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閑話 おっかなびっくり彼氏とデート編
⑤予想外を越えた 中編
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その日の夜。
閉店した後、厨房でお菓子を作ってくれているフィックスさんの腰にへばりついた。
この前一緒に作ったシュークリーム。フィックスさんは私が収納から出したカスタードを食べて、それをアレンジしてピスタチオクリーム入りのシュークリームを作ってくれた。濃厚で大人な味のシュークリームだった。またそれが食べたくておねだりしたのだ。
「フィックスさん、このピスタチオクリームはクッキーにつけても絶対美味しいですよっ」
てかそのまま飲んでも美味しいからタルトやパイの具にしても合うと思う。ピスタチオは酒の肴にスイーツになんでも合う万能な木の実なのだ。
「美味しかったね。リリーにつけたらもっと美味しかったね」
「っ、この前はクリームが余りましたからね! 残したら勿体ないお化けがきちゃいますからね!」
「ふふ」
そう。この前は余ってるクリームを見つけてボウルごと寝室に持ち込んだのがいけなかった。指につけてベットでのほほんと舐めていたらフィックスさんに襲われたのだ。ほんとピスタチオって万能!
別に今日もそれがしたくておねだりしたわけじゃないんだけどね! 美味しいからね!
「リリー、あーん」
「っ、」
フィックスさんが指につけたピスタチオクリームをあーんしてきました。条件反射であーんするとフィックスさんは指のクリームを自分で舐めてからディープキスをしてきた。
「っ、っ、っ」
後頭部を掴まれてクリームが舌に絡み合う。
驚きに目を見開いたままキスを続けると徐々に腰が砕けてきてフィックスさんのシャツにしがみついた。
「……っはぁ、はぁ……フィックスさん?」
「ずっと腰にリリーの胸が当たってて気持ち良かったから。お返し」
「……もしかして気が散りましたか?」
「? 気は散らないよ。気持ちいいよ」
そうかなぁ?
フィックスさん、少し息が荒いけど。そして目も少し血走っているように見えるけど。おまけにボウルにあるクリームがこの前の5倍の量だ。確実に余りそう。
「早くリリーにシュークリーム食べさせないと」
「フィックスさん?」
「ふふ」
鼻歌まじりに鉄板にシュー生地を搾るフィックスさん。とても真剣な顔なのにご機嫌です。
そこでお店のドアからドンドン!とノック音がした。
「? 閉店してるよー!」
厨房から声を上げるも、ノック音は続く。
既に鍵がかかっているので店内には入れない。もう深夜だし酔っ払いか何かだろう。
「あ、そうだフィックスさん。絞った生地の上にザラメをまぶしましょう!」
「ざらめ?」
カステラの下にある大きめの砂糖だ。
中ザラ糖を収納から出す。
「この前苺タルトを作った時余ったグラニュー糖でついでに作っておいたんです!」
「作ってたね」
結晶化させるだけだから、煮詰めて錬金術で分離させたら作れる。
「フィックスさんがタレを作る時に煮詰めているのを見て、そういやカラメルソースとかも煮詰めたら作れると思い出しまして」
「うんうん」
ザラメもスイーツだけじゃなく料理にも使えるから万能よねぇ。明日のオヤツ作りはプリンもいいかも♪
シュー生地の上にザラメをまぶして、後はオーブンで15分焼くだけ。
その間にいちゃいちゃする。
「フィックスさぁん、今度……坂でデートしましょうよぅ」
「いいよ。坂がいいの?」
「はい! じ、実はその時に着て欲しい服がありまして!」
じゃじゃーんと収納から黒い学ランを出す。これは男装用ではなく本当に男性用の装備品だ。お揃いの学生帽も出す。クラシカルハットになっていて大正浪漫な渋い作り。
「……リリーはどうして男の服を持っているの?」
「これ、ヒロインがハピエン後に恋人に着せる課金アイテムなんです! 二人で着るとイベントが起きるそうで! でも私は生まれてから今までずっとフリーでしたから、恋人に着せるならフィックスさんしかいないと思ったんです! あ、新品なので綺麗ですよ! 初めて外に出しました!」
