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第七話 ある女性の依頼
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ドラゴンを奉る地域のギルドで声をかけてきた女性の依頼は、怪盗ドラゴンフーリヤなる者から家宝のダイアモンドソードを守って欲しい、というものであった。
つまり『大地を切り裂くダイアモンド』というのは、ダイアモンドの剣のことだったのである。
剣を収集している僕としてそれは、非常に興味深いものである。冒険者としての収入をやりくりして真っ当に買い集めているなかで、家宝のダイアモンドソードはなかなかお目にかかれる代物ではない。
本来なら垂涎ものの体験ではあるのだが、しかしそれをフーリヤから守る仕事となれば、話が変わってくる。
僕にフーリヤを止めることはできない。無論、できる人間を探す方が難しいという話ではあるが、しかしできない依頼を受けるのは、冒険者としてはいかがなものか。
いや、ほいほいついてきた時点で、という話ではあるが。すぐに受けるとか言うのではなく「とりあえず話だけ聞きます」という言い方をしていれば…。
そんなことをもんもんと考えながら、フードを被りなおした依頼主の女性についていく。話によれば、この女性は数年前に遠くからここの領主の跡取り息子に嫁いできたのだという。今ではその息子も無事跡を継いだそうで、この女性も領主の夫人である。
女性の言葉を思い返す。
「私が生まれ育った地域は、この辺りほどドラゴンを神格化しておりませんでした。強さの象徴でこそあるものの、横暴に人の財貨を掻っ攫う忌むべき存在でもあったのです」
「この辺りの考え方が私の常識と違うことは承知しておりました。故に、地下の宝庫にある財宝をいくら盗まれようと『ドラゴンにお返ししたのだ』という夫の言葉にも納得してきたのです」
ちなみに盗られ方としては、地面をえぐられ、宝庫ごと持ち去られる形だったという。この豪快なやり口、実にドラゴンらしいと言えよう。
もうついでに言うと、女性の主人である現領主の言う『ドラゴン』は最上級の敬称である。『神様』に『様』をつけず『神』と呼んでも問題ないのと一緒だ。
「しかし、代々家に伝わるダイアモンドソードとなれば話が変わってきます。家の象徴たる剣をドラゴンにとられる様を見ているだけしかできないというのは、私には耐えられないのです」
多分、この人の言う『ドラゴン』は敬称ではないだろう。
「しかも夫を始めとした家の者の誰もが『ドラゴンにお返しするのだ』とわざわざ家の最奥から玄関先の広間に出しておこうというのです。『恐れ多くもドラゴン様が前もって知らせて下さったのだから、礼節をもってお迎えせねば』と」
ひっくり返るかと思いました、と女性。何というか、本当にお疲れ様ですと返す他なかった。
しかし、こんなにも考え方が違い、距離も遠く離れた両家がどうして縁を結ぶ運びとなったのかは本当に疑問ではある。
「この辺りの人々は家の者と考えが変わりません。ギルドに行っても取り合ってもらえないでしょう。故に、この辺りではお見かけしないあなたにお声がけをさせてもらったのです」
昨日から、ずっと探していたのだという。
こんなふうに振り返っているうちに、依頼主の屋敷、即ち領主の屋敷に辿り着く。
その屋敷はここ一帯が見渡せるような丘の上にあった。『ドラゴンに少しでも近いところに』という意味合いで、ドラゴンを信仰している地域にはありがちな話である。
それにしても、表の道にはここに向かう多くの人が見えた。曰くドラゴンを迎える儀式、しかも今回は実際に来るというのだから、盛大に執り行うのだという。
「こちらに」
僕はドラゴンから家宝を守るためにつれてこられた。故に正面から入るわけにもいかず、女性に案内された抜け道から敷地内に侵入する。
辺りはすっかり暗くなっているなか、女性は一切の明かりを持たずに先導する。
しかし、こんな抜け道を知っているとは。領内の事情に詳しいことを踏まえると、何度かこっそり抜け出しているのだろうか。
「あれ、ですか」
遠目に、玄関先でわいわいしているのが見えたので指差す。
「よく見えましたね」
「まあ、目はいい方なので」
確かに、そこには赤い布に包まれた剣らしきものがある。その周りには装飾やらごちそうやらが並べられ、怪盗ドラゴンを迎える準備をしているらしい。もう少し荘厳にドラゴンを崇める地域もあるなかで、この辺りはずいぶんと賑やかなやりかたなのか。
さて、とこれからどうしたものか。
