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しおりを挟む校内親睦レクリエーションは、結局生徒会役員の多数決で──内一名棄権、別途一名強制参加(数合わせ)──去年までの慣例を大幅に無視して脱出ゲームというトンデモ企画になった。
「いや、つーかそんなの文化祭レベルじゃん、時間も人手も予算もねーのにどーしろっつー話だよ」
「あとどれくらいだっけ?」
「26日半」
「なに半て?」
「今日を入れんなら、もう午前中終わるから」
「はあ? 土日入れんの? 休み返上かよ」
「あーもーなんだよ半て!」
「でルール決めだけどさー」
「なあ無理だって」
「教室は全開放で足りるか」
「いやむしろ第一棟開放?」
「あー上から下まで?」
「そうそれ」
「なあっ」
「じゃあそれをベースにして──」
「──なあってば!」
ばしん、とテーブルを叩き、松島が立ち上がった。ファミレスのざわめきが一瞬だけ収まって、時を止めた。
「おかしいだろおまえら!なんでこんなの──」
「はいはい。いいから、座れ」
俺は立ち上がって松島の肩を掴み、ぐっとL字のソファに押し付けるように座らせた。心なしか少し小さくなったざわめきが潮が満ちるように戻ってくる。
「ちょっと落ち着け」
薮内が取ってきたまだ口をつけていないドリンクバーのメロンソーダのグラスを松島の前にずらした。
「これ飲んで」
「いやこれ、薮さんのじゃん」
「まあいいからいいから」
当の薮内はそう言ってひらりと手を振って立ち上がり、空になっていた松島のグラスを持って立ち上がった。ボックス席を出てドリンクバーに向かう背中をちらりと松島が目で追った。
「松島の言いたいこと分かるけどさ、とりあえず決めて前に進ませなきゃいけないだろ。日程だけはしっかり決まってるんだから、それに合わせるしかない」
「だからってさあ…」
平田が静かな口調で言うと、ぶすっと口を尖らせて松島はメロンソーダを飲んだ。
「何も一から作っていくことなくない? 毎年同じことしてたんだろ?」
「ほぼほぼな」
じゃあそれでいいじゃん、と言いたげに松島が俺を上目に見た。
言いたいことはよく分かってる。
でも。
「おんなじことばっかじゃ飽きるんだよ、みんな」
俺も自分のジンジャーエールを飲む。ここのは辛口と甘口があって、辛口が好きだ。
「どうせやるんなら楽しんでやれるほうがいいし、そのほうがこっちもやりやすい。みんなが面白がってやる気になったら動かしやすいから、結果的に丸く収まるってわけ」
ずずず、とストローを鳴らして松島が呟く。
「…やっぱおまえが生徒会長っての、和田のテキトーなんかじゃねんじゃね?」
「かもね」
と平田が笑う。
「どうでもいいよ」
褒められてるみたいだがちっとも嬉しくない。
「俺はこの一年はだらけきって過ごしたかったんだよ」
「受験生でそりゃ無理だろ」
「あげくに生徒会長だしな」
戻ってきた薮内にダメ押しで言われて、俺はファミレスの天井を仰いでため息をついた。
そのまま昼を食べ、おやつの時間になるころにはさすがに居づらくなって解散した。朝の9時からいて、ドリンクバーばかり頼むのもなんだか気が引けるし、なんだかんだと金もかかる。次はもっと気を遣わず長くいられるところに──そして金を使わずにすむところに──集合しようということで全員の意見がまとまり、それぞれが帰路についた。
ひとりの帰り道、ぶらぶらと俺は街の中を歩いた。歩くのは好きだし、散歩にちょうどいい天気だった。
暖かい日差し。
好きなアパレルブランドのショーウィンドウを眺めながら、欲しいものを探す。ちょっと早いけど夏物のTシャツとか欲しいかな。
…あれ?
ガラスに映る俺の向こうに、今──
「せんせー」
俺は振り返った。
車道を挟んだ対岸の歩道に能田先生がいた。
日曜日の人混みの中を、俺が歩く方向とは逆に歩いていた。
すごい偶然。
それに私服だ。
休みだから当たり前だけど。
「──」
先生はひとりじゃなかった。その腕を前を行く人が引っ張っている。
男だ。
どこかで見たことがある──
何か言い合っている。
先生は腕を引いてその手を振り解こうとしていた。
──あ。
思い出した。
男は、同じ高校の生徒だ。
中庭で先生と話していた、男子生徒。
先生の横顔が強張った。
男子生徒はその腕を強く引いた。
「──」
おい、ちょっと…
──触るな。
瞬間、俺は近くの横断歩道目掛けて走り出していた。
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