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二話 スラムを離れる

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「少し行くだけだ。ここにすぐ戻る」

 また担がれると誰も会わずにスラムの出口へ行く。しばらく目を閉じるとやっと見えるようになってきた。だらんっと大人しく担がれていると弟は仲間と合流したようだ。敵わない相手に無駄な抵抗はしない主義だ。隙を見ていつでも逃げれるように体力を残しておく。

「ルイ様。そちらが...」
「あぁそうだ」

 先程の口調や雰囲気がガラッと変わる。その変化に驚いたものの息を潜めていた。

「早くこちらにお乗り下さい」

 暗闇に紛れて馬車が来る。弟はそこに俺を担いだまま乗り込むといかにもふわふわそうな椅子に置いて逃げられないようにか肩に手を置いた。

「おーおーお前が肩に手をおくってこたぁお前の恋人はじゃじゃ馬のようだなぁ」

 いきなり聞こえた声に驚いて周りを見ても誰もいない。弟の方は特に取り乱す素振りもなく目の前の一点を見ている。俺も見ていると段々と人の体のようなものが浮かび上がってくる。魔法か?俺は学んでないから知らないが面白そうなものがあるのだな。

「レオ」

 もう誰かも分かったようだ。レオと呼ぶ俺らより歳が上そうな赤い髪の男イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべている。

「そんな顔すんなよ。俺だって見にきたくって見に来てんじゃねぇんだよ」
「じゃあなんで来たんだ」
「どんなに美女でも断ったルイが恋人を作るらしいってことを聞いてな。ルイ以外で会議を開いたわけよ」

 そこまで言ったところで弟は殺気だっている。それを知ってか知らずか笑みを崩さないまま話し続ける。

「それで勝負をして負けたヤツがルイが恋人を迎えに行くっていう今について行くってことになったわけだ」
「レオが負けたんだな」
「...て、手加減してやったんだよ」

 苦虫を噛み潰したような顔をしている。負けたのが余程悔しかったのだろう。俺はさっきから蚊帳の外で暇だからと目をつぶってふわふわの椅子を堪能する。こんなふわふわ初めて座ったな。これは子供達に一度でもいいからすわらせてあげたい。

「着きました」

 御者の声に一瞬ビクッとする。

「どうしたの?」
「なんでもない」

 優しい声色に戻ったがこんなに変わるということ自体が不気味で怖い。弟の変わりようにレオも驚いているようだった。

「お前そんな優しい声も出せたんか!?それにおまっ、笑顔!」
「はっ?」

 レオが弟の背中を笑い混じりにビシバシと叩くと弟は鬱陶しそうに睨む。そんな弟の様子にレオはもっと俺を見る目が輝く。

「降りるぞ」
「ほいはーい」

 いいネタが入ったとつぶやくレオに殺気を隠そうともしない弟。御者は扉を開けギョッとする。うちの弟がすみません。担がれながら少し会釈をして馬車から降りる。次はどこに連れていかれるんだか。早く帰んなきゃ。

「お待ちしておりましたわ」

 凛としつつもふわふわとした声が御者の後ろから聞こえる。

「レオどうでした?」
「はははっおもしろい情報が手に入ったぜ」
「ちっ」

 弟は睨みながらも逆らえないのかただ舌打ちをするのみだった。見るところ貴族様当たりだろう。

「ではルイのお部屋に行ってお話しましょう。恋人様もおつかれでしょうから」
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