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第四章
満面
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『選手宣誓!3年2組ー』
開会式。体育祭が幕を開けた。
天気は晴れ。少し肌寒く感じる日だが、動きやすい日となりそうだ。
龍と加奈子はあれから会話もなく、微妙な空気感に包まれていた。そればかりか、龍は香川に対しても同じ空気感になっていた。
原因は香川が加奈子に告白した。という事。それが龍にはもどかしく悔しい気持ちだった。
「なぁ木村ぁ。何かしたか俺?」
「何もしてないよ。」
「なんだよそれー?」
「そろそろリレーの順番だぞ。」
『位置について。よーい……パン!』
順々に走っていく生徒たち。特に3年生は中学最後の体育祭で気合も十分。保護者の声も大きく、それ以上に応援団の声はより一層大きくなっていく。いよいよ龍の出番が回ってきた。
「木村。俺が勝ったら理由教えてくれよ。」
「………。」
〔理由か……。〕
そう思いながらスタートラインに着く。
『位置について。よーい……パン!』
龍・香川・他3人同時にスタート。最初は差がほぼなかったが、カーブで徐々に差がついていく。
〔く……!〕
運動神経抜群の香川。元野球部で足が早くて有名だった。部が悪い龍や他の3人。あっけない結末となりダントツで香川が1位でゴールをした。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「さぁ、聞かせてもらおうか木村。」
「はぁ…はぁ………。ただ…ちょっと悔しくて……さ、寂しくなったんだよ…。」
そこですべてを理解した香川。そうか!という顔をして龍を見る。
「……すまなかったな木村。お前には相談するべきだったな。」
「え…?」
「お前と高梨…幼なじみだもんな。木村お前、高梨のこと好きなんだろ?」
「…そんなんじゃねーよ。」
「そうじゃないと寂しくならないだろ。」
「……わからないんだよ。いつも側にいた人が遠くに行ってしまいそうなのが、耐えれなかったんだよ。親友とその…幼なじみがって…」
あまりに正直に話してくれる龍に驚く香川。それと同時に笑ってしまう。
「くくく……ははは!!」
「?!?!」
「いやー悪い悪い。お前素直だな。」
「リレーに…負けたからな。」
「大丈夫だよ!心配するな。いつも通りに戻ろうぜ。次は江藤たちが走るから戻るぞ。」
〔心配するな…?〕
「あぁ。何か俺も悪かったな。すまない。」
2人のわだかまりが少しずつ解けていく。香川が言った言葉に少し疑問を抱きながらも団員席に戻る。次々と生徒が走り、次々と競技が終わっていく。そして昼休みの時間。
『只今を持ちまして午前の競技をすべてー』
『13時までをお昼休みー』
昼休みのアナウンスが流れ、各々保護者が敷いているレジャーシートに向かって歩いていく。
「龍。お疲れ様。」
「ありがとう。」
手にはキンキンに冷えたペットボトルを持って待っていた龍のお母さん。
そして、横には加奈子のお母さん。小さい時から行事ごとのお昼ご飯は、両家一緒に食べることがほとんど。
「龍ちゃんお疲れ様。リレー頑張ってたね。」
「あ、ありがとうございます。」
「もうちょっとだったのにねー!」
と、笑顔で話をかけてくる加奈子のお母さん。すると…
「あー!お腹減ったー!」
お腹を抑えながらシートに来たのは加奈子。
「加奈子ちゃんお疲れ様。はい、飲み物。」
「あ!ありがとうございます!」
「加奈子もリレーお疲れ様。龍ちゃんと同じ2位だったね。」
ドキッとする龍。飲んでいたお茶が口から飛び出そうだった。
ワイワイとお弁当を食べ進める4人だったが、2人に何かあった。というのは龍のお母さん・加奈子のお母さん共々すぐにわかった。
「そーいえばお姉ちゃんとお父さんはー?」
「お父さん達は、近くに飲み物買いに行ったのよ。お姉ちゃんは体調が悪いから家に居るわ。」
