33 / 55
第33話 残念だが、GPS機能はついていない
しおりを挟む
ゴーン…ゴーン…ゴーン――――
荘厳な鐘の音が鳴り響く。
陸人達は教会の真ん前に立っていた。
どうやら先ほど空中にいたメンバー全員が強制的にこの場所に転移させられたらしい。
突如どこからともなく現れた陸人達を見て、行き交う町の人々は尋常じゃないくらい驚いている。
人間だけならともかく、ドラゴンや天馬達、河童化したオーガストもいるので尚更だ。
「なんなんだ、あいつら…?一体どこから沸いてきたんだ?」
「ドラゴンよ!早く逃げなきゃ!」
「魔法協会に通報しないと!」
陸人達はどよめく人々の間を縫うようにして抜け、人気のない広場までやってきた。
『騒ぎが大きくなる前に、私達は故郷に帰らせていただきますね』
天馬達は逃げるように空へと飛び立っていった。
「私もゴンスケを送還せねば…」
ワイス長官は懐からヒョウタンを取り出し、蓋を開けてドラゴンに命じた。
「戻れ、ゴンスケ!」
巨大なドラゴンは驚異の吸引力でヒョウタンの中へ入っていった。
「一体、何がどうなっているんだ?」
シメオンは陸人の手中にある巻物に視線を向けながら、
「おい、陸人。お前また巻き物を使って何かやったのか?」
「僕は何もやってないよ」
巻物はもう赤い光を放っておらず、通常通りだ。
取り合えず陸人はジャン・ダッシュとコンタクトを取ってみた。
――――ねぇ、今のワープは一体なんなの?
ジャン・ダッシュは機械的な口調で答えた。
『朔の書に多大な負荷がかかったことによって生じたバグだろう』
――――バグって…。コンピューターでもあるまいし。
『細かい事はどうでもよい。おそらくバグが生じた原因は、良からぬ者が朔の書に触れたからだろうな』
――――良からぬ者って、あのアスパラガスのおじさんのこと?悪党が触るとバグが起きるってこと?
『いや、あの男がパルドラス一族の血を引く者だからだ。実を言うと奴の祖先は私の不倶戴天の敵でな…大事に取っておいたドーナツも、苦労して捕ったクワガタも、初恋の女の子も、すべてそいつに奪われたんだ』
――――そ…そうなんだ。お気の毒様。
『お前も油断するな。なんたってあの男は奴の子孫だ。知らぬ間に大事な物をくすねられているかもしれないぞ』
陸人はハッとして懐に手を当てた。
いつもはある、あの硬い感触を感じられず、思わず表情が凍り付く。
「おい、どうした」
様子のおかしい陸人に気付き、シメオンが呼びかけた。
「い…石が――――巾着袋に入れてたデルタストーンが…」
「石がなんだよ?まさか失くしたとか言うんじゃないだろうな?」
「ごめん、そのまさか」
「は?!ざけんなよ、てめぇ!」
「ちょっと待って、もしかしたら――――」
陸人はいったんシメオンに背を向け、こそこそと腰をかがめて去ろうとしているワイス長官とその手下達に向かって声を張り上げた。
「ねぇ、ホワイトアスパラのおじさん!さっき逃げる時、どさくさに紛れて僕から何か盗まなかった?」
ワイス長官はピタリと静止し、チラっと陸人を振り向きながら、
「さぁな?俺は石の入った巾着袋なんて知らないぞ」
「「嘘つけ!」」
陸人とシメオンはワイス長官をつかまえようと手を伸ばした。
しかし――――
「くらえっ!“ウインドブラスト”!」
ワイス長官の繰り出した突風の魔法によって、陸人達は後方に吹き飛ばされ、尻餅をついた。
「大丈夫か、陸人!シメオン!」
オーガストとエレミアが駆け寄ってくる。
「僕らはなんとか大丈夫だけど、石が…」
「大丈夫だ。この敏腕魔法使い、オーガスト・ロウに任せておけ」
オーガストはワイス長官を猛追し、両手を前に突き出して呪文を唱えた。
「“風吹けコンコーン!!”」
その両手から猛風が吹き、ワイス長官達が天高く舞い上がる。
風は長官達をどこまでも遠くへ運んで行き、やがて彼らは空の彼方へと姿を消した。
「おい、おっさん!遠くへ吹き飛ばしてどうすんだよ!」
「ははは…すまん、すまん。つい力が出過ぎてしまってな」
「は?!ふざけんじゃねーよ!なにが“敏腕魔法使い”だ!この“暴走魔法使い”!」
「そうだよ!しかも呪文超ダサいし!」
「まぁまぁ、落ち着け、二人共。怒っていても仕方がないだろう」
「そうよ。飛ばされた位置はわかっているんだし、そこへ探しに行けばいいだけよ」
「え?どこに飛ばされたかわかるの?」
「ええ。二時の方向よ」
「大雑把すぎだよ!っていうか、ここ何ていう町なんだろう?」
陸人は巻物を広げて地図を表示させた。
――――ねえ、ジャン・ダッシュ。現在地とか特定できないの?