今宵だとか、フーリヤのやつ、時間予告していなかったし。
いやそもそも、僕にはフーリヤを止められないし。
本当に、どうしようか。
つまり『大地を切り裂くダイアモンド』というのは、ダイアモンドの剣のことだったのである。
剣を収集している僕としてそれは、非常に興味深いものである。冒険者としての収入をやりくりして真っ当に買い集めているなかで、家宝のダイアモンドソードはなかなかお目にかかれる代物ではない。
本来なら垂涎ものの体験ではあるのだが、しかしそれをフーリヤから守る仕事となれば、話が変わってくる。
僕にフーリヤを止めることはできない。無論、できる人間を探す方が難しいという話ではあるが、しかしできない依頼を受けるのは、冒険者としてはいかがなものか。
いや、ほいほいついてきた時点で、という話ではあるが。すぐに受けるとか言うのではなく「とりあえず話だけ聞きます」という言い方をしていれば…。
そんなことをもんもんと考えながら、フードを被りなおした依頼主の女性についていく。話によれば、この女性は数年前に遠くからここの領主の跡取り息子に嫁いできたのだという。今ではその息子も無事跡を継いだそうで、この女性も領主の夫人である。
女性の言葉を思い返す。
「私が生まれ育った地域は、この辺りほどドラゴンを神格化しておりませんでした。強さの象徴でこそあるものの、横暴に人の財貨を掻っ攫う忌むべき存在でもあったのです」
「この辺りの考え方が私の常識と違うことは承知しておりました。故に、地下の宝庫にある財宝をいくら盗まれようと『ドラゴンにお返ししたのだ』という夫の言葉にも納得してきたのです」
ちなみに盗られ方としては、地面をえぐられ、宝庫ごと持ち去られる形だったという。この豪快なやり口、実にドラゴンらしいと言えよう。
もうついでに言うと、女性の主人である現領主の言う『ドラゴン』は最上級の敬称である。『神様』に『様』をつけず『神』と呼んでも問題ないのと一緒だ。
「しかし、代々家に伝わるダイアモンドソードとなれば話が変わってきます。家の象徴たる剣をドラゴンにとられる様を見ているだけしかできないというのは、私には耐えられないのです」
多分、この人の言う『ドラゴン』は敬称ではないだろう。
「しかも夫を始めとした家の者の誰もが『ドラゴンにお返しするのだ』とわざわざ家の最奥から玄関先の広間に出しておこうというのです。『恐れ多くもドラゴン様が前もって知らせて下さったのだから、礼節をもってお迎えせねば』と」
ひっくり返るかと思いました、と女性。何というか、本当にお疲れ様ですと返す他なかった。
しかし、こんなにも考え方が違い、距離も遠く離れた両家がどうして縁を結ぶ運びとなったのかは本当に疑問ではある。
「この辺りの人々は家の者と考えが変わりません。ギルドに行っても取り合ってもらえないでしょう。故に、この辺りではお見かけしないあなたにお声がけをさせてもらったのです」
昨日から、ずっと探していたのだという。
こんなふうに振り返っているうちに、依頼主の屋敷、即ち領主の屋敷に辿り着く。
その屋敷はここ一帯が見渡せるような丘の上にあった。『ドラゴンに少しでも近いところに』という意味合いで、ドラゴンを信仰している地域にはありがちな話である。
それにしても、表の道にはここに向かう多くの人が見えた。曰くドラゴンを迎える儀式、しかも今回は実際に来るというのだから、盛大に執り行うのだという。
「こちらに」
僕はドラゴンから家宝を守るためにつれてこられた。故に正面から入るわけにもいかず、女性に案内された抜け道から敷地内に侵入する。
辺りはすっかり暗くなっているなか、女性は一切の明かりを持たずに先導する。
しかし、こんな抜け道を知っているとは。領内の事情に詳しいことを踏まえると、何度かこっそり抜け出しているのだろうか。
「あれ、ですか」
遠目に、玄関先でわいわいしているのが見えたので指差す。
「よく見えましたね」
「まあ、目はいい方なので」
確かに、そこには赤い布に包まれた剣らしきものがある。その周りには装飾やらごちそうやらが並べられ、怪盗ドラゴンを迎える準備をしているらしい。もう少し荘厳にドラゴンを崇める地域もあるなかで、この辺りはずいぶんと賑やかなやりかたなのか。
さて、とこれからどうしたものか。
今宵だとか、フーリヤのやつ、時間予告していなかったし。
いやそもそも、僕にはフーリヤを止められないし。
本当に、どうしようか。
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