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コーラのあとは、おやつのチョコレートを出してきて、私にも分けてくれた。久しぶりに手にしたチロルチョコは、中にモチが入っているタイプだ。
「千葉の最高峰? なんだろう」
「鋸山だ」
オルが私の横で口にする。
「あ、鋸山ですか」
答えをパクって言えば、赤尾さんはにっこりと笑う。ちなみにオルは少々不満そうだ。ごめんごめん。
「そう。鋸山。その鋸山の南側にあるから、鋸南町っていうんだけどね」
ははぁ、なるほど。それは理に適った地名だ。
「お友達がそちらに住んでいるんですか」
「そうなの。かわいい柴犬も飼っていてねぇ。行く度に私のこと大好き大好きって言うのよ。たまらん」
うっとりとした顔をするから、思わず笑ってしまった。
「あ、笑ったな。でもこのかわいさはエンジェルよ。天使、大天使! もうミカエルって感じよ」
赤尾さん、たまによくわからないテンションになるよね。スマートフォンを急にいじりだした彼女は、私に写真を見せてくれた。
「ほら、この子」
「わ! 本当だ、かっわいい」
そこにはむっちりとした柴犬が、少し般若のような顔をしてこちらを見ていた。
「片方の目に毛が落ちてきてるのか、目つきが困った感じになってるのが、またいいのよねぇ。体も大きくて、確か十三キロだって」
「十三キロ?」
それは重い。なんと言っても、普段私が買っているお米の二倍以上だ。よく買う土は二十五リットルだけど、軽めの土なので、そのままそれが重さになるわけじゃない。
「明日の自由時間は、彼女の家に遊びに行く予定なんだ」
「そうなんですね」
「葉月さんはどうする予定?」
「私はレンタカーして、ドライブでもと思って」
「あぁ、それは良いわねぇ」
明日は一日自由時間だ。オルと二人で、山の中でも散策してみるのも悪くないかな、なんて思っている。
「そうだ。葉月さん自炊するなら、道の駅もお勧めよ」
「道の駅ですか」
「そう。房総半島って、道の駅に力入れててね。結構いろんな特徴を出してきてる道の駅が多いのよ。私のお勧めは──」
彼女はそう言うと、メモ帳にいくつかの道の駅の名前を書き出してくれた。
「まぁスケジュール的に無理なら、行かなくても気にしないで。葉月さん、そういうの気にするでしょう」
ばれている。こうして話していると、何故私は今まで赤尾さんに対して一線引いていたのか、と思ってしまうのだ。素直に思っていることを伝えても、彼女との関係が悪くなることはない。
実は、初めて彼女にお弁当のことを告げたあの日、屋上で赤尾さんに尋ねたのだ。
「私がおにぎりをお昼に食べたいって言ったの、いやな気持ちになりませんでした?」
今考えると、よくそんな自意識過剰な発言できたな、って思ってしまう。彼女はきょとんとした表情を浮かべた後、大声で笑い出したのだ。
「なんで? 別に思ってることを普通に言っただけじゃない。葉月さんが私をディスってきたら、そりゃ不愉快になるけど、そうじゃないし」
そうして、彼女はおかずの唐揚げを口に頬張ると、何度か頷いた。
「あのさ。私は、気付いてあげなくてごめんね、とか言わないよ。大人なんだから、言いたいことあれば、自分で告げるべきだと思ってるからね。言わないことは、ないことと同じ。その代わり、言いたいことがあれば、罵倒する言葉以外なら言ってよ。さすがに罵倒されるのは勘弁願いたいので、直して欲しいことがあれば、優しい言葉で言ってね」
その後卵焼きを口にして、これ甘い系かぁ、なんてつぶやいていた。
「良い同僚だな」
オルが私の頭の上から、声をかけてきた。私は、うん、と小さくつぶやいたあと、赤尾さんに、今度私の作る卵焼きをお裾分けする約束をしたのだ。
