわなきゃならない。あー忙しい。
「風間、じゃあお先な」
「おうお疲れ」
じゃあな、と言って松島と薮内が生徒会室を出て行く。平田と俺だけになり、がさがさと前の資料を漁っていた平田も立ち上がった。
「じゃあ俺も帰るかな」
「ん、お疲れ」
「帰らないのか?」
「あーそうだな…」
正直もう少し案をいくつか出して検討したいところだ。
このままもうちょっと残って資料でも見ておくかな。
「あ、能田先生」
鞄を肩に担ぎながら、平田が窓の外を見て言った。
「え?」
「ほら──、ん?」
平田が向けている視線の先を俺は見下ろした。正面の第二棟との間にある中庭の松の木の陰に、白衣の背中があった。先生の前に生徒がひとり立っている。知らないやつだ。
あんなとこで…何話してんだろう?
「あー…、先生も大変だな」
そう言って平田は窓から離れた。
「え、大変って…」
「あれ、告白じゃない?」
「は?」
生徒会室の扉を開けながら、平田は眼鏡を押し上げて振り返った。
「先生かわいいからさ。そういうの多いらしいって噂。男子校あるあるってやつ?」
じゃな、と、ぴしゃん、と扉が閉まる。
俺は窓の外を見た。
ふたりはまだ何か話している。
話の途中で先生が生徒に背を向けた。生徒はこっちに歩いて来ようとした能田先生の腕を掴もうと手を伸ばす。俺は窓を全開にした。
「せーんせーえ」
大きな声で呼ぶと、先生がきょろきょろと辺りを見回した。生徒は一瞬俺を見上げてから、さっと第二棟の中に入って行った。
今睨まれたな。
「こーっち、上だよ」
ひらひらと手を振ると、気がついた先生が上を向く。ああ、と唇が動いた。
「風間くん」
そう言って俺に向ける笑った顔に、なぜかほっとした。
「そこで何してんの?」
「ちょっとね。生徒会、まだ帰らないの?」
「もう帰るとこ」
「そう」
もうちょっと話したいな。
気がつけば、俺は咄嗟に言っていた。
「ね、のんちゃん、そこにいてよ。俺すぐ行くから」
「え?」
「そこにいて」
きょとんと見上げる顔に念を押して、俺は大急ぎで戸締りをして生徒会室を飛び出した。
何を話そうか──なんでもいいかと、階段を下りながら考えていた。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる