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第1章 鉱山都市ユヴァリー
第1話『転生直後の女神神託(クエスト)』
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~???~
真夜中の森の中、乾いた街道に馬の蹄が力強く蹴る音が響く。通常なら視界が悪い森の中は馬を降りて進むか松明や魔法で明かりを作って慎重に進まなければならないが、背後から大量の追っ手が迫っている以上のんびりと走るわけには行かない。私の背中にはこの世で一番大切な御方を乗せているのだから尚更だ。
「ミコト様! もう少しで森を抜けますから頑張ってください!」
「う、うん! アサヒも無理はしないで欲しいの!」
「大丈夫ですよミコト様! 私が必ずツカサ様の元へお連れいたします!」
消息を絶ったミコト様の母君を見つけるため。そしてミコト様の異母兄である領主の息子から、まだ9歳の幼いミコト様の貞操を守るために領主の館を脱出して今日で3日目。どこから私達が逃げた情報が漏れたのかはわからないが、ミコト様を私の手から取り戻すために差し向けられた追っ手を躱しつつ、暗い森の中を微かな月明かりを頼りに馬で走り続けている。
しかし、この3日間食事はおろか睡眠もロクに取れてない状況だ。騎士としてこういう生活に慣れている私はともかく、まだ幼いミコト様はもう体力も精神的にも限界が近いだろう。それでも私を励ましてくれるこの健気さ……さすが私の天使だと言わざるを得ない!
徐々に視界が開けてきて、目視で確認できる距離に目指している街の灯りが見えてきた。あのユヴァリーの街まで辿り着ければ、そこにはミコト様の叔父であるツカサ様がいらっしゃるユヴァリー領領主館がある。ミコト様が生まれた頃から可愛がってくれていた彼ならば、あの領主の息子の魔の手からミコト様を匿い、ミコト様の母君であるスズカ様の行方も探し出してくれるはずだ。
「よし、森を抜けた…ッ!?」
このままユヴァリーの街に入ればミコト様は救われる。そう思って疲弊した馬の体に鞭を打って進むと、森を抜けたところにある開けた平原に出た私達の前には大量の松明の炎が灯っている。その先頭にいるのは領主の息子であるタカティンとその補佐役のコウジュン。そして左右に展開している大量の領主軍の兵士達が待ち伏せていた。
まさか…私達の行動が読まれていたとでも言うのか!?
私はミコト様に負担がかからない様ゆっくりと馬を止め、腰の剣を引き抜いた。
「ふひひひひひ、随分遅かったじゃないかミコトぉ。そしてアサヒぃ!! 鬼ごっこは楽しかったかぁ?」
「タカティン義兄様…」
「タカティン殿…貴殿が何故ここにいる!? オーヴィヒロン獣王国への使者として遠征に出ているのではなかったのか!」
「ふん…アサヒぃ、お前の考えなどお見通しなんだよぉ! 俺が遠征に出る事を知ればお前が行動を起こすことは分かっていたからなぁ。どうせツカサ叔父上のところにミコトを連れて行けば俺をなんとかしてくれるとでも考えていたのだろう? フヒッ、残念だったなぁぁあ!」
…完全に読まれている。でも何故だ? 私はミコト様を狙うこの男にだけは絶対に悟られないように慎重に亡命計画を進めていたのだ。偶然タカティンが領主代行としてオーヴィヒロン獣王国に遠征することを知り、絶好の機会と考えて計画を実行することにした。このことを話したのはミコト様と……いや、まさかっ!?
「なんでバレたって顔をしているなぁ。フヒヒ…よかろう、冥土の土産に教えてやる。お前の親友だったメイドの女…ヒミカとか言ったか? そいつから進言があったんだよぉ。『アサヒがミコト様を攫ってユヴァリー領に亡命しようと画策している』ってなぁ!」
「っ!?」
「俺のオーヴィヒロン遠征の話を広めたのも、逃げ出したお前をここで包囲する作戦を考えたのもその女だぁ。フヒッ、信じていた親友から裏切られた気分はどうだ? ねぇどんな気持ち? ねぇ今どんな気持ちぃぃいい?? ふひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
くっ…やはりヒミカか。私達が逃げる時に声をかけても一緒に来なかったのはこういう事だったのだな。ヒミカ…何故なんだヒミカ! 私を裏切って嵌めるほどに私のことを嫌っていたとでも言うのか!? …いや、そんなことはどうでもいい。今この場で一番重要なのはミコト様を守りながらこの状況をどう切り抜けるかだ。
「…何だぁその目はぁ? 完全に包囲されたこの状況でもまだ抗うつもりかぁ?」
「無論だ! 私はミコト様の護衛騎士。たとえこの身が朽ち果てようとミコト様は絶対に守る!」
「アサヒ…」
私はミコト様と共に馬を降り、構えた剣をタカティン軍に向ける。敵の兵数は目算で50人以上、多勢に無勢とはまさにこの事だな。…このまま何の策もなく戦えば私はここで死ぬだろう。しかし、なんとしてでもミコト様だけはツカサ様の元に逃がしてみせる! 私は全身に身体強化魔法を施してから、残りの魔力を振り絞ってミコト様の周囲に光属性の防御結界を張り巡らせた。
「ミコト様、その結界の中から決して動かないでください。あなたの事は…私が死んでもお守りします」
「だめ…だめなのアサヒ! 一緒じゃなきゃヤなのぉ!」
ミコト様はまだ9歳。この小さく可憐な天使をタカティンに渡せば、その先には身の毛もよだつ程の不幸な未来しか待ってはいないだろう。そんなことを…愛するミコト様にそんな未来を与えることはこの私が許さない!
