風間くんの何でもない日常

宇土為名

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 脱出ゲーム・ルール説明

 ①全学年各クラスを出席番号順に7~8名の
  5班に分ける
 ②分けた班でくじを引き、出た数字が割り振
  られた教室に移動、そこで1・2・3年の
  合同グループとなる
 ③教室出入口施錠
 ④教室内の謎を解き、解錠を目指す
  ・うち3名(各学年ひとりずつ)は廊下で
   待機
  ・教室内に置かれた問題5つを解く(5つ
   で完成する言葉を導き出すこと)
  ・解錠には教師1名が必要
  ・教師は常に移動している
  ・待機している3名は教室内の解答1問に
   つき5分動くことが出来る。ゆえに5問
   全部を解かずとも途中推察は可能
  ・与えられた時間内に目指す教師を探し出
   すこと(別行動は禁止)
  ・出た解答、または推察した解答を教師に
   渡し、正解ならば鍵を受け取ることが出
   来る
  ・やり直しは2度まで
  ・教室に戻り、外から解錠
 ⑤全員で体育館に待機している生徒会のもと
  に行き、鍵を届け終了
 ⑥上位3グループに賞金として学食券一週間
  分が与えられる
 ⑦その後体育館にて慰労会(軽食あり)

「──以上が、今回の親睦レクリエーションの内容です。全員にパンフレットを配布してます。各自でもそれを読み、質問があれば各クラス実行委員に。開始時刻は9時40分、それまでに班分けをし、教室内で待機しておいて下さい」
 そこまで言って構内アナウンスのスイッチを切った。時刻は9時半。こういうものは段取りとスピード感が命だ。
 書き込まれた台本を読み返して、俺は時計を見つめた。
 10分なんてあっという間に過ぎる。

 
 10時、スタートの号令をかけた。
 学年ごと、各クラスの実行委員代表とラインのグループを組み、随時連絡が出来るようにする。さすがに俺ひとりでは捌ききれないので、1年と3年は俺、2年は平田が受け持つことになった。ちなみにこれは平田が言い出したことで、2年の実行委員にいる佐根井──代理出席だったはずが、いつのまにかその実行委員と入れ替わっていた──との面倒を避けるためだった。
「ゲーム中に面倒事はごめんだろ?」
 心底有り難くて、でも同時に少し後ろめたさもある。
 佐根井とはもっとちゃんと正面から向き合わないといけない気がしていた。先生のために、自分のために。
『5番、今のところ問題なしです』
 1年の委員からラインが上がってくる。番号は割り振られた教室のもの、学年ごとに人数のバラつきはあるが、1学年4クラス編成なのは同じ、1クラス35~38人。班分けで5つ、4×5=20の合同チーム。番号は20番までだ。教室は1・2階で18、3階は特別教室が3。ぎりぎりで教室がひとつあまり、そこ──放送室と隣接している視聴覚教室を運営本部としている。棟ひとつを借り切ったのは正解だったと思う。本当は学校全部の教室を使いたかったけれど、範囲が広がり過ぎれば目が行き届かない部分も出てくるし、こっちの移動も大変だ。ぎゅっと詰め込まれた感じで文句もあるかもしれないが、そこはあえて無視をした。
 とにかく1時間あまりを楽しんで出来ればそれでいい。
『1、順調です』
『8番OKです』
『問題なしでーす』
 1年の委員は教室前で見守る2・3年とは違い、ゲームをするプレイヤー側に入っている。管理しやすいように事前に1から8番まで順番に割り振られるようにしておいた。ゲームをしながらでは大変なので、ラインでの報告はスタート時のみの一回、あとは問題があったときだけだ。
 次々来る報告に既読をつけて了解を返す。全員分が来たのを確認してグループを閉じた。
 それと同時に3年からのラインがやってくる。
『かざまー、ひまー』
『こっちだいじょーぶ!』
『なあ、慰労会のメシってなにー? ジュース出んの?』
 見知ったやつばかりなのでどうでもいいことばっかり送ってくる。
『真面目にやったらな』
 苦笑しつつそう送ったら、どうでもいいスタンプが3年委員の全員から返って来て、俺はたまらずに噴き出した。

