ランプの魔神を探して

穴澤空

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 窓の近くへとさらに近付く。
 於菟春がそっとその窓へと手をのばすと、窓枠がぎいい、と古びた音を立てるが、開かない。

「あれ。錆びとるんかなぁ」

 蝶番を覗き込む。

「いや──これは埋め込まれてて開かないやつだな」
「それやったら、絶望的やないか」

 ガラスに見えるのだから、割ってしまえば中には入れるだろう。だが、勝手に人の城に入るわけにはいかない。

「あ、おいエリカ」

 於菟春の声に窓の中をもう一度見れば、中の人影が私たちに向かって手をのばす。そうして「来い」と言わんばかりに手招きをした。

「これは──」
「割るしかないな。何か持ってるか?」
「ううん。魔法のランプと……」
「さすがにそれで割るわけにはいかない」

「万一こっちが壊れたら、最後やもんな」
「ああ。他には」

 ポケットをがさがさと探る。

「あとは──ハサミと……あっ、乾電池!」
「なんでそんなもんがポケットにあるんだよ」
「ハサミは家を出るときに届いた封書を開けたまま、ポケットに突っ込んだ。こっちは、エアコンのリモコンが動かんくなってな。そんで電池交換しようと思って、昨日百均で買おてたんや」

 思いがけないところで役に立ちそうである。──電池以外の用途なのだが。

「単四やけど、五本連なっとるからそれなりに使えるんやないかな」
「ああ。昔のガラスなら強化ガラスじゃないだろうしな」

 確かに、強化ガラスだとしたらお手上げだった。

「あっ、危ないからこれ手に巻いて」

 頭に巻いていた布を於菟春に手渡す。良く考えれば於菟春も頭に被せていたのだが、まぁ良いだろう。それを腕にぐるぐる巻きにすると、幾度か乾電池を窓に叩き込む。やがてばりんと音がして、ガラスが大きく割れた。用心すれば人が順繰りに通れそうな分だけ割れたそこに、慎重に絨毯を通して中に入り込む。

「ウシルシル、ウシルシル、降ろしておくれ」

 静かにそう於菟春が告げると、絨毯はゆっくりと高度を下げ、私たちは床へと足を着いた。

「これ、いちいち畳むのが少し面倒やな」

 そう言いながら、若干乱雑に畳む。広げたままだと、誰かに踏まれてしまうかもしれない。ここには誰かなど、いそうにもないのだが。
 畳み終えたその時。

「よくこの城に入ってこられたものだ」

 低く響く声がしたと思うと、鳥の羽を背中に背負う、すらりとした美女が登場した。身長は一六七センチくらいだろうか。スタイルの良い、セクシーな女性だ。

「あの、勝手に入ってしまい申し訳ありません。あなたが手招きしてくださったような気がして」

 於菟春の投げかけに、彼女は口の端を上げる。

「いかにも。まさか本当に入れるとは思っていなかったが」

 これは話が迂遠になりそうだ。於菟春もそう思ったのか。

「この城は何故、入り口がないのです?」
「そうそう。あと外の方たちは何であの状態に?」

 私の紋切り型の問いかけに、続けざまに於菟春も問う。
 そんな私たちの質問に、彼女は窓の外を見上げる。軽く瞳を瞑り、今からもう随分と昔になる、そう口を開いた。

「私は見ての通り魔神だ。ソロモン王に封じられ、この城から出ることができない」
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