ランプの魔神を探して

穴澤空

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「哀しみ」

 於菟春はそうごちて、なるほど、と納得した。いや、納得しようとしていた。眉間の皺はまだ戻らない。

「どなたの哀しみで?」

 納得するためなのだろうか。思いがけない言葉を於菟春は発する。彼の問いに、ルフはふんわりと笑う。

「世界中の、ですよ」
「世界中の哀しみ?」

 思わず私も首をかしげながら、そう繰り返した。

「二週間に一度。彼らはここに集います。私は彼らをお茶でもてなすのです」

 世界中の哀しみが集まる山。もういい加減何が起きても驚かなくなってきた。
 だからなのか。草木という喜びが芽吹いていないのは。

「それにしても、ここにいる哀しみさん達は、あまり辛そうではないですね」

 人型をとり、楽しげにミントティを飲む彼らを見て、私はしみじみとそう言った。その言葉に、ルフは目を細める。

「哀しみなんて人によるのさ。私にとっては、彼らは哀しみという名は付いているが、そうは感じない」

 集う哀しみは、嘆きの声なのか。それとも誰かの体験なのか。黒い靄としてこの山に現れた。だが、それが複数集い、こうしてティータイムを取ると、やがてその角は丸くなっていく。まるで、黒曜岩が研磨され研ぎ澄まされた刃物になった後に、緩やかに丸みを帯びていくように。

「哀しみに、哀しみという名を与えてしまうと、与えた者にとっては、それはもう哀しみでしかない」

 ルフは彼らのグラスに、ミントティを継ぎ足し、もてなしながら、そう言う。

「けれど、私の元に来ると、彼らはその名を与えた者から離れ、自由になることができるのだ」
「それはまるで、封印を解かれた魔神のようですね」

 於菟春の言葉に、ルフははっとした表情を浮かべた。

「君たちはもしや我の封印を解きに来てくれたのか?」

 嬉しそうな表情の彼に、私たちは顔を見合わせる。

「そういう訳ではないのですが、あなたが私たちに協力をしてくれるというのであれば、それは吝かではない話です」

 ヴェスパの時と同じ轍は踏むまい。注意深く条件を出していく。
 於菟春のその言葉に、ルフは嬉しさを隠せない。

「勿論ですよ。何をすれば良いですか?」
「まぁ先ずは落ち着いて。ルフさんも飲みましょう」

 テンションがあがりかけているルフを落ち着かせるため、於菟春は彼に席をすすめる。そうして、ミントティを口にして落ち着いたことを確認すると、私たちはこれまでの経緯を話し始めた。
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