「? そう。俺を選んでくれてよかった」
学ランとペアになった黒いセーラー服を出す。こちらはリボンも靴下も革靴も黒で地味な作り。でも対のような学ランと並ぶと凄く合う。地味なのが逆に引き立つというか、ほんとペアで着ないと意味がないと思わせる学生服なのだ。
テンプレ装備に設定してささっと早着替えする。
「わぁ……可愛いねぇ。幼く見える」
「フィ、フィックスさんも着てくだひゃい!」
ペア学生服で坂デート♪
そして自転車で二人乗り。前世では味わえなかった青春を謳歌するのだ。
シャツの上から学ランを着るフィックスさんをによによしながら鑑賞。
フィックスさんは上背がある。ほんとすらっとしてる。そして足長い。最後に学生帽を被ると……眼福で腰が砕けた。
「フィックスしゃん、とても似合っています。帽子を被ると若く見えますねぇ……本当に学生みたい」
いつもの男性モデルの休日オフみたいな服から、かっちりとした制服と帽子でいいとこの令息のような真面目で可愛い雰囲気が出ている。帽子で前髪が額に押し付けられて幼い感じも出ている。
「リリー」
「フィックスさん」
両手を取られて見つめ合う。
あぁ。もうこれだけで幸せ。
互いに制服を身に纏って、本当に学生時代に戻ったような不思議な感覚になる。
今度フィックスさんにラブレターを書いて渡そう。いつもピクニックする丘、そこにフィックスさんを呼び出してこう告白するのだ。
「好きですフィックスさん! 私と付き合って下さ──」
「すみません。入学案内書です」
告白の声に被せるように気配もなくいきなり厨房に誰かが現れた。
え。
ぎこちなく横を見ると軍服を着た骸骨がいた。
…………え。
「入学案内書です」
その隣には黒いスーツを着た骸骨もいた。
そして私に黒い封筒を差し出してきた。
「……これ。え?」
二人ともどこから入って来たんだ?
現れるまでなんの気配もしなかったぞ。
差し出された封筒を凝視してるとスーツ姿の骸骨が言った。
「すみません。時間が無いので。……あ、こちらの方は年齢をこえてますね。十代が対象ですので、とりあえず貴女だけでもどうぞ」
「は?」
骸骨に封筒を押し付けられた次の瞬間、海の中にいた。
「???」
息ができない。
それはいいとして。
ここ……どこ?
目前に見上げるほど大きな校舎があった。
そしてその校舎はシャボン玉のように大きな空気の層に包まれていた。
あ、校門に桜ニンニクが咲いてる──と思った次の瞬間、呼ばれるような感覚がして厨房に戻っていた。
「おかえりリリー」
「……ほえ?」
目の前には唇を尖らせるフィックスさん。
あっ……全身びちゃびちゃだ。
とりあえず洗浄。
「な、な、なんだったんですかね、いまの」
「つれてかれたんだよ。リリーは俺のなのに」
「はい。なんか、気付いたら昔の学校みたいな所にいました」
突然すぎて訳がわからん。
聖域に顔を埋めて心を落ち着かせる。
「っ、ちょ、卒業もしてないのになに勝手に脱出してるんですか!」
お。軍服を着た骸骨が話し掛けてきた。
ってあれ? スーツ姿の骸骨はどこ行っ……わお。床でバラバラというか粉々になっている。スーツもバラバラだ。
「あのぉ……卒業ってなんですか?」
「なにって学園の事ですよ! 我が校の制服着てるじゃないですか!」
また入学案内書を押し付けらそうになったのでひょいと避けた。さっき触れてわかった。あの封筒には自動転移の魔法がかけられている。触れたら強制転移されるのだ。
前に山菜マスターに破られた対海龍戦用のスクール水着にもその魔法が掛けられている。着用すると同時に海に転移する仕様になっているのだ。
「リリーは俺のだよ」
フィックスさんが骸骨から封筒を掠め取った。
「フィックスさ……!」
その封筒に触れたら転移し……なかった。ホッ。
フィックスさんが封筒の中にあった案内書みたいな冊子を読んで閉じると、手に持った冊子が粉々になった。まるで床で粉々になってる骸骨みたいに。
「な、なんてことするんですか! それがないと入校できないんですよ!」
「はあ??」
「別にこれがなくても、いつでも俺が海にデートに連れていくけどね。約束したし。リリーも行きたいって言ってたし」
海にデート……約束……私も行きたいって言ってた?