***

 開始から10分が経つ前に、俺は松島と先生たちに動いてもらうように職員室へ走った。
「じゃあお願いしまーす」
 職員室前の廊下で待機していた先生たちに声を掛け、番号付きの鍵と正解のリストをそれぞれ渡していく。
「テキトーにうろついて下さい。じっとしちゃ駄目なんで」
「分かってるよー、楽しいねえ」
「私謎解きのほうがよかったなあ。風間くん今から入れない?」
「先生それ無理」
「来年はぼくらも入れてくれよ」
「俺来年いねーから! ほらっ、早くして下さい、時間ないの」
「はいはい」
 十人の先生たちに松島と手分けして配りながら、好き勝手な会話に疲れがどっと押し寄せるのを感じていた。
「自由過ぎる…」
「今日授業ないからな、みんな暇なんだよ。……あ?」
 そう言って、はたと気がついた。手元に一枚の紙と鍵。
 残るはずのないものが残っている。
「──」
 俺は顔を上げた。
「和田は?」
「へ?」
「あいついなかったよな」
「え、…え?」
「朝礼の後消えたよな?」
「…おいおいおいおいおい」
 今朝になって鍵役の先生がひとり急用で来れなくなった。和田にはその先生の代わりを頼むと、朝の打ち合わせのとき散々言い含めておいたのに──くそ!
「あいっつ…!」
 きっとどこかでサボっているのだ。
 いつか準備室で寛いでいた光景が俺の脳裏をよぎった。
 あそこだ。きっと。
「松島、俺ちょっと心当たり見てくるから。先戻って平田にこのこと言ってくれるか」
「そりゃいいけど、いや、おれが行くって。おまえがいないと連絡…」
「大丈夫、すぐだから」
「あ、おいっ」
 焦ったような松島の声を背中に聞いたときには、俺はもう走り出していた。


 準備室のドアを思い切り開ける。
 思った通り抵抗もなくそれは開いた。
「おいあんた、なにやってんだよ!」
「あん?」
 案の定和田は準備室にいた。山と積まれた資料だのなんだのの合間に捻じ込んだパイプ椅子に座って、横柄に足をその資料の上に乗せている。
「おー風間、よくここが分かったな」
 てめえ。
「誰がサボっていいっつった! あんたにはまだ仕事があるだろうがっ」
「ええ…、あーそうだったそうだったなあ」
 のんきにへらりと笑って、手にしていた雑誌を捲る。
「今いーとこなんだよ、もうちょい待って」
「待てるかっ」
 雑誌を取り上げて、俺は資料の上に放った。
「もう時間がないっつってんの! 役目くらいしっかり果たせよ、今日の仕事それだけだろうが」
「おまえなあ…、教師の仕事量舐めるな?」
「うるせえ、知るか」
 よっこらしょ、と大儀そうに和田が立ち上がる。もたもたとした動作に苛ついて、俺は和田の腕を取った。足の踏み場もない狭い室内を引き摺るようにして外に連れ出す。
「ほら、あんたの分のリストと鍵っ。朝の打ち合わせであれだけ言っといたのにほんと何してんだ」
「わかったわかった、そんな怒るなよお」
「サボってたやつに言われたくねえ」
 受け取ったリストをひらひらと振って和田は悪びれずに笑っている。
「何言ってんだ、サボってんの俺だけじゃないだろ」
「はあ?」
 急かして階段を下りた。
「さっき能田先生もサボってたぞ」
「…え?」
 足が止まった。
 和田はとんとん、と小気味よく階段を下りていく。
「のだ、せんせーが、何?」
「んあ?」
 先生とは昨日の夜と今朝ラインで話した。話したっていうか、メッセージだけど。今日は先生はいつものように保健室にいるはずで、もしも誰かがイベント中に具合が悪くなったときのために、終わるまでは待機をお願いしていた。
 いいよ、いるね。なにかあったらすぐに来て。
 終わったら呼びに行くから、と俺は返していた。
『慰労会は先生も一緒にいて』
 首を捻って和田が数段上にいる俺を振り仰ぐ。
「いや、さっき通用口から外出てったぞ」
 準備室の窓から見えたと和田が言った。
 なんで、と俺は呟いていた。
「? 知らんよ」
「先生は保健室にいるはずだろ…」
 和田は首を傾げた。
「おまえ、そりゃ保健医っつったって能田先生も用事くらいあるだろ。白衣脱いでたし、急いでる感じだったなあ…急用だろ」
「──」
「まあそう慌てんなよ、具合悪けりゃ寝てれば…」
 話し声が遠くなる。
 ぞわ、と項の毛が逆立った。
 なんだこれ。
 なんでだろう。
 嫌な予感しかしない。
 不思議そうな顔で和田が俺を見て、階段を下りていく。
 遠くで誰かが呼んでいた。
 探しに来た松島が和田に何か言っている。
 ざわざわと胸の中がうるさいほどに波打っていた。
 俺は階段の真ん中でポケットの携帯を取り出した。
 着信がひとつ、入っていた。
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