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閑話 欲深き人魚達
【エメラルド】①望んではいけないもの
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あたしのママは過去に悪い組織の人間に真珠を生む家畜として囚われていた。
そこで世話係の男がママに恋心を抱いて、改心した男は悪辣な環境でもママが過ごしやすいよう色々工夫して、更にチャンスがあればママを逃がそうとしていた。
でも組織の人間が「もうミラは真珠を生まなくなった。殺してしまおう」と話していたのを聞き、男はすぐにママを連れて逃亡した。
海まであともう少しという所で男だけ捕まってしまい、組織の人間に半殺しにされて片足を失った。ママは一度は海へ逃げて、そのあと戻ってきて「真珠より価値がある」と言って人魚の歌声(喉仏の骨)と交換に男の命を助けた。
その後、男とママは夫婦になってあたしが生まれた。パパはあたしが生まれた5年後に怪我の後遺症もあって亡くなった。
今日はパパの命日。
パパのお墓参りに行って、最後にパパが話してくれた、ママとの思い出話が頭に過った。パパは話し終えるとあたしの手を握って言った。
"エメラルドはミラに似てるから、……ママのように、命を懸けて、誰かを助けようとはしないでくれ。ミラは自分がした手前、エメラルドには強く言えないんだよ。ママもパパも……エメラルドが穏やかに、幸せに暮らしてくれることを……願っているよ"
──これがパパの最期の言葉だった。
「ごめんなさいパパ……。あたし、ママのこと命を懸けても助けたいの……」
◇ ◇ ◇ ◇
「俺、十年前から番がいるから」
「……そんな」
必死に画策して駆け回ったけど、最期の頼みの綱のフィックスお兄さんも駄目だった。ママ……もう時間がないのに。あと1年しか持たないのに……。
【エメラルド、地元の子達が泳ぎを教えてくれって言ってたけど、断ったの?】
家に戻るとママがそう書いた紙を渡してきた。
「エメラルド、人間は嫌いなの」
「…………」
「それに人間の相手なんかしてたらママと過ごす時間が少なくなるし」
またママが筆談してきた。
【また一緒に泳ごうか。エメラルドの働きぶりも見たいし】
「うんっ! 泳ごう!」
小さい頃から、ママはよく仕事場にあたしを連れていった。避けるべき生物、危険な場所、いま思えばママはあたしが独り立ちできるよう、いつも真剣に、必死に仕事を教えていた。
その甲斐もあって今あたしは自分の力で生活できている。12歳になったら学校にも行くことが決定している。このカプルス共和国では、親がいない未成年でも、保護者がいて、学校の寮にさえ入っていれば施設に連れていかれることはないからだ。マリアーナさんが保護者になると言ってくれたから、それが可能なんだけど。
「ねぇ、エメラルド、夜のフルコースとか興味あるー? 都心のレストランなんだけどさぁ」
「……ううん。行けない」
「えー……今夜だめなの?」
「マリン達の奢りだよ?」
「ランチならいけるけど……夜はママと一緒にご飯作って食べるから」
ママは夕方までお仕事だもん。
残された時間が少ないから、できるだけ長くママといたいの。
翌日。
「はじめましてリリーです。今日はいつもと違う人がいて違和感があるかもしれないけど、皆の邪魔はしないからね。その辺にある海草だとでも思って、気にしないでね。よろしくお願いします」
フィックスお兄さんが人間を連れてきた。
蕩けるように甘い眼差しを向けて。今まで笑ったとこなんて見たことがなかったのに、笑顔を見せていた。この人間がフィックスお兄さんの番なんだ、そう思うと同時に、この人間さえいなければフィックスお兄さんはママを助けてくれる、そうも思った。
「リリーさん、フィックスお兄さんのなんなの?」