私と長年連れ添ってくれたミスリルの愛剣に氣を込めながら正眼に構えて深呼吸をする。先ほど作った結界で私の魔力は底をついた。頼れるのは己の肉体と…師匠から受け継いだミカガミ流剣術のみ!
「タカティン=フラーノ=ラヴェンダー…覚悟!! はあああああああ!!!」
必ずあの男の首を叩き落として活路を開いて見せます。力をお貸しくださいミコト様!!
「どうやら最後まで抵抗を続けるようです。如何いたしますかタカティン様?」
「ふん…傷つけても構わんが、アサヒもミコトも必ず生け捕りにしろ。こいつら2人は捕まえたあとでこの俺が直々にたっぷりと可愛がってやるんだからなぁ! ふひゃひゃひゃひゃ!!」
「畏まりました。総員ミコト様とアサヒを生け捕りにしろ。多少傷つけても構わん! 第1陣突撃!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」
キィン、キィンッ!
「喰らえ剣技『頚動脈断裂刃』! せりゃああああああああ!!」
氣を纏った私の剣技が兵士達の頸動脈をピンポイントで分断していく。斬り裂いた部分から夥しい量の血が噴出した。
「ぐぼあぁぁぁぁぁ!!」
「ひぎいいいいい!!」
「首が! 俺の首の血管が切れたああああ!!」
「はぁ…はぁ…ぐぅっ!」
タカティン軍との闘いが始まってから1時間が経とうとしている。ミコト様を守りながらもう50人以上の敵兵を斬り捨てたはずだが、背後から迫ってきていた増援のせいで敵の戦力が一向に減らない。それなのに…私の利き腕と左足が敵の攻撃を喰らってしまった影響でまともに動かなくなっていた。そして…剣一本だけで戦い続けていた私の疲労はとうの昔に限界を超えている。
「……最早…これまでか…」
「アサヒぃ!!」
せめて自分の身を盾にしようと言うことを聞かない体を引きずって、結界を出て私に近づいてきたミコト様を引き寄せてその場で優しく抱きしめた。この温もりをもう二度と感じられなくなるのは正直怖い。だが…私にはもう…。
「……神よ…。万物を創りし親愛なる女神アナルヴィスよ! 私の生涯最後の頼みだ! 私はどうなっても構わない。だからミコト様を…ミコト様を助けてくれぇぇぇ!!」
「ふっ、ふはははは!! あの銀氷姫と称えられたアサヒ=フリューベルクが女神に祈るか。いかにラヴェンダー領最強の騎士と言えど、この人数を相手にするには力不足だったようだなぁ! よぉしトドメだ!! 全軍突げ…」
「コ、コウジュン殿…あれを!!」
「む? な、何だあれはっ!?」
私が心の底から女神様に祈りを捧げた瞬間、遥か上空から私達の近くに一筋の光の柱が降り注いできた。真夜中の平原を明るく照らすその光は、暖かくも神々しく優しい力に満ち満ちている。
何事かと思いながらその光を眺めていると、その中から1人の男が姿を現した。
~アキト視点~
「ん…、ふぁ~~~。………どこだここ?」
ネフィに転送させられた俺は地に足が着いたような感覚がしたので目を開ける。すると、目の前には斬殺されたっぽい兵士の死体が大量にごろごろと転がっていた。斬られた部分から血と臓物がこぼれ落ちているその場には、恐ろしく濃い血の香りが漂っている。
「ちょ!? うっぷ…」
あまりのグロさに思わずリバースしそうになったが、なんとか気分を落ち着かせて周囲を確認してみる。離れたところには数十人規模の鎧を身に纏った兵士達が待機しており、俺のすぐ側には小さい女の子を抱きしめたボロボロの銀髪女騎士が1人。そしてその女達を取り囲むように武器を持った兵士達がこちらに迫って来ているように見える。えっと…本当に何事??
状況確認のため、俺はその近くにいた女騎士の元に近づいた。
(うわぁ、近くで見るとめっちゃ美人。…こんな美人、ていうか若い女と話すのなんて何年ぶりだろう?)
ステータスで人見知り耐性とあがり症耐性、口説き上手スキルがアクティブになっているのを確認してから女騎士に声を掛ける。
「あー、すまない。そこの女騎士さん、今のこれってどういう状況なんだ?」
「……えっ? あ、あぁ。今は…私がラヴェンダー領の領主の息子が率いた軍と戦っている最中なのだが…グッ!」
話しかけた女騎士が突然苦しそうに地面に手をついた。最初は月明りだけじゃ暗くてよく見えなかったが、その女騎士を間近で見ると全身傷だらけで左足が変な方向に曲がっている。…もしかしてこの死体の山はこの女が1人で築いた物なのか?
