グランピングランタン

あお

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第三章

律の風

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朝起きると少し寒く、出勤時や登校時には半袖が厳しくなり、鼻を通る風は軽い。

9月。夏休みが終わり、新しい学期の時期だ。

「おはよう龍っ!」

月曜の朝、家を出ると早々に加奈子から声をかけられる。

「あぁ…おはよう。」
「宿題終わった?」
「なんとか終わったよ。」
「毎年宿題見せてって言うのに、今年は言わなかったね!」
「………。」
「……ねぇどーしたのよ?最近返信もないし。」

夏休みに入る前、学校近くの神社で行われた夏祭りでの出来事が衝撃的で、それ以来、加奈子からの連絡も加奈子への連絡もすることはなかった。

「おはよう、高梨、木村。」

登校中の田口にばったり。

〔お!いいタイミングで来てくれたぜ田口!!〕
「おはよう。」
「おはよう!」

それから3人で登校。龍はあまり喋らずスタスタ歩いてそっけない態度であることは、加奈子だけにはわかっていた。

「あ!そーいや祭りでさ、高梨お前。香川とー」
「あーそろそろ行かないとチャイムなるぜ?」
「うん…」

田口の言葉を遮るように喋る龍。校門前には生徒指導の川島先生。

「おーい!後1分でチャイム鳴るぞー!」

3人は走って校門を抜ける。慌てて靴を脱ぎ、上履きへ履き替え階段を登る。登る途中で教室へ向かう担任の藤本先生とすれ違う。

「おーいあんまり急ぐないよー。」
『はーい!』

ドタバタしながら教室に入り、机に鞄を置くと同時にチャイムが鳴る。チャイムが鳴り終えると藤本先生が教室に入る。

「高梨、田口、木村。ギリギリだぞ。それにしても高梨がギリギリなんて珍しいな。夏休み、遊びすぎたんじゃないか?」
「えへへ。そんなことはないですよ!」
「学校始まったんだから頭切り替えろよ。」

『起立。礼ー』

学校が始まるとすぐに行われるテスト。中学3年生にはここからのテストが大きく受験に影響していく。しかし受験ばかりではなく、秋の季節は行われるイベントが多い。その1つは体育祭だ。その後には文化祭が行われる。3年生には最後の体育祭。3年生には息抜きの文化祭。これが終わればいよいよ本格的な受験シーズンとなる。

「ふぅー。テストも終わりいよいよ体育祭か。」
「そうだな。最後の体育祭だ。」
「あー今年は組体操、前でやらなきゃな。」

そう話をするのは龍と田口。この中学校には伝統となる組体操がある。3年生は観客席を目の前に組体操を行わなければならない。

「人の前なんて嫌だな。」
「そうか?俺は目立ちたいからな。木村なんて緊張してぷるぷる足が震えるんじゃね?」
「ふざけんな。緊張なんかしないよ。」
「お前体重が軽いから、去年なんて後ろなのに組体操の上に立って目立ってたもんな」
「あぁ…今年も上だろうな。」

身長は平均。体重はやや軽い。少しひ弱に見える龍。それに比べ、身長も高く体もがっしりな田口。幼い頃から柔道を習っていた。

「今年はしっかり目立ってさ、俺告白したい女の子いるんだよね。」
「え、誰よ?」
「んーおい。ちょっと耳貸せよ。それはさー。」
「……隣の…………え!そうだったのか」
「もう来年にはバラバラだろ?最後にいいところ見せて告白したいんだ。」
「そうか…それは頑張れよ。手伝えることがあれば言ってくれよ。」
「なぁ木村。お前にはそういう人いないの?
……好きな女子とかさ?」
「いないよ。……。」
「なんだよその間は。」
「いないって。」
「まぁ…お前モテないもんな。」
「うるせーよ!!!好きな人みんなに言いふらすぞ!」
「わかったわかったごめんごめん。…あのさ、高梨に聞いた?」
「…あの祭りのことか?」
「うん。いやお前昔から高梨と仲良しじゃん?何か聞いてるかなって。」
「全く。」
「そうか…香川も話してくれないんだよな。付き合ってないってしか言わないし、あの時、何をしてたのかも教えてくれないんだよ。」
「もういいじゃん。付き合ってることにしとこうぜ。その方がモヤモヤとれるでしょ。付き合ってることなんて言えないでしょ。」
「そうだな。俺に彼女が出来たらみんなに自慢するけどな。あいつらには茶々入れてふざけようぜ。」
「…あぁ。そうだな。」