あたしはフィックスお兄さんのお気に入りの人魚で、今まで何度も抱かれているのよ。そう伝えるつもりだった。人間は裏切りに敏感だから、少し猜疑心を植え付けてやればフィックスお兄さんを疑うようになり、そのうち離れていくだろう、そう思った。
「答えて!」
「もご、モガ、もご、ごっ」
人間は口から空気を出して喋れませんと、身振り手振りで伝えようとしてきた。
……恐怖を与えようとわざと足首を掴んで海に引き摺りこんだのに……随分余裕ね。まるで危機感の無い様子に、気味の悪さと違和感を感じた。でもそろそろ息が持たなくなってきたのか、人間が海上にいこうとしたので肩をつかんで再び海底に追いこんだ。
「苦しいの?」
「もごご、っ」
フィックスお兄さんから離れることを誓ったら……頷くだけでいい、すぐに解放してあげるわ。
「人間だもんね。黙っててもあと1分くらいで死ぬんじゃない?」
『あと二時間は大丈夫かなぁ』
「っ、ひ!?」
人間が海中で喋った。
違う。声には出していない。
あまりの驚きに距離をあけると、困ったような顔で子どもを宥めるような目を向けてきた。まるで害を与える気はありません、そう言いたそうに。それが癪にさわった。
だって人間は、害のある生き物だもの。
「……なんなの? 人間が使う魔法?」
『うん。念話だよ』
「それでフィックスお兄さんをたぶらかしたのね!?」
『念話で男はたぶらかせないと思う』
落ち着いた口調に、呆れたような声。それが余計にあたしを苛々させた。こんな、話してる場合じゃないのに、早くフィックスお兄さんを諦めさせなきゃいけないのに。
「何者よ!」
『人族です』
「……っ、見ればわかるわよ!」
『他国の女で、15歳で、』
人間はあたしに足首を掴まれて抵抗なく海に引き摺りこまれた時とはうってかわって、普通に地上を歩くように近付いてくる。圧が、凄かった。魔力の塊みたいな体。それに身に付けている靴からも凄い魔力。水の抵抗を無視して歩いてくる。全力で泳いで逃げても捕まる、そして捕まったら絶対に逃げられない、そう感じた。
……急変しすぎじゃない。本当に人間なの?
「いやぁっ、寄らないでぇ、頭の中に話し掛けないでぇ!」
『落ち着いて、エメラルドちゃん』
人間はお手上げだと言わんばかりの顔で海底に座り込んだ。じっと何かを考えている。明後日の顔で。思考が全く読めない。
もしかしたらこの人間はあたしがフィックスお兄さんの命──番にしたら生きていく上でもっとも大切なもの──それを狙っているのに勘づいて、いまあたしをどうやって始末しようか考えているのかもしれない。だって海王蛇の命は、全部番のものだもの。はるか昔から、交尾や出産で番を失っていた海王蛇が、気の遠くなるような時間をかけて、やっと進化の過程で手に入れた、命をあたえる力だもの。
番である自分が交尾したり出産する時に与えてもらわなきゃいけない命を、あたしが奪おうとしている、それに気付いて、なら殺すのは仕方ないと、そんな納得したような顔をしてるのかもしれない。
「黙ってたら解らないじゃない! なにしにこの国に来たの! まさか侵略!? 人間に乗り移った悪魔!?」
もうあたしはフィックスお兄さんのお気に入りの人魚だとか、何度も抱かれてるなんて嘘ついたら、この場で殺されてしまうかもしれない。なんとか話題を変えないと。
『母国で、失敗して逃げてきたの』
「……え?」
──人間は、あたしを殺そうとしているわけじゃなかった。あたしの何者よ、その質問に、どうやって回答したら安心してもらえるか、それに考えを巡らせていたのだった。
「……家族に、会いたくならない?」
あたしはいつの間にか人間の話に聞き入っていた。
『家出してから、一度家に戻ったよ。そしたら歳の離れた男達の愛人にされそうになったの。それが無理なら病死扱いにするって』
「…………」
『もう、帰りたくないなぁ』
「……それは、帰りたくはならないわね」
人間は残酷だもの。
ママを真珠を生む家畜として囲んでいた最悪な生き物。お金の為なら自分の娘にだって同じことをする筈よ。
