悪役令嬢は嫌なので、放浪して好き勝手します

cqrijy

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閑話 おっかなびっくり彼氏とデート編

③えらいこっちゃ

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「うふふふ」

最近、船に転移しては針仕事に精を出している。
結婚初夜に着る寝間着も作れた。
透け透けで大事な部分が丸見えなナイトウェア。普段ならこういうの絶対着ない。柄じゃないから。お色気キャラでもないし。でも初夜ってそういう積極的なの着ていい日だし!

「フィックスさんのハンカチーフも縫っちゃお」

タキシードの胸元を飾る金色の薔薇に、ポケットに添えるハンカチ。
月光海月の紫色は、金色の薔薇ともよく合っている。

その日は色んな妄想を膨らませてしくじった。
生活魔法のアラームを夕方5時にセットするのを忘れたのだ。

「……やだもう夜の11時!?」


慌てて転移して帰ると、部屋のベットに腰かけているフィックスさんがいた。

「……フィ、フィックスさぁん。ごめんなさぁい。アラームセットするの忘れてしまって」
「ずっと船にいたの?」
「う、うん。作業してたらこんな時間に」
「……そう」

フィックスさんは俯いたまま、顔をあげてくれない。前髪で目も見えない。
目の前であたふたしてしまうも、無反応だ。

そういえば……帰るのが遅くなったからだろうけど、おかえりも言われなかった。その事に絶望感が凄い。

「……フィックスさん。ごめんなさい。許して下さい」
「何を許せばいいの?」
「っ、……ぁぅ」

あかん。
これ、回答を間違ったらヤバイやつ。

「5時に帰宅しませんでした。あと、連絡もしなかったこと」
「他には?」
「ぅぅ……事件に巻き込まれたかもとか、いらぬ心配もかけたと思います」
「……あとは?」
「あ、あと……いつも私の帰宅時間に合わせで温かいご飯を作ってくれてるのに……冷まして、一番美味しい時に食べれなくてごめんなさい」
「今リリーが言ったことを許せばいいの?」
「ぅぅ~……すみません。許さなくていいです。許さなくていいので、離れていかないで下さい。どんな償いもします」
「リリーが船にいる間、俺ずっと不安定なんだよ。何してるか知らないし」
「で、では今後はムンタリ大陸にはいきません。船は収納して、近場に置いときます」
「……へぇ」

あ、フィックスさんが顔を上げてくれた。
でも瞳がどろりとしている。

「リリィ」
「っ、はい!」
「俺が数時間リリーの前から消えたら、どんな気持ち?  行き先は解ってても、そこで何してるか知らないんだよ」
「……き、気になると思います」
「それだけ?」
「……私の知らないところで、可愛い子に出会って、その子の事が気になってないかとか、惹かれてしまうんじゃないかとか、邪な嫉妬心を抱いて問いただしたりとか、私の性格上、そういう事をしてしまうと思います」
「俺はね、リリーが消えたら生きていけないの」
「私だってフィックスさんがいないと生きていけませんよ!」
「ならずっと側にいてよ!  なんで俺の中に入ってきてくれないの!  ずっと待ってるのに!」
「フィックスさんがそう望むならずっと側にいますよ!」

フィックスさんの腕の中に飛び込むも顔をガシッと掴まれた。あ、これ取り返しのつかない事が起こると直感が訴えたので咄嗟に目を閉じた。

「リリィ、こっち見て」
「……まず、見たら私は死ぬと確信したんですが」
「しなないよ。しなせるわけないでしょ」
「でも体がバラバラになりますよね?」
「大丈夫。すぐに治すから。ついでに表の記憶も消しておこうか。裏でしか生きられないように」
「フィックス、少し落ち着け」

背後からテリーさんの声がした。

「お嬢ちゃんも、何かするなら船じゃなく海の中でしてくれ」
「へ?」
「最近フィックスの変動が激し過ぎる。お嬢ちゃんを甘やかし過ぎじゃないか?」
「暗黒都市を沈めたテリーに言われたくないね」
「思い出したくないからその話しはよせ」
「今日気付いたんだけどリリーがこのまえ船でずっと作業してたのはテリーのせいでもあるんだよ」
「それはすまん。ドラゴン都市まで衝撃がいくとは思わなかった」
「そういや一族の長がフィクサーナに感謝の手紙を送ってきたそうだね」
「あの若造は時代が違えばフィクサーナと交流したかったと訳の解らないことを綴っていた。だからあの異常者を沈めた。子孫は遺してるんだ、別に構わないだろう」
「その子孫ごと都市を沈めたら意味ないんじゃない」
「それは俺のせいじゃない。その都市にいた異常者の子孫が悪い。なのにフィクサーナに怒られた。だから飲み込んだ。そしたらもっと怒って話してくれなくなった。もう俺はフィクサーナの表の記憶を消して裏でしか生きられないようにするしか生きる術はない」
「そうだね。なら俺もそうしようかな」
「フィ、フィックスさん?」

