魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第三章:プリンセス、迷宮に囚わる

(3)

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 入り口を入ってすぐ。そこに噂のプレートがあった。

「うーん……『逆さの塔』……?」

 プレートには大地から下に向かって伸びる塔の図が刻まれている。いえ、その表現は少し違うわね。
 地中に埋もれた塔。その方が正しいかもしれない。最初にイメージしたものはバベルの塔を逆さにして地面に突き刺した、そんな感じ。
 でもこの図は……塔をそのまま大地に埋めたみたい。だから今私は地上に突き出した塔の先端部分から入ったわけだ。ここから下層に向かって塔を降って行くことになる。
 ここを地上一階と呼ぶべきか塔の最上階と呼ぶべきかは迷うけれど、入り口フロアはただ広いだけのホールになっていて中央の柱の側に降りの階段があるだけ。先程からいくつものパーティーがそこからダンジョンに突入している。
 先立って購入した地図にも降った先を第一層として順に記載されている。あくまでこのホールはダンジョンの出入口としか思われていないようだ。
 でも私の目には……俺くんの記憶を持つ私にはその柱に模様のように描かれたモノが扉だとわかる。
 この世界の人に扉だと認識されない様に四角い柱の全ての面にびっしりと装飾のように刻み込まれているけれど、どう見てもエレベーターの扉に見えてしまう。
 残念ながらボタンぽいところに触れても反応はない。ゲームでよくある最下層からの帰路として使うのかもしれない。
 ……別に期待はしていなかったわよ。これで楽に下まで行けるとか思ってなかったわよ……少ししか……。

「……残念でしたね……」

 アンには下層への直通経路かもしれないと少しぼかして説明した。結局ダメだったけれど。

「……そんなものよ」

 心の内を見透かしたようなアンの慰めに淡々と返事をして階段へと向かう。
 地図もあるし、まずは九層だっけ? そこまで行ってみましょう。


 フード付きのマントと気配遮断の魔法のおかげで他の冒険者に絡まれることもなく、あっさりと九層への階段まで辿り着いた。
 普通ならイベントを起こすためにフードも気配遮断も使わないのだけれど、このゲームというか世界の場合はそんな事をしたらろくなことにならない。具体的にはアレをアレされる方向で。なので私は常に気配遮断オンよ!
 そんなのつまらないだなんて言わせないわ! もうシーラ様以外には体は許さないのよ……。あられもない姿を晒すのはお終い。これからは貞淑な人妻(まだ未婚)ライフが待っているのよ!!(予定)
 予定じゃないわよ! 私の貞操観念を舐めないでよね!?

 ……というわけで地図があったおかげでかなり楽に到達した第九層。ここまでは出現するモンスターも私にとっては脅威にならず……というか攻撃されてもほぼノーダメージのモンスターばかりだった。ちなみに五層のボスは他の冒険者に倒されていて素通りだった。時間経過でリポップするらしいのに……残念。迷宮探索記念にミノちゃんとは戦っておきたかった。
 真っ直ぐにここまで来たから宝箱の類も全てスルーして来た。まぁ恐らくは探したところで何も見つからなかっただろうけれど。
 流石にモンスターと違って宝箱は何度もリポップしない。魔物にしても魔獣系モンスターは普通の動物と同じ様に繁殖して成長しないといけないけれど、魔法生物系は簡単に再出現する。ボスのミノタウロスも魔法生物系のモンスターだ。まぁ、ああいうのが自然に生まれて来たら怖いわよね。その割にはキマイラは魔獣系なのよね……。製作者の線引きがよくわからないわ。
 ただし、あくまでゲームの話だけれども。この世界がどこまで準じているかはわからない。だから油断は大敵ね。
 さてと、ここからは未踏破エリアになる。マップ情報もない。なので……。

