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第32話 ふざけるのは髪型だけにしろ!

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 眼下に広がるクラリネートの麓町、キンバロ。

朝を迎え、町の活気は少しずつ増し始めている。

『そろそろ離陸しますよ』

天馬はそう告げて、徐々に飛ぶ高度を下げていった。

「ようし、町に着いたらまず朝食を食べよう!キンバロは食べ物が美味うまいことで有名だから、実に楽しみだ!」

オーガストは早くも舌なめずりしている。

「そうなんだ。僕は取り合えず温かい物が食べたいな」

「そうそう、ここは温泉もたくさんあるんだぞ」

「いいね!朝食食べたら入りに行こうよ。あ…おじさんはダメか」

「いいや、俺も入るぞ」

「でも、河童になっちゃうじゃん」

「珍しい皮膚病で、湯治に来ていることにすればいい」

「あ、そっか。そういう手もあるね」

が、二人で盛り上がっていたその時――――

突如上空から、何か得体の知れない大きな物体が急降下してきた。

「うわぁっ!」

強風で天馬がよろめき、陸人は危うく振り落とされそうになった。

「おい…見ろよ、アレ――――」

若干酔い気味で顔色の悪いシメオンが、目の前に立ちはだかる巨大な生物を指さす。

体長およそ15メートル。硬い暗緑色の鱗に覆われたトカゲのような体に、大きな翼、鋭い爪と牙、縦長の瞳孔を持つ金色の目玉――――それはどこからどう見てもドラゴンだった。

だが野生ではないようだ。その首にはオレンジ色の首輪がつけられており、背には同じくオレンジ色のローブを纏った複数の人間が乗っている。そして彼らの視線は一時も逸れることなく陸人達に注がれていた。

リーダーと思しきモヒカン頭の中年男が高圧的な口調で口を切る。

「ジャン・ギッフェルの秘宝を探している妙ちくりんな連中というのは貴様らだな」

「おじさんの髪型の方がずっと妙ちくりんだと思うけど」

男は一瞬押し黙ったあと、咳払いして語気を強めた。

「単刀直入に言おう。ただちに集めた秘宝と地図をこちらに渡せ」

「は…?!おじさん達にそんな権利ないだろ!」

「いいや、ある。なんたって私は魔法協会警吏部長官を務めるワイト・パルドラスだからな」

「ホワイトアスパラガス長官…?」

「ワイト・パルドラスだ!耳腐ってんのかクソガキ!さっさとお宝をよこせ!」

「腐ってんのはお前の脳みそだ、モヒカン野郎!」

吐き気をどうにか堪えながら、シメオンがいつものごとく息巻く。

「このお宝は俺達が苦労して集めたものだ!誰がテメーらなんかに渡すかよ!」

「そうだそうだ!このニワトリ頭!」

ワイト長官は拳を固く握りしめ、唇をわなわなと震わせた。

「そうか、わかった。貴様らがそのつもりなら、こちらも強硬手段を取らせてもらおう」

長官は右手を上げ、ドラゴンに向かって声高に命じた。

「我が使い魔ゴンスケよ、あの低俗な連中に裁きの鉄槌を下せ!」

ドラゴンが陸人達に焦点を当て、グワッと大きく口を開ける。

「まずい、火を噴いてくるぞ!」

「ドラゴンの炎なんて超ヤバそうじゃん!やっぱり降参した方がいいんじゃない?即席のバリアじゃ防げないだろうし…」

「いいや、待て。まだ対抗手段はある」

オーガストは天馬の背に片足を立て、得意げに胸を張った。

「ここは俺の魔法に任せておけ」

「そっか、水系の魔法をぶつければ相殺できるかもしれない!」

「いや…実を言うと俺は水系の魔法が使えなくてな…」

「え?!じゃあどうするの?」

「炎系の魔法を使う」

「炎に炎…?!」

「ああ。昔から“火は火で治まる”と言うからな。名付けて“向かい火バックファイアー作戦”だ!」

オーガストはドラゴンと対峙し、右手を前に突き出した。

「“炎出ろーーーー!シュボボボボボ!”」

ダサい呪文と共にその右手から放たれる火炎放射。

同時にドラゴンの口からも勢いよく業火が吐き出される――――かと思いきや、その口から発射されたのは火ではなく、激流の瀑布、つまり水だった。

言うまでもなく、オーガストの炎はたちまち鎮火されてしまった。

「なんでドラゴンが水を吐くんだ!」

水を浴びて再び河童化してしまったオーガストはカンカンに怒っている。

「ドラゴンと言えば普通炎だろう!ふざけるのは髪型だけにしろ!このモヒカンアスパラオヤジ!」

「誰がアスパラだっ!」

ワイト長官は陸人達に人差し指を向けながら、

「ゴンスケ!マジックトングだ!」

ドラゴンの口から勢いよく長い舌が飛び出してきた。舌先は一瞬にして陸人の背中まで伸び、背負っている風呂敷にくるくると巻きついてくる。

「うわぁっ!やめろ!離せ!」

絶対に渡すまいと、陸人は抱え込むように風呂敷を抱いた。

しかしドラゴンの舌の力には敵わず、風呂敷はどんどん手から引きはがされていく。

「待ってろ、今その気持ち悪い舌をぶった斬ってやる!」

シメオンが剣を抜いて振りかぶる。

が、エレミアは即座に彼を制した。

「この状態で舌を分断してしまったら、切れた拍子に陸人くんがバランスを崩して天馬から落ちてしまうわ」

「チッ…!」

そうこうしている間に風呂敷はむしり取られ、あっという間にワイト長官の手に渡ってしまった。

「ほう、これがジャン・ギッフェルの闇の魔導書か」

巻物を風呂敷から取り出し、しげしげと眺める長官。

「ここに入っているのは巻物だけのようだな。宝の方はどこに隠している?」

陸人はとっさに懐に手を当てた。その瞬間を、長官は見逃さなかった。

「ゴンスケ、再びマジックトングであの小僧から――――うわっ!っつう!」

悲鳴を上げるなり、ワイト長官は巻物を放り投げた。どういうわけか巻物が真っ赤に光り輝いている。

投げた巻物は空中でピタリと静止し、その三秒後、光が放射線状に広がり、陸人達を飲み込んでいった。

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