あっ……そうだ、さっきの校舎。桜ニンニクが咲いてた。ならまさか入学案内書って、海中に実装される予定だった幽霊学園のこと?
「え。まさかその学園ってこの制服を着ると入学したことになるんですか?」
ならハピエン後に二人でこの課金制服を着るとイベントが起きるって、この事だったの?
「そうですよ! さっき貴女は入学したのに卒業もしないで脱出しました! これは問題行為ですよ! 品行方正マイナス3点です! 減点が100点になると留年決定ですからね! この不良少女!」
チッ……知らなかったとはいえ、指をさされて物を言われるとなんかムカつく。てか幽霊学園……どんなのか見に行きたいと思ってたけど設定を聞く限りめんどいな。
別に通わなくてもいいかな。
それにさっきスーツ姿の骸骨が言ってた。フィックスさんは十代じゃないから対象外とかなんとか。
一緒に行けないならなお行く意味が見当たらない。
「フィックスさぁん。先日桜ニンニクがある場所に行きたいとは言いましたが、やっぱりやめときます」
「大丈夫。いつでも俺がその海域にデートに連れていくから」
フィックスさんに頭をなでなでされてにんまり。
「私はフィックスさんがいればどんな海域も聖域になります」
そこで軍服骸骨がぶつぶつ言い出した。
「……あと一人……あと一人入学させたら桜が満開になってようやく種が実るのにっ……ああっ、どうしたら!」
ほう?
桜ニンニクの種が実る?
この前食べた実の方じゃなく種が……?
桜ニンニクの種って……まさか公式が発表したあのサクランボ型の種のこと?
「まさかその桜の種って見た目はサクランボですか?」
「? そうですよ」
「確か大きさは1mくらいあるサクランボですよね?」
「? よく知ってますね。ちなみに今年入学した最優秀卒業生にはその種が贈られます」
「!?」
……それ【偽りの果実】だ!
偽り武器シリーズの【天使】【塔】【勇者】に続いて実装される予定だった【偽りの果実】!
間違いない。見たもん。偽りシリーズの新実装武器は最優秀卒業生に与えられるって、もうすぐアップデートって時に公式から出た情報だもん!
偽りシリーズはどれもダンジョンの最下層に実装されたから……恐らく幽霊学園とは、海中に実装された新しいダンジョンのことなのだろう。
やばい武器があるダンジョンは、どこも入り口が複雑になっている。決まった入り口から入って決まった出口から出ないと決して武器が手に入らないし、持ち帰れないのだ。これまでの偽りシリーズでもそうだった。
なら決まった入り口とは入学のことで、決まった出口とは卒業のことなのだろう。
くっそ! よくできてる。
「確認したいのですがその桜の種って見た目はサクランボだけど実は音玉ですよね?」
音玉とは、ガムランボールのことだ。
中に真珠が入っていて、神秘的な音が鳴る癒しのアイテム。
しかし【偽りの果実】は違う。
癒しの音は鳴らない。
全てを腐敗させ朽ち果てさせ破滅の音を鳴らす。そしていつでもどこででもゾンビタウンを造り出すことが出来る。アンデットを支配する腐死者の能力が生きたまま手に入る、ちょっと頭おかしいんじゃないかというくらいぶっ壊れ性能な武器だ。おまけに威力を調整すれば納豆も作れる。公式がそう言ってた。
「? 音玉ではありません。放っておけば全てを腐らせる厄介な種になるので、卒業生に渡して厄介払いするのです」
ならやっぱり【偽りの果実】じゃねーか!
思わず軍服骸骨の胸ぐらを掴む。
「入学します! だからフィックスさんも一緒に入学させて下さい!」
「痛っ、痛い、なんだこの怪力は!?」
「お願い! あ、そうだ、入学の記念にいくらか学園に寄付しようか? 金貨1万枚とか?」
「なっ、先程から貴女失礼ですよ! 暴力に賄賂に……品行方正マイナス5点です!」
なんだとおおおっっ!? まだ入学もしてないのにもうマイナス8点じゃない!
