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閑話 おっかなびっくり彼氏とデート編
⑥予想外を越えた 後編
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厨房から出て店内のドアを開けると、もやしっ子のロザリーが号泣していた。
ロザリーはお坊っちゃん顔だ。
泣き顔が様になっているというか、ガリヒョロだし真性のいじめられっ子顔だなぁと考えていたらそこでロザリーがぱんいちなのに気付いた。
まさかこの近所で追い剥ぎにでも合ったんか?
それでこの店に助けを求めたんか?
なら警察行けや。てか元魔導師が追い剥ぎに合うなよ。とりあえず関わりたくないので思わずドアを閉めると更に激しくノックされた。
「待ってぇ、待って下さい!」
「すみませんがここは飲食店なんです。左に見える路地に入ると服が売ってますよ。確か開店は朝の10時だったかな」
「ち、違っ、そうじゃなくて」
「なのでお帰り下さい。そしてここは11歳の子供達も食べにくる店です。だから二度とそのような格好で来ないで下さい。教育に悪いです」
「その11歳の双子に、脅されているんです! 助けて下さいよぉ! 貴女のせいであの双子があんな怪力になったんですよぉ!」
はあ?
なに言ってんだ?
11歳の双子って……マリンちゃんとシリンちゃんの事か?
てか怪力って……もともと人魚は人間より遥かに素早い上、人間より格段に力が強いんだよ。子供でもBランク冒険者並かな。そもそもがもやしっ子のロザリーが敵うわけがない。
再びドアを開けると、項垂れていたロザリーが顔を上げた。
「……あっ」
「それで、私のせいで双子が怪力になったとは、どういう意味ですか?」
「あ、貴女から貰った薬水を飲んだら、力がみなぎるようになったって……もう魔法でも敵わないんですよぉ」
薬水……【奴隷ホイホイ】で凝らしめた後に飲ませた秘薬のことか?
あれはしばらくは身体に効力が留まるからなぁ。体力を底上げしてしまった可能性は否めない。
「かなり疲弊させちゃったから、つい全快させなきゃと飲ませちゃったからなぁ」
「ぅ……ぅぅ……貴女のせいですぅ……前は魔法では尊敬の眼差しを向けてくれていたのに……いまボクはあの双子に奴隷のように扱われているんですからぁ」
というかお前が敵わないのは、元魔導師とはいえいまだにお前がもやしっ子だからだよ。人のせいにすんな。
「リリー。気にすることないよ」
「……フィックスさん」
背後からきたフィックスさんにそっと肩を引き寄せられた。もう片方の手には軍服骸骨。わお。頭蓋骨にヒビが入っている。
「あの双子には元々強いマリアーナの血が入ってるからね。だから同じ年頃のエメラルドやアリエルより強いんだよ」
「あ、そういう事ですか」
確かにマリアーナさん、同じ大人のミラさんと見比べても力が溢れている感じがある。それは弱々しかったミラさんが健康になった今も差が見て解るほど。
人間だって同じ種族でも個体で力に差があるものね。だからそういう事なのだろう。
フィックスさんに張り付きながらロザリーを見下ろす。
「双子が怪力になったのは私のせいではないということが証明されましたね。あと奴隷うんぬんは貴方の性癖なのでこちらは一切関与しません。なのでお帰り下さい」
「あ、あの双子は貴女に憧れているんです! リリーおねいさんが恋人いるから私達も恋人作るって、ボクに料理させたり世話させたりするんですよ! それも貴女のせいじゃないですか!」
「はあ??」
「だって貴女はそちらにいる恋人に常日頃からご飯を作らせ身の回りの世話もさせてるそうじゃないですか! 子供は近くにいる大人を見て育ちますからね! そちらこそ教育に悪いですよ!」
「……ぅぐっ」
こいつ……!
それは私も気にしてたから最近では皿洗いとか皿洗いとか皿洗いとかしてるってば!
「フ、フィックスしゃぁん! 私これからはフィックスしゃんのご飯も作るしお背中も流しますからぁ! だから捨てないで! いつもご飯食べてばかりでごめんなさぁい!」
「リリーはそこにいるだけで可愛いから大丈夫。お世話するのも好きだよ。心が落ち着くんだ。だからずっと側にいて。離れないで」
「はい! フィックスさん、はい!」
えへへ♪えへへ♪
確かにずっとフィックスさんにお世話されっぱなしだけど、いつだってその役目を交換したっていいと思ってる。結婚したら家事と子育てに専念して欲しいと言われればそうするし、フィックスさんを優先して欲しいと言われればその通りにするし!