人間は、汚ないの。
パパだって、ママに出会う前は悪いことをしていた。人間は汚なくて、なのに改心もできて、片足を失おうと命を懸けて誰かを助けようする、不思議な生き物。
『そういやシリンちゃんとマリンちゃんも人魚?』
「そうよ。あとアリエルもいるけど……今日は休みよ。怖がりな子なの。凄く泳ぎが得意で、でも遠出したときブラック・キルギスに襲われて……ママが撃退してくれたんだけど……まだ心に傷が残ってるの」
アリエルは海が大好きで時間さえあればずっと泳いでる人魚だったのに、海に居着かなくなってからはずっと地上にいる。そして人間の男が大好きな性格になってしまった。時間さえあればずっと男といる人魚になってしまった。それに人間の影響で性格もかわった。今はおませで恋愛気質な困ったちゃんだ。他国にいる彼氏に会いに何千キロも泳ぐ根性はあるけど、なんというか、飽きっぽい性格にもなっちゃって、男に会いに行く途中で新しい男ができたりする。
……ってあたし。
なんで人間なんかの横にこんな落ち着いて座ってるの。大事な仲間が人魚であることも喋っちゃって。
……これだから、人間はイヤなのよ。
こうやって油断させては、心の隙間に入ってこようとする。
家族に蔑ろにされたからどうだっていうのよ。それで家出したからどうだっていうのよ。結果、好きでもない男と結婚せずに済んだし、年の離れた男の愛人にもならずに済んだじゃない。自由を手にしているじゃない。
悔しい……いつだって人間はこうやって、簡単に欲しいものを手に入れる。
あたしはパパを失って、ママも失おうとしているのに。
あたしはこれからもずっとママと居たい。ママと寝て、起きたら一緒にご飯作って食べて、今日の仕事の成果や、これから通う学校の話や……パパが望んだ穏やかな生活を……そんな未来を、親子なら当然のことさえ、……あたしは望んではいけないの?
っ、絶対に諦めない。
パパだって最後までママの命を諦めなかった。片足を失っても、ママに怒鳴り散らして、もう地上に戻ってくるなと海に逃がした。だからあたしも、絶対にママを諦めない。
「フィックスお兄さんには、どうしても抱いてもらわないといけないの!」
『は?』
「悪いけどリリーさん! フィックスお兄さんは諦めてもらうわ!」
そこで世話係の男がママに恋心を抱いて、改心した男は悪辣な環境でもママが過ごしやすいよう色々工夫して、更にチャンスがあればママを逃がそうとしていた。
でも組織の人間が「もうミラは真珠を生まなくなった。殺してしまおう」と話していたのを聞き、男はすぐにママを連れて逃亡した。
海まであともう少しという所で男だけ捕まってしまい、組織の人間に半殺しにされて片足を失った。ママは一度は海へ逃げて、そのあと戻ってきて「真珠より価値がある」と言って人魚の歌声(喉仏の骨)と交換に男の命を助けた。
その後、男とママは夫婦になってあたしが生まれた。パパはあたしが生まれた5年後に怪我の後遺症もあって亡くなった。
今日はパパの命日。
パパのお墓参りに行って、最後にパパが話してくれた、ママとの思い出話が頭に過った。パパは話し終えるとあたしの手を握って言った。
"エメラルドはミラに似てるから、……ママのように、命を懸けて、誰かを助けようとはしないでくれ。ミラは自分がした手前、エメラルドには強く言えないんだよ。ママもパパも……エメラルドが穏やかに、幸せに暮らしてくれることを……願っているよ"
──これがパパの最期の言葉だった。
「ごめんなさいパパ……。あたし、ママのこと命を懸けても助けたいの……」
◇ ◇ ◇ ◇
「俺、十年前から番がいるから」
「……そんな」
必死に画策して駆け回ったけど、最期の頼みの綱のフィックスお兄さんも駄目だった。ママ……もう時間がないのに。あと1年しか持たないのに……。
【エメラルド、地元の子達が泳ぎを教えてくれって言ってたけど、断ったの?】