「取り消して下さい! 学園外の言動は品行方正とは関係ない筈です!」
「が、学園外の言動も関係あります。常日頃から清く正しくが我が校のもっとうですから」
「なら貴方は常日頃から全生徒の言動を把握しているという事ですか? 目玉が2つある私ですらそれは不可能に近いと感じるのに、見たところ目玉が空洞になっている貴方が全生徒の言動を把握できるとは到底思えないんですが?」
「くっ……反論した上に侮辱しましたね? 更にマイナス5点です!」
こいつ……!
思わず鑑定するとアンデットだった。
聖なるペンダントでも出して脅すか?
「ヒッ! 嘘ですごめんなさい!」
気付くとフィックスさんが軍服骸骨の頭上を手で鷲掴んで持ち上げていた。わお。フィックスさんて力も強いのよねぇ。とくにベットでは絶対に敵わないもん。逞しい腕にうっとりしちゃう。
「俺もリリーと入学する」
「あ、貴方はもう年齢越えてるじゃないですか! 入学対象は十代です!」
チッ。フィックスさんの落ち着きようで十代じゃないと悟られたか。だが恐らく見た目で判断しているのだろう。
「確かにフィックスさんは大人っぽく見えるけどぉ、まだギリ十代なんですよぉ? というか年齢なんて見た目年齢でいいと思うんですよねぇ?」
「な、なに言っ……既に数百歳越え──」
ん?
そこでドンドン!と、また店のドアから激しいノック音。チッ。しつこい酔っ払いだな。海水でも飲んでろ。
「閉店してるってばー!」
「……開け……開けて……くれぇ」
なんだなんだ?
大声で答えるもノック音はしつこく響く。
全く。ここは日本のように開店と閉店が定時で決まってる店じゃないのよ。開店も閉店もその日の気分で開け閉めする店なんだから。
こんな時間帯に開けるわけないじゃん。
「フィックスさん、恐らく酔っ払いだと思うので私ちょっと注意してきますね」
「うん。人間だよ。邪魔なら飛ばすから、早く戻ってきてね。リリーが側にいないと俺寂しいから」
「はぁい」
閉店した後、厨房でお菓子を作ってくれているフィックスさんの腰にへばりついた。
この前一緒に作ったシュークリーム。フィックスさんは私が収納から出したカスタードを食べて、それをアレンジしてピスタチオクリーム入りのシュークリームを作ってくれた。濃厚で大人な味のシュークリームだった。またそれが食べたくておねだりしたのだ。
「フィックスさん、このピスタチオクリームはクッキーにつけても絶対美味しいですよっ」
てかそのまま飲んでも美味しいからタルトやパイの具にしても合うと思う。ピスタチオは酒の肴にスイーツになんでも合う万能な木の実なのだ。
「美味しかったね。リリーにつけたらもっと美味しかったね」
「っ、この前はクリームが余りましたからね! 残したら勿体ないお化けがきちゃいますからね!」
「ふふ」
そう。この前は余ってるクリームを見つけてボウルごと寝室に持ち込んだのがいけなかった。指につけてベットでのほほんと舐めていたらフィックスさんに襲われたのだ。ほんとピスタチオって万能!
別に今日もそれがしたくておねだりしたわけじゃないんだけどね! 美味しいからね!
「リリー、あーん」
「っ、」
フィックスさんが指につけたピスタチオクリームをあーんしてきました。条件反射であーんするとフィックスさんは指のクリームを自分で舐めてからディープキスをしてきた。
「っ、っ、っ」
後頭部を掴まれてクリームが舌に絡み合う。
驚きに目を見開いたままキスを続けると徐々に腰が砕けてきてフィックスさんのシャツにしがみついた。
「……っはぁ、はぁ……フィックスさん?」
「ずっと腰にリリーの胸が当たってて気持ち良かったから。お返し」
「……もしかして気が散りましたか?」
「? 気は散らないよ。気持ちいいよ」
そうかなぁ?