どや顔でロザリーを見下ろす。
「教育に悪いと言いましたが、夫婦にもお世話したい側とされたい側の需要と供給のバランスってものがあるんです。つまり貴方がフィックスさんのようにスパダリだったら双子が怪力でもなんの問題も起こらなかったかと。これで全ては貴方がもやしっ子だから悪いということが証明されましたね」
収納からテンプレ料理で熱々のもやし炒めを出す。
「これでも食べて元気出して下さい」
「っ、酷い……酷すぎます! 前回は助けてくれたじゃないですかぁ!」
助けてねーよ。前回は助けてくれたから今回も助けてくれると思って来たなら前回は絶対に助けてねーよ。
「イタタタタ! 割れる! 割れる!」
あ。フィックスさんが鷲掴んだ軍服骸骨に「俺も入学する」と詰め寄って万力のように手に力をこめだした。そろそろ本当に割れそうだ。
「だ、から年齢が対象外だって、貴方は既に数百」
「リリーに余計な事言ったら乙女草がある海域に飛ばすよ。いま暗黒都市の海域は死骸で埋め尽くされてるからね。あとちょっとで百万の種が芽吹くかも」
「?」
「ヒッ! すみませんごめんなさい! でも規則は規則なので!」
規則は規則……か。
んぅ~……別に【偽りの果実】は無くてもいいかな。久々に納豆食べたいけど。お店のあの美味いタレで食べたいけど。フィックスさんと離れて私だけ学園に通うなんて想像しただけで人生つまんないし。
「……それ、古代術式魔法で形成させたアンデットですよね?」
お。
以外に食べたら美味しいとつぶやいていたもやし炒め……いやもやしっ子のロザリーが口をモグモグさせながら軍服骸骨を興味津々で眺めている。
そういやロザリー、前に鑑定したけど……確か古代術式魔法持ってたな。
「なかなか古風なアンデットですね。声も渋いし。護衛として誰かが作ったのかな?」
「案内書を持ってきたので職員として使われてるみたいですよ。でもこの骸骨は融通がきかないほど真面目で困ってるんですよ。なんでも年齢制限があるとかで」
「制限が? アンデットは何を対象に襲いかかるか、その条件は組み込んだ術者にしか解りませんからね」
そうなんだよね。
森にいるアンデットは動物はスルーして人間だけに襲いかかるようになってるもんね。
もしかしてこの骸骨には十代にしか反応しないよう制限が掛けられているのかも?
……チッ。それならフィックスさんは十代だと何度説得しても通用しないか。
「……なんとかその制限を上書きできないものか」
「? できますよ。バラバラにして骨に刻まれた古代術式魔法を書き換えるんです」
「!?」
おまっ……そんなんできんの?
古代術式魔法なんて前世でいう古文を更に古文にした学者くらいしか興味を持たない言語だから流石のアマリリスの記憶にも入っていないのだ。
「ではステファン・ロザリードさん」
「? はい」
「この骸骨には年齢による制限が組み込まれていると思うので、それを無制限にすることはできますか?」
「書き換える事はできますが……まず、アンデットは骨をバラバラにしてもすぐ再生されてしまうので無理があります」
それは任せろ!
とりあえず骸骨の手首と肘を掴み、肩から腕をすっぽ抜く。
あ、すまん。骨だけ抜き取るつもりが軍服も破れた。
「な、なにするんですか! てかなんだこの怪力は!?」
「おー、あったあった骨に呪文書いてあるー」
「返しなさい! 品行方正マイナス10点です!」
おっ。流石のアンデット。筋肉がないのに結構力がある。すっぽ抜いた腕を奪われてしまいそうだ。
「俺もリリーと入学する」
「ぎゃっ!?」
わお。フィックスさんが骸骨の頭上を掴んで足止めしてくれた。好機だ。もう片方の腕もすっぽ抜く。
「ちょ、ロザリーさん! この隙に書き換えて下さい! うまくいったらマリンちゃんとシリンちゃんに落ち着くよう注意してあげますからっ」
「!? ほんとですか! とにかく奴隷扱いをやめさせてくれますか! 服も靴も全て奪われて料理中の油跳ねで火傷が絶えないんです! なのにエプロンすら貸してくれなくて!」
「あー、わかった、わーったから。いざとなれば貴方に関する記憶も全て消して赤の他人にしてあげますから」
全く。
あの双子はアリエルちゃんみたいに男には興味なさそうだったのに、なんでそうなったんだ?
