ランプの魔神を探して

穴澤空

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 ヴェパルのいた海から東へと絨毯を進める。幾つもの川を越え、幾つもの街を超えた。やがて大きな森を過ぎると、目の前におどろおどろしい空気を纏った山が、聳え立つ。手前にある森の緑とは対照的に、ほとんど緑のない、岩場だらけの山である。

「うーん。採掘場ともちょっと違う感じやし、海外にはこういう山も多いんかなぁ」
「さぁな。山は専門外だ。お前の方が詳しそうだけど。殺人事件の現場とか。湖から足が出てたり」

 私も於菟春もミステリ小説が好きだが、私は日本の、彼は海外のものが好きなので好みが違う。

「横溝先生の話はええわ。それにそういうんは、人が住んでる場所やないと」
「それもそうだな」

 殺人事件とは人がいて初めて事件足りうるのだ。人がいなければ殺『人』事件とは呼べない。
 ゆっくりと絨毯を進めていく。どこかに魔神が潜んでいるかもしれない。

「ちょっとゲームっぽいよな。今までとはちょっと違う可能性もあるし、気を付けて行こうぜ」
「うん、そうやね。見通しも悪いし」

 それにしても、ヴェスパの言う地獄ではないが、まるで地獄絵で見た針山のように、植物の気配がしない。

「でも、一神教の地獄と俺たち日本人がイメージする地獄って別だ」

 私の考えが伝わったのか、於菟春が口を開く。

「そうやねぇ」

 一神教の世界の地獄は魂の裁きを受けた後に落とされる、絶望の世界だ。
 イスラム教の地獄はジャハンナムと呼ばれ、地獄行きが確定すると、奈落の底に突き落とされる。そしてその地獄ではとにかく炎で炙られるそうだ。イスラム教では炎こそが地獄の象徴らしく、とにかくずっと炎攻めになるという。なかなかにハードな砂漠の民の宗教である。

 そして、私たち日本人が生活の中で植え付けられる、または古典などで見る地獄とは、閻魔大王他十王と呼ばれる十人の地獄の王に生前を裁かれて、それぞれの罪にあった地獄へ落とされるとそこで服役することとなる。罪の種類別に服役先が用意されている部分はキリスト教と似ているが、仏教の場合は期間が決まっているうえに、服役後は再び命を得ることができる。
 話が長くなったが、その服役先の一つにこの山が似ている。針山に見えるのだ。

「そう言えば、地獄を表す色があるの知ってか?」
「色? 黒とか?」
「そうそう。輪廻の輪にある六道の中の下四つ、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の修羅が青、畜生が黄、餓鬼が赤で、その三つを混ぜると地獄の黒になるだ。赤鬼とかの鬼の色はここからきてる」

「三原色やな。それ、RGBにしたら地獄は白で透明になるやないか」
「地獄で服役したら光を受けて白くなるのか。それはなかなかにロマンがある」

 通常の印刷物はCMYKで表現される。Cはシアン、つまり青。Mはマゼンタで赤、Yはイエローで言うまでもなく黄色。正式には青赤などは少し異なるが、日本語の便宜上こう表現しておく。
 印刷された色は、インクという色素が光を吸収し私たちの目に色彩を表現する。ちなみにKは黒のKでも、ブラックのKでもなく、キー・プレートの略だ。理論上はCMYを混ぜれば黒になるが、実際には真っ黒が表現できないため、印刷業界で生まれたものだ。

 一方のRGBはRがレッド、Gはグリーン、Bはブルーだ。これは映像ディスプレイに使われる表現方法で、光を重ね合わせていく。光の波長が重なり合うことで、網膜から色刺激として脳に色彩を認識させる。その三色が混ざり合うことで、光を吸収して反射させる印刷物とは逆に、RGBでは黒ではなく白に近い色で脳が認識するのだ。

 ──思わず職業病がでてしまった。閑話休題。
 山の中は、ごろごろところがる岩は黒く、ガラス質のように半透明だ。先端は鋭く尖り、まるで鏃のようである。

「これは黒曜岩やろうか?」
「そうだな。見てみろよこの切っ先。ここが殺人現場じゃなくて良かったぜ。凶器がありすぎて絞り込みなんてできやしねぇ」

 つつ、とその先端へと指を触れる。鈍色に光るそれは刃物の切っ先のように鋭い。

「おい、気をつけろよ」
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