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第34話 このおじさん沙悟浄の役なんですよ
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オーガストの案内で、陸人達は表通りにある少し古びた感じの大衆レストラン“ボンボンジュール”へとやってきた。
「いらっしゃいま――――えっ…?」
河童の姿のオーガストを見て、店員の女性が顔を強張らせる。
「あの、特殊メイクなんです、これ!」
陸人は慌てて言い訳した。
「と…特殊メイク?」
「はい。今映画の撮影やってて、このおじさん沙悟浄の役なんですよ」
「映画の撮影…。そうですか…」
店員は苦笑いで人数をチェックし、陸人達を人目につかない奥の席へと案内した。
「お決まりになりましたらお呼びください」
頭を下げ、そそくさと持ち場へ戻って行った。
「さーて、何を注文しようかなぁ」
「この店は爆弾オムライスと地雷ギョーザがおすすめだぞ」
「えっ、何それ…?口に入れたとたん爆発しそうだね」
「もっと普通の料理はないのか?」
シメオンは長いため息をつくと、ふと壁に張ってあるポスターに気付き、眉を寄せた。
「おい…どういうことだ、アレ?」
「え?何?」
全員の視線が、一斉に張り紙へと注がれる。
それはお尋ね者のポスターだった。
描かれている長髪の男性の似顔絵の下に、走り書きで文字が綴られている。
“自称オーガスト・ロウ。27歳男性。見かけた者は至急魔法協会本部までご連絡を”
驚きのあまり、陸人は思わずメニュー表を床に落っことしてしまった。
「おじさん…確か25歳って言ってたよね?2歳もサバ読んでたの?」
「違うわ、陸人くん。このポスターの発行年月日は去年の日付になっているから、正確には“3歳”よ」
「おい、つっこむところはそこじゃねーだろ!」
シメオンは眼光鋭くオーガストを睨み付けた。
「おい、おっさん。あんた重要指名手配犯なのか?一体何しでかしたんだよ」
「しっー!声がでかいぞ、シメオン!」
オーガストは声をひそめながら、
「俺は何もしていない!無実だ!」
陸人は眉を寄せた。
「何もしてなくはないよね?少なくとも窃盗や食い逃げはやってるよね?」
そういう陸人も、人のことを言えた立場ではない。
オーガストは激しく首を振り、訴えるように陸人達を見つめた。
「確かに食い逃げやかっぱらいの常習犯ではあるが、それだけだ。指名手配されるほど凶悪な犯罪は犯していない!」
「じゃあなんでお尋ね者になってるの?」
「それは――――おそらく別のことが理由だろう…」
「別の理由って?」
「それは…今ここで言うわけにはいかない。人目があるからな」
「もしかして、痴漢とか?」
オーガストは飲みかけていた水を吹き出した。
「ばっ、馬鹿っ!何を言ってるんだ!痴漢だなんて…俺がそんな野卑な男に見えるか?!」
「うん」
「即答?!陸人、お前さん俺のことを過小評価しすぎてないか?!」
「だって…どさくさに紛れてエレミアのスカートの中に潜ろうとしてたし…」
「あ…あれは自分の身を守ろうとしただけであって…決して下心などなかったぞ!まぁ、あわよくばパンティーくらい拝めるかもしれないという期待をまったく抱かなかったわけではないが――――って…なんだ君達、その排水溝のぬめりでも見るかのような目つきは!」
「もしもし、そこの御一行」
カウンター席に座るローブを着た優男が、突然陸人達に話し掛けてきた。
「もしやその似顔絵の男について、何かご存知なのですか?」
陸人達は無言で視線を通わせた。しびれを切らしてオーガストが口を開く。
「いいえ!こんな男、我々は全っ然、知りませんな!全っっ然だ!」
あまりの気迫にローブの男は些か面食らっているようだ。
「あんた、関係者か何かか?」
シメオンが問い掛ける。
「ええ、まぁ」
男はにこにこ笑いながら、ローブをめくってオレンジ色のバッジを見せた。
「魔法協会の者です」
陸人はごくりと生唾を飲み込み、おそるおそる訊ねてみた。
「この似顔絵のおじさん、そんなにヤバい人なの?」
「ええ、はい。かなり質の悪い凶悪犯です。ですから見かけたらすぐにでもこちらに連絡をくださると助かります」
男はカードのようなものを陸人達のテーブルに置き、店を出ていった。
微妙な空気が流れる中、口火を切ったのはやはりオーガストだった。
「なぁ、黙りこんでないで、何とか言ってくれよ」
「うーん…。何とかって言ってもね…」
「聞いてくれ。これは何かの間違いなんだ。俺は無実なんだよ!頼むから魔法協会に売るような真似はしないでくれよ?」
オーガストが弁解すればするほど、陸人達の瞳に宿る疑いの影は濃くなっていった。
「もう、いい。この話はこれで終わりだ」
意外にもシメオンはそれ以上追及しなかった。
「おお…友よ!感謝するぞ!」
「勘違いするな。別にあんたを庇ったわけじゃない。あのクソモヒカン長官の所属するクソ魔法協会が喜ぶようなことはしたくないだけだ。間違っても俺はあんたのことを仲間だなんて思っちゃいないからな。今度何かやらかしたら即刻追放してやるから覚悟しておけ」
「え…?」
「追放は言い過ぎだよ、シメオン。確かに君にとっておじさんはただウザいだけの穀潰しにしか思えないだろうけど、きっとこれから魔法使いとしての本領を発揮して、僕らの役に立ってくれる日が来るよ。具体的なビジョンは見えないけど…」