急に二人とも静かになって、そっと目を開けるとフィックスさんとテリーさんが床で苦悶の表情でもがいていた。

……えらいこっちゃ。




「ああ、恐らく暴走しようとして二人とも弱点が発動したんだと思いますよ。大丈夫です。そのうち戻ってきます」
「?  ……そうなんですか?」

現在一階の厨房でフィックスさんが作ってくれていた肉巻きおにぎりを頂いている。

あのあとフィックスさんとテリーさんは固まって、揺すっても動かなくなってしまったので店の従業員さん達に助けを求めたのだが……。

「たまにあるんです。我々ではどうしようもないので、戻ってくるのを待つしかなく」
「わかりました……あの、今日……夕方5時を過ぎた後のフィックスさんの様子はどうでした?」
「酷いものでした。海王蛇って睨むと怖いんですよね。我々は眷属なので大丈夫ですが、目が合った際に石化するお客さんもいて」
「ええええ」

それ、蛇眼の飛び火ですやん。
本来、海王蛇の技である蛇眼に石化の効力はない。しかし蛇眼が発動された時にそれを避けようと射程距離外にいるとたまにこれにかかる。

急いで収納から万能石化解除薬を百錠出す。これを粉砕して頭から撒いたら石化は解除される。ゲームでも海王蛇討伐クエでよく使った。

「これ凄いですね……海王蛇の石化は海王蛇にしか治せないんですが……これなら解除できます」
「はは、……これくらいしか出来ませんが。ほんとすみません」

私の行動のせいでお店のお客さんが石化する可能性もあると解ったらね。
肉巻きおにぎりをパクつく。
美味しいけど、胃は満たされるけど、なんか寂しい。あ、目から汗が……。

「う、うえええん……フィックスさぁぁん」

なんで今日に限ってアラームのセットを忘れたんだろう。確かにフィックスさんにあげる物を作ってる時は時間を忘れがちだけど、アラームまで忘れることなかったのに。

「リリー」

背後からぎゅっと抱き締められて涙が止まった。そして固まった。なんだか怖くて振り向けない。声はいつものフィックスさんの声色なのに。何を言われるんだろう、拒絶されるかもしれない、そう思うと絶望した。

「おかえりリリー。さっきはごめんね。俺、酷いこと言った」
「っ、酷いことなんて言われてませんよ!  逆に私はフィックスさんを傷つけてしまいました!  本当にごめんなさい!」

振り向いて抱き付くと、フィックスさんの顔にヒビが入っていた。

「!?  フィックスさっ……!  怪我したんですか!?」
「大丈夫」
「フィックス。一度海に入れ」
「そっちこそ」

続いて厨房に入ってきたテリーさんにも、額に稲妻のような亀裂が入っていた。

「……まさかケンカですか!?」
「違うよ。リリーに暴言を吐いてしまったから、自己嫌悪が酷くて」
「暴言なんて言われてません!」

こ、これ……どういった症状なんだろう?
フィックスさんの頬に入ったヒビのような怪我から血は一滴も出ていない。

「うわああん!  痛いですよね!」

急いで外傷にも効果がある秘薬とか神薬とか霊薬とか出してフィックスさんの顔にかける。あ、ちょっとだけヒビが治った。でも全然足りない。私じゃフィックスさんを治すことは出来ないと悟った。

「わあ~!  フィックスさぁん!」
「大丈夫。泣かないで」
「だってフィックスさぁん!」
「海に入ったら治るから」
「なら今すぐ行きましょう!!」


その日はずっと海中でフィックスさんの顔を胸に抱いたままじっとしていた。

「ぅぅ……フィックスさぁん……痛いの痛いの飛んでけー」
「ふふ」

背中を擦られるも涙が止まらない。
そのままフィックスさんを抱いたまま、視界が明るくなったのに気付いて目を開けるといつの間にか朝になっていた。

明るい海中でそっと腕を離してフィックスさんの顔を覗きこむと、頬のヒビは消えていた。

「……治ったんですか?  痛みはありますか?」
「どうだろう。治ったのかな」
「……帰ったらしばらく安静にしていて下さい。今日から私がフィックスさんのご飯を作ります」
「わかった」



それから約一週間。

「調子よさそうだな」
「へ?」

厨房で聞こえてきた声に顔を上げると目の前にテリーさんがいた。その目はじとりとしていて、私の横にいるフィックスさんを見ている。

「不満げだね」
「フィクサーナが目も合わせてくれなくなった」
「たまには外に出したら。それで機嫌は直るでしょ」
「暗黒都市を元に戻したが、形だけ元に戻しても機嫌は直らなかった」
「外に出したら機嫌は直るんじゃない。リリー、あーん」
「あー……んんまぁい!」
「可愛い可愛い」 