フィックスさん、少し息が荒いけど。そして目も少し血走っているように見えるけど。おまけにボウルにあるクリームがこの前の5倍の量だ。確実に余りそう。
「早くリリーにシュークリーム食べさせないと」
「フィックスさん?」
「ふふ」
鼻歌まじりに鉄板にシュー生地を搾るフィックスさん。とても真剣な顔なのにご機嫌です。
そこでお店のドアからドンドン!とノック音がした。
「? 閉店してるよー!」
厨房から声を上げるも、ノック音は続く。
既に鍵がかかっているので店内には入れない。もう深夜だし酔っ払いか何かだろう。
「あ、そうだフィックスさん。絞った生地の上にザラメをまぶしましょう!」
「ざらめ?」
カステラの下にある大きめの砂糖だ。
中ザラ糖を収納から出す。
「この前苺タルトを作った時余ったグラニュー糖でついでに作っておいたんです!」
「作ってたね」
結晶化させるだけだから、煮詰めて錬金術で分離させたら作れる。
「フィックスさんがタレを作る時に煮詰めているのを見て、そういやカラメルソースとかも煮詰めたら作れると思い出しまして」
「うんうん」
ザラメもスイーツだけじゃなく料理にも使えるから万能よねぇ。明日のオヤツ作りはプリンもいいかも♪
シュー生地の上にザラメをまぶして、後はオーブンで15分焼くだけ。
その間にいちゃいちゃする。
「フィックスさぁん、今度……坂でデートしましょうよぅ」
「いいよ。坂がいいの?」
「はい! じ、実はその時に着て欲しい服がありまして!」
じゃじゃーんと収納から黒い学ランを出す。これは男装用ではなく本当に男性用の装備品だ。お揃いの学生帽も出す。クラシカルハットになっていて大正浪漫な渋い作り。
「……リリーはどうして男の服を持っているの?」
「これ、ヒロインがハピエン後に恋人に着せる課金アイテムなんです! 二人で着るとイベントが起きるそうで! でも私は生まれてから今までずっとフリーでしたから、恋人に着せるならフィックスさんしかいないと思ったんです! あ、新品なので綺麗ですよ! 初めて外に出しました!」
「? そう。俺を選んでくれてよかった」
学ランとペアになった黒いセーラー服を出す。こちらはリボンも靴下も革靴も黒で地味な作り。でも対のような学ランと並ぶと凄く合う。地味なのが逆に引き立つというか、ほんとペアで着ないと意味がないと思わせる学生服なのだ。
テンプレ装備に設定してささっと早着替えする。
「わぁ……可愛いねぇ。幼く見える」
「フィ、フィックスさんも着てくだひゃい!」
ペア学生服で坂デート♪
そして自転車で二人乗り。前世では味わえなかった青春を謳歌するのだ。
シャツの上から学ランを着るフィックスさんをによによしながら鑑賞。
フィックスさんは上背がある。ほんとすらっとしてる。そして足長い。最後に学生帽を被ると……眼福で腰が砕けた。
「フィックスしゃん、とても似合っています。帽子を被ると若く見えますねぇ……本当に学生みたい」
いつもの男性モデルの休日オフみたいな服から、かっちりとした制服と帽子でいいとこの令息のような真面目で可愛い雰囲気が出ている。帽子で前髪が額に押し付けられて幼い感じも出ている。
「リリー」
「フィックスさん」
両手を取られて見つめ合う。
あぁ。もうこれだけで幸せ。
互いに制服を身に纏って、本当に学生時代に戻ったような不思議な感覚になる。
今度フィックスさんにラブレターを書いて渡そう。いつもピクニックする丘、そこにフィックスさんを呼び出してこう告白するのだ。
「好きですフィックスさん! 私と付き合って下さ──」
「すみません。入学案内書です」
告白の声に被せるように気配もなくいきなり厨房に誰かが現れた。
え。
ぎこちなく横を見ると軍服を着た骸骨がいた。
…………え。
「入学案内書です」
その隣には黒いスーツを着た骸骨もいた。
そして私に黒い封筒を差し出してきた。
「……これ。え?」
二人ともどこから入って来たんだ?