田口と江藤と甲斐田はあの祭りの後、すぐ香川に連絡を取っていた。しかし香川は何の関係もないと伝える。それが返って怪しく感じていた。龍もその話は田口から聞いていたが、聞き流していた。

『おーい、田口、木村ぁ。帰ろうぜ!』

そう2人を呼ぶのは江藤と香川。鞄を手に取り学校を後にする。

「なぁ香川。ほんとに付き合ってないの?」

話を聞く田口。

「……。あぁ付き合ってないよ。」
「じゃ、なんで2人で祭りなんか行ったんだ?」

間髪入れずに話す江藤。それを一歩離れて聞く龍。

「それは…まぁなんでもいいだろ?」
「おいおい隠すなよぉー!俺ら友達だろ?」
「………。ほんとは告白したんだよ。」

足が止まる龍。

「まじで!?それで?!」

前のめりで聞く田口に江藤。それを見て香川は笑う。

「なんだよお前ら!」
「ほら気になるじゃん?高梨って可愛いしさ、他のクラスの奴も高梨の事好きな奴多いぜ?」
「告白するために祭りに行ったのか?」
「そうだよ。別れる前に告白したんだよ。」
「それでそれでー」
「ちょっと待て。高梨が前にいるぞ。」

話し声が聞こえて振り向く高梨。田口と江藤はニヤニヤしながら高梨と香川を見比べる。それに対して気まずそうな香川と高梨。場の雰囲気は盛り上がっているが、1人落ち着かない龍。

「たっかなっしさーん!おーい!」
「ば、バカ!声かけるなよ!」

満面の笑みを浮かべながら高梨に手を振る田口。この場の気まずい空気に耐えられず、走り去ってしまった香川。笑う田口に江藤。

「高梨おめでとう!」
「…え、何が?」
『なんでもなーーい!』

そう言い放って香川を追いかける田口と江藤。置いてけぼりの龍。

「龍…話聞いたの?」
「何が?」
「あの……その…香川君からのー」
「知らねーよ!!!!」

突然の大声でびっくりする加奈子。

「え…な、なに怒ってるの?」
「怒ってねーよ!」
「ちょっと…なに。どーしたのよ。」
「うるせーよ!お前には関係ないだろっ!!」

加奈子に冷たく当たってしまう龍。加奈子は何が起きてるかわからず、口を真一文字に結んだまま立ち尽くす。胸のドキドキが止まらない。落ち着くこともできない。手をギューっとぐーの形にし、小刻みに震える。龍は家に向かって走り出す。加奈子はそれを見ることしかできなかった。

それから龍は家に帰り、ベッドの上に突っ伏した。携帯のメール音がするがどーでもよかった。

〔1人にしてくれー〕

気分はひとりぼっちの気分だった。心の中がモヤモヤと頭は乱回転しているようだった。
一方その頃加奈子は、家に帰り誰かにメールをする。表情は無に近いが少し怒っているようにも見える。

「はぁ…やっぱりこーなっちゃったか。」

深いため息をつき、机に頭をくっつける。

『コンコンコン』

加奈子の部屋にノックの音が広がる。

「はーい。」

ガチャっとドアを開け、そこに立つのは加奈子の1つ上の姉、里美だ。

「加奈子。どーしたの?顔色悪いよ。」
「お姉ちゃん……」

加奈子は急に泣き出した。原因もわからず里美は加奈子を抱きしめる。

「ゆっくりでいいから。ゆっくりでいいから落ち着いたら話してね。」

優しく言葉でも包む里美。ポンポン。と背中を叩きながら加奈子を抱きしめ続ける。

「お姉ちゃん……ありがどう……。」
「いっぱいいっぱいになっちゃったのかな。」
「あのね…実はねー」

ベットに突っ伏したまま、全く動かない龍。夜ご飯も食べずにそのまま朝を迎える。
泣きじゃくりながらも口を開き、少しずつ話を始める加奈子。それに何も言わず、うんうんー。とだけ聞く姉の里美。

昔は仲良く遊んでいた龍と加奈子。昔はベランダを開け、遊ぼー!と大声で龍が叫ぶと、いいよー!と大声で返す加奈子。

家は近いのに互いの距離は遠くなっていく。
そして体育祭当日を迎える。


続く。
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