一緒に苺タルトを作っていたらフィックスさんが余った苺をあーんしてくれた。あまりの美味さに鑑定すると驚いた。

「こ、これストロベリー・フラワーじゃないですかぁ!」
「よく知ってるね」

妖精都市にある箱庭の岩礁で育つ苺だ。
妖精が育てた、妖精しか食べる事を許されていない苺。岩礁で育つからか、ほんのり塩味も効いている。人間も採って食べる事は出来るが、食べたら二度と箱庭から出れなくなる。
前世ゲームでもそうだった。
というか採った瞬間、出れなくなるのだ。
転移はできるが、転移で脱出すればどこまでも妖精が追い掛けてくる。そしていざないの死の手を伸ばしてくる。一瞬でも触れたら即死、つまり詰む。リセットして前のセーブデータからやり直すしかなくなる。

「……だ、大丈夫ですよね?」
「うん?」
「妖精がここまで追い掛けてきたりしませんよね?」
「これ?」
「へ?」

ひょいと目の前に持ってこられたのはフィックスさんに首を絞めるように掴まれて白眼を向いている可愛らしい妖精。ぐったりしている。

「うおおおっっほっ!?」

おまけに牙が生えている高位妖精だ。
妖精都市にある監獄で働いてるお偉いさん。
思わず叫んでのけ反った。

「グ、ガガ、グッ、……ギュ」

あ……最後の「ギュ」で息絶えた。

「だ、大丈夫ですか?  妖精に触れたら即死しませんか?」

妖精の掌には刻印があった。
妖精光の刻印だ。いくつか種類があるがこの妖精の掌には骸骨の刻印がある。なら誘いの死の手だ。

「これ、寿命を奪う力があるんだ」
「へぇ」
「でも大昔に純血種が妖精を番にした時に得たからね。効かないよ」
「へぇ……え。えっ?」

あっ……フィックスさんがご臨終した妖精を生ゴミが入ったゴミ箱にぺっと棄てた。待って待ってそれ、貴重だから棄てないで!

「こ、これ……私が貰ってもいいですかぁ?」
「妖精が欲しいの?」
「いえ、妖精というより……」

収納から台座を出す。
前世ゲームで妖精都市で手に入れた魔導具だ。各都市にひとつずつしかない。
そこにご臨終した妖精を乗せると、パァっっと光を放って金ピカの【妖精の監守像】が出来上がった。

おまけにきちんとポーズも取って白眼も向いてない。生き生きとした瞳に戻ってる。

「きゃあ~♪像は【オアシスの女神像】を作ってから素材の入手が困難で作製ストップしてたんですぅ!」

あと1つで像はコンプリートだ!
そしたら像コンプリートの表彰状も手に入る。
嬉しすぎる♪

「リリーは可愛いねぇ。苺タルトできたよ」
「ありがとうございます!  私のはあと真ん中にミントを乗せて……出来上がり~!」

私の苺タルトは秋の果物狩りイベントで手に入れたあまおうだ。他の食材も超平凡。

「フィックスさんのタルトとは比べ物にならないけど……あ、愛情は一杯込めました!」
「嬉しい。また丘にいって食べよっか?」
「はい!」
「紅茶も淹れるね」
「ありがとうございます!」

ここ数日は一緒にオヤツを作って、天気がいいと近場でピクニックをしている。今日はシートをひろげてまったりしよう。

ランチボックスに互いが作ったタルトを詰める。ピンク色のミニ薔薇も端に添えちゃお。かわいい♪

「きゃっ♪きゃっ♪」
「リリーは可愛いねぇ」

あぁ。紅茶を淹れてくれている私の旦那様がかっこいい。

水筒も持って、フィックスさんと手を繋いで厨房を出るとお店にいるお客さんが全員石化していた。

動いているのはカウンター近くでタコを煮込む無言のテリーさんだけだ。

……えらいこっちゃ。




お店で苺タルトを頬張りながら二人のやり取りを眺めた。

「俺はフィクサーナを愛している。だからフィクサーナの機嫌を直す為ならなんでもする」
「だから外に出したら機嫌は直るんじゃない」

お客さんは全員石化解除して、そのあとお店は閉店させた。

「外は危険だ。俺の視界にいない時に、フィクサーナが異常者に目をつけられる可能性もある」
「でも外に出さないと機嫌は直らないよ 」

従業員さん達はビクビクしながら厨房で二人のやり取りを静観している。それに心配そうな目だ。その目は主に私に注がれている。

ああ。いつの間にか外は雨が降ってきた。

「……あのぉ、すみません」

挙手するとフィックスさんがその手にチュッとキスしてくれた。きゃっ♪

「調子よさそうだな」
「不満げだね」
「脅されているんだ。いまフィクサーナは髪を1本ずつぶちぶちと引き抜いている」
「早くしないと寿命が無くなるよ」
「それはない。俺の命は全部捧げるつもりだ」

