妖精王の住処

穴澤空

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「ぎゃぁっ!」
「弥生どうした!」
「……オル、なんで大きい方で登場したの」
「いや、何かあったのかと思ってだな」
「あぁうん。ありがとう」

 昨日散々泣いてしまった後で、どうやら私はそのまま寝落ちたらしい。朝早くに目が覚めたら、ベッドに横たわっていた。しかも、オルが食べた食器は洗ってあるし、私が食べ残したものは、ラップをかけて冷蔵庫に入っていた。

「いや、スパダリかよ!」

 冷蔵庫を開けた私が、思わずそう突っ込んでしまったのは、許されたい。
 それで今、私が庭で叫んでしまった理由。それは。

「見てよオル! 朝食のサラダに使おうと思ってたのに、このサニーレタスにハモグリバエがこんなにいる」

 手にしていたサニーレタスを、えいやとオルに見せつける。大きなサイズで出てきたので、彼の目の前に突きつけるには、私はかなり手を伸ばさないといけない。腕が痛くなるから、早く引き取って欲しい。

「へぇ。本当だ」

 私の手から受け取ったオルは、じっくりと見る。

「これ、どうする」
「さすがにそんなに食害されてたら、私たちが食べるところ残ってないし……」
「捨てるのか?」
「あ、やってみたいことがあるから、ハモグリバエを殺虫して使う」
「やってみたいこと?」

 そう言いながら、サニーレタスを私に戻してきた。
 受け取った私は、ハモグリバエがいる場所を確認し、左右の親指の爪でサニーレタスの上からハモグリバエを潰す。音がはっきりと聞こえるわけではないのに、プチ、と音がしている気がした。

 ハモグリバエは、別名絵描き虫とも呼ばれる害虫で、葉の中で孵化してそのまま葉肉を食べていく。こいつらに食べられると、葉が白く食害痕を残し、それがまるで絵を描いたようなので、絵描き虫なんて良さげな名前がつけられている。
 が。
 ハエだ。
 絵描き虫だなんて名前に、惑わされてはいけない。
 そして、葉が食い荒らされて白くなると光合成もできなくなり、植物は生育不良になっていく。絶対に許さない。絶許である。

「サニーレタスにこれだけ出てる、ってことは他の植物にも出てるかもしれないなぁ」

 今日は土曜日だ。急ぐ必要もないので、ゆっくりと庭のパトロールをしながら、サラダの材料を集めていこう。
 サラダバーネット。無事。オレガノ。あ、少しやられてる。むしり取って、ハモグリバエを潰す。もう、ハモグリバエ絶許。

「……弥生。頼むからゼッキョ? ゼッキョゼッキョと言いながら、ハモグリバエを潰さないでくれ。ちょっと怖いぞ」

 おっと、一心不乱に潰しすぎていたらしい。オルに咎められてしまった。

「ごめんごめん。あ、ハモグリバエにやられつつ、スナップエンドウが生ってるよ!」

 オルのすぐ横にあるプランターに、小さくてかわいいスナップエンドウが、まるで大男オルの後ろに隠れるように生っていた。

 よいしょ、とオルを移動させてスナップエンドウのプランターの前にしゃがみ込む。オルも抵抗することなく、そのままトトトと移動してくれる。その様子が妙にかわいくて、ちょっと笑ってしまった。

「ねぇ見てよ。このかわいらしいフォルム。つやっつやの緑。あー、食べたい。でも、スナップエンドウって、一つだけ生っても困るよね。できれば三つ四つをまとめて収穫したい」

 と、いうわけで、このスナップエンドウの収穫は一時保留とする。
 今度は逆側の庭を確認しよう、と体をくるりと返した。
 去年うっかり剪定を忘れていたクレマチスは、強い生命力を自慢するように枯れているような蔓から、青々とした新芽を出して、蕾をつけている。

「今年はちゃんと、花が終わったら剪定するからねぇ」

 そっと蕾を撫でながら、声をかけ追肥をした。きれいな花を咲かせて欲しいな。
 その横の、ヒヨドリ被害にあったスティックセニョールは、葉っぱが食い荒らされていた。

「この食われ方は……」

 やられまくっている葉を切り取り裏を見れば、まだ数ミリの青虫がたくさんくっついている。そっと目を閉じ呼吸を整えると、ゴミ袋にそのまま突っ込むことにした。

「あれは触れたくない。さすがに触れたくない」
「弥生、お腹が空いたと思わないか」
「私のスティックセニョールの虫退治が一段落するのを、待ってたわね」
「仕事の邪魔をするべきでは、ないだろう」

 良いこと言ってやったぜ、みたいな顔をしているけど、別にそんな良いことを言っているわけじゃない。何故オルはそんなに勝ち誇った顔をしているのだ。

「卵、賞味期限少し切れてるから、オムライスにしちゃうね」
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