「おいあんた、大丈夫か!?」
「はぁ…はぁ…わ、私は…大丈夫だ。それより…貴殿に頼みがある! こちらの天使を…ミコト様を連れてこの場から逃げて欲しい。タカティンの軍勢は私が死んでも抑えて見せる。だから…だからっ!」
近寄った俺にしがみつき、涙ながらにそう訴えかけてくる女騎士。よっぽどこの小さな女の子が大事みたいだな。
たらららったらーん♪
―――――――――――――――――――――――――――――――
~女神神託~
目の前に迫る軍勢を蹴散らして女騎士と少女を救出せよ。
達成条件:敵軍の壊滅
達成報酬:30スキルポイント
―――――――――――――――――――――――――――――――
突然謎の効果音と共に目の前にウィンドウが現れたかと思ったら、そこには女神からの神託が書かれていた。
…転生直後にクエストとか、女神って人使い荒くない? ……いや、これはあれか。戦闘チュートリアル+出会い系イベント的な感じか?
状況を見るに、理由は分からんけどこの女騎士と少女がタカティン軍とやらに追いつめられている状況なのは確かだろう。女神から神託を受けたからってわけじゃないけど、可愛い女の子達が襲われている状況を男として放置することは出来ない。それにこれだけの敵がいるなら全力で暴れても問題ないってことだよな? オラちょっとワクワクしてきたぞ♪
「あんたのその体じゃ無理だよ。要はここにいる兵士共を全員ぶちのめせば良いんだろう?」
「ぶちのめすって…そ、それはそうだが。貴殿、何をする気だ?」
「いいからあんたはここでその子と休んで見てろ。すぐに終わらせる」
俺達を囲んでいた兵士がツーマンセルで警戒しながら武器を構えて近づいてきたので、俺は拳を握り締めつつ瞬時に兵士達との間合いを詰め、俺の姿を見失った兵士達の顔面を死なない程度に手加減して打ち抜いた。
「ふんっ!」
ズドドォン!
「あべょっ!」
「べにゃっ!」
「なっ!?」
気絶させるだけのつもりだった俺の拳を食らった兵士達の頭が無残に千切飛び、引き千切られた首部分から真っ赤な鮮血が噴水のように吹き出して地面に倒れていく。ドクドクと地面に流れる血液が血溜りを作る様子を茫然と眺めながら、俺はその場に立ち尽くした。
(人を…殺しちまったのか。手加減したのに…)
異世界の住人は魂と感情がある普通の人間だとネフィは言っていた。事故(?)とは言え、俺は初めてこの手で殺人という罪を犯してしまったという事になる。血が付着した拳には、兵士の首を飛ばした時の生々しい感触がまだ残っている。俺が手に掛けた兵士にも家族や恋人がいたかもしれない。そんな人達とこれから先の人生には幸せな未来もあっただろう。それを…俺の手であっさりと摘み取ったのだ。
「き…貴様ぁぁ!! よくもセイイチをぉぉ!!」
「セイイチの仇だ! こいつを殺せぇぇ!!」
残った兵士達が同僚を殺された怒りを露にしながら一斉に俺に襲い掛かってくる。その攻撃を無意識のうちに紙一重で躱し、プログラミングでもされたかの様に的確にカウンターを当てて敵を絶命させる作業を繰り返す。俺の体はうちのジジイとの長年の修行のおかげで、殺意ある攻撃に対しては無意識で迎撃出来るようになっているのだ。
茫然としながら全自動で戦っている中、俺の頭の中に昔ジジイが言っていた言葉が蘇る。
『陽斗よ、人を殺していいのは殺される覚悟を持つ者だけじゃ。そしてその覚悟を持つ者との戦いは常に真剣勝負。真剣勝負を挑んできた相手に対して手心を加えることはその者の覚悟を冒涜する行いじゃ。やるからには敬意を持って確実に殺れ! 慈悲は無用じゃ!!』
つまり、この兵士達は俺を殺そうとする以上自分が殺されるという覚悟を持っている武士という事だ。この戦いは俺とこいつらとの真剣勝負。殺らなきゃ殺られる。そして俺は……こんなところで死ぬためにこの世界に来たわけじゃない!!
迷いが晴れた俺は、敵兵が振り下ろしてきた剣を素手で掴み取る。刃が食い込んだ左手が少し切れたらしく、地味に痛い。
「なっ!? は、離せこの野郎!!」
「お前らが俺を殺そうとするのなら…俺も全力でお前達を殺す!」
「貴様、何を言って…ぐふっ!!」
左手で受け止めた剣をそのまま引いて相手の体勢を崩し、右手で作った貫手で兵士の鎧をぶち抜いて心臓に突き刺した。今度はきっちりと殺意を持って俺の意思で敵兵を…人間を殺した。その瞬間、俺の体の中にはゾクゾクとした快感のようなものが突き抜けた。
(!? なんだこれ……超気持ちいい)
現代を生きる普通の人間は、人を殺したら罪悪感や後悔の念に支配される動けなくなる者が大半を占めているだろう。だが、俺の場合は人を殺したという自責の念よりもゾクゾクとした快感の方が勝っていた。元からなのか転生したからなのかは分からないが、どうやら俺は命を賭けた真剣勝負で人の命を摘み取ることに快感を覚えてしまう困った性癖を持つ変態野郎だったらしい。
別にこれをオカズに抜けるとかいう意味の快感じゃないよ?