「え…?!」
「そうよ。枯れ木も山も賑わいというしね」
「君達、その庇い方はひどくないか…?」
「いらっしゃいま――――えっ…?」
河童の姿のオーガストを見て、店員の女性が顔を強張らせる。
「あの、特殊メイクなんです、これ!」
陸人は慌てて言い訳した。
「と…特殊メイク?」
「はい。今映画の撮影やってて、このおじさん沙悟浄の役なんですよ」
「映画の撮影…。そうですか…」
店員は苦笑いで人数をチェックし、陸人達を人目につかない奥の席へと案内した。
「お決まりになりましたらお呼びください」
頭を下げ、そそくさと持ち場へ戻って行った。
「さーて、何を注文しようかなぁ」
「この店は爆弾オムライスと地雷ギョーザがおすすめだぞ」
「えっ、何それ…?口に入れたとたん爆発しそうだね」
「もっと普通の料理はないのか?」
シメオンは長いため息をつくと、ふと壁に張ってあるポスターに気付き、眉を寄せた。
「おい…どういうことだ、アレ?」
「え?何?」
全員の視線が、一斉に張り紙へと注がれる。
それはお尋ね者のポスターだった。
描かれている長髪の男性の似顔絵の下に、走り書きで文字が綴られている。
“自称オーガスト・ロウ。27歳男性。見かけた者は至急魔法協会本部までご連絡を”
驚きのあまり、陸人は思わずメニュー表を床に落っことしてしまった。
「おじさん…確か25歳って言ってたよね?2歳もサバ読んでたの?」
「違うわ、陸人くん。このポスターの発行年月日は去年の日付になっているから、正確には“3歳”よ」
「おい、つっこむところはそこじゃねーだろ!」
シメオンは眼光鋭くオーガストを睨み付けた。
「おい、おっさん。あんた重要指名手配犯なのか?一体何しでかしたんだよ」
「しっー!声がでかいぞ、シメオン!」
オーガストは声をひそめながら、
「俺は何もしていない!無実だ!」
陸人は眉を寄せた。
「何もしてなくはないよね?少なくとも窃盗や食い逃げはやってるよね?」
そういう陸人も、人のことを言えた立場ではない。
オーガストは激しく首を振り、訴えるように陸人達を見つめた。
「確かに食い逃げやかっぱらいの常習犯ではあるが、それだけだ。指名手配されるほど凶悪な犯罪は犯していない!」
「じゃあなんでお尋ね者になってるの?」
「それは――――おそらく別のことが理由だろう…」
「別の理由って?」
「それは…今ここで言うわけにはいかない。人目があるからな」
「もしかして、痴漢とか?」
オーガストは飲みかけていた水を吹き出した。
「ばっ、馬鹿っ!何を言ってるんだ!痴漢だなんて…俺がそんな野卑な男に見えるか?!」
「うん」
「即答?!陸人、お前さん俺のことを過小評価しすぎてないか?!」
「だって…どさくさに紛れてエレミアのスカートの中に潜ろうとしてたし…」
「あ…あれは自分の身を守ろうとしただけであって…決して下心などなかったぞ!まぁ、あわよくばパンティーくらい拝めるかもしれないという期待をまったく抱かなかったわけではないが――――って…なんだ君達、その排水溝のぬめりでも見るかのような目つきは!」
「もしもし、そこの御一行」
カウンター席に座るローブを着た優男が、突然陸人達に話し掛けてきた。
「もしやその似顔絵の男について、何かご存知なのですか?」
陸人達は無言で視線を通わせた。しびれを切らしてオーガストが口を開く。
「いいえ!こんな男、我々は全っ然、知りませんな!全っっ然だ!」
あまりの気迫にローブの男は些か面食らっているようだ。
「あんた、関係者か何かか?」
シメオンが問い掛ける。
「ええ、まぁ」
男はにこにこ笑いながら、ローブをめくってオレンジ色のバッジを見せた。
「魔法協会の者です」
陸人はごくりと生唾を飲み込み、おそるおそる訊ねてみた。
「この似顔絵のおじさん、そんなにヤバい人なの?」
「ええ、はい。かなり質の悪い凶悪犯です。ですから見かけたらすぐにでもこちらに連絡をくださると助かります」
男はカードのようなものを陸人達のテーブルに置き、店を出ていった。
微妙な空気が流れる中、口火を切ったのはやはりオーガストだった。
「なぁ、黙りこんでないで、何とか言ってくれよ」
「うーん…。何とかって言ってもね…」
「聞いてくれ。これは何かの間違いなんだ。俺は無実なんだよ!頼むから魔法協会に売るような真似はしないでくれよ?」
オーガストが弁解すればするほど、陸人達の瞳に宿る疑いの影は濃くなっていった。
「もう、いい。この話はこれで終わりだ」
意外にもシメオンはそれ以上追及しなかった。
「おお…友よ!感謝するぞ!」
「勘違いするな。別にあんたを庇ったわけじゃない。あのクソモヒカン長官の所属するクソ魔法協会が喜ぶようなことはしたくないだけだ。間違っても俺はあんたのことを仲間だなんて思っちゃいないからな。今度何かやらかしたら即刻追放してやるから覚悟しておけ」
「え…?」
「追放は言い過ぎだよ、シメオン。確かに君にとっておじさんはただウザいだけの穀潰しにしか思えないだろうけど、きっとこれから魔法使いとしての本領を発揮して、僕らの役に立ってくれる日が来るよ。具体的なビジョンは見えないけど…」
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