〔酒買いに行ってんな…あの親父…〕
「高梨さんすいませんー」
声をかけてきたのは同じクラスの佐藤。
「いきなりすいません。次の学年リレーで走る予定だった君島さんが、足を怪我して…高梨さん代わりに走ってもらえますか?」
「え、あ、綾子は大丈夫なの?」
「はい。捻挫みたいで。」
「わかった!じゃ、準備したらすぐに行きます!」
「ありがとうございます。」
ペットボトルの中のお茶をグイッと飲んで、シューズを履いて団員席に戻ろうとしている加奈子。
「出れない人の分まで頑張ってきなさい加奈子。」
肩をポンと叩いて背中を押すのは加奈子のお父さん。
「はーい!」
元気よく飛び出しいく加奈子。それを気にしてないふりをする龍。
「男なら、声かけてやれよ。つまらんことするな。」
後ろから低い声で叱るのは龍のお父さん。
「そんなんじゃないけど…」
「言わなきゃならんときに言えないのはつまらん男ぞ。」
「…はいはい。」
『パン!………パンパン!』
大きな音で昼玉が鳴る。昼の部がスタートする合図だ。
1発目の競技は加奈子が代走する学年リレー。
『高梨頑張れー!』
『加奈子ー!頑張ってねー!』
団員席からの応援も熱が上がる。そんな中龍は見つめているだけだった。
『バシっ!!』
「いってぇ!!!」
龍の背中を叩いてきたのは香川。後ろには田口、甲斐田、江藤もいる。
「木村。声かけてやれよ。」
「はぁ~?!?!」
「お前が声をかけることに意味があるんだ。」
そう龍に真面目な顔で言う香川。意味もわからず叩かれた背中をずっと抑えてる龍。
『つまらんことするなー』
『言えないのは男じゃないー』
お父さんから言われた言葉が脳裏に浮かぶ。香川らはじっと龍を見つめる。
「なんだよ!いえばいいんだろ!!」
腹をくくる龍。
「た、…………。
か、加奈子ぉぉぉぉお!!!頑張れぇぇ!!!」
言ってしまったー。
それを聞いてびっくりするが爆笑する香川ら。龍の声援の後に3人で声を合わせる。
『高梨頑張れーー!!!!!』
加奈子はキョトンとした顔で龍を見る。一瞬下を見るがすぐさま顔を上げ、満面な笑みで龍にピースをする。
アンカーの加奈子。ついに出番が回ってきたー
『只今を持ちまして、体育祭を閉会致しますー。』
全部の競技が終わり、片付けに入る生徒たち。ワイワイガヤガヤと教室へ戻っていく。教室に戻り席に着くと、担任の藤本先生が喋りだす。
「今日の体育祭でお前たち3年生は、最後の体育祭となった。来月行われる文化祭は、1年生2年生が主軸となる。それが終わればいよいよ受験シーズンになる。とりあえず今日は帰ってゆっくりするんだ。お疲れ様。」
『起立。礼ー』
こうして龍たちの最後の体育祭は終わった。みんなヘトヘトであまり喋ることもなく、そそくさと家路に着く。
『龍ー。』
帰る途中振り返ると加奈子が呼んでいた。
「おう…お疲れ様。最後惜しかったな。」
「悔しいー!もう少しで1位だったのに!」
「まぁしょうがないよ。」
「…応援ありがとうね。ちゃんと聞こえてたよ。」
「……あぁあれは香川たちにー。」
香川の名前を出して、しまった!という顔をする龍。
「…それが原因なんだね?喋らなくなったの。」
「………。」
「私ね告白されたんだ。香川君から。」
「聞いたよ香川から。」
「…悩んでたんだ。香川君ってさ龍と仲良いじゃん?だからどーやってー」
「いいんじゃない?あいつはいい奴だよ。それは保証するよ。」
「違うの。断ったの。」
「え?ふったの?」
「うんー。龍にさ冷たくされた日に断っちゃったの。」
「そ、そうなんだ。へぇ。なんで?」
「……他に好きな人がいるから。」
「そうか……。それは香川も残念だね。」
「龍にはそういう人いないの?」
「……いないよ。」
そう言うとそっぽを向く龍。
「あぁ!いるんじゃん!誰よ!誰なのよ!!!」
「なんだよ!誰でもいいじゃん!」