さっきから謎の不穏な会話が絶えない。
全く意味が解らないが、フィクサーナさんが自宅に閉じ込められてて、遊びに行きたくてもそれをテリーさんが許可しなくて、ストレスで髪が抜け出したところまではなんとなく把握した。
そして何とかしたいとも思った。

「あのぉ、テリーさん?」
「なんだ?」
「フィクサーナさんは外に遊びに行きたいんですよね?」
「……それはまだ解らない」

いや解るでしょ。

「でもテリーさんはフィクサーナさんが外出すると他所で男に口説かれたりとか、誘われたりとか、浮気を心配されているんですよね?」
「……他所の雄にフィクサーナを口説かせたことも、誘う隙を与えたこともない。あれば沈める」

不穏な単語はスルーだ。

「とにかく、フィクサーナさんがどこに行くにも、テリーさんが付いていったらよいのでは?」
「フィクサーナに行きたい場所がある時は、必ず付いていっている」
「えっと……なら反対にテリーさんが出掛ける時は、例えばお店で働いてる時とか、その時はフィクサーナさんは何処にいるんですか?」
「ずっと俺の中にいる」
「?」
「海の中だね」

ああ、お家のことですね。
なるほど、なるほど。

「あれ?  ならテリーさんはフィクサーナさんをデートに誘ったりとかしないんですか?」
「フィクサーナが行きたい所があれば、付いていくし、連れていく」
「え?  んん?」

それって……ずっと受け身だよね?

「とにかく、フィクサーナさんは遊びに行きたいんですよ。外出許可を出したくないのは浮気の心配があるからで、でもそれはテリーさんがずっと側にいて護衛すれば解決しますし、とにかく一度フィクサーナさんと話してみたらいかがですか?」
「もう何日も話し掛けているが、目も合わせてくれない」
「……仕方ないですね」

収納から和柄の反物をいくつか出す。
この世界には無い柄、染め上げ、どれも一点物で二度と手に入らないので使いたくなかったが、……なんとなく、テリーさんには今まで何度も助けられたと感じることがあったのだ。

先日の大遅刻した帰宅も……恐らくあの時テリーさんが来たから私は助かったのだ。

本当に、フィックスさんとテリーさんは持ちつ持たれつな関係なのだろう。

「この反物をフィクサーナさんに渡してこう言って下さい。『これで可愛い服を作って、その服を着て一緒に出掛けよう』と、デートのお誘いをするんです」
「どこにいけばいい?」
「……いやいやそこは自分で考えて下さいよ!  フィクサーナさんが喜びそうな景色の綺麗なとことか?」
「……成る程」

テリーさんに渡した反物は一瞬で消えて、そしてテリーさんは……固まった。瞬きひとつしてない。

「これは……?」
「話し合ってるんじゃない」
「え?」
「俺もリリーが作った苺タルト食べたいな」
「あ、はいっ」

カットしたタルトをフィックスさんにあーんする。

えへへ。なんか照れるね。
いつもは私があーんしてもらってるから。

「初めて食べる味がする」
「お口に合いました?」
「美味しいよ。リリーの匂いもする」

あーんした指をちゅぱちゅぱされました。

「えぇ……んもう」
「明日も食べたいな」
「じ、じゃあ明日はシュークリーム作ります!  クッキー生地にして、カスタード沢山入れてっ」

指をちゅぱちゅぱしてくる舌が気持ちいい。
これ、カスタード多めにしたら明日はもっとちゅぱちゅぱされるんじゃない!?

「じゃあ俺もそれ作る。明日作り方教えてね」
「はい!」

別にそれ目当てじゃないんだけどね!  一緒におやつ作るのも楽しいしね!

「……おや?」

固まっていたテリーさんが今まで見たことないような安らかな顔になった。

「……もしかして立ったまま寝てます?」
「デートの誘いが成功したんじゃない」
「へぇ」

なら自宅にいるフィクサーナさんと念話で会話してたのね。よかった。表情から察するに仲直りできたようだ。

「フィックスさぁん。願わくば私達もずっと仲睦まじく過ごしましょうね?」
「うん。仲睦まじく過ごす」

途端、ひょいと抱き上げられて2階へ連れてかれた。

その日は朝日が昇るまで仲睦まじく過ごした。

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