困ったことに骸骨の骨に刻まれた古代術式魔法には、かなり高レベルの魔獣の血が使われていたことがわかった。
「これは呪文を刻む時に使うインクなんですよ。書き換えるには更に強い魔獣の血が必要で……恐らくですが、Sランク魔獣の血でも上書きすることは難しいかと」
「そうなんですか?」
「はい。見て下さい、このアンデットに刻まれている呪文の色は紫色です。Sランクの中でもとくに高位の魔獣の血の色です」
「……確かに」
思わず収納から魔獣とか魔獣とか出そうとしていた手を止めた。これらはSランクの魔獣だ。
……どうしよう。
これより高位となると……海王蛇の黒い血しかない。収納にはある。でもフィックスさんの目の前で出すのは嫌だ。てか使いたくない。いくら前世の中で手に入れた血とはいえ、もしかしたらそれを見たフィックスさんが悲しい気持ちになるかもしれないからだ。
「……やーめった!」
「え?」
「やめたやめたっ」
別に【偽りの果実】なんてなくてもいいじゃない。どうせ納豆でしか使わないんだから。それに来年には結婚して新婚生活が始まるし。
そうだ、これからは男性が好みそうなスタミナ料理とか赤ちゃんが好みそうな離乳食の勉強をしよう。納豆なんてなくても暮らしていける。
「フィックスさぁん、厨房に戻って一緒にシューにクリーム詰めましょうよぉ。今日も沢山クリーム作ってくれたので溢れかえるくらい詰めちゃいますよ♪」
そう言って振り返るとフィックスさんが骸骨に馬乗りになっていた。わお。骸骨の頭……てか空洞になった目や鼻や口から黒い液体がドバドバ出ている。てか溢れかえっている。
「俺もリリーと入学する」
フィックスさんがそう言うと、骸骨は起き上がって直立した。そしてフィックスさんに封筒を渡した。
「我が校の制服を着ていますね。ではどうぞ。入学案内書です」
何故かフィックスさんは受け取った封筒をまたもや粉々にした。軍服骸骨が何か言いたそうに歯をカタカタさせているが、どうしたんだろう?
「リリー、これで俺も入学できるよ」
「え? そ、そうなんですか?」
「うん。ちゃんと話し合ったらわかってくれた」
へぇ。
アンデットって知能もあるし、以外と話せるのね。
「さっき案内書読んだけど、入学は今日の朝でいいみたい。一緒に朝ご飯食べてから登校しようか」
「は、はい……あ、でもフィックスさん。よくよく考えたらお仕事もあるし……私の我儘なんかに付き合わないでいいんですよ?」
入学はしたいけど、どちらかというとフィックスさんも一緒にと思った目的は武器より青春の謳歌だ。しかしそれが学園である必要はない。既に成人しているフィックスさんにそこまで求めるのは流石に私の我儘だと気付いた。
「リリーは入学したいんでしょ?」
「う~ん……そうなんですけど、フィックスさんに迷惑かけたくないです」
「リリーがずっと側にいてくれるなら迷惑じゃないよ。なによりリリーの願いは叶えてあげたいし」
「……フィックスさぁん」
ああ……私の夫が優しすぎる。
制服姿もほんと様になっている。
テリーさんやお店の従業員さん達にも迷惑かけちゃうけど……とにかくお土産はいっぱい持って帰ろう! そうしよう!
「フィックスさん! 私、結婚したあとはフィックスさんの為に生きます! こんな私だけど、フィックスさんの奥さんとして精進していきますからあ!」
「嬉しい。俺もそうする」
フィックスさんに抱きついてこれから始まる学園生活に思いを馳せているとロザリーがガシッと肩を掴んできた。
「助けて下さい! 双子に見つかりました!」
ん?
見ると向こうからマリンちゃんとシリンちゃんが鬼のような顔で走ってくる。
「あ、ロザリーあんなとこにいた!」
「トリガーさんとこのスペシャル鳥弁当は早朝5時には売り切れちゃうから並んどいてって言ったでしょう!」
まだ夜中の1時だが、並ぶには早すぎないだろうか? 仕事前の漁師も買いにくる4時頃でよくね?
「もう勘弁してくれ!」
「だーめ、逃げたら容赦しないって言ったよねー」
「ねー、言ったよねー」
おお。双子にずるずると引き摺られていくロザリー。かなり気に入られているようだ。
「助けて下さい! やっとあの師団長や実家から逃げれたのに、もう奴隷扱いはイヤだ!」
チッ。しょうがねぇなぁ。
お前も色々あったもんな。
結果は出してないが解決策は持ってたから助けてやるか。
「マリンちゃん、シリンちゃん」
「「あ、リリーおねいさんだ!」」
双子の前に立ちはだかり、中腰で視線を合わせる。
「あのね、このお兄ちゃんね、実はアルレント国で指名手配されてる重犯罪者なの」
「「え?」」
「え!?」
お前は反応すんなとロザリーに威圧をかけると、萎縮した。
「……ロザリーって罪を犯してたの?」
「うん。このお兄ちゃんは本来なら犯した罪の重さから半年の謹慎処分だけを受ける予定だった上司を無職に追い込んで、結果、上司は妻に離縁までされて全財産も奪われたわ。性格はともかく実力そのものはとても優秀な魔導師だったのに」
これはヴィッセル殿下が後々になってあの時の自国民はこのような形で処分したとわざわざ手紙を送ってきたから知ってる事実だ。そしてやり過ぎだ。アルレント国の貴族に下す処分にしてはかなり重い。
「そ、それはボクじゃなく何故か殿下がっ」
ロザリーをぎろりと睨み付ける。
頼むから今は黙っとけ。
「その結果、アルレント国の貴族達は下位が上位に下克上をしたと憤ってありとあらゆる手段を使ってお兄ちゃんの実家を潰しました。上司のように破産させて一族もろとも路頭に迷わせたのです。そしてその時このお兄ちゃんは実家を助けませんでした。カプルス共和国に亡命して逃げてきたのです」
「……ああ。その通りだ」
ま、ヴィッセル殿下の手紙から察するに、実家からもタカられてきたそうだから援助したくない気持ちもわかる。
「それってロザリーは犯罪者になるの?」
「犯罪者みたいなもんだね。いまこのお兄ちゃんがアルレント国に一歩でも足を踏み入れたら、貴族達から死ぬまでタコ殴りにされます。遺体を発見するまで捜索の手も緩めないでしょうからね。貴族とはそういうものです」
つまり私が何を言いたいのかというと、
「このお兄ちゃんは絶対にカプルス共和国から出ていきません。他の国も王政で大国アルレントの貴族の手がまわっているので入国も出来ません。わかりますか? このお兄ちゃんは一生この国で暮らすしかないんです。つまり貴女達から絶対に逃げられないということ」
「「へぇ!」」
「ちょ、助けてくれるんじゃないんですか! 双子の奴隷欲を助長させてどういうつもりですか!」
うるせーな。
話はここからなんだよ。
「マリンちゃんシリンちゃん」
「「うん?」」
「このお兄ちゃんの側にいると危険ですよ? 冒険者として大成する可能性も低いので貴女達には一銭の得もありません。それにアルレントの貴族達はこの国で法的な権力を下せないとしても、暗殺者を送り込むことはいくらでも可能です。側にいれば巻き込まれることもありますよ?」
「「知ってる!」」
…………え?