「なんなんだこいつ……素手でタケシの体を貫いたぞ!」
「あのタケシがこんなにあっさり殺されるなんて……こいつは俺達の手に負える相手じゃねぇ!」
残ってる兵士の数は……ざっと60人ちょいってところか。さすがに素手だったらめんどくさいので、今殺した兵士が持っていた鉄製の西洋剣を拝借する。俺が自分の意思で童貞を捧げた記念に貰っておこう。
「すぅぅぅぅ………はぁぁぁぁ………。さて、気合入れていくか!」
女の子を数の暴力で攻めるような外道共には、もう遠慮なんてしないからな♪
「何をしているコウジュン? はやくアサヒとミコトを捕えろ! いつまで待たせるつもりだぁ!」
「いやいや、それどころではありませんぞタカティン様! 先ほどの空から降りてきた光の柱から出てきた男が第一陣の兵士達を皆殺しにした様です。あの男は恐らく今噂の『天聖者』と呼ばれる存在だと思われますが…」
「天聖者だとぉ? たしか、光と共に天から舞い降りてきた神の遣いとか呼ばれた存在か。……ふひひひ、面白い。アサヒ達と一緒にその男も捕えよ。奴隷として売ればいい金になりそうだからなぁ」
「て、天聖者を捕らえるのですか!?」
「アサヒが動けなくなった以上、相手はその天聖者ただ一人だろうが。さっさと兵士全員で取り囲んで拘束しろ。コウジュン…俺はもう腹が減ってイライライライラしてるんだぁ。早急に終わらせろ。いいなぁ?」
「……畏まりました。総員、アサヒ達と共にあの男も捕えよ! 全軍突撃!!」
「「「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」」」
…なんか分からんけど残っている兵士達が一斉に俺に向かって突進して来る。傍から見ればその物量差に絶望感が漂うところだが、俺的には獲物をまとめて始末できる分かえって都合がいい。時間も節約できるし、命を賭けた本当の戦いを楽しめる上に神託もクリア出来るという、まさに一石三丁の鴨葱状態だ。こいつらをさくっと潰したあと、あの女騎士に助けた見返りに体を要求して『この私がこんな扱いを受けるなど…クッ、殺せ!』とか言わせたい。
「うっし、殺る気出てきたぁ! 行くぞオラアアアア!!」
敵兵の先頭集団に窪塚流高速移動歩法『迅歩』で高速接近してから、剣に氣を通して全力で横に薙ぐ。空を斬った剣からは横一文字の鋭利な衝撃波が発生し、それに触れた先頭の兵士数人の上半身が上空に切り飛ばされた。その光景に狼狽えた敵兵達の間をすり抜けるかのように突き進み、すれ違った兵士達の首を一人づつ丁寧に撥ねていく。剣で人を斬るのは初めてだが、その首は巻藁よりも適度に固くて斬り心地が良いものだと初めて知ることが出来た。
「ふははははは! どんどん来いやぁぁぁ!!」
斬り口から飛び散る血や臓物が最初は不快だったが、慣れてくるともっと見たくなってしまうから不思議だ。やっぱり戦うなら試合とかよりもこういう命のやり取りの方が興奮するね。
「な、なんなんだあいつはぁ! 本当に人間か!?」
「おいヒロシ、あの男を我々だけで倒すのは恐らく無理だ。私が時間を稼ぐから本陣にいるハーミット軍事総長を呼んで来てくれ! 事は一刻を争う…急げ!」
「時間を稼ぐって…もしかして死ぬ気ですか部隊長!? ダメです…そんなことは許さねぇ! あんたはこれから俺の妹と結婚するんだからこんな所で死なせる訳には行かねぇんだよ! 時間稼ぎなら俺がします。ハーミット軍事総長は部隊長が呼びに行ってください!!」
「なっ…ふざけた事を言うな! 貴様はこれから俺の義兄になるのだ。結婚する前に義兄が俺の代わりに死んだなどと言ったら彼女に婚約解消されてしまうだろうが! …上官命令だヒロシ。さっさと本陣に行って軍事総長を呼んで来い!!」
「クッ…俺も軍人。上官の命令なら聞かねばなりませんね。……部隊長、ご武運を!!」
「ふっ、もちろん俺もタダでは死なんさ。せめてあの悪魔に一太刀食らわせてやぎゃああああああああああ!!」
何やら長話をしていた兵士の片方を背後から斬り捨てる。
「あのさぁ…敵が目の前にいるのに悠長に長話とかしてたらダメだと思うぞ?」
「ぶっ…部隊長おおおおおおおッッ!! 貴様…よくも、よくも部隊長を…俺の義弟をんぶぅぅぅぅッッ!?」
叫ぶ兵士がうるさかったので、その顔を左手で鷲掴みにしてからそのまま上に持ち上げた。鎧を着てる分地味に重いな。
「そうだ、せっかくだし魔法も試させてもらおうか。…雷よ、我が手に集いて爆ぜよ。『雷掌』!」
「嫌ぎゃあああああ!!あぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」
雷掌、掌に集めた魔力を雷に変えて放電させる雷系初級魔法だ。魔力の調整次第で低周波マッサージ的な事から電気イスの刑レベルの人を殺せる強力な電撃を発することが出来る。まぁ相手に触れてないと効果が無いので微妙なのだが。
ネフィに教えてもらった初級雷魔法はあと2つ。上手く活用して魔法レベルも上げさせてもらおう。
真夜中の森の中、乾いた街道に馬の蹄が力強く蹴る音が響く。通常なら視界が悪い森の中は馬を降りて進むか松明や魔法で明かりを作って慎重に進まなければならないが、背後から大量の追っ手が迫っている以上のんびりと走るわけには行かない。私の背中にはこの世で一番大切な御方を乗せているのだから尚更だ。
「ミコト様! もう少しで森を抜けますから頑張ってください!」
「う、うん! アサヒも無理はしないで欲しいの!」
「大丈夫ですよミコト様! 私が必ずツカサ様の元へお連れいたします!」
消息を絶ったミコト様の母君を見つけるため。そしてミコト様の異母兄である領主の息子から、まだ9歳の幼いミコト様の貞操を守るために領主の館を脱出して今日で3日目。どこから私達が逃げた情報が漏れたのかはわからないが、ミコト様を私の手から取り戻すために差し向けられた追っ手を躱しつつ、暗い森の中を微かな月明かりを頼りに馬で走り続けている。
しかし、この3日間食事はおろか睡眠もロクに取れてない状況だ。騎士としてこういう生活に慣れている私はともかく、まだ幼いミコト様はもう体力も精神的にも限界が近いだろう。それでも私を励ましてくれるこの健気さ……さすが私の天使だと言わざるを得ない!
