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第三章:プリンセス、迷宮に囚わる
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地上への続く昇降機でソフィス様とノインさんを見送った。
「あの時の新人がもうこんなにも逞しく成長しているとはな……」
そんな風に驚かれたけれど、私の方こそまさかノインさんが剣聖だなんて、物凄く驚かせてもらった訳で……。
あの後にノインさんが気がついてから彼女にも私の正体を話した。ほんの僅かに警戒というかなんというか訝しがられた? というのかしらね。最初の一言は「何故そんな嘘を?」と魔族であるという告白を疑われてしまった。
それには正直私の方の理解が追いつかず、混乱してしまった。
「私が聞く魔族とは残忍で冷酷なそれこそ悪魔のような種族の話だ。君のようなごくごく普通の女の子の話など聞いたこともなかった。それとも君が特別なのか?」
私がごく普通かどうかは議論の余地がありそうだけれど、確かに一部のスキルなどを考慮しなければ普通と言えなくもない……わよね?
特に見た目などから判断するのなら、確かに私はどこにでもいそうなただの美少女だと思う。
「いいえ、私達魔族は総じて温厚で争いを好みません。私が特別ではありません」
「それと、私達人族と変わらぬ容姿だが?」
「……はい? 人族と魔族は身体的特徴がとてもよく似ていますね。寿命や成長の仕方が少し違いますが、見た目で判別は難しいと思います」
「そうか……それも私が聞いた話と違うな……」
「えっと、人族は魔族の事をどのように認識しているのでしょうか?」
「残忍な殺戮者。人族と見れば見境なく襲いかかってくる獣のような存在。一人いれば十人はいると思え。鋭い爪や凶悪な牙で引き裂かれる……などだろうか?」
「………………」
どこのモンスターよそれ!?
「どうやらそれらの話のどれもが誤った情報だったようだな」
「そのようですね。少なくとも私が知る限りそのような話に該当する魔族はおりません」
「そうですわね、私も知りませんわ。私が知る魔族はちょっぴりエ○チなメイドですからね」
「ーーなっ!? だからこれは違うって!!」
「あら? 別にキラリさんの事だとは言っていませんよ? 何か心当たりでも?」
「うぅぅ……巨乳聖女が意地悪するよぉ~」
「……そこのエ□メイド……いい度胸ですわね?」
「そっちから言ってきたくせにー!」
「お黙りなさい。ちょっとお灸を据えましょうね」
目だけが笑っていない満面の笑みで躙り寄る聖女。ある意味ホラーだわ!
「こら、逃げない!」
逃げるし! 巨乳怖いし!
「ノイン様~巨乳がイジワルしてきますぅ~」
「キ~ラ~リ~!」
「お、おい二人とも止めないかーー」
ノインさんを盾にして逃げ回る私とそれを追うソフィス様。グルグル回るうちに足がもつれて結局ノインさんを巻き込んで盛大にこけた……。
大きな二つのクッションのお陰で怪我がなくてよかったわ。何も言わなかったはずなのに何故か起き上がってからソフィス様に頬を抓られた。
そんな一幕もあったけれど、そろそろお別れね。
二人に昇降機へと乗ってもらい、あとは中のボタンを押すだけ。
あとは私の問題。
色々と心配はされたけれど、それほど大変な事にはならないと思う……たぶん……きっと……。
別れ際、ずっと言いにくそうにしていた聖女様が私の手を握ってきた。驚いて顔を見れば何やら頬が赤い。まさか……告白……かしら?
「キラリさん……一応お礼は言っておきますわ」
違った。
「えっと、何のお礼でしょう?」
「そうやってまたはぐらかすのですね……」
そんなつもりはないのですが……そもそもまたって何? それほどの付き合いでもないと思うのですけれど……?