「私の卵焼き、しょっぱい系なんで」
そんなことを言って。
「千葉の最高峰? なんだろう」
「鋸山だ」
オルが私の横で口にする。
「あ、鋸山ですか」
答えをパクって言えば、赤尾さんはにっこりと笑う。ちなみにオルは少々不満そうだ。ごめんごめん。
「そう。鋸山。その鋸山の南側にあるから、鋸南町っていうんだけどね」
ははぁ、なるほど。それは理に適った地名だ。
「お友達がそちらに住んでいるんですか」
「そうなの。かわいい柴犬も飼っていてねぇ。行く度に私のこと大好き大好きって言うのよ。たまらん」
うっとりとした顔をするから、思わず笑ってしまった。
「あ、笑ったな。でもこのかわいさはエンジェルよ。天使、大天使! もうミカエルって感じよ」
赤尾さん、たまによくわからないテンションになるよね。スマートフォンを急にいじりだした彼女は、私に写真を見せてくれた。
「ほら、この子」
「わ! 本当だ、かっわいい」
そこにはむっちりとした柴犬が、少し般若のような顔をしてこちらを見ていた。
「片方の目に毛が落ちてきてるのか、目つきが困った感じになってるのが、またいいのよねぇ。体も大きくて、確か十三キロだって」
「十三キロ?」
それは重い。なんと言っても、普段私が買っているお米の二倍以上だ。よく買う土は二十五リットルだけど、軽めの土なので、そのままそれが重さになるわけじゃない。
「明日の自由時間は、彼女の家に遊びに行く予定なんだ」
「そうなんですね」
「葉月さんはどうする予定?」
「私はレンタカーして、ドライブでもと思って」
「あぁ、それは良いわねぇ」
明日は一日自由時間だ。オルと二人で、山の中でも散策してみるのも悪くないかな、なんて思っている。
「そうだ。葉月さん自炊するなら、道の駅もお勧めよ」
「道の駅ですか」
「そう。房総半島って、道の駅に力入れててね。結構いろんな特徴を出してきてる道の駅が多いのよ。私のお勧めは──」
彼女はそう言うと、メモ帳にいくつかの道の駅の名前を書き出してくれた。
「まぁスケジュール的に無理なら、行かなくても気にしないで。葉月さん、そういうの気にするでしょう」
ばれている。こうして話していると、何故私は今まで赤尾さんに対して一線引いていたのか、と思ってしまうのだ。素直に思っていることを伝えても、彼女との関係が悪くなることはない。
実は、初めて彼女にお弁当のことを告げたあの日、屋上で赤尾さんに尋ねたのだ。
「私がおにぎりをお昼に食べたいって言ったの、いやな気持ちになりませんでした?」
今考えると、よくそんな自意識過剰な発言できたな、って思ってしまう。彼女はきょとんとした表情を浮かべた後、大声で笑い出したのだ。
「なんで? 別に思ってることを普通に言っただけじゃない。葉月さんが私をディスってきたら、そりゃ不愉快になるけど、そうじゃないし」
そうして、彼女はおかずの唐揚げを口に頬張ると、何度か頷いた。
「あのさ。私は、気付いてあげなくてごめんね、とか言わないよ。大人なんだから、言いたいことあれば、自分で告げるべきだと思ってるからね。言わないことは、ないことと同じ。その代わり、言いたいことがあれば、罵倒する言葉以外なら言ってよ。さすがに罵倒されるのは勘弁願いたいので、直して欲しいことがあれば、優しい言葉で言ってね」
その後卵焼きを口にして、これ甘い系かぁ、なんてつぶやいていた。
「良い同僚だな」
オルが私の頭の上から、声をかけてきた。私は、うん、と小さくつぶやいたあと、赤尾さんに、今度私の作る卵焼きをお裾分けする約束をしたのだ。
「私の卵焼き、しょっぱい系なんで」
そんなことを言って。
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