徐々に視界が開けてきて、目視で確認できる距離に目指している街の灯りが見えてきた。あのユヴァリーの街まで辿り着ければ、そこにはミコト様の叔父であるツカサ様がいらっしゃるユヴァリー領領主館がある。ミコト様が生まれた頃から可愛がってくれていた彼ならば、あの領主の息子の魔の手からミコト様を匿い、ミコト様の母君であるスズカ様の行方も探し出してくれるはずだ。
「よし、森を抜けた…ッ!?」
このままユヴァリーの街に入ればミコト様は救われる。そう思って疲弊した馬の体に鞭を打って進むと、森を抜けたところにある開けた平原に出た私達の前には大量の松明の炎が灯っている。その先頭にいるのは領主の息子であるタカティンとその補佐役のコウジュン。そして左右に展開している大量の領主軍の兵士達が待ち伏せていた。
まさか…私達の行動が読まれていたとでも言うのか!?
私はミコト様に負担がかからない様ゆっくりと馬を止め、腰の剣を引き抜いた。
「ふひひひひひ、随分遅かったじゃないかミコトぉ。そしてアサヒぃ!! 鬼ごっこは楽しかったかぁ?」
「タカティン義兄様…」
「タカティン殿…貴殿が何故ここにいる!? オーヴィヒロン獣王国への使者として遠征に出ているのではなかったのか!」
「ふん…アサヒぃ、お前の考えなどお見通しなんだよぉ! 俺が遠征に出る事を知ればお前が行動を起こすことは分かっていたからなぁ。どうせツカサ叔父上のところにミコトを連れて行けば俺をなんとかしてくれるとでも考えていたのだろう? フヒッ、残念だったなぁぁあ!」
…完全に読まれている。でも何故だ? 私はミコト様を狙うこの男にだけは絶対に悟られないように慎重に亡命計画を進めていたのだ。偶然タカティンが領主代行としてオーヴィヒロン獣王国に遠征することを知り、絶好の機会と考えて計画を実行することにした。このことを話したのはミコト様と……いや、まさかっ!?
「なんでバレたって顔をしているなぁ。フヒヒ…よかろう、冥土の土産に教えてやる。お前の親友だったメイドの女…ヒミカとか言ったか? そいつから進言があったんだよぉ。『アサヒがミコト様を攫ってユヴァリー領に亡命しようと画策している』ってなぁ!」
「っ!?」
「俺のオーヴィヒロン遠征の話を広めたのも、逃げ出したお前をここで包囲する作戦を考えたのもその女だぁ。フヒッ、信じていた親友から裏切られた気分はどうだ? ねぇどんな気持ち? ねぇ今どんな気持ちぃぃいい?? ふひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
くっ…やはりヒミカか。私達が逃げる時に声をかけても一緒に来なかったのはこういう事だったのだな。ヒミカ…何故なんだヒミカ! 私を裏切って嵌めるほどに私のことを嫌っていたとでも言うのか!? …いや、そんなことはどうでもいい。今この場で一番重要なのはミコト様を守りながらこの状況をどう切り抜けるかだ。
「…何だぁその目はぁ? 完全に包囲されたこの状況でもまだ抗うつもりかぁ?」
「無論だ! 私はミコト様の護衛騎士。たとえこの身が朽ち果てようとミコト様は絶対に守る!」
「アサヒ…」
私はミコト様と共に馬を降り、構えた剣をタカティン軍に向ける。敵の兵数は目算で50人以上、多勢に無勢とはまさにこの事だな。…このまま何の策もなく戦えば私はここで死ぬだろう。しかし、なんとしてでもミコト様だけはツカサ様の元に逃がしてみせる! 私は全身に身体強化魔法を施してから、残りの魔力を振り絞ってミコト様の周囲に光属性の防御結界を張り巡らせた。
「ミコト様、その結界の中から決して動かないでください。あなたの事は…私が死んでもお守りします」
「だめ…だめなのアサヒ! 一緒じゃなきゃヤなのぉ!」
ミコト様はまだ9歳。この小さく可憐な天使をタカティンに渡せば、その先には身の毛もよだつ程の不幸な未来しか待ってはいないだろう。そんなことを…愛するミコト様にそんな未来を与えることはこの私が許さない!