「最近ロザリーを影からつけ狙ってる男がいたもんねー」
「ねー、シリン達が成敗したもんねー」
「ねー、家まで入ってきた男はママが捕まえて海までぶん投げたけど、先に気配に気付いたのはマリン達だもんねー」
……それは、知らんかった。
「「ロザリー犯罪者でもいいよ!」」
「……えっ!?」
双子に掴まれたロザリーが狼狽えている。
「ねー、シリン達そんなの気にしないもんねー」
「ねー、マリン達のお金盗んだら殺すけどロザリーはそんなのしないもんねー」
「……まさか……今まで……側にいたのは……ボクを護ってくれていたのか?」
ロザリーが呆気にとられたように膝をついた。
なんだなんだ。これ、私が介入しなくても解決するんじゃね?
「冬になったら服くらいは着せてあげるからさー」
「え?」
「そうそう、今は浮浪者のフリしてなよー」
「その間にマリン達が暗殺者を追い払っておくから」
「そ、んな……でも、」
「ママも『あんた達の好きにしな』って言ってくれたもんねー」
「ねー、それに犯罪者を警察に渡すとお金が貰えるんだよ」
……なるほど。
そういうことか。
確かに犯罪者……いや、貴族が暗殺に使うようなプロを警察につき出すと余罪がわんさか出てくるので捕まえた人には褒賞金が出る。褒賞金を出すのは警察と提携しているギルド。
なるほど、なるほど。
「そういやマリンちゃんとシリンちゃんは冒険者登録をしていましたね」
「「ぅ……あ、あの節は本当にごめんなさいリリーおねいさん」」
ロザリーを側においておけば向こうから褒賞金がやってくると学んだのか、それとも本当にロザリーがお気に召したのか。
感動しているロザリーと仲良く手を繋ぐ双子を見る限り、後者だろう。
「でもマリン、徐々に暗殺者の数が減ってると思わない?」
「先にママに見つかったら海に投げられちゃうからねー」
「ねー、お金を溝に捨ててるようなもんだよねー、勿体ないよねー」
「ねー、お金が入ってこなくなったらその時はロザリーを売ろうねー」
「ねー、犯罪者なら警察からお金もらえるからねー」
「ねー」
……いや、前者だった。
地面で双子に感謝しながら泣き崩れるロザリーには聞こえていないようだ。
「リリー」
フィックスさんに呼ばれて振り向くと均等にクリームが詰められたシューが目前に大量に現れた。
「お、美味しそううう!」
あま~いめっちゃいい匂い。
わあ、半分はザラメで半分は粉糖がかけられている。
「これ全部リリーの。俺の愛情も詰めといたから」
「あ、ありがとうございますうう!!」
あぁ。お皿を持った私の旦那様が超かっこいい。
あむあむ、しゃくしゃく、流石のピスタチオ。私を笑顔にするピスタチオ。
ん?
ずるずると双子に引き摺られていくロザリー、その三人を……いや双子の背をフィックスさんが口の端をつりあげて眺めている。とても満足そうな顔だ。
「フィックスさん、あちらも無事解決したようです。大団円ですねっモグモグ」
「リリーは可愛いねぇ」
頬張り過ぎて口の端についたクリームをフィックスさんにぺろりと舐められた。熱い舌に思わず顔が紅潮する。そして耳元で囁かれた。
「クリーム作りすぎて余っちゃった」
「っ、……」
「後でベットで舐める?」
「ぅ……もう、ほんと、作りすぎですよぅ」
「大丈夫。残ったらリリーにつけて食べるから」
それは楽しそうだ、とは言えずに口ごもる。
とにもかくにも、ほんとピスタチオって万能!