周りにも聞こえるような大声で話す龍と加奈子。周りなんて関係なかった。ただ、2人で話している時間がとても久しぶりで楽しかった。龍も笑顔で加奈子も笑顔。話してる内容なんてどうでもよかった。
この時間がずっと終わらなければいいー。
そう龍は思っていた。
続く。
開会式。体育祭が幕を開けた。
天気は晴れ。少し肌寒く感じる日だが、動きやすい日となりそうだ。
龍と加奈子はあれから会話もなく、微妙な空気感に包まれていた。そればかりか、龍は香川に対しても同じ空気感になっていた。
原因は香川が加奈子に告白した。という事。それが龍にはもどかしく悔しい気持ちだった。
「なぁ木村ぁ。何かしたか俺?」
「何もしてないよ。」
「なんだよそれー?」
「そろそろリレーの順番だぞ。」
『位置について。よーい……パン!』
順々に走っていく生徒たち。特に3年生は中学最後の体育祭で気合も十分。保護者の声も大きく、それ以上に応援団の声はより一層大きくなっていく。いよいよ龍の出番が回ってきた。
「木村。俺が勝ったら理由教えてくれよ。」
「………。」
〔理由か……。〕
そう思いながらスタートラインに着く。
『位置について。よーい……パン!』
龍・香川・他3人同時にスタート。最初は差がほぼなかったが、カーブで徐々に差がついていく。
〔く……!〕
運動神経抜群の香川。元野球部で足が早くて有名だった。部が悪い龍や他の3人。あっけない結末となりダントツで香川が1位でゴールをした。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「さぁ、聞かせてもらおうか木村。」
「はぁ…はぁ………。ただ…ちょっと悔しくて……さ、寂しくなったんだよ…。」
そこですべてを理解した香川。そうか!という顔をして龍を見る。
「……すまなかったな木村。お前には相談するべきだったな。」
「え…?」
「お前と高梨…幼なじみだもんな。木村お前、高梨のこと好きなんだろ?」
「…そんなんじゃねーよ。」
「そうじゃないと寂しくならないだろ。」
「……わからないんだよ。いつも側にいた人が遠くに行ってしまいそうなのが、耐えれなかったんだよ。親友とその…幼なじみがって…」
あまりに正直に話してくれる龍に驚く香川。それと同時に笑ってしまう。
「くくく……ははは!!」
「?!?!」
「いやー悪い悪い。お前素直だな。」
「リレーに…負けたからな。」
「大丈夫だよ!心配するな。いつも通りに戻ろうぜ。次は江藤たちが走るから戻るぞ。」
〔心配するな…?〕
「あぁ。何か俺も悪かったな。すまない。」
2人のわだかまりが少しずつ解けていく。香川が言った言葉に少し疑問を抱きながらも団員席に戻る。次々と生徒が走り、次々と競技が終わっていく。そして昼休みの時間。
『只今を持ちまして午前の競技をすべてー』
『13時までをお昼休みー』
昼休みのアナウンスが流れ、各々保護者が敷いているレジャーシートに向かって歩いていく。
「龍。お疲れ様。」
「ありがとう。」
手にはキンキンに冷えたペットボトルを持って待っていた龍のお母さん。
そして、横には加奈子のお母さん。小さい時から行事ごとのお昼ご飯は、両家一緒に食べることがほとんど。
「龍ちゃんお疲れ様。リレー頑張ってたね。」
「あ、ありがとうございます。」
「もうちょっとだったのにねー!」
と、笑顔で話をかけてくる加奈子のお母さん。すると…
「あー!お腹減ったー!」
お腹を抑えながらシートに来たのは加奈子。
「加奈子ちゃんお疲れ様。はい、飲み物。」
「あ!ありがとうございます!」
「加奈子もリレーお疲れ様。龍ちゃんと同じ2位だったね。」
ドキッとする龍。飲んでいたお茶が口から飛び出そうだった。
ワイワイとお弁当を食べ進める4人だったが、2人に何かあった。というのは龍のお母さん・加奈子のお母さん共々すぐにわかった。
「そーいえばお姉ちゃんとお父さんはー?」
「お父さん達は、近くに飲み物買いに行ったのよ。お姉ちゃんは体調が悪いから家に居るわ。」