私と長年連れ添ってくれたミスリルの愛剣に氣を込めながら正眼に構えて深呼吸をする。先ほど作った結界で私の魔力は底をついた。頼れるのは己の肉体と…師匠から受け継いだミカガミ流剣術のみ!
「タカティン=フラーノ=ラヴェンダー…覚悟!! はあああああああ!!!」
必ずあの男の首を叩き落として活路を開いて見せます。力をお貸しくださいミコト様!!
「どうやら最後まで抵抗を続けるようです。如何いたしますかタカティン様?」
「ふん…傷つけても構わんが、アサヒもミコトも必ず生け捕りにしろ。こいつら2人は捕まえたあとでこの俺が直々にたっぷりと可愛がってやるんだからなぁ! ふひゃひゃひゃひゃ!!」
「畏まりました。総員ミコト様とアサヒを生け捕りにしろ。多少傷つけても構わん! 第1陣突撃!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」
キィン、キィンッ!
「喰らえ剣技『頚動脈断裂刃』! せりゃああああああああ!!」
氣を纏った私の剣技が兵士達の頸動脈をピンポイントで分断していく。斬り裂いた部分から夥しい量の血が噴出した。
「ぐぼあぁぁぁぁぁ!!」
「ひぎいいいいい!!」
「首が! 俺の首の血管が切れたああああ!!」
「はぁ…はぁ…ぐぅっ!」
タカティン軍との闘いが始まってから1時間が経とうとしている。ミコト様を守りながらもう50人以上の敵兵を斬り捨てたはずだが、背後から迫ってきていた増援のせいで敵の戦力が一向に減らない。それなのに…私の利き腕と左足が敵の攻撃を喰らってしまった影響でまともに動かなくなっていた。そして…剣一本だけで戦い続けていた私の疲労はとうの昔に限界を超えている。
「……最早…これまでか…」
「アサヒぃ!!」
せめて自分の身を盾にしようと言うことを聞かない体を引きずって、結界を出て私に近づいてきたミコト様を引き寄せてその場で優しく抱きしめた。この温もりをもう二度と感じられなくなるのは正直怖い。だが…私にはもう…。
「……神よ…。万物を創りし親愛なる女神アナルヴィスよ! 私の生涯最後の頼みだ! 私はどうなっても構わない。だからミコト様を…ミコト様を助けてくれぇぇぇ!!」
「ふっ、ふはははは!! あの銀氷姫と称えられたアサヒ=フリューベルクが女神に祈るか。いかにラヴェンダー領最強の騎士と言えど、この人数を相手にするには力不足だったようだなぁ! よぉしトドメだ!! 全軍突げ…」
「コ、コウジュン殿…あれを!!」
「む? な、何だあれはっ!?」
私が心の底から女神様に祈りを捧げた瞬間、遥か上空から私達の近くに一筋の光の柱が降り注いできた。真夜中の平原を明るく照らすその光は、暖かくも神々しく優しい力に満ち満ちている。
何事かと思いながらその光を眺めていると、その中から1人の男が姿を現した。
~アキト視点~
「ん…、ふぁ~~~。………どこだここ?」
ネフィに転送させられた俺は地に足が着いたような感覚がしたので目を開ける。すると、目の前には斬殺されたっぽい兵士の死体が大量にごろごろと転がっていた。斬られた部分から血と臓物がこぼれ落ちているその場には、恐ろしく濃い血の香りが漂っている。
「ちょ!? うっぷ…」
あまりのグロさに思わずリバースしそうになったが、なんとか気分を落ち着かせて周囲を確認してみる。離れたところには数十人規模の鎧を身に纏った兵士達が待機しており、俺のすぐ側には小さい女の子を抱きしめたボロボロの銀髪女騎士が1人。そしてその女達を取り囲むように武器を持った兵士達がこちらに迫って来ているように見える。えっと…本当に何事??
状況確認のため、俺はその近くにいた女騎士の元に近づいた。
(うわぁ、近くで見るとめっちゃ美人。…こんな美人、ていうか若い女と話すのなんて何年ぶりだろう?)
ステータスで人見知り耐性とあがり症耐性、口説き上手スキルがアクティブになっているのを確認してから女騎士に声を掛ける。
「あー、すまない。そこの女騎士さん、今のこれってどういう状況なんだ?」
「……えっ? あ、あぁ。今は…私がラヴェンダー領の領主の息子が率いた軍と戦っている最中なのだが…グッ!」
話しかけた女騎士が突然苦しそうに地面に手をついた。最初は月明りだけじゃ暗くてよく見えなかったが、その女騎士を間近で見ると全身傷だらけで左足が変な方向に曲がっている。…もしかしてこの死体の山はこの女が1人で築いた物なのか?