ロザリーはお坊っちゃん顔だ。
泣き顔が様になっているというか、ガリヒョロだし真性のいじめられっ子顔だなぁと考えていたらそこでロザリーがぱんいちなのに気付いた。
まさかこの近所で追い剥ぎにでも合ったんか?
それでこの店に助けを求めたんか?
なら警察行けや。てか元魔導師が追い剥ぎに合うなよ。とりあえず関わりたくないので思わずドアを閉めると更に激しくノックされた。
「待ってぇ、待って下さい!」
「すみませんがここは飲食店なんです。左に見える路地に入ると服が売ってますよ。確か開店は朝の10時だったかな」
「ち、違っ、そうじゃなくて」
「なのでお帰り下さい。そしてここは11歳の子供達も食べにくる店です。だから二度とそのような格好で来ないで下さい。教育に悪いです」
「その11歳の双子に、脅されているんです! 助けて下さいよぉ! 貴女のせいであの双子があんな怪力になったんですよぉ!」
はあ?
なに言ってんだ?
11歳の双子って……マリンちゃんとシリンちゃんの事か?
てか怪力って……もともと人魚は人間より遥かに素早い上、人間より格段に力が強いんだよ。子供でもBランク冒険者並かな。そもそもがもやしっ子のロザリーが敵うわけがない。
再びドアを開けると、項垂れていたロザリーが顔を上げた。
「……あっ」
「それで、私のせいで双子が怪力になったとは、どういう意味ですか?」
「あ、貴女から貰った薬水を飲んだら、力がみなぎるようになったって……もう魔法でも敵わないんですよぉ」
薬水……【奴隷ホイホイ】で凝らしめた後に飲ませた秘薬のことか?
あれはしばらくは身体に効力が留まるからなぁ。体力を底上げしてしまった可能性は否めない。
「かなり疲弊させちゃったから、つい全快させなきゃと飲ませちゃったからなぁ」
「ぅ……ぅぅ……貴女のせいですぅ……前は魔法では尊敬の眼差しを向けてくれていたのに……いまボクはあの双子に奴隷のように扱われているんですからぁ」
というかお前が敵わないのは、元魔導師とはいえいまだにお前がもやしっ子だからだよ。人のせいにすんな。
「リリー。気にすることないよ」
「……フィックスさん」
背後からきたフィックスさんにそっと肩を引き寄せられた。もう片方の手には軍服骸骨。わお。頭蓋骨にヒビが入っている。
「あの双子には元々強いマリアーナの血が入ってるからね。だから同じ年頃のエメラルドやアリエルより強いんだよ」
「あ、そういう事ですか」
確かにマリアーナさん、同じ大人のミラさんと見比べても力が溢れている感じがある。それは弱々しかったミラさんが健康になった今も差が見て解るほど。
人間だって同じ種族でも個体で力に差があるものね。だからそういう事なのだろう。
フィックスさんに張り付きながらロザリーを見下ろす。
「双子が怪力になったのは私のせいではないということが証明されましたね。あと奴隷うんぬんは貴方の性癖なのでこちらは一切関与しません。なのでお帰り下さい」
「あ、あの双子は貴女に憧れているんです! リリーおねいさんが恋人いるから私達も恋人作るって、ボクに料理させたり世話させたりするんですよ! それも貴女のせいじゃないですか!」
「はあ??」
「だって貴女はそちらにいる恋人に常日頃からご飯を作らせ身の回りの世話もさせてるそうじゃないですか! 子供は近くにいる大人を見て育ちますからね! そちらこそ教育に悪いですよ!」
「……ぅぐっ」
こいつ……!
それは私も気にしてたから最近では皿洗いとか皿洗いとか皿洗いとかしてるってば!
「フ、フィックスしゃぁん! 私これからはフィックスしゃんのご飯も作るしお背中も流しますからぁ! だから捨てないで! いつもご飯食べてばかりでごめんなさぁい!」
「リリーはそこにいるだけで可愛いから大丈夫。お世話するのも好きだよ。心が落ち着くんだ。だからずっと側にいて。離れないで」
「はい! フィックスさん、はい!」
えへへ♪えへへ♪
確かにずっとフィックスさんにお世話されっぱなしだけど、いつだってその役目を交換したっていいと思ってる。結婚したら家事と子育てに専念して欲しいと言われればそうするし、フィックスさんを優先して欲しいと言われればその通りにするし!