「アン、マップオープンよ」
「かしこまりました」

 目の前にマップが表示された。フィールドと違って表示される範囲が狭くなる。だいたい100メートル四方くらい。それでも十分助かるけれど。

「さ、行きましょう……」

 階段を下るとこれまでと同様に天井が発光していて部屋の中を見渡せる。正面と左右に扉。これも上階と変わらない。
 この分だと少なくとも11層まで変化はなさそうだ。
 現在のマップ範囲には塔の外周壁は表示されていない。前後左右に四部屋と半分が表示されているので、部屋の広さも同じ20メートルの正方形と変わらない。
 正直下層に行くほど広くなるのでマップを持つ私でも迷う可能性がある。慎重に行こう。
 ひとまずマッピングしながら真っ直ぐ進むことにする。
 モンスターは発見次第一撃必殺で行く。あ、そうだ念のため探索も使っておこう。
 それとそろそろこの邪魔なフードマントを脱いでもいいかしらね。重いというほどではないけれど、決して着心地がいいわけでもなく、フードは視界も狭めるので多少は不安になったりもする。
 マントを外すといつもの革の胸当てと濃緑のワンピースにタイツという軽装。腰に下げたショートソードを見てもあまり強そうには見えない。
 胸当ての金の模様が気に入っているけれど、装備品としては初心者用の物だから強そうに見えないのは仕方がない。紫紺の外套と短剣はいいものなんだけどね……。ガルム様がくれたものだから。でもそれが逆に高品質すぎて目を引いてしまう。新米冒険者が身につけるには良すぎるのだ。なので今日も紫紺の外套は身につけていない。

「どうかしら? おかしくない?」
「大丈夫ですよ。どこから見ても立派な新米冒険者です。まるで貴族のご令嬢がお遊びでやっているようですよ」
「……アン、それは褒めてないわよね!?」
「……いいえ。姫様の気品が溢れているという事をお伝えしたかったのですが、語彙に乏しいアンをお許しくださいませ(笑)」

 ん? 何か語尾に(笑)が付いたような気がしたのだけれど気のせいよね……。ホント最近アンってば私を小馬鹿にしてる気がするのだけれど……やっぱり私のせいで大変な思いをしているからストレスが溜まっているのかしらね……。多少は大目に見たほうがいいのかしら?

「まぁいいわ……」

 こんなところで認識の相違を話し合っても仕方がないので先へ進むことにする。


「姫様、次の部屋は魔物が三体です」
「わかったわーー」

 扉を開けて魔物の姿を確認。赤い骨の魔物、レッドスケルトン。スケルトンシリーズの下から三番目の強さの魔物。下から順に白、青、赤ときてその上に黒、銀、金と続く。まぁどうでもいいけれど……。

刺シ貫ク光レイスティンガー

 光の弾丸? というかレーザーみたいなのがスケルトンに殺到して三体の骸骨を赤く染め上げるーーというか元から赤いし骨だから血も出ない。ただ単にあっさりと崩れ去って消失してしまうだけ。

「お見事です。次は空です。その次また三体です」
「了解よ」

 真っ直ぐに部屋を通過して次の部屋へ。その部屋も真っ直ぐに突っ切ってまた扉の向こうの魔物の姿を確認する。

「ガーゴイルです」
石飛礫ストーンブラスト

 悪魔の石像を小石の銃弾で滅多打ち。どう見てもショットガン。いやマシンガンかしら?

「ロックゴーレムです」
大気を伝う波ウェーブブラスト

 岩石人形を振動衝撃波で破砕してまた次に部屋へ。

「ファイアエレメントです」
氷結の矢フリーズボルト

 炎の下位精霊を凍結粉砕して次へ進む。

「ボスです」
分子分解アトミックブレイカー

 ヤギ頭の悪魔っぽいやつを一撃で分子分解してから気がつく。

「……ボス?」
「はい。このレッサーデーモンが次層への階段を守っていました。次の部屋が階段です」

 示されたマップを見れば確かに階段の表示があった。途中からマップの確認はアンに任せていた。行けるところまで真っ直ぐ進むのにマップを見る必要がなかったからなのだけど、もう少しナビゲートしてほしいと思うのは私の我儘なのかしら……?
 せっかくのボスキャラだったのに感慨も何もないわ。しかも調子に乗って使ってみた魔法が分子分解……これ人間相手には使っちゃダメなやつだわ。
 本当にレベル6魔法? 確かにいくつかの魔法のレベルを上げなければ取得できない魔法だったけれど……。

「どうしますか? もう少しこのフロアを探索しますか?」
「いいえ、下へ降りるわ。次はエリアボスね?」
「そのように予測されています」

 5層ではボスが倒されていて少し残念な気分になった。なので次こそはちゃんと戦って先へ進みたい……と多少は思っている。
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