確かにその割には私は二人を見捨てられなかったわね。自分でも不思議に思わなくもないのだけれど……自分でも気がつかないくらい不安な気持ちがあったのかもしれない。初めての街で安心をくれたノインさん。私のために解呪を引き受けてくれたソフィス様。その後のお茶会も思い出深いけれど……。
あぁ! 宣告を解除した事かしら? 今のお礼って。
「ーーもしかしてあなた……何に対するお礼か今思い至りましたね?」
「い、いいえ! そんな事はありませんよ。もう必要ないですからね宣告による口止めは」
あの時のソフィス様にはまだ私が魔族だと知られたくなかったし、パーティーの方にも話して欲しくなかった。でもその判断は大正解だったわね。まさかパーティーメンバーに剣聖がいるなんて……さすが癒しの聖女だわ。
「まぁいいですわ。あの時の私が宣告によって行動を制限されなければ……あなたの正体をハッキリさせるまで詮索を続けたでしょう」
その可能性は高かったと私もそう思います。だからこそ宣告で縛ったのだし。それでも話せない訳ではなかったと思うのだけど……。
「……やっぱりお礼はやめようかしら……だって……あんな……恥ずかしい宣告……」
「ああ! やっぱり話そうとはしたんですね! 死ぬような制約ではありませんでしたからね。私自身甘い判断だと少し悩んだんですよね……でも何事もなく街を出られたので、意外とどうにかなるものだと思ってました」
「あんなの……話せる訳ないでしょう!? 何なのよ!? あの恥ずかしい呪いは!? 最初に話そうとしたのがノインでなければ……ああ、もう! 考えたくもありませんわ」
「……あの時のソフィスは妙に艶めかしかったな」
「いいなぁ……私も見てみたかったですソフィス様!」
「お黙りなさい!」
「ひはいれふ……」
また頬を抓られた。
でも真っ赤な顔のソフィス様って可愛い……。
「……ありがとう。やっぱりお礼はしておくわ。あの宣告は許せないけれど、色々と気づかせて貰いましたから……ふん」
「素直じゃありませんねソフィス様は。でもそこが可愛らしいですよね」
「キ~ラ~リさん!!」
「それではそろそろ地上へ!」
内側のボタンを押して私は扉から少し離れる。
「あ、こら!! 今度会ったら覚えておきなさいよ。年上を揶揄って!!」
「は~い。さようなら~」
ゆっくりと閉まる扉。
完全に閉じるまで手を振り続けた。
さて、あとは私の問題をどうにかしなくては。
成り行きとはいえ冥王に対して自分の身柄と引き換えに要求を通した。通したからには相応の対応をしなくてはいけないだろう。
それでもなんとか話をつけて旅を再開しなくてはいけない。今代の勇者となんらかの決着をつけなくてはいけない。まぁ、私はあくまでそのお手伝いだけれど……。
それでもここでリタイアは出来ない。
「あの時の新人がもうこんなにも逞しく成長しているとはな……」
そんな風に驚かれたけれど、私の方こそまさかノインさんが剣聖だなんて、物凄く驚かせてもらった訳で……。
あの後にノインさんが気がついてから彼女にも私の正体を話した。ほんの僅かに警戒というかなんというか訝しがられた? というのかしらね。最初の一言は「何故そんな嘘を?」と魔族であるという告白を疑われてしまった。
それには正直私の方の理解が追いつかず、混乱してしまった。
「私が聞く魔族とは残忍で冷酷なそれこそ悪魔のような種族の話だ。君のようなごくごく普通の女の子の話など聞いたこともなかった。それとも君が特別なのか?」
私がごく普通かどうかは議論の余地がありそうだけれど、確かに一部のスキルなどを考慮しなければ普通と言えなくもない……わよね?
特に見た目などから判断するのなら、確かに私はどこにでもいそうなただの美少女だと思う。
「いいえ、私達魔族は総じて温厚で争いを好みません。私が特別ではありません」
「それと、私達人族と変わらぬ容姿だが?」
「……はい? 人族と魔族は身体的特徴がとてもよく似ていますね。寿命や成長の仕方が少し違いますが、見た目で判別は難しいと思います」
「そうか……それも私が聞いた話と違うな……」
「えっと、人族は魔族の事をどのように認識しているのでしょうか?」
「残忍な殺戮者。人族と見れば見境なく襲いかかってくる獣のような存在。一人いれば十人はいると思え。鋭い爪や凶悪な牙で引き裂かれる……などだろうか?」
「………………」
どこのモンスターよそれ!?
