悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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閑話 欲深き人魚達

【双子】④追い掛けてはいけないもの

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「純金貨?  ああ、海中にあるぞ」

テリーさんに聞いたらあるって。

わたし達は連日の如く海に出向いた。
そしてようやく見つけたのだ。
なんと沈没した海賊船から2枚も。


「リリーおねいさぁーん!」
「あーそーぼー!」


リリーおねいさんは『テリーの串焼き』店からしか出てこない。なんでもフィックスさんの部屋が拠点になっていて、そこから転移したり、帰宅もその部屋で、寝室でご飯を食べる時は一日中出てこない。

「どしたのー?」

今日は居た!
よかった、テリーさんが言った通り、早朝ならいるんだ!
こんなに早い時間帯なのに髪も服装もばっちりで、店のカウンター席で朝ご飯を食べていた。

「トリガーさんのとこで鳥弁当買ってきたのー」
「一緒に食べよー」
「いいけど、なんか飲む?」

リリーおねいさんが手から飲み物を出してくれた。透明なのに桃の味がする水だ。二人でその水に陶酔してたら食事を終えたリリーおねいさんが腰を上げようとしたので慌てて止めた。

「なに、お水おかわり?」
「ち、違うよ!」
「じゃあそろそろ本題に入ってもらおうか」
「ぅ……あ、あのね。リリーおねいさん」
「うん?」
「わたし達、この前は負けたけど、まだ負けてないから」

リリーおねいさんはきょとんとした。
二人で目を合わせて含み笑いをする。
そしてポケットから魔導具【大金持ち】の紙を出す。

リリーおねいさんがチラッと【大金持ち】を見て、あの目をした。食い付いた!

「リリーおねいさん、このゲームはね、一枚の硬貨でどれだけ沢山お金を入れられるか勝負する魔導具なの」
「うん」
「この前、離島の近くで沈没してた海賊船から見つけたんだー。だから都心の魔導具屋さんで鑑定してもらったんだー」
「うんうん」
「リリーおねいさん、わたし達と勝負しない?」
「いいけど、なんか賭けたいものでもあるの?」
「「ぅ……」」
「以前、敗者から騙し取った金貨でも賭けようか?」

二人で全力で首を振る。
これは勝負じゃない。
この前は負けたから。勝ちにいきたいけどリリーおねいさんは純金貨を持ってる。だからせめて引き分けで終わらせたいと、わたし達は純金貨を探し出したのだ。

「ママが言ってた!  あの白い飴玉は、わたし達の金貨200枚と交換だって!  だからあの金貨は、勝者のリリーおねいさんのものよ!」
「うん!  これはただの遊びだから、賭けは無しで!」
「いいよ、ならせーので、みんな一緒に入れようか?」
「「うん!」」

ポケットの純金貨を握りしめる。

「──せーのっ!」









二人で手を繋いでとぼとぼと家路を辿った。

「……ねぇ」
「んー?」
「あれ、……【王族の血を吸った黒金貨】って海に落ちてるのかな?」
「わかんなーい。フィックスさんも初めて見たって言ってたから、落ちてないんじゃなーい?」
「……だよね」


  ◇ ◇ ◇ ◇


「こんな遅くまで宿題もせずにどこほっつき泳いでたんだい!  酷い顔色じゃないか!」
「あーん……だって、フィックスさんがこの界隈に破格のホーリーパールがあるよって、さ、囁いてきたんだも、ん……」
「それ、手に入れたら……一枚で一国が絶対買える【王族の血を吸った黒金貨】に……勝てるんだも……ん」
「っ、馬鹿!  あんた達最近リリーにベタベタしてるから、フィックスに追い払われたんだよ!」


  ◇ ◇ ◇ ◇


「馬鹿!  なんでロザリーに飯なんて作らせてるんだい!  ロザリーはこの養殖場の護衛としてギルドから派遣されてきた冒険者なんだよ!  あんた達がロザリーを連れ出すから、その隙に泥棒猫が尾魚くわえていっちまったじゃないか!」
「あーん!  だってリリーおねいさんに教えてもらったウニ料理、火魔法じゃないとうまく作れないんだもーん!」
「……本当にすみません。目を離した隙に……報酬から引いといて下さい」
「全く……今度ダンジョンの帰りにでも雌の尾魚釣ってきておくれよ」
「わかりました」
「尾魚は一匹でも雄を入れておくとヤル気満々になって雌を守ろうとするんですよ。ハーレム効果ですね。だから雄も一匹釣ってきた方がいいですよ」

あ、リリーおねいさんが来た!