家に戻るとママがそう書いた紙を渡してきた。
「エメラルド、人間は嫌いなの」
「…………」
「それに人間の相手なんかしてたらママと過ごす時間が少なくなるし」
またママが筆談してきた。
【また一緒に泳ごうか。エメラルドの働きぶりも見たいし】
「うんっ! 泳ごう!」
小さい頃から、ママはよく仕事場にあたしを連れていった。避けるべき生物、危険な場所、いま思えばママはあたしが独り立ちできるよう、いつも真剣に、必死に仕事を教えていた。
その甲斐もあって今あたしは自分の力で生活できている。12歳になったら学校にも行くことが決定している。このカプルス共和国では、親がいない未成年でも、保護者がいて、学校の寮にさえ入っていれば施設に連れていかれることはないからだ。マリアーナさんが保護者になると言ってくれたから、それが可能なんだけど。
「ねぇ、エメラルド、夜のフルコースとか興味あるー? 都心のレストランなんだけどさぁ」
「……ううん。行けない」
「えー……今夜だめなの?」
「マリン達の奢りだよ?」
「ランチならいけるけど……夜はママと一緒にご飯作って食べるから」
ママは夕方までお仕事だもん。
残された時間が少ないから、できるだけ長くママといたいの。
翌日。
「はじめましてリリーです。今日はいつもと違う人がいて違和感があるかもしれないけど、皆の邪魔はしないからね。その辺にある海草だとでも思って、気にしないでね。よろしくお願いします」
フィックスお兄さんが人間を連れてきた。
蕩けるように甘い眼差しを向けて。今まで笑ったとこなんて見たことがなかったのに、笑顔を見せていた。この人間がフィックスお兄さんの番なんだ、そう思うと同時に、この人間さえいなければフィックスお兄さんはママを助けてくれる、そうも思った。
「リリーさん、フィックスお兄さんのなんなの?」
あたしはフィックスお兄さんのお気に入りの人魚で、今まで何度も抱かれているのよ。そう伝えるつもりだった。人間は裏切りに敏感だから、少し猜疑心を植え付けてやればフィックスお兄さんを疑うようになり、そのうち離れていくだろう、そう思った。
「答えて!」
「もご、モガ、もご、ごっ」
人間は口から空気を出して喋れませんと、身振り手振りで伝えようとしてきた。
……恐怖を与えようとわざと足首を掴んで海に引き摺りこんだのに……随分余裕ね。まるで危機感の無い様子に、気味の悪さと違和感を感じた。でもそろそろ息が持たなくなってきたのか、人間が海上にいこうとしたので肩をつかんで再び海底に追いこんだ。
「苦しいの?」
「もごご、っ」
フィックスお兄さんから離れることを誓ったら……頷くだけでいい、すぐに解放してあげるわ。
「人間だもんね。黙っててもあと1分くらいで死ぬんじゃない?」
『あと二時間は大丈夫かなぁ』
「っ、ひ!?」
人間が海中で喋った。
違う。声には出していない。
あまりの驚きに距離をあけると、困ったような顔で子どもを宥めるような目を向けてきた。まるで害を与える気はありません、そう言いたそうに。それが癪にさわった。
だって人間は、害のある生き物だもの。
「……なんなの? 人間が使う魔法?」
『うん。念話だよ』
「それでフィックスお兄さんをたぶらかしたのね!?」
『念話で男はたぶらかせないと思う』
落ち着いた口調に、呆れたような声。それが余計にあたしを苛々させた。こんな、話してる場合じゃないのに、早くフィックスお兄さんを諦めさせなきゃいけないのに。
「何者よ!」
『人族です』
「……っ、見ればわかるわよ!」
『他国の女で、15歳で、』
人間はあたしに足首を掴まれて抵抗なく海に引き摺りこまれた時とはうってかわって、普通に地上を歩くように近付いてくる。圧が、凄かった。魔力の塊みたいな体。それに身に付けている靴からも凄い魔力。水の抵抗を無視して歩いてくる。全力で泳いで逃げても捕まる、そして捕まったら絶対に逃げられない、そう感じた。
……急変しすぎじゃない。本当に人間なの?
