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第22話 その剃った毛、僕にくれませんか?

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 気が付くと、陸人達は見たこともないほど美しい庭園の中に立っていた。

全体は迷路のように入り組んだ薔薇の生け垣で構成されており、中央には大理石の噴水が設置されている。そして庭園の向こうには、白い煉瓦造りの巨大な塔が聳え立っていた。

「あれが僕の家です。さぁ、ご案内しますから、ついてきてください」

陸人達はテディに続いて歩き始めた。

「あれ…?」

最後尾を歩いていた陸人は、ふと面白いことに気が付いた。

「ねぇねぇ、今の僕らって、西遊記のメンバーみたいじゃない?」

「おお!本当だな!」

全員を見回しながら、オーガストが感嘆の声を上げる。

「陸人が悟空で、テディが三蔵法師、俺は沙悟浄で、シメオンは―――」

「誰が猪八戒だ!俺は豚じゃない、羊だ!」

「その毛を全部剃ったら同じような姿になるのではないか?」

「ならねーよ!」

突然テディが立ち止まり、くるりとシメオンを振り返った。

「な…なんだよ?」

「その剃った毛、僕にくれませんか?」

「は?!剃らねーよ!」

「そうですか…」

テディは再び歩き始めた。

「やっぱりなんか変な子だね…」

前を歩くオーガストに、こっそり陸人は耳打ちした。

「シメオンの毛なんて何に使うんだろう?毛織物でも作るのかな?」

「そうだな…。カシミヤ100%と偽って売るつもりかもしれん」

「それ企んでるのおじさんでしょ?」

「はは…そんなわけないだろう。おや―――朝日が上ってきたぞ!」

オーガストは歓喜の声を上げ、オレンジ色の暁光に向かって両手を振った。

「おお!朝日よ!」

シメオンも棹立ちになって喜んでいる。

朝日はあっという間に呪いを解かした。

「えええ?!」

目の前のありえない光景に、テディはかなり驚き、興奮している。

「どどど…どういうことですか、これは?!しっ…進化ですか?!進化なんですか?!」

「いやぁ、深い事情があってさ…これが二人の本当の姿なんだよ」

「えええ?」

テディは呆気に取られたまま、オーガストの長髪を上から下まで眺めまわした。

「あの河童さんは…女性だったのですか?!」

「いや、オーガストはれっきとしたおじさんだよ」

「そうですか…。それは失礼しました。しかしそれにしても綺麗な髪をお持ちですね。これならきっとあの方もお喜びに―――あ、すみません、ぼうっとしていました。家の方にご案内致します」

 塔の入り口から中へ入ると、使用人らしい複数の人間がこうべを垂れて待ち構えていた。男も女も全員白装束に身を包み、頭を綺麗に剃り上げている。

「おかえりなさいませ、テディ様」

「ただいま。お客様を連れてきたから、酒宴の準備を頼むよ」

「かしこまりました」

彼らは素早くその場から去っていった。

「さ、昇降装置で上に行きましょうか」

テディは陸人達を正面に設置された大きな扉の前まで誘導した。

全員が入ったことを確認し、テディが慣れた手つきで入口付近にある小さなボタンをポチッと押す。

部屋が一気に上に引き上げられていく。

「これで最上階の50階まで、ひとっ飛びですよ」

最上階へ到着し、昇降装置の扉がゆっくりと開く。

陸人達はテディの後に続き、薄暗い廊下を歩き続けた。

漆黒の扉の前でテディは足を止め、一歩下がって笑顔でこう言った。

「僕はお客様の来訪を父に知らせてきますので、あなた方は先に入って休んでいてください」

テディは小走りで廊下を戻っていった。

「あいつ、絶対何か企んでるぜ」

去り行くテディの後姿を見やりながら、シメオンが言う。

「里長の息子ってのもきっと嘘だろう。見た目はガキだが、本当は怪しい教団の教祖なんじゃないのか?ここへ連れてきたのも、俺達を入信させるためかもしれない」

「マトン君、それは考えすぎだぞ。美味しいドーナツを作る人間に悪い者はいない」

「まだ食べてねーだろ」

「取り合えず中に入ってみようよ」

陸人は扉の取っ手に手をかけた。

ガチャ――――

目の前に現れたのは、薄暗い、小さな円形の部屋。

中央に敷かれたほとんど毛のないカーペットの上に、長い三つ編みを垂らした少女が座っていた。

「あら、お客さんね」

陸人達に気付くと少女は立ち上がり、髪を引きずりながら歩み寄ってきた。

「君、誰…?」

「わたしはラプレッツェル。この塔に住んでいるの」

「プレッツェル…」

「あら――――」

ラプレッツェルと名乗る少女はオーガストの髪に視線を移し、とたんに瞳を輝かせた。

「なんて綺麗な髪なんでしょう!」

「ふふふ…そうだろう。なんたって日頃から念入りにお手入れしているからな。そこの二人とは違うんだ」

「ねぇ、ちょっと触ってもいい?」

「ああ、いいとも。君のような可愛いお嬢さんなら大歓迎だ」

すっかり得意げになっているオーガストは惜しみなく束ねた髪を少女に持たせた。

「まぁ、艶やかでとても栄養がありそう!」

「ふふふ…そうだろう、そうだろう――――え…?栄養?」

瞬間、愛らしい少女の相貌が、醜い怪物に変貌した。頬まで裂けた大きな口に、オーガストの髪が飲み込まれていく。

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!俺の髪がぁぁぁ!」

「ふん…やっぱり罠だったか」

シメオンは吐息をつき、小さく呟いた。

「おそらくコイツは毛という毛を食らう魔物だろう」

「そっか。だからこの塔の人達はみんな髪の毛がなかったんだね」

「おいっ!そこの二人!呑気に分析してないで俺を助けろ!いや、俺の髪を助けろ!」

陸人はシメオンに目配せした。

やれやれと首を振り、シメオンが懐からほぼ空っぽに近い水筒を取り出す。

「おっさん、そこから一歩も動くなよ」

彼は水筒の蓋を開け、大さじ一杯ほどの中身をオーガストの顔面目掛けてぶちまけた。

「うわああああ!」

オーガストは無事に河童への変身を遂げた。

口に含んでいたはずの髪がなくなり、魔物は不思議そうにあたりをきょろきょろと見回している。

「なんだ、この醜い河童は…!あの美しい髪はどこへいった…!」

「さ、今のうちに逃げよう」

陸人達は猛ダッシュで逃げだした。

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