どや顔でロザリーを見下ろす。
「教育に悪いと言いましたが、夫婦にもお世話したい側とされたい側の需要と供給のバランスってものがあるんです。つまり貴方がフィックスさんのようにスパダリだったら双子が怪力でもなんの問題も起こらなかったかと。これで全ては貴方がもやしっ子だから悪いということが証明されましたね」
収納からテンプレ料理で熱々のもやし炒めを出す。
「これでも食べて元気出して下さい」
「っ、酷い……酷すぎます! 前回は助けてくれたじゃないですかぁ!」
助けてねーよ。前回は助けてくれたから今回も助けてくれると思って来たなら前回は絶対に助けてねーよ。
「イタタタタ! 割れる! 割れる!」
あ。フィックスさんが鷲掴んだ軍服骸骨に「俺も入学する」と詰め寄って万力のように手に力をこめだした。そろそろ本当に割れそうだ。
「だ、から年齢が対象外だって、貴方は既に数百」
「リリーに余計な事言ったら乙女草がある海域に飛ばすよ。いま暗黒都市の海域は死骸で埋め尽くされてるからね。あとちょっとで百万の種が芽吹くかも」
「?」
「ヒッ! すみませんごめんなさい! でも規則は規則なので!」
規則は規則……か。
んぅ~……別に【偽りの果実】は無くてもいいかな。久々に納豆食べたいけど。お店のあの美味いタレで食べたいけど。フィックスさんと離れて私だけ学園に通うなんて想像しただけで人生つまんないし。
「……それ、古代術式魔法で形成させたアンデットですよね?」
お。
以外に食べたら美味しいとつぶやいていたもやし炒め……いやもやしっ子のロザリーが口をモグモグさせながら軍服骸骨を興味津々で眺めている。
そういやロザリー、前に鑑定したけど……確か古代術式魔法持ってたな。
「なかなか古風なアンデットですね。声も渋いし。護衛として誰かが作ったのかな?」
「案内書を持ってきたので職員として使われてるみたいですよ。でもこの骸骨は融通がきかないほど真面目で困ってるんですよ。なんでも年齢制限があるとかで」
「制限が? アンデットは何を対象に襲いかかるか、その条件は組み込んだ術者にしか解りませんからね」
そうなんだよね。
森にいるアンデットは動物はスルーして人間だけに襲いかかるようになってるもんね。
もしかしてこの骸骨には十代にしか反応しないよう制限が掛けられているのかも?
……チッ。それならフィックスさんは十代だと何度説得しても通用しないか。
「……なんとかその制限を上書きできないものか」
「? できますよ。バラバラにして骨に刻まれた古代術式魔法を書き換えるんです」
「!?」
おまっ……そんなんできんの?
古代術式魔法なんて前世でいう古文を更に古文にした学者くらいしか興味を持たない言語だから流石のアマリリスの記憶にも入っていないのだ。
「ではステファン・ロザリードさん」
「? はい」
「この骸骨には年齢による制限が組み込まれていると思うので、それを無制限にすることはできますか?」
「書き換える事はできますが……まず、アンデットは骨をバラバラにしてもすぐ再生されてしまうので無理があります」
それは任せろ!
とりあえず骸骨の手首と肘を掴み、肩から腕をすっぽ抜く。
あ、すまん。骨だけ抜き取るつもりが軍服も破れた。
「な、なにするんですか! てかなんだこの怪力は!?」
「おー、あったあった骨に呪文書いてあるー」
「返しなさい! 品行方正マイナス10点です!」
おっ。流石のアンデット。筋肉がないのに結構力がある。すっぽ抜いた腕を奪われてしまいそうだ。
「俺もリリーと入学する」
「ぎゃっ!?」
わお。フィックスさんが骸骨の頭上を掴んで足止めしてくれた。好機だ。もう片方の腕もすっぽ抜く。
「ちょ、ロザリーさん! この隙に書き換えて下さい! うまくいったらマリンちゃんとシリンちゃんに落ち着くよう注意してあげますからっ」
「!? ほんとですか! とにかく奴隷扱いをやめさせてくれますか! 服も靴も全て奪われて料理中の油跳ねで火傷が絶えないんです! なのにエプロンすら貸してくれなくて!」
「あー、わかった、わーったから。いざとなれば貴方に関する記憶も全て消して赤の他人にしてあげますから」
全く。
あの双子はアリエルちゃんみたいに男には興味なさそうだったのに、なんでそうなったんだ?
困ったことに骸骨の骨に刻まれた古代術式魔法には、かなり高レベルの魔獣の血が使われていたことがわかった。
「これは呪文を刻む時に使うインクなんですよ。書き換えるには更に強い魔獣の血が必要で……恐らくですが、Sランク魔獣の血でも上書きすることは難しいかと」
「そうなんですか?」
「はい。見て下さい、このアンデットに刻まれている呪文の色は紫色です。Sランクの中でもとくに高位の魔獣の血の色です」
「……確かに」
思わず収納から魔獣とか魔獣とか出そうとしていた手を止めた。これらはSランクの魔獣だ。
……どうしよう。
これより高位となると……海王蛇の黒い血しかない。収納にはある。でもフィックスさんの目の前で出すのは嫌だ。てか使いたくない。いくら前世の中で手に入れた血とはいえ、もしかしたらそれを見たフィックスさんが悲しい気持ちになるかもしれないからだ。
「……やーめった!」
「え?」
「やめたやめたっ」
別に【偽りの果実】なんてなくてもいいじゃない。どうせ納豆でしか使わないんだから。それに来年には結婚して新婚生活が始まるし。
そうだ、これからは男性が好みそうなスタミナ料理とか赤ちゃんが好みそうな離乳食の勉強をしよう。納豆なんてなくても暮らしていける。
「フィックスさぁん、厨房に戻って一緒にシューにクリーム詰めましょうよぉ。今日も沢山クリーム作ってくれたので溢れかえるくらい詰めちゃいますよ♪」
そう言って振り返るとフィックスさんが骸骨に馬乗りになっていた。わお。骸骨の頭……てか空洞になった目や鼻や口から黒い液体がドバドバ出ている。てか溢れかえっている。
「俺もリリーと入学する」
フィックスさんがそう言うと、骸骨は起き上がって直立した。そしてフィックスさんに封筒を渡した。
「我が校の制服を着ていますね。ではどうぞ。入学案内書です」
何故かフィックスさんは受け取った封筒をまたもや粉々にした。軍服骸骨が何か言いたそうに歯をカタカタさせているが、どうしたんだろう?
