魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第五章:プリンセス、最果ての地に散る

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 ……というような厳しい状況を一変するべく、俺たちの実力を少し披露しようと思う。

 そう勇者様が言いました。

「どうぞ……」

 私の気のない返答にどうやら少々不満があるようですが……?

「いや、もっとこう驚いたりとかそういうのは……?」
「ないですね」
「ないの?」
「ないですね……逆に今までが俺の全力だーー。とか言われた方が驚きますね。だって勇者様ですよ? こんな森くらい、あんな泥人形くらい単騎で軽く片付けられるに違いありませんもの!!」
「「「え゛っっ!!??」」」
「仲間のノインさんが目にも留まらぬ早業で驚異的な剣技を身につけておられるのですから、勇者様ならば私の想像もできないなようなとてつもない技を修得されているに違いありませんからっ!!!」
「え、あ、いや……それはちょっとどうかな……。物凄い誤解と期待と何かとてつもないモノが混ざっているような気がするんだが……」
「うむ。まさかこれ程までの期待をされていたとは思わなかった。さすがは勇者だ。よし、死ぬ気で期待に応えてやるといい」(笑)
「おい」
「ププッククク……。ですねぇ♪ ですねぇ♪ 人族の未来を背負って立つ伝説の勇者様ですからねぇ……プフッ!」
「おい!?」
「当然ですわ! 私たちの勇者ルクスの本当の力を見せてあげるわ!!」
「だから待てとーー」
「はいっっ!!!」
「……いや、だからね? 勇者と言ってもあくまで普通の人間なんだが……そこのところをもう少しだな、その考慮というか、何というかだな……」

 さすがにコレは少しやりすぎただろうか? でもまぁ面白そうだからいいかな?

「勇者様――」

 羨望スマイル&上目使いお祈りポーズ!!(笑)

「お、おう……ま、任せておけ……(どうするんだよコレ!?)」


「キラリさん館の方角は?」
「東南方向……真っ直ぐにあちらです」

 先程までの進行方向よりも少し東を指差す。
 もちろん森の中だから一直線に進めるわけじゃないけれど、目指す館はそこにある。

「私とメルはルクスのフォローだ。ソフィスとキラリは遅れない様に後を付いて来てくれ」
「わかったわ。キラリステータスアップの魔法は?」
「大丈夫です」
「さすがね。それでは先にかけておきましょうーーぶれい……」
「『神々の祝福ゴッドブレス』×5」
「(マジか!?)」
「素晴らしいな……」
「うわぁ~だねぇ」
「………………(ウソでしょ!?)」
「聖女様は魔力を温存してください。この程度で恐縮ですが私にお任せを!」
「えっと……そ、そうね、あは……あははは……」
「(いやはや……温存も何も……ねぇ? もしかして私たちより強かったりして……ねぇ?)」

「――こ、これで準備は整ったな! では行こう!」
「オ~!!」
「「「ぉ、お~……」」」

 なんだか微妙に気合が乗っていない、そんな掛け声と共に進行方向の大地の壁を消し去る。

「勇者ルクスが命ずる! 剣よ真の姿を我に示せ!!」

 ルクス様の力のこもった言葉に呼応するかの様に手にした剣が輝きに包まれた。

「行くぞぉぉぉぉっっ!! ブレイブリーソード!!」

 シャキィィィィィーーーーーーーンンン!!!!!

 横薙ぎの一太刀が光の刃となって森を駆け抜けた。
 その後を追う様に皆が走り出す。

「遅れるな!!」

 閃光が収まると進行方向から森がーー生い茂る木々と集まっていた魔法人形達が消滅していた!?

「凄い……」
「行きますよキラリさん!」

 聖女様に呼ばれて慌てて走り出す。
 ちょうど根本からスッパリ切り取られた様な木々。森林伐採、自然破壊……そんなフレーズが脳裏をよぎるけどこの世界にはまだそう言った考えはない。それくらい自然豊かで人の領域が狭いという事でもあるのだけれど……。
 でも世界樹の種族特性を持っているからかどうかはわからないけれど、ちょっと悲しい。

「不満そうな顔ね。木を切るのが気に入らない?」

 並走する聖女様にそんな指摘をされた。どうやら表情に出てしまっていたらしい。
 僅かな時間、どう返答しようか悩んだけれど率直な自分の気持ちを答えることにした。特別勇者を責めるようなつもりはない事も含めて。

「優しいのね。でもね、私も……それに彼も別に平気で木を、自然を破壊するつもりはないのよ? ほら、後ろを見てごらんなさい」

 言われるがままに視線を背後に向けると光の粒子が元の森を復元し始めていた!?
 はぁっ!? えっ、なに? どういう技なの!?

「ほら、立ち止まらないで」
「あ、はい」

 手を引かれてまた走り出す。
 前方からは二度目の閃光が煌めいた。

「これが勇者の力よ。普通の剣士とは違う勇者だけの剣技」

 理屈が全くわからないけれど、森は元に魔法人形は消滅。もともと斬られれば土に還る人形たちだけれど森はどうなっているのか……。
 それにもし私が……魔王がこの技で斬られたらどうなるの!?
 視線を上げる。
 剣閃は真っ直ぐかなりの距離を切り裂いている。幅はそれほど広くない。精々二メートル。

「心配しないで。彼は間違いなく心も勇者よ。以前の私は魔族にすら情けをかける彼のその部分を認められなかったけれど……今は違うわ。キラリさん……。あなたと出会ったことが私の心を動かしたのよ。まだ全てに納得した訳ではないけれどもね」
「ソフィス様……」
「そうそう。言おう言おうと思っていたのだけれど、いい加減「様」はやめてくれるかしら? 他人行儀すぎるわ。せめてノインと同じ様にーー」
「――わかりました!! これからはお姉様とお呼びしますね!! ポッ……」
「ハァ!? なんでそうなるのよ!? 第一「様」が付いたままじゃない!?」
「さぁ急ぎましょう! お姉様!!」
「ちょっとキラリさん!? その何かを含ませた言い方はやめなさいってば!! 私にそっちの気はありませんからねっ!!」

 今度は私がソフィス様の手を取り走り出す。
 まだ何かその呼び方はどうだとか言っているけれど……やっぱりお姉様もそういうことが気になるお年頃なんですね。(笑)
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