現れるまでなんの気配もしなかったぞ。
差し出された封筒を凝視してるとスーツ姿の骸骨が言った。
「すみません。時間が無いので。……あ、こちらの方は年齢をこえてますね。十代が対象ですので、とりあえず貴女だけでもどうぞ」
「は?」
骸骨に封筒を押し付けられた次の瞬間、海の中にいた。
「???」
息ができない。
それはいいとして。
ここ……どこ?
目前に見上げるほど大きな校舎があった。
そしてその校舎はシャボン玉のように大きな空気の層に包まれていた。
あ、校門に桜ニンニクが咲いてる──と思った次の瞬間、呼ばれるような感覚がして厨房に戻っていた。
「おかえりリリー」
「……ほえ?」
目の前には唇を尖らせるフィックスさん。
あっ……全身びちゃびちゃだ。
とりあえず洗浄。
「な、な、なんだったんですかね、いまの」
「つれてかれたんだよ。リリーは俺のなのに」
「はい。なんか、気付いたら昔の学校みたいな所にいました」
突然すぎて訳がわからん。
聖域に顔を埋めて心を落ち着かせる。
「っ、ちょ、卒業もしてないのになに勝手に脱出してるんですか!」
お。軍服を着た骸骨が話し掛けてきた。
ってあれ? スーツ姿の骸骨はどこ行っ……わお。床でバラバラというか粉々になっている。スーツもバラバラだ。
「あのぉ……卒業ってなんですか?」
「なにって学園の事ですよ! 我が校の制服着てるじゃないですか!」
また入学案内書を押し付けらそうになったのでひょいと避けた。さっき触れてわかった。あの封筒には自動転移の魔法がかけられている。触れたら強制転移されるのだ。
前に山菜マスターに破られた対海龍戦用のスクール水着にもその魔法が掛けられている。着用すると同時に海に転移する仕様になっているのだ。
「リリーは俺のだよ」
フィックスさんが骸骨から封筒を掠め取った。
「フィックスさ……!」
その封筒に触れたら転移し……なかった。ホッ。
フィックスさんが封筒の中にあった案内書みたいな冊子を読んで閉じると、手に持った冊子が粉々になった。まるで床で粉々になってる骸骨みたいに。
「な、なんてことするんですか! それがないと入校できないんですよ!」
「はあ??」
「別にこれがなくても、いつでも俺が海にデートに連れていくけどね。約束したし。リリーも行きたいって言ってたし」
海にデート……約束……私も行きたいって言ってた?
あっ……そうだ、さっきの校舎。桜ニンニクが咲いてた。ならまさか入学案内書って、海中に実装される予定だった幽霊学園のこと?
「え。まさかその学園ってこの制服を着ると入学したことになるんですか?」
ならハピエン後に二人でこの課金制服を着るとイベントが起きるって、この事だったの?
「そうですよ! さっき貴女は入学したのに卒業もしないで脱出しました! これは問題行為ですよ! 品行方正マイナス3点です! 減点が100点になると留年決定ですからね! この不良少女!」
チッ……知らなかったとはいえ、指をさされて物を言われるとなんかムカつく。てか幽霊学園……どんなのか見に行きたいと思ってたけど設定を聞く限りめんどいな。
別に通わなくてもいいかな。
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一緒に行けないならなお行く意味が見当たらない。
「フィックスさぁん。先日桜ニンニクがある場所に行きたいとは言いましたが、やっぱりやめときます」
「大丈夫。いつでも俺がその海域にデートに連れていくから」
フィックスさんに頭をなでなでされてにんまり。
「私はフィックスさんがいればどんな海域も聖域になります」
そこで軍服骸骨がぶつぶつ言い出した。
「……あと一人……あと一人入学させたら桜が満開になってようやく種が実るのにっ……ああっ、どうしたら!」
ほう?
桜ニンニクの種が実る?
この前食べた実の方じゃなく種が……?
桜ニンニクの種って……まさか公式が発表したあのサクランボ型の種のこと?