「リリー、これで俺も入学できるよ」
「え? そ、そうなんですか?」
「うん。ちゃんと話し合ったらわかってくれた」
へぇ。
アンデットって知能もあるし、以外と話せるのね。
「さっき案内書読んだけど、入学は今日の朝でいいみたい。一緒に朝ご飯食べてから登校しようか」
「は、はい……あ、でもフィックスさん。よくよく考えたらお仕事もあるし……私の我儘なんかに付き合わないでいいんですよ?」
入学はしたいけど、どちらかというとフィックスさんも一緒にと思った目的は武器より青春の謳歌だ。しかしそれが学園である必要はない。既に成人しているフィックスさんにそこまで求めるのは流石に私の我儘だと気付いた。
「リリーは入学したいんでしょ?」
「う~ん……そうなんですけど、フィックスさんに迷惑かけたくないです」
「リリーがずっと側にいてくれるなら迷惑じゃないよ。なによりリリーの願いは叶えてあげたいし」
「……フィックスさぁん」
ああ……私の夫が優しすぎる。
制服姿もほんと様になっている。
テリーさんやお店の従業員さん達にも迷惑かけちゃうけど……とにかくお土産はいっぱい持って帰ろう! そうしよう!
「フィックスさん! 私、結婚したあとはフィックスさんの為に生きます! こんな私だけど、フィックスさんの奥さんとして精進していきますからあ!」
「嬉しい。俺もそうする」
フィックスさんに抱きついてこれから始まる学園生活に思いを馳せているとロザリーがガシッと肩を掴んできた。
「助けて下さい! 双子に見つかりました!」
ん?
見ると向こうからマリンちゃんとシリンちゃんが鬼のような顔で走ってくる。
「あ、ロザリーあんなとこにいた!」
「トリガーさんとこのスペシャル鳥弁当は早朝5時には売り切れちゃうから並んどいてって言ったでしょう!」
まだ夜中の1時だが、並ぶには早すぎないだろうか? 仕事前の漁師も買いにくる4時頃でよくね?
「もう勘弁してくれ!」
「だーめ、逃げたら容赦しないって言ったよねー」
「ねー、言ったよねー」
おお。双子にずるずると引き摺られていくロザリー。かなり気に入られているようだ。
「助けて下さい! やっとあの師団長や実家から逃げれたのに、もう奴隷扱いはイヤだ!」
チッ。しょうがねぇなぁ。
お前も色々あったもんな。
結果は出してないが解決策は持ってたから助けてやるか。
「マリンちゃん、シリンちゃん」
「「あ、リリーおねいさんだ!」」
双子の前に立ちはだかり、中腰で視線を合わせる。
「あのね、このお兄ちゃんね、実はアルレント国で指名手配されてる重犯罪者なの」
「「え?」」
「え!?」
お前は反応すんなとロザリーに威圧をかけると、萎縮した。
「……ロザリーって罪を犯してたの?」
「うん。このお兄ちゃんは本来なら犯した罪の重さから半年の謹慎処分だけを受ける予定だった上司を無職に追い込んで、結果、上司は妻に離縁までされて全財産も奪われたわ。性格はともかく実力そのものはとても優秀な魔導師だったのに」
これはヴィッセル殿下が後々になってあの時の自国民はこのような形で処分したとわざわざ手紙を送ってきたから知ってる事実だ。そしてやり過ぎだ。アルレント国の貴族に下す処分にしてはかなり重い。
「そ、それはボクじゃなく何故か殿下がっ」
ロザリーをぎろりと睨み付ける。
頼むから今は黙っとけ。
「その結果、アルレント国の貴族達は下位が上位に下克上をしたと憤ってありとあらゆる手段を使ってお兄ちゃんの実家を潰しました。上司のように破産させて一族もろとも路頭に迷わせたのです。そしてその時このお兄ちゃんは実家を助けませんでした。カプルス共和国に亡命して逃げてきたのです」
「……ああ。その通りだ」
ま、ヴィッセル殿下の手紙から察するに、実家からもタカられてきたそうだから援助したくない気持ちもわかる。
「それってロザリーは犯罪者になるの?」
「犯罪者みたいなもんだね。いまこのお兄ちゃんがアルレント国に一歩でも足を踏み入れたら、貴族達から死ぬまでタコ殴りにされます。遺体を発見するまで捜索の手も緩めないでしょうからね。貴族とはそういうものです」
つまり私が何を言いたいのかというと、
「このお兄ちゃんは絶対にカプルス共和国から出ていきません。他の国も王政で大国アルレントの貴族の手がまわっているので入国も出来ません。わかりますか? このお兄ちゃんは一生この国で暮らすしかないんです。つまり貴女達から絶対に逃げられないということ」
「「へぇ!」」
「ちょ、助けてくれるんじゃないんですか! 双子の奴隷欲を助長させてどういうつもりですか!」
うるせーな。
話はここからなんだよ。
「マリンちゃんシリンちゃん」
「「うん?」」
「このお兄ちゃんの側にいると危険ですよ? 冒険者として大成する可能性も低いので貴女達には一銭の得もありません。それにアルレントの貴族達はこの国で法的な権力を下せないとしても、暗殺者を送り込むことはいくらでも可能です。側にいれば巻き込まれることもありますよ?」
「「知ってる!」」
…………え?