「おいあんた、大丈夫か!?」
「はぁ…はぁ…わ、私は…大丈夫だ。それより…貴殿に頼みがある! こちらの天使を…ミコト様を連れてこの場から逃げて欲しい。タカティンの軍勢は私が死んでも抑えて見せる。だから…だからっ!」
近寄った俺にしがみつき、涙ながらにそう訴えかけてくる女騎士。よっぽどこの小さな女の子が大事みたいだな。
たらららったらーん♪
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~女神神託~
目の前に迫る軍勢を蹴散らして女騎士と少女を救出せよ。
達成条件:敵軍の壊滅
達成報酬:30スキルポイント
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突然謎の効果音と共に目の前にウィンドウが現れたかと思ったら、そこには女神からの神託が書かれていた。
…転生直後にクエストとか、女神って人使い荒くない? ……いや、これはあれか。戦闘チュートリアル+出会い系イベント的な感じか?
状況を見るに、理由は分からんけどこの女騎士と少女がタカティン軍とやらに追いつめられている状況なのは確かだろう。女神から神託を受けたからってわけじゃないけど、可愛い女の子達が襲われている状況を男として放置することは出来ない。それにこれだけの敵がいるなら全力で暴れても問題ないってことだよな? オラちょっとワクワクしてきたぞ♪
「あんたのその体じゃ無理だよ。要はここにいる兵士共を全員ぶちのめせば良いんだろう?」
「ぶちのめすって…そ、それはそうだが。貴殿、何をする気だ?」
「いいからあんたはここでその子と休んで見てろ。すぐに終わらせる」
俺達を囲んでいた兵士がツーマンセルで警戒しながら武器を構えて近づいてきたので、俺は拳を握り締めつつ瞬時に兵士達との間合いを詰め、俺の姿を見失った兵士達の顔面を死なない程度に手加減して打ち抜いた。
「ふんっ!」
ズドドォン!
「あべょっ!」
「べにゃっ!」
「なっ!?」
気絶させるだけのつもりだった俺の拳を食らった兵士達の頭が無残に千切飛び、引き千切られた首部分から真っ赤な鮮血が噴水のように吹き出して地面に倒れていく。ドクドクと地面に流れる血液が血溜りを作る様子を茫然と眺めながら、俺はその場に立ち尽くした。
(人を…殺しちまったのか。手加減したのに…)
異世界の住人は魂と感情がある普通の人間だとネフィは言っていた。事故(?)とは言え、俺は初めてこの手で殺人という罪を犯してしまったという事になる。血が付着した拳には、兵士の首を飛ばした時の生々しい感触がまだ残っている。俺が手に掛けた兵士にも家族や恋人がいたかもしれない。そんな人達とこれから先の人生には幸せな未来もあっただろう。それを…俺の手であっさりと摘み取ったのだ。
「き…貴様ぁぁ!! よくもセイイチをぉぉ!!」
「セイイチの仇だ! こいつを殺せぇぇ!!」
残った兵士達が同僚を殺された怒りを露にしながら一斉に俺に襲い掛かってくる。その攻撃を無意識のうちに紙一重で躱し、プログラミングでもされたかの様に的確にカウンターを当てて敵を絶命させる作業を繰り返す。俺の体はうちのジジイとの長年の修行のおかげで、殺意ある攻撃に対しては無意識で迎撃出来るようになっているのだ。
茫然としながら全自動で戦っている中、俺の頭の中に昔ジジイが言っていた言葉が蘇る。
『陽斗よ、人を殺していいのは殺される覚悟を持つ者だけじゃ。そしてその覚悟を持つ者との戦いは常に真剣勝負。真剣勝負を挑んできた相手に対して手心を加えることはその者の覚悟を冒涜する行いじゃ。やるからには敬意を持って確実に殺れ! 慈悲は無用じゃ!!』
つまり、この兵士達は俺を殺そうとする以上自分が殺されるという覚悟を持っている武士という事だ。この戦いは俺とこいつらとの真剣勝負。殺らなきゃ殺られる。そして俺は……こんなところで死ぬためにこの世界に来たわけじゃない!!
迷いが晴れた俺は、敵兵が振り下ろしてきた剣を素手で掴み取る。刃が食い込んだ左手が少し切れたらしく、地味に痛い。
「なっ!? は、離せこの野郎!!」
「お前らが俺を殺そうとするのなら…俺も全力でお前達を殺す!」
「貴様、何を言って…ぐふっ!!」
左手で受け止めた剣をそのまま引いて相手の体勢を崩し、右手で作った貫手で兵士の鎧をぶち抜いて心臓に突き刺した。今度はきっちりと殺意を持って俺の意思で敵兵を…人間を殺した。その瞬間、俺の体の中にはゾクゾクとした快感のようなものが突き抜けた。
(!? なんだこれ……超気持ちいい)
現代を生きる普通の人間は、人を殺したら罪悪感や後悔の念に支配される動けなくなる者が大半を占めているだろう。だが、俺の場合は人を殺したという自責の念よりもゾクゾクとした快感の方が勝っていた。元からなのか転生したからなのかは分からないが、どうやら俺は命を賭けた真剣勝負で人の命を摘み取ることに快感を覚えてしまう困った性癖を持つ変態野郎だったらしい。
別にこれをオカズに抜けるとかいう意味の快感じゃないよ?