「まさかその桜の種って見た目はサクランボですか?」
「? そうですよ」
「確か大きさは1mくらいあるサクランボですよね?」
「? よく知ってますね。ちなみに今年入学した最優秀卒業生にはその種が贈られます」
「!?」
……それ【偽りの果実】だ!
偽り武器シリーズの【天使】【塔】【勇者】に続いて実装される予定だった【偽りの果実】!
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やばい武器があるダンジョンは、どこも入り口が複雑になっている。決まった入り口から入って決まった出口から出ないと決して武器が手に入らないし、持ち帰れないのだ。これまでの偽りシリーズでもそうだった。
なら決まった入り口とは入学のことで、決まった出口とは卒業のことなのだろう。
くっそ! よくできてる。
「確認したいのですがその桜の種って見た目はサクランボだけど実は音玉ですよね?」
音玉とは、ガムランボールのことだ。
中に真珠が入っていて、神秘的な音が鳴る癒しのアイテム。
しかし【偽りの果実】は違う。
癒しの音は鳴らない。
全てを腐敗させ朽ち果てさせ破滅の音を鳴らす。そしていつでもどこででもゾンビタウンを造り出すことが出来る。アンデットを支配する腐死者の能力が生きたまま手に入る、ちょっと頭おかしいんじゃないかというくらいぶっ壊れ性能な武器だ。おまけに威力を調整すれば納豆も作れる。公式がそう言ってた。
「? 音玉ではありません。放っておけば全てを腐らせる厄介な種になるので、卒業生に渡して厄介払いするのです」
ならやっぱり【偽りの果実】じゃねーか!
思わず軍服骸骨の胸ぐらを掴む。
「入学します! だからフィックスさんも一緒に入学させて下さい!」
「痛っ、痛い、なんだこの怪力は!?」
「お願い! あ、そうだ、入学の記念にいくらか学園に寄付しようか? 金貨1万枚とか?」
「なっ、先程から貴女失礼ですよ! 暴力に賄賂に……品行方正マイナス5点です!」
なんだとおおおっっ!? まだ入学もしてないのにもうマイナス8点じゃない!
「取り消して下さい! 学園外の言動は品行方正とは関係ない筈です!」
「が、学園外の言動も関係あります。常日頃から清く正しくが我が校のもっとうですから」
「なら貴方は常日頃から全生徒の言動を把握しているという事ですか? 目玉が2つある私ですらそれは不可能に近いと感じるのに、見たところ目玉が空洞になっている貴方が全生徒の言動を把握できるとは到底思えないんですが?」
「くっ……反論した上に侮辱しましたね? 更にマイナス5点です!」
こいつ……!
思わず鑑定するとアンデットだった。
聖なるペンダントでも出して脅すか?
「ヒッ! 嘘ですごめんなさい!」
気付くとフィックスさんが軍服骸骨の頭上を手で鷲掴んで持ち上げていた。わお。フィックスさんて力も強いのよねぇ。とくにベットでは絶対に敵わないもん。逞しい腕にうっとりしちゃう。
「俺もリリーと入学する」
「あ、貴方はもう年齢越えてるじゃないですか! 入学対象は十代です!」
チッ。フィックスさんの落ち着きようで十代じゃないと悟られたか。だが恐らく見た目で判断しているのだろう。
「確かにフィックスさんは大人っぽく見えるけどぉ、まだギリ十代なんですよぉ? というか年齢なんて見た目年齢でいいと思うんですよねぇ?」
「な、なに言っ……既に数百歳越え──」
ん?
そこでドンドン!と、また店のドアから激しいノック音。チッ。しつこい酔っ払いだな。海水でも飲んでろ。
「閉店してるってばー!」
「……開け……開けて……くれぇ」
なんだなんだ?
大声で答えるもノック音はしつこく響く。
全く。ここは日本のように開店と閉店が定時で決まってる店じゃないのよ。開店も閉店もその日の気分で開け閉めする店なんだから。
こんな時間帯に開けるわけないじゃん。
「フィックスさん、恐らく酔っ払いだと思うので私ちょっと注意してきますね」
「うん。人間だよ。邪魔なら飛ばすから、早く戻ってきてね。リリーが側にいないと俺寂しいから」
「はぁい」
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