「いやぁっ、寄らないでぇ、頭の中に話し掛けないでぇ!」
『落ち着いて、エメラルドちゃん』
人間はお手上げだと言わんばかりの顔で海底に座り込んだ。じっと何かを考えている。明後日の顔で。思考が全く読めない。
もしかしたらこの人間はあたしがフィックスお兄さんの命──番にしたら生きていく上でもっとも大切なもの──それを狙っているのに勘づいて、いまあたしをどうやって始末しようか考えているのかもしれない。だって海王蛇の命は、全部番のものだもの。はるか昔から、交尾や出産で番を失っていた海王蛇が、気の遠くなるような時間をかけて、やっと進化の過程で手に入れた、命をあたえる力だもの。
番である自分が交尾したり出産する時に与えてもらわなきゃいけない命を、あたしが奪おうとしている、それに気付いて、なら殺すのは仕方ないと、そんな納得したような顔をしてるのかもしれない。
「黙ってたら解らないじゃない! なにしにこの国に来たの! まさか侵略!? 人間に乗り移った悪魔!?」
もうあたしはフィックスお兄さんのお気に入りの人魚だとか、何度も抱かれてるなんて嘘ついたら、この場で殺されてしまうかもしれない。なんとか話題を変えないと。
『母国で、失敗して逃げてきたの』
「……え?」
──人間は、あたしを殺そうとしているわけじゃなかった。あたしの何者よ、その質問に、どうやって回答したら安心してもらえるか、それに考えを巡らせていたのだった。
「……家族に、会いたくならない?」
あたしはいつの間にか人間の話に聞き入っていた。
『家出してから、一度家に戻ったよ。そしたら歳の離れた男達の愛人にされそうになったの。それが無理なら病死扱いにするって』
「…………」
『もう、帰りたくないなぁ』
「……それは、帰りたくはならないわね」
人間は残酷だもの。
ママを真珠を生む家畜として囲んでいた最悪な生き物。お金の為なら自分の娘にだって同じことをする筈よ。
人間は、汚ないの。
パパだって、ママに出会う前は悪いことをしていた。人間は汚なくて、なのに改心もできて、片足を失おうと命を懸けて誰かを助けようする、不思議な生き物。
『そういやシリンちゃんとマリンちゃんも人魚?』
「そうよ。あとアリエルもいるけど……今日は休みよ。怖がりな子なの。凄く泳ぎが得意で、でも遠出したときブラック・キルギスに襲われて……ママが撃退してくれたんだけど……まだ心に傷が残ってるの」
アリエルは海が大好きで時間さえあればずっと泳いでる人魚だったのに、海に居着かなくなってからはずっと地上にいる。そして人間の男が大好きな性格になってしまった。時間さえあればずっと男といる人魚になってしまった。それに人間の影響で性格もかわった。今はおませで恋愛気質な困ったちゃんだ。他国にいる彼氏に会いに何千キロも泳ぐ根性はあるけど、なんというか、飽きっぽい性格にもなっちゃって、男に会いに行く途中で新しい男ができたりする。
……ってあたし。
なんで人間なんかの横にこんな落ち着いて座ってるの。大事な仲間が人魚であることも喋っちゃって。
……これだから、人間はイヤなのよ。
こうやって油断させては、心の隙間に入ってこようとする。
家族に蔑ろにされたからどうだっていうのよ。それで家出したからどうだっていうのよ。結果、好きでもない男と結婚せずに済んだし、年の離れた男の愛人にもならずに済んだじゃない。自由を手にしているじゃない。
悔しい……いつだって人間はこうやって、簡単に欲しいものを手に入れる。
あたしはパパを失って、ママも失おうとしているのに。
あたしはこれからもずっとママと居たい。ママと寝て、起きたら一緒にご飯作って食べて、今日の仕事の成果や、これから通う学校の話や……パパが望んだ穏やかな生活を……そんな未来を、親子なら当然のことさえ、……あたしは望んではいけないの?
っ、絶対に諦めない。
パパだって最後までママの命を諦めなかった。片足を失っても、ママに怒鳴り散らして、もう地上に戻ってくるなと海に逃がした。だからあたしも、絶対にママを諦めない。
「フィックスお兄さんには、どうしても抱いてもらわないといけないの!」
『は?』
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