「今日は契約してる淡水鯉のぼりを1匹と、……あと淡水鯉のぼりの稚魚が生まれたら貰えます?」
「稚魚なら来年の4月だね。でも稚魚は身が少ないよ?」
「うっふふ。大丈夫でーす。わぁ、おっきな鯉のぼり。凄い身丈ですね」
「今の時期は脂がのってんだ。皮と身の間が一番うまくてね、これは皮を食べる魚なんだ。あ、でも稚魚の皮は固くて食えたものじゃないよ。なるべく成長させて皮を伸ばしてやらないと」
「うっふふ。大丈夫でーす♪」

リリーおねいさんまたあの目。そのあと景色を眺めるようにロザリーを見て「なんだオタマナマズか」と呟いて去っていった。

(なんか楽しいことでも企んでそうだったね?)
(ねぇ、追い掛けよっか?)
(うんっ)

すぐに撒かれた。
店にもいなかった。
リリーおねいさん気配を消すのがうまい。それに空も飛ぶからいつもすぐ見失うんだよねー。

「ちぇっ。わくわくしそうな匂いがしたのに」
「ねー、また今度追い掛けようねー」

リリーおねいさんはお金の匂いより、刺激のある匂いがするのだと解ってから、わたし達はリリーおねいさんを追い掛けては連日のごとく撒かれて、今日も見失った。


仕方ないので二人で手を繋いで海を泳いだ。リリーおねいさんが食い付く物でも落ちてないかなー。


「ねー、離島より向こうに泳いだら絶対ダメだって、ママ言ってなかったー?」
「でももうこの界隈に沈没船ないって、テリーさんが言ってたし、ちょっとくらい遠出しても大丈夫でしょー」
「だよねー、また沈没船から刺激のあるもの見つからないかなー」
「ねー、やばい武器やつとかも欲しいよねー」
「……っ、え?」


離島から離れようとしたらいきなり目の前に巨大な海賊船が現れた。ボロボロで、でも刺激のありそうな沈没船。


「キャー!  なにあれ、すっごーい!」
「刺激のある匂いがするよねー!」
「ねー!」


急いで泳いで沈没船に辿り着くと、船の周りから異様な気配を感じた。

まるであの日、ヌル尾に対峙した時のような、背筋がひやりとする焦燥感。

ゆっくりと振り返ると視界を覆う数のヌル尾がいた。

「あ、っ、あ」
「う、ぁ、ああっ」

濁った生気の無い死んだ魚ような目──。
サザエの肝みたいな下半身──。

無数の濁った目がわたし達に向けられていた。

「ィ"、い、いるぅうううっっこっち見てるぅうっっ!」
「なんでえええっっ残り一体じゃなかったのおおおっっ!」

二人で抱き締め合いながら絶体絶命だと確信した。このあとわたし達はヌル尾に生きたまま食べられるんだ……ママから聞いた、ヌル尾の、残酷な人魚の食べ方──『奴等はエサがすぐに死なないよう、髪や爪から食べるんだ。指や耳、目玉を食べてから四肢をもいで食べる。そのあと残った胴体を串刺しにして、焼いて喰うんだ。あ、焼く前に脳髄を啜ってね』──ママが言っていたそれを一語一句鮮明に思い出した。

「うあああっっ、ごめんシリン、マリンがこんなとこ連れてきたからぁぁぁ」
「マリンは悪くないよぉ、ぉ、シリンがもっと止めればよかったんだよぉぉ、ぉぉ」

真珠が止まらない。
片割れが食い殺されてしまう。
そう考えると絶望に身を震わせて互いを護るように固く抱き合って目を閉じた──その直後、呼ばれたような感覚がして──次に目を開いたとき、『テリーの串焼き』店にいた。


「……あ、」
「れぇ……」


きょろきょろしてると店内にいた酔っ払ったお客さんに「おい床が濡れてる、罰金刑がかされるぞ」と怒られた。

「「ご、ごめんなさぁい」」
「あらあら」

店員さんがかけてくれた布に身を包むと、体の震えが止まった。お風呂に入った後みたいに体がぽかぽかになった。よく解らないけど布には【スーパー銭湯コラボタオル!】という不思議な文字と、湯けむりのような絵が書いてあった。

