魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第五章:プリンセス、最果ての地に散る

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 連合軍の陣を蹂躙して全てを消し去った。
 もうこの島には誰もいない。
 これで私の役目は終わり。

「アン……最後までありがとう。ここまででいいわ」
「姫様……」

 妖精の姿から人の姿へ変じて私の側に寄り添う。
 玉座に座りながらそっと手を伸ばしてアンの髪に触れる。
 ほんの僅かに赤みを帯びた金の髪が指の間をサラサラと流れる。

「綺麗ね。元の金の髪とは少し違うけれど、今のあなたもとても綺麗よ。こうして同じ目線で向き合えるなんて思っても見なかったわね……」
「キラリ様……」
「ねぇアン、こっちに来て?」

 玉座は私には大きくて端によればもう一人くらいは座れる。
 優しく手を引いてアンを引き寄せると抱きしめてから隣に座らせた。

「……いいのでしょうか私などが座って……」
「もちろんよ。だってここに座るべき存在はもういないわ。だったらこんなのはちょっと豪華なただの椅子よ。意外と座り心地も良くないしね」
「そ、そうですか?」
「そうよ。私ならこっちの方がいいわ」
「きゃっ! どこを触っているのですか!?」
「いいじゃない、減るわけでもないのだし」

 柔らかな太腿に触れたままアンを抱き締める。

「ねえ、着替えさせてくれる?」
「もちろんでございます。ですが……冒険者の格好ではダメなのですか?」
「ダメじゃないわ。でも……そうね最後の魔王らしく派手にしたいでしょう? だから……着替えたいのよ」
「かしこまりました」



 髪を梳かしてお化粧をして……。普段は身につけた事のない漆黒のドレスを着た。
 悪の女王みたいな雰囲気のセクシーなドレス。ここまで胸元が開いた装いは初めてねきっと。
 お城の舞踏会ではもっと清楚なお姫様っぽい可愛らしいドレスだったものね……。随分と変わってしまったわね。

「姫様……お似合いではありますが……私はあまり好きではありません」
「ごめんねアン。私も同じ気持ちよ」

 キラリ姫にはもっと幸せな雰囲気のドレスを着せてあげたかった。

「でも……意外とこういうのも似合うわね」
「はい。何と言っても魔王様のご息女でございますから……黙っていれば大抵のドレスはお似合いになります」
「そうね、お姫様だものね……黙っていれば……ん……ちょっとアン? 一言余計ではないかしら?」
「そうですか? 私はそうは思いません。姫様はお話になるとどうしても可愛らしさが溢れてしまいます。こんな……こんなドレスは似合いません! 私は嫌です!!」
「アン……」
「姫様……姫様はこれからどうされるおつもりですか?」
「………………」
「キラリ様!」

 どうするつもりか……。私にもはっきりとはわからない。でも……多分最後の魔王としてその役目を果たさないといけないと思う。
 だからこの地で待つ。待ち続ける。
 うふふ……。ある意味想い人を待つ心境ね。

 最愛……ではないけれども愛した人を待つ健気な女……ではダメね。それを迎え撃つ悪の王なのだし。

「姫様……私もご一緒しますから。何をお考えなのかわかりませんが最後までお側にいさせてください。ダメと言っても離れませんから!」
「私の一生のお願いでもダメかしら?」
「ダメです。お側にいることが私の一生の願いですから。いくら姫様のお願いでもそれはきけません」
「あら? 私のお願いよりも優先なの?」
「それは……」
「うふふ。いいわ。ずっとそばにいなさい。あなたの一生のお願いをきいてあげるわ」
「姫様!!」

 嬉しそうな表情。ほんの少し心が痛い。でも……それでも私は私の願いを言うわ。どんなにあなたを悲しませる事になったとしても。これは譲れない願いなの。

「だから……私のお願いも聞いてね、アン……。私の願いは……」

 まっすぐにアンの目を見つめる。不安そうに、そして自分の失策を悟るかのような悲痛な表情。
 こんな顔はさせたくない。させたくはなかったけれど……アン、私の一番の親友。大切な大切な存在。だからあなたには……せめてあなただけは……。

「アン、あなたに生きていてもらう事。私の分まで幸せになる事。それが私の一生の願いよ。きいてくれるわね……」

 アンの目から大粒の涙が溢れ出す。止めどなく……。
 そっと指で拭い去っても後から後から溢れてくる。
 アンの辛そうな顔がぼんやりと滲む。

「姫様……私は……私は……」

 ああ……私も同じように泣いているのね。

「アン……大好きよ」
「はい、はい! 私も姫様が大好きです!!」
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