『残念だが、GPS機能はついていないものでな』
――――ふーん。モバイル機器なのに肝心な機能はついてないんだね。
『…』
ふいに地図の上に影が差し、水掻きのついた緑色の手が陸人の肩の後ろから伸びてきた。
「ここはトライデント王国内陸部の町カンパナだ」
その指が、大陸の中心部を指さす。
「え…?」
陸人は目をパチクリさせた。
「おじさん、なんで知ってるの?もしかして、前にここに来たことあるとか?」
「いや…そういうわけじゃなくてだな…」
オーガストは少し面映ゆそうな表情で、
「ここは俺の故郷なんだ」
「えっ、そうなの?!じゃあ、おすすめのレストランとか連れてってよ」
「ああ、いいぞ。なんならこれから連れて行ってやろう。そろそろ昼飯時だからな」
「やったー!」
「おい!何さりげなく話をすり替えてんだよ!石はどうすんだよ、石は!」
「まぁ、そう焦るなマトン君。腹が減っては戦はできぬというではないか」
「そうそう。人間食べなきゃ生きていけないもんね」
「ったく…仕方ねぇな」
どうにかシメオンの了承を得て、一行はレストランへと向かうことになったのであった。
荘厳な鐘の音が鳴り響く。
陸人達は教会の真ん前に立っていた。
どうやら先ほど空中にいたメンバー全員が強制的にこの場所に転移させられたらしい。
突如どこからともなく現れた陸人達を見て、行き交う町の人々は尋常じゃないくらい驚いている。
人間だけならともかく、ドラゴンや天馬達、河童化したオーガストもいるので尚更だ。
「なんなんだ、あいつら…?一体どこから沸いてきたんだ?」
「ドラゴンよ!早く逃げなきゃ!」
「魔法協会に通報しないと!」
陸人達はどよめく人々の間を縫うようにして抜け、人気のない広場までやってきた。
『騒ぎが大きくなる前に、私達は故郷に帰らせていただきますね』
天馬達は逃げるように空へと飛び立っていった。
「私もゴンスケを送還せねば…」
ワイス長官は懐からヒョウタンを取り出し、蓋を開けてドラゴンに命じた。
「戻れ、ゴンスケ!」
巨大なドラゴンは驚異の吸引力でヒョウタンの中へ入っていった。
「一体、何がどうなっているんだ?」
シメオンは陸人の手中にある巻物に視線を向けながら、
「おい、陸人。お前また巻き物を使って何かやったのか?」
「僕は何もやってないよ」
巻物はもう赤い光を放っておらず、通常通りだ。
取り合えず陸人はジャン・ダッシュとコンタクトを取ってみた。
――――ねぇ、今のワープは一体なんなの?
ジャン・ダッシュは機械的な口調で答えた。
『朔の書に多大な負荷がかかったことによって生じたバグだろう』
――――バグって…。コンピューターでもあるまいし。
『細かい事はどうでもよい。おそらくバグが生じた原因は、良からぬ者が朔の書に触れたからだろうな』
――――良からぬ者って、あのアスパラガスのおじさんのこと?悪党が触るとバグが起きるってこと?