「どうやらそれらの話のどれもが誤った情報だったようだな」
「そのようですね。少なくとも私が知る限りそのような話に該当する魔族はおりません」
「そうですわね、私も知りませんわ。私が知る魔族はちょっぴりエ○チなメイドですからね」
「ーーなっ!? だからこれは違うって!!」
「あら? 別にキラリさんの事だとは言っていませんよ? 何か心当たりでも?」
「うぅぅ……巨乳聖女が意地悪するよぉ~」
「……そこのエ□メイド……いい度胸ですわね?」
「そっちから言ってきたくせにー!」
「お黙りなさい。ちょっとお灸を据えましょうね」
目だけが笑っていない満面の笑みで躙り寄る聖女。ある意味ホラーだわ!
「こら、逃げない!」
逃げるし! 巨乳怖いし!
「ノイン様~巨乳がイジワルしてきますぅ~」
「キ~ラ~リ~!」
「お、おい二人とも止めないかーー」
ノインさんを盾にして逃げ回る私とそれを追うソフィス様。グルグル回るうちに足がもつれて結局ノインさんを巻き込んで盛大にこけた……。
大きな二つのクッションのお陰で怪我がなくてよかったわ。何も言わなかったはずなのに何故か起き上がってからソフィス様に頬を抓られた。
そんな一幕もあったけれど、そろそろお別れね。
二人に昇降機へと乗ってもらい、あとは中のボタンを押すだけ。
あとは私の問題。
色々と心配はされたけれど、それほど大変な事にはならないと思う……たぶん……きっと……。
別れ際、ずっと言いにくそうにしていた聖女様が私の手を握ってきた。驚いて顔を見れば何やら頬が赤い。まさか……告白……かしら?
「キラリさん……一応お礼は言っておきますわ」
違った。
「えっと、何のお礼でしょう?」
「そうやってまたはぐらかすのですね……」
そんなつもりはないのですが……そもそもまたって何? それほどの付き合いでもないと思うのですけれど……?
確かにその割には私は二人を見捨てられなかったわね。自分でも不思議に思わなくもないのだけれど……自分でも気がつかないくらい不安な気持ちがあったのかもしれない。初めての街で安心をくれたノインさん。私のために解呪を引き受けてくれたソフィス様。その後のお茶会も思い出深いけれど……。
あぁ! 宣告を解除した事かしら? 今のお礼って。
「ーーもしかしてあなた……何に対するお礼か今思い至りましたね?」
「い、いいえ! そんな事はありませんよ。もう必要ないですからね宣告による口止めは」
あの時のソフィス様にはまだ私が魔族だと知られたくなかったし、パーティーの方にも話して欲しくなかった。でもその判断は大正解だったわね。まさかパーティーメンバーに剣聖がいるなんて……さすが癒しの聖女だわ。
「まぁいいですわ。あの時の私が宣告によって行動を制限されなければ……あなたの正体をハッキリさせるまで詮索を続けたでしょう」
その可能性は高かったと私もそう思います。だからこそ宣告で縛ったのだし。それでも話せない訳ではなかったと思うのだけど……。
「……やっぱりお礼はやめようかしら……だって……あんな……恥ずかしい宣告……」
「ああ! やっぱり話そうとはしたんですね! 死ぬような制約ではありませんでしたからね。私自身甘い判断だと少し悩んだんですよね……でも何事もなく街を出られたので、意外とどうにかなるものだと思ってました」
「あんなの……話せる訳ないでしょう!? 何なのよ!? あの恥ずかしい呪いは!? 最初に話そうとしたのがノインでなければ……ああ、もう! 考えたくもありませんわ」
「……あの時のソフィスは妙に艶めかしかったな」
「いいなぁ……私も見てみたかったですソフィス様!」
「お黙りなさい!」
「ひはいれふ……」
また頬を抓られた。
でも真っ赤な顔のソフィス様って可愛い……。
「……ありがとう。やっぱりお礼はしておくわ。あの宣告は許せないけれど、色々と気づかせて貰いましたから……ふん」
「素直じゃありませんねソフィス様は。でもそこが可愛らしいですよね」
「キ~ラ~リさん!!」
「それではそろそろ地上へ!」
内側のボタンを押して私は扉から少し離れる。
「あ、こら!! 今度会ったら覚えておきなさいよ。年上を揶揄って!!」
「は~い。さようなら~」
ゆっくりと閉まる扉。
完全に閉じるまで手を振り続けた。
さて、あとは私の問題をどうにかしなくては。
成り行きとはいえ冥王に対して自分の身柄と引き換えに要求を通した。通したからには相応の対応をしなくてはいけないだろう。
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