「風邪ひくよ、洗浄」
「「え」」

2階からおりてきていたリリーおねいさんが呆れたような顔をわたし達に向けた。

わたし達を呼んだのは海に帰り支度をしていたテリーさんだった。さっきママが店にきて、暗くなる前に奴等を呼んでほしいと頼まれていたそうだ。



「──でね、でね、その海賊船の周りに、ヌル尾が現れたの!」
「そうなの!  百体はいたの!  周りはサザエの肝だらけ!」

リリーおねいさんにさっき体験した出来事を話すと、それは海賊幽霊船を見たんだと言われた。

「海賊、」
「幽霊船?」
「そう──まだマリンちゃんとシリンちゃんが生まれる大昔も前の話です。当時漁師達は、人間の子供を拐って食べるヌル尾を狩るため海に出撃しました。でも屈強な漁師でもヌル尾には敵わなくて、海賊に討伐を頼んだのです。海での戦いに特化した海賊達は次々とヌル尾を討伐していきました。海賊は捕らえたヌル尾の髪を引っこ抜き、爪を剥いで、目玉をくりぬき、四肢を切り落とし、頭をハンマーでかち割り、最後は串刺しにして焼き払ったのです。拐われて食い殺された子供の中には、海賊の子もいたのです。怨毒の復讐劇でもあったのです。それは海が真っ赤に染まるまで、百日間も続きました」
「ひ、ひどい……」
「そ、そんなことが……」
「あったんだなぁ。遥か大昔、儂の祖父の祖父がまだ坊の頃じゃな」

近くにいた酔っ払ってるお客さんがぼそっと呟いた。そしてそのお客さんが続きを話した。

「ヌル尾は死んだ後も逆恨みしてな、幽霊になってまで子供を喰おうとしたんじゃよ。でもヌル尾との戦いで死んだ海賊達も、幽霊になって現れた。この界隈は俺らのシマだと、この海に子供を喰うヌル尾がいる限り、俺らの魂は不滅だ、何度でも討伐してやる。その宣言を証明するかのように、どこからともなく海賊幽霊船が現れるようになった」
「……じゃあ、まさかさっきのは、両方とも幽霊……?」
「海賊船が現れたのは、ヌル尾も現れたから……だったんだ」
「悪を悪で征す、そんな言葉があってな」

だからもし海中ハンターをしているときに、沈没した海賊船を見つけたら、船は荒らさずそっとしておいてやんな。きたるヌル尾との戦いにそなえて、奴等の安らかな眠りを妨げちゃいけねぇよ、そうあやすように言われて、わたし達は畏敬の念と共にこくこくと頷いた。

「サザエの炭火焼きもお食べ」
「わぁ、こんなに沢山ありがとうございます!  肝ソース♪肝ソース♪あ、マリンちゃんとシリンちゃんも食べるー?」
「「……遠慮しときます」」

うわぁ……フィックスさんが持ってきたお皿に、串刺しにされもがく海老やタコ、絶命しないようにぶつ切りされて泡をふいている蟹もいる。そしてフィックスさんはリリーおねいさんの目の前で地獄焼きを始めた。生きたまま網の上で炙り、じわじわと絶命させる。おまけに「ああ……こうしてやりたい。リリーは俺のものなのに」とぶつぶつ言いながら。

「リリー、俺にも作って欲しい。紙に書いてたあの魚の御守り」
「え、鯉のぼりをですか?」
「うん。だって俺も男の子だし。ちゃんと健やかに育つから」

お願い、と耳元で囁かれたリリーおねいさんは「きゃっ♪」と頬を上気した。やはりリリーおねいさんは超人だ。海王蛇に囁かれた生物は灰人になるのが世の常なのに。

「わっかりました!  フィックスさんのは、お父さん鯉のぼり!  一番でっかく作りますよぉ!  来年飾るの楽しみですねぇ♪」
「うん……俺、ほんと楽しみだなぁ」

ふふん、と得意気な顔をしたフィックスさんが絶命間近の串刺し海老を手に、わたし達の顔を覗きこんできた。

「食べる?」
「「いえ」」
「そう。注文がないなら帰ったら」
「「はい」」

注文がないなら帰ったら?  じゃない。こうされたくないなら帰ったら、だ。また囁かれる前にとわたし達は全力で頷いた。


「触らぬ海賊船に祟り無し、だよねー」
「ねー、障らぬ海王蛇にも祟り無し、だよねー」


店を出てなんとなしに振り返ってリリーおねいさんを見ると、さっきの酔っ払ったお客さんに白い魚を渡して「流石は年の功です」と言っていた。またあの目をして。


「疲れたねー」
「ねー、へとへとだねー」
「リリーおねいさんは、」
「追い掛けてはいけないもの、」
「だねー、懲りたねー」
「うん、帰ったら宿題やろっか」
「うん、ママにも謝っとこねー」
「ねー」

今度こそわたし達は振り返らずに家路を辿った。

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