「なんなんだこいつ……素手でタケシの体を貫いたぞ!」
「あのタケシがこんなにあっさり殺されるなんて……こいつは俺達の手に負える相手じゃねぇ!」
残ってる兵士の数は……ざっと60人ちょいってところか。さすがに素手だったらめんどくさいので、今殺した兵士が持っていた鉄製の西洋剣を拝借する。俺が自分の意思で童貞を捧げた記念に貰っておこう。
「すぅぅぅぅ………はぁぁぁぁ………。さて、気合入れていくか!」
女の子を数の暴力で攻めるような外道共には、もう遠慮なんてしないからな♪
「何をしているコウジュン? はやくアサヒとミコトを捕えろ! いつまで待たせるつもりだぁ!」
「いやいや、それどころではありませんぞタカティン様! 先ほどの空から降りてきた光の柱から出てきた男が第一陣の兵士達を皆殺しにした様です。あの男は恐らく今噂の『天聖者』と呼ばれる存在だと思われますが…」
「天聖者だとぉ? たしか、光と共に天から舞い降りてきた神の遣いとか呼ばれた存在か。……ふひひひ、面白い。アサヒ達と一緒にその男も捕えよ。奴隷として売ればいい金になりそうだからなぁ」
「て、天聖者を捕らえるのですか!?」
「アサヒが動けなくなった以上、相手はその天聖者ただ一人だろうが。さっさと兵士全員で取り囲んで拘束しろ。コウジュン…俺はもう腹が減ってイライライライラしてるんだぁ。早急に終わらせろ。いいなぁ?」
「……畏まりました。総員、アサヒ達と共にあの男も捕えよ! 全軍突撃!!」
「「「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」」」
…なんか分からんけど残っている兵士達が一斉に俺に向かって突進して来る。傍から見ればその物量差に絶望感が漂うところだが、俺的には獲物をまとめて始末できる分かえって都合がいい。時間も節約できるし、命を賭けた本当の戦いを楽しめる上に神託もクリア出来るという、まさに一石三丁の鴨葱状態だ。こいつらをさくっと潰したあと、あの女騎士に助けた見返りに体を要求して『この私がこんな扱いを受けるなど…クッ、殺せ!』とか言わせたい。
「うっし、殺る気出てきたぁ! 行くぞオラアアアア!!」
敵兵の先頭集団に窪塚流高速移動歩法『迅歩』で高速接近してから、剣に氣を通して全力で横に薙ぐ。空を斬った剣からは横一文字の鋭利な衝撃波が発生し、それに触れた先頭の兵士数人の上半身が上空に切り飛ばされた。その光景に狼狽えた敵兵達の間をすり抜けるかのように突き進み、すれ違った兵士達の首を一人づつ丁寧に撥ねていく。剣で人を斬るのは初めてだが、その首は巻藁よりも適度に固くて斬り心地が良いものだと初めて知ることが出来た。
「ふははははは! どんどん来いやぁぁぁ!!」
斬り口から飛び散る血や臓物が最初は不快だったが、慣れてくるともっと見たくなってしまうから不思議だ。やっぱり戦うなら試合とかよりもこういう命のやり取りの方が興奮するね。
「な、なんなんだあいつはぁ! 本当に人間か!?」
「おいヒロシ、あの男を我々だけで倒すのは恐らく無理だ。私が時間を稼ぐから本陣にいるハーミット軍事総長を呼んで来てくれ! 事は一刻を争う…急げ!」
「時間を稼ぐって…もしかして死ぬ気ですか部隊長!? ダメです…そんなことは許さねぇ! あんたはこれから俺の妹と結婚するんだからこんな所で死なせる訳には行かねぇんだよ! 時間稼ぎなら俺がします。ハーミット軍事総長は部隊長が呼びに行ってください!!」
「なっ…ふざけた事を言うな! 貴様はこれから俺の義兄になるのだ。結婚する前に義兄が俺の代わりに死んだなどと言ったら彼女に婚約解消されてしまうだろうが! …上官命令だヒロシ。さっさと本陣に行って軍事総長を呼んで来い!!」
「クッ…俺も軍人。上官の命令なら聞かねばなりませんね。……部隊長、ご武運を!!」
「ふっ、もちろん俺もタダでは死なんさ。せめてあの悪魔に一太刀食らわせてやぎゃああああああああああ!!」
何やら長話をしていた兵士の片方を背後から斬り捨てる。
「あのさぁ…敵が目の前にいるのに悠長に長話とかしてたらダメだと思うぞ?」
「ぶっ…部隊長おおおおおおおッッ!! 貴様…よくも、よくも部隊長を…俺の義弟をんぶぅぅぅぅッッ!?」
叫ぶ兵士がうるさかったので、その顔を左手で鷲掴みにしてからそのまま上に持ち上げた。鎧を着てる分地味に重いな。
「そうだ、せっかくだし魔法も試させてもらおうか。…雷よ、我が手に集いて爆ぜよ。『雷掌』!」
「嫌ぎゃあああああ!!あぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」
雷掌、掌に集めた魔力を雷に変えて放電させる雷系初級魔法だ。魔力の調整次第で低周波マッサージ的な事から電気イスの刑レベルの人を殺せる強力な電撃を発することが出来る。まぁ相手に触れてないと効果が無いので微妙なのだが。
ネフィに教えてもらった初級雷魔法はあと2つ。上手く活用して魔法レベルも上げさせてもらおう。
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