魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第六章:プリンセス、絶望に挑む

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 頰の触れる手が冷たく感じるのは私が感情的になっているからなのか、それとも彼女の表情と雰囲気の変化にドキッとさせられたからなのかわからない。
 わからないけれど、触れた瞬間体は正直に反応をしてしまった。

「んっ!」
「うふふ……可愛いわよ?」
「つ、冷たくて驚いただけよ。まさかその程度で優位に立ったつもり?」

 私の挑発に対して余裕の笑みを浮かべる。多少の動揺くらいで陥落したりなんてしない。平気だ。お手並み拝見といこう。だから私も最高の笑顔で迎え撃つ。

「いつでも降参していいのよ? 私は寛大だから土下座くらいで許してあげるわ」
「ふふ。自信がないのならそう言いなさい。それこそ土下座でいいわよ?」

 多分きっと壮絶な笑みの応酬になっているんだろうな。そんな事を思いながら相手の攻撃を受け止める。

 頰に触れた手が首筋に沿って胸元へと滑り降りていく。指先が服の上から鎖骨を撫でて胸の膨らみを包み込むと妙にドキッとした。
 そのままそっと触れるか触れないかというくらいのタッチで胸を撫でられると痺れるような心地よさがジワリと広がる。
 ちょっと今までにない不思議な感覚に戸惑いを覚える。

「ねぇ……ドキドキしてきた?」
「んっ……」

 耳を軽く食まれたと思ったら囁くような声。吐息が擽ったい。最初の不意打ちから鼓動は高鳴りっぱなしだ。落ち着け、落ち着け……。

「ごめんね。少しムキになってしまって……本当はこうして抱きしめたかったのよ……」
「んぁ……」

 絶妙な力加減で抱きしめられると互いの胸がギュッと重なり合って高鳴る鼓動を一層強く感じてしまう。自分のものと重なるもう一つの鼓動。トクントクンと響き合うような語り合うような不思議な安心感。母に抱かれる幼子の気持ち? これもまた今までにない感覚。
 優しい触れ方で指先が、手のひらが背中からお尻へ。少し捲れあがった裾から素肌に直接触れられると互いの体温の差にゾクリとした。

「キスしてもいい?」

 問いかけに喜びそうになって慌てる。さっきまでの気持ちが薄れてしまっている事に驚いた。ほんの少しの気持ちの変化が大きく影響している? これが魅了の効果? 彼女の問いに知らず知らず頷きそうになっていた自分に気付いて再度驚く。
 これ本当に強制力はないの!? いくら何でも私の感情の変化が急過ぎない!?
 初めての事に私の余裕は一気に削られていく。それでもどうにか持ち堪えて触れそうになる唇から顔を反らせた。

「急ぎすぎたかしら? うん、もっと気持ちよくなってからね」
「んぁ!?」

 抱き締める力がほんの少し強くなった。
 背中を支えられる手が気持ちいい。思わず身を任せてしまいその力強さにハッとなる。

「うそ……軽々と?」
「大丈夫。私に任せたらいいよ。こう見えて力持ちなの。ほら……ね?」
「え、あ……うそ……?」

 軽々と私の体を持ち上げてくるりと回って見せた。
 ナニコレ!? 凄くドキドキしてる!?

「ほらわかる? 私も凄くドキドキしてる」

 そっと降ろした私の手を取って自分の胸に当てる。彼女の鼓動が高く早鐘のように鳴っているのがわかる。
 私も同じように凄くドキドキしている。

「あなたはどう?」
「あっ……」

 ごく自然に私の胸に横顔を当てる。

「あ、ちょっと……ぃやぁっ……」

 鼓動を直接聴かれるのが恥ずかしくて思わず身を捩り逃げ出してしまった。

「あっ! 危ない!」
「ーーっ!?」

 その拍子に足がもつれて倒れてしまう。
 支えようとした彼女と一緒に……。

 目を閉じて床に体を打ち付ける事を覚悟したけれどその衝撃はこなかった。
 目を開けるとすぐ目の前に彼女の顔があった。

「大丈夫?」
「???」

 彼女の体の向こうに石の床がある。
 私はその上に乗っている。

「???」
「怪我がなさそうで良かったわ」

 えっと……どうなったの?

「私は平気よ?」

 髪を撫でられた。
 私を庇って下敷きに?

「………………」
「どうしたの?」

 幼子の頭を撫でるように優しく何度も何度も優しく髪を撫でられた。
 痛くないはずはない。でもそんな様子は少しも見せない。この人の事がよくわからなくなる。
 いや、違う。元々よく知らないんだ……。
 それなのに私は……。

「……ありがと……」

 妙に照れ臭い。

「ん……どういたしまして?」

 疑問系の返答。そして何故か微笑む彼女。
 その笑顔に魅せられたのかもしれない。
 なんだかよくわからない魅力が彼女にはある。
 それが何なのかはわからないけれど何故か無性にキスをしたくなった。
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