「最近ロザリーを影からつけ狙ってる男がいたもんねー」
「ねー、シリン達が成敗したもんねー」
「ねー、家まで入ってきた男はママが捕まえて海までぶん投げたけど、先に気配に気付いたのはマリン達だもんねー」
……それは、知らんかった。
「「ロザリー犯罪者でもいいよ!」」
「……えっ!?」
双子に掴まれたロザリーが狼狽えている。
「ねー、シリン達そんなの気にしないもんねー」
「ねー、マリン達のお金盗んだら殺すけどロザリーはそんなのしないもんねー」
「……まさか……今まで……側にいたのは……ボクを護ってくれていたのか?」
ロザリーが呆気にとられたように膝をついた。
なんだなんだ。これ、私が介入しなくても解決するんじゃね?
「冬になったら服くらいは着せてあげるからさー」
「え?」
「そうそう、今は浮浪者のフリしてなよー」
「その間にマリン達が暗殺者を追い払っておくから」
「そ、んな……でも、」
「ママも『あんた達の好きにしな』って言ってくれたもんねー」
「ねー、それに犯罪者を警察に渡すとお金が貰えるんだよ」
……なるほど。
そういうことか。
確かに犯罪者……いや、貴族が暗殺に使うようなプロを警察につき出すと余罪がわんさか出てくるので捕まえた人には褒賞金が出る。褒賞金を出すのは警察と提携しているギルド。
なるほど、なるほど。
「そういやマリンちゃんとシリンちゃんは冒険者登録をしていましたね」
「「ぅ……あ、あの節は本当にごめんなさいリリーおねいさん」」
ロザリーを側においておけば向こうから褒賞金がやってくると学んだのか、それとも本当にロザリーがお気に召したのか。
感動しているロザリーと仲良く手を繋ぐ双子を見る限り、後者だろう。
「でもマリン、徐々に暗殺者の数が減ってると思わない?」
「先にママに見つかったら海に投げられちゃうからねー」
「ねー、お金を溝に捨ててるようなもんだよねー、勿体ないよねー」
「ねー、お金が入ってこなくなったらその時はロザリーを売ろうねー」
「ねー、犯罪者なら警察からお金もらえるからねー」
「ねー」
……いや、前者だった。
地面で双子に感謝しながら泣き崩れるロザリーには聞こえていないようだ。
「リリー」
フィックスさんに呼ばれて振り向くと均等にクリームが詰められたシューが目前に大量に現れた。
「お、美味しそううう!」
あま~いめっちゃいい匂い。
わあ、半分はザラメで半分は粉糖がかけられている。
「これ全部リリーの。俺の愛情も詰めといたから」
「あ、ありがとうございますうう!!」
あぁ。お皿を持った私の旦那様が超かっこいい。
あむあむ、しゃくしゃく、流石のピスタチオ。私を笑顔にするピスタチオ。
ん?
ずるずると双子に引き摺られていくロザリー、その三人を……いや双子の背をフィックスさんが口の端をつりあげて眺めている。とても満足そうな顔だ。
「フィックスさん、あちらも無事解決したようです。大団円ですねっモグモグ」
「リリーは可愛いねぇ」
頬張り過ぎて口の端についたクリームをフィックスさんにぺろりと舐められた。熱い舌に思わず顔が紅潮する。そして耳元で囁かれた。
「クリーム作りすぎて余っちゃった」
「っ、……」
「後でベットで舐める?」
「ぅ……もう、ほんと、作りすぎですよぅ」
「大丈夫。残ったらリリーにつけて食べるから」
それは楽しそうだ、とは言えずに口ごもる。
とにもかくにも、ほんとピスタチオって万能!
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