『いや、あの男がパルドラス一族の血を引く者だからだ。実を言うと奴の祖先は私の不倶戴天の敵でな…大事に取っておいたドーナツも、苦労して捕ったクワガタも、初恋の女の子も、すべてそいつに奪われたんだ』
――――そ…そうなんだ。お気の毒様。
『お前も油断するな。なんたってあの男は奴の子孫だ。知らぬ間に大事な物をくすねられているかもしれないぞ』
陸人はハッとして懐に手を当てた。
いつもはある、あの硬い感触を感じられず、思わず表情が凍り付く。
「おい、どうした」
様子のおかしい陸人に気付き、シメオンが呼びかけた。
「い…石が――――巾着袋に入れてたデルタストーンが…」
「石がなんだよ?まさか失くしたとか言うんじゃないだろうな?」
「ごめん、そのまさか」
「は?!ざけんなよ、てめぇ!」
「ちょっと待って、もしかしたら――――」
陸人はいったんシメオンに背を向け、こそこそと腰をかがめて去ろうとしているワイス長官とその手下達に向かって声を張り上げた。
「ねぇ、ホワイトアスパラのおじさん!さっき逃げる時、どさくさに紛れて僕から何か盗まなかった?」
ワイス長官はピタリと静止し、チラっと陸人を振り向きながら、
「さぁな?俺は石の入った巾着袋なんて知らないぞ」
「「嘘つけ!」」
陸人とシメオンはワイス長官をつかまえようと手を伸ばした。
しかし――――
「くらえっ!“ウインドブラスト”!」
ワイス長官の繰り出した突風の魔法によって、陸人達は後方に吹き飛ばされ、尻餅をついた。
「大丈夫か、陸人!シメオン!」
オーガストとエレミアが駆け寄ってくる。
「僕らはなんとか大丈夫だけど、石が…」
「大丈夫だ。この敏腕魔法使い、オーガスト・ロウに任せておけ」
オーガストはワイス長官を猛追し、両手を前に突き出して呪文を唱えた。
「“風吹けコンコーン!!”」
その両手から猛風が吹き、ワイス長官達が天高く舞い上がる。
風は長官達をどこまでも遠くへ運んで行き、やがて彼らは空の彼方へと姿を消した。
「おい、おっさん!遠くへ吹き飛ばしてどうすんだよ!」
「ははは…すまん、すまん。つい力が出過ぎてしまってな」
「は?!ふざけんじゃねーよ!なにが“敏腕魔法使い”だ!この“暴走魔法使い”!」
「そうだよ!しかも呪文超ダサいし!」
「まぁまぁ、落ち着け、二人共。怒っていても仕方がないだろう」
「そうよ。飛ばされた位置はわかっているんだし、そこへ探しに行けばいいだけよ」
「え?どこに飛ばされたかわかるの?」
「ええ。二時の方向よ」
「大雑把すぎだよ!っていうか、ここ何ていう町なんだろう?」
陸人は巻物を広げて地図を表示させた。
――――ねえ、ジャン・ダッシュ。現在地とか特定できないの?
『残念だが、GPS機能はついていないものでな』
――――ふーん。モバイル機器なのに肝心な機能はついてないんだね。
『…』
ふいに地図の上に影が差し、水掻きのついた緑色の手が陸人の肩の後ろから伸びてきた。
「ここはトライデント王国内陸部の町カンパナだ」
その指が、大陸の中心部を指さす。
「え…?」
陸人は目をパチクリさせた。
「おじさん、なんで知ってるの?もしかして、前にここに来たことあるとか?」
「いや…そういうわけじゃなくてだな…」
オーガストは少し面映ゆそうな表情で、
「ここは俺の故郷なんだ」
「えっ、そうなの?!じゃあ、おすすめのレストランとか連れてってよ」
「ああ、いいぞ。なんならこれから連れて行ってやろう。そろそろ昼飯時だからな」
「やったー!」
「おい!何さりげなく話をすり替えてんだよ!石はどうすんだよ、石は!」
「まぁ、そう焦るなマトン君。腹が減っては戦はできぬというではないか」
「そうそう。人間食べなきゃ生きていけないもんね」
「ったく…仕方ねぇな」
どうにかシメオンの了承を得て、一行はレストランへと向かうことになったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる