おめでとうございます!スペシャルギフトが当選しました!

obbligato

文字の大きさ
2 / 55

第2話 しけてんなー

しおりを挟む
頬を撫でる心地よい風、眩しい太陽、そして喧騒。

目を開けると、陸人は大きな通りの真ん中に立っていた。周囲には広場や大聖堂、市場、カフェテリア、さらには射的場や賭場などの遊び場もある。中央に設置された巨大な噴水の周りには整備された道があり、人や馬車が所狭しと行き交っていた。 

「あれ?スペシャルギフトはどこ?――っていうか、僕はなんでこんな中世の町みたいな所に立ってるんだろう?」

わけがわからないままきょろきょろと辺りを見回していると、親切そうな婦人が声を掛けてくれた。しかし知らない国の言語なので、陸人には彼女が何を言っているのかわからない。

「何語喋ってるんだろ。英語通じるのかな?“ハウアーユー?”」

女性は首を傾げていた。

「やっぱ通じないか。うーん…」

ふいに女性が視線を落とし、陸人が手に持つ巻物を指さして何か言った。

「ああ、これは巻物…。って言っても外国人にはわかんないか」

陸人は中身を見せようと巻物を広げた。いつのまにか先程の広告は消え、巻物はまた白紙に戻っている。

「あれ…広告が消えてる…。なんで…?」

眉を寄せて唸っていると、突然紙の真ん中に文字が浮かび上がった。

“ジャン様の言語記憶をインストールしますか?”

「ジャンサマって誰だろ?まぁ、いいや。じゃ、お願いしまーす」

ほんの一瞬、脳が揺さぶられるような変な感覚に襲われたが、それ以外は特に体に変化はない。

「大丈夫?一人でおうちに帰れる?」

「えっ?」

先ほどまでわからなかった女性の言葉が、今は嘘みたいに理解できる。

「えーと…大丈夫です。それより、ここどこですか?なんていう国の、なんていう町ですか?」

「え?どこって…トライデント王国最大の発展都市、クレヴィエよ。あなた本当に大丈夫?」

こちらが発する言葉も通じているらしい。

陸人はもう一度巻物を広げた。また白紙に戻っている。

「その紙、何も書いてないけど…?」

女性は訝しそうに眉を寄せ、そのまま何も言わずに去っていった。

「トライデント王国なんて聞いたことないなぁ。一体、何がどうなってるんだろう」

数分ほど熟考した後、陸人はハッと閃き、ある結論へと達した。

「そうか、これは俗に言う“異世界転移”というやつだな。さっきあの【今すぐココをクリック】を押したからか。くそっ!あれは当選詐偽だったのか!だけど、どうやって日本に帰ればいいんだろ。まぁ、焦っても仕方ないか。取り合えずその辺見て周りながら考えよう」

子供の適応能力恐るべし。

「あっ、良い物見っけ!」

陸人は誰かがベンチに置き忘れて行った食べかけのポップコーンをちゃっかりゲットした。そしてそれを片手にメインストリートに立ち並ぶ店屋をざっと見て回った。

「なんだろう、あの店すごい人が集まってる。行ってみよう」

陸人の目に留まったのは射的場だった。

主に若い男性陣が、遠く離れた台の上に設置してある景品を撃ち取ろうと必死になっている。
彼らが必死になって狙っているものは人形や玩具ではなく、一つ一番遠い場所に設置してある親指ほどの小さな旗だった。

「あの旗に当てると何がもらえるの?」

陸人は見物人の若い男性に尋ねてみた。

「金さ」

「金っていくらくらい?」

「五万メルンだ」

「五万メルンてどのくらいの価値あるの?このポップコーン何個くらい買える?」

「あ?いちいちうっせーな。500個くらいは買えるだろ」

「ほんと?僕もやりたい!お兄さん、一回だけでいいからやらせてよ。僕、お金持ってないんだ」

陸人は男性の服にしがみついて激しく揺さぶった。

「うるせーっつってるだろ!」

案の定、男性はキレた。

「ガキのお守りしてるほど俺は暇じゃないんだよ。あっちへ行きな、しっし!」

「ちぇっ、ケチ!」

陸人は射的場を離れ、再び噴水の近くに戻ってきた。ベンチに腰掛け、先ほどの若い男からこっそり抜き取った財布の中身をあらためる。

「三千メルンか。しけてんなー」

などと文句を言いながら、取り合えず腹ごしらえしようと近くの大衆レストランに入った。

店の中は多くの客で賑わっていた。

かろうじて空いていた奥の二人掛けのテーブルにつき、比較的安価なひき肉オムレツサンドと牛乳を注文する。

料理を待ちながら、退屈しのぎに巻物を机の上に広げてじっくりと観察してみた。

今は白紙状態だ。

「どうやったら元の世界に戻れるんだろう?」

陸人は一つ咳払いしてから、もう一度呪文(?)を唱えてみた。

「“莫大な力を秘めし白紙の巻物よ、我が前に汝の真の姿を現せ”!」

すると、みるみるうちに文字が浮かび上がってきた。

『詐偽広告に騙されて落ち込んでいるそこのあなたにオススメ!宝探しで一攫千金!金銀財宝ゲットだぜ!詳細は【今すぐココをクリック】』

「誰のせいで落ち込んでると思ってんだよ!っていうかさっきから“クリック”ってなんなんだよ!どこにもマウスなんて付いてないだろ!」

怒涛のツッコミを入れながらも、これ以上悪くなることはないだろうと、指を【今すぐココをクリック】に当ててみる。

文字がパッと消え、今度は歪な形の黒い紋様が浮き出始めた。

陸人は巻物を両手で持ち、顔を近づけた。

浮き出た紋様は大陸の地図のようで、あちこちに様々な色のバツ印がつけられている。

さらに紙面の上部には太字で“トライデント王国”と刻まれていた。

「ふーん、この巨大な大陸全部がトライデント王国なんだ。僕が今いる場所、どこかな?あのおばさん、確かクレヴィエって言ってたっけ。あ…ここか」

クレヴィエはトライデント大陸西部の海外沿いに位置していた。その内陸側にはメラースの森という広大な森が広がり、赤いバツ印が一つ、森の中心部に記されている。

「これってやっぱり宝の地図なのかな?もしかして、お宝全部見つけたら元の世界に戻れるとか?」

「失礼」

ふいに背後から誰かが声を掛けてきた。

てっきり料理が運ばれてきたのかと思いきや、話しかけてきたのはどうみても店のスタッフには見えないラフな恰好をした男だった。

「相席しても構わないかな?」

陸人は男を上から下まで眺めた。

年は二十代半ばくらい。ゆったりとした白のズボンに、着崩した詰襟の長袖チュニック。細身だが長身で引き締まった体格で、腰まで届く長い赤髪を緩く編んで垂らしている。身だしなみは少々だらしないような印象を受けるが、朗らかで人当たりは良さそうだ。

「いいよ」

「ありがとう!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

処理中です...