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第18話 抜かせ!怪しさ全開じゃろうが!

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 鼻腔をくすぐる、木々の香り。虫の声。葉からこぼれ落ちた夜露が頬を濡らす。

陸人は大木の根元に横たわっていた。なんだか妙に圧迫感を感じる。

「ん~…」

目を開けると、視界いっぱいに羊の顔が見えた。

「ンメエエエエエ!」

「うわぁぁぁ!」

「ンメエエエエエ!ンメエエエエエ!」

「シメオン!どうしちゃったの!?」

「それは俺じゃない。放牧されてる羊だ」

木の裏から別の羊が出てくる。

「君、本物のシメオン?」

「見りゃわかるだろ!」

「そうだ。一目瞭然だぞ、陸人」

と、生い茂った草木の間から、オーガストがひょいと顔を覗かせた。

「そっちの可愛らしい羊は“ラム”、シメオンは“マトン”だ」

「へぇ、なるほど!」

「そんな答えに納得するな!」

「さて、諸君。日が昇る前に腹ごしらえでもしにいこうじゃないか」

「腹ごしらえって…。ここ見渡す限り草原だけど、どこに食べ物なんてあるの?」

「うーん…」

オーガストの視線が、ゆっくりと子羊へ向いていく。

「メ…メェェェ!」

子羊は危険を察して逃げていった。

「しまった…。ちと眼光鋭く見すぎたな。まぁ、仕方ない。他にも食べ物はある」

「お…おい!まさか俺を食べるつもりじゃ――――」

「いや…。気を悪くしないでほしいんだが、実を言うと俺はマトンは苦手でね…」

「僕もあんまり…。だって硬いんだもん」

「そうそう。それに、あの独特の羊臭がどうもダメでね…。すまんが遠慮させてもらうよ。気持ちだけは受け取っておく」

「食べてくれなんて一言も言ってねーよ!」

「さて、話がまとまったところで朝ご飯でも調達しに行くか!」

「でも、どっちに向かえばいいのかわかんないよ」

「それならこのオーガスト様に任せておけ」

「魔法を使うの?」

「いいや。もっと簡単で確実性のあるやり方がある」

オーガストは屈みこんで木の棒を拾い上げ、地面に立ててそっと手を離した。

棒は一時の方向に倒れた。

「よし!あっちの方だ!」

「あの~。確実性の欠片もないテキトーなやり方のような気がするんだけど?」

「それは進んでみなければわからないだろう?とにかく行ってみようじゃないか」

 オーガストの倒した木の棒は、偶然にも正しい方角を示していたらしい。

三十分ほど歩くと、田畑や家屋の密集する村落が見えてきた。まだ夜明け前だからか、外を出歩いている者は誰もいない。

「どう見てもコンビニとかなさそうだね」

「う~む…こうなったらやむを得んな…」

オーガストが意を決したように方向転換し、畑の方へ向かってずんずんと歩いていく。

陸人達がとめる隙もなく、彼は畑から大根を引き抜いて食べていた。

「お~い!お前達も来いよ!採れ立ての野菜はうまいぞ!」

オーガストの大声に気付いたのか、すぐ近くの民家から年配の男性が鎌を抱えて飛び出してきた。

「こら!なんじゃお前達は!この大根泥棒!」

「いえ、違います!」

オーガストは電光石火のスピードで畑から離れ、シメオンのモコモコの首根っこをむんずと掴んだ。

「この羊が畑を荒らしていたので捕まえようとしていただけです!」

「は?!ふざけんなよ、てめぇ!食べたのはお前だけだろうが!」

「なんと…羊がしゃべっとる!」

「落ち着いてください旦那!我々は決して怪しい者では―――」

「抜かせ!怪しさ全開じゃろうが!」

「う~む…。これはいったんずらかったほうがいいな」

二人と一匹は一斉に逃げ出した。

「ここまで来れば大丈夫だろう…」

気付けば彼らは村から少しはずれた小高い丘の上まで逃げて来ていた。いつの間にか夜は明け、シメオンの羊化の呪いも解けたようだ。

辺りには木製の遊具がいくつか設置されており、すぐ傍に大きな平屋建ての建物が一軒ぽつんと建っている。古びた門には“聖カメリアホーム”と刻まれていた。

「ふむ、どうやらここは孤児院のようだな。ちょうどいいから少しの間匿ってもらおう」

「え?いくらなんでもそれは無理じゃない?」

「大丈夫、なんとかなるさ」

オーガストは一切の躊躇いも遠慮もなくホームの敷地内へ入っていった。

「あ…ちょっとおじさん!…あーあ、行っちゃった」

「まったく世話の焼けるおっさんだ」

「取り合えず僕らも行こうよ。おじさん一人じゃ怪しまれちゃうだろうし」

「チッ…仕方ねーな」

 意外にも施設長は快く陸人達を受け入れ、おまけに朝食までご馳走してくれた。

「七時になったら子供達が起きてきて少し騒がしくなりますけど、どうか我慢なさってくださいね」

「いえいえ、とんでもない。子供は大好きなので、大歓迎ですよ。勿論あなたのような綺麗な女性も大好きですけどね」

「まぁ、オーガストさんたらお世辞がお上手」

「いやいや、本当のことを言っただけですよ」

「まぁ、いやだ!」

七十はとうに過ぎているだろうに、施設長は年頃の少女のように顔を真っ赤にして体をくねらせている。

「ああ、そうだわ。庭にゴールデンベリーが植えてあるんですけど、食後のデザートによかったらどうぞ召し上がってくださいな」

「おお!ゴールデンベリーは大好物です」

なるほど、金がなくても口さえ上手ければどうにかなることもあるんだなと、陸人はまた一つ賢くなった。

 子供達が起きてくる前に陸人達は庭に移動した。

ゴールデンベリーは一言で言えば黄色いイチゴのような果物だった。イチゴよりも酸味が強く、ラズベリーのような味に近い。

「これからどうするんだ?」

ゴールデンベリーを五粒いっぺんに頬張りながら、シメオンが二人に問いかけた。

「日も高くなりゃレディーバードの連中もここにやって来るだろう。何か策はあるのか」

「それは…」

陸人は助けを求めるようにオーガストを見た。が、彼はゴールデンベリーを食べるのに夢中で見向きもしない。

陸人は黙って俯いた。

奪われた二つのデルタストーンを取り返すにはどうしたらいいのだろう。真正面からぶつかってもまたメドゥーサの杖で石にされるだけだ。

――――せめて、何か切り札があれば…。

足元に小さな石が転がっている。ちょっと歪な、三角形の石。

ふいに陸人は思いつき、その小石を拾い上げた。

「そうだ…。いいことを思いついた」

「何だよ、いいことって?」

シメオンの問いかけにも応じず、陸人は一人施設の中へと戻っていった。

「あいつ、何を思いついたんだ?」

「さぁな。でも――――」

オーガストは食べるのをやめ、立ち上がってニヤリと笑った。

「陸人はバカだが、悪知恵だけは働く子だよ。悪ガキだった頃の俺みたいだ」

「は?今でも悪ガキみたいなことをやってるじゃないか」

「ん?ちょっと何を言っているかわからないな」
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