〔酒買いに行ってんな…あの親父…〕
「高梨さんすいませんー」
声をかけてきたのは同じクラスの佐藤。
「いきなりすいません。次の学年リレーで走る予定だった君島さんが、足を怪我して…高梨さん代わりに走ってもらえますか?」
「え、あ、綾子は大丈夫なの?」
「はい。捻挫みたいで。」
「わかった!じゃ、準備したらすぐに行きます!」
「ありがとうございます。」
ペットボトルの中のお茶をグイッと飲んで、シューズを履いて団員席に戻ろうとしている加奈子。
「出れない人の分まで頑張ってきなさい加奈子。」
肩をポンと叩いて背中を押すのは加奈子のお父さん。
「はーい!」
元気よく飛び出しいく加奈子。それを気にしてないふりをする龍。
「男なら、声かけてやれよ。つまらんことするな。」
後ろから低い声で叱るのは龍のお父さん。
「そんなんじゃないけど…」
「言わなきゃならんときに言えないのはつまらん男ぞ。」
「…はいはい。」
『パン!………パンパン!』
大きな音で昼玉が鳴る。昼の部がスタートする合図だ。
1発目の競技は加奈子が代走する学年リレー。
『高梨頑張れー!』
『加奈子ー!頑張ってねー!』
団員席からの応援も熱が上がる。そんな中龍は見つめているだけだった。
『バシっ!!』
「いってぇ!!!」
龍の背中を叩いてきたのは香川。後ろには田口、甲斐田、江藤もいる。
「木村。声かけてやれよ。」
「はぁ~?!?!」
「お前が声をかけることに意味があるんだ。」
そう龍に真面目な顔で言う香川。意味もわからず叩かれた背中をずっと抑えてる龍。
『つまらんことするなー』
『言えないのは男じゃないー』
お父さんから言われた言葉が脳裏に浮かぶ。香川らはじっと龍を見つめる。
「なんだよ!いえばいいんだろ!!」
腹をくくる龍。
「た、…………。
か、加奈子ぉぉぉぉお!!!頑張れぇぇ!!!」
言ってしまったー。
それを聞いてびっくりするが爆笑する香川ら。龍の声援の後に3人で声を合わせる。
『高梨頑張れーー!!!!!』
加奈子はキョトンとした顔で龍を見る。一瞬下を見るがすぐさま顔を上げ、満面な笑みで龍にピースをする。
アンカーの加奈子。ついに出番が回ってきたー
『只今を持ちまして、体育祭を閉会致しますー。』
全部の競技が終わり、片付けに入る生徒たち。ワイワイガヤガヤと教室へ戻っていく。教室に戻り席に着くと、担任の藤本先生が喋りだす。
「今日の体育祭でお前たち3年生は、最後の体育祭となった。来月行われる文化祭は、1年生2年生が主軸となる。それが終わればいよいよ受験シーズンになる。とりあえず今日は帰ってゆっくりするんだ。お疲れ様。」
『起立。礼ー』
こうして龍たちの最後の体育祭は終わった。みんなヘトヘトであまり喋ることもなく、そそくさと家路に着く。
『龍ー。』
帰る途中振り返ると加奈子が呼んでいた。
「おう…お疲れ様。最後惜しかったな。」
「悔しいー!もう少しで1位だったのに!」
「まぁしょうがないよ。」
「…応援ありがとうね。ちゃんと聞こえてたよ。」
「……あぁあれは香川たちにー。」
香川の名前を出して、しまった!という顔をする龍。
「…それが原因なんだね?喋らなくなったの。」
「………。」
「私ね告白されたんだ。香川君から。」
「聞いたよ香川から。」
「…悩んでたんだ。香川君ってさ龍と仲良いじゃん?だからどーやってー」
「いいんじゃない?あいつはいい奴だよ。それは保証するよ。」
「違うの。断ったの。」
「え?ふったの?」
「うんー。龍にさ冷たくされた日に断っちゃったの。」
「そ、そうなんだ。へぇ。なんで?」
「……他に好きな人がいるから。」
「そうか……。それは香川も残念だね。」
「龍にはそういう人いないの?」
「……いないよ。」
そう言うとそっぽを向く龍。
「あぁ!いるんじゃん!誰よ!誰なのよ!!!」
「なんだよ!誰でもいいじゃん!」
周りにも聞こえるような大声で話す龍と加奈子。周りなんて関係なかった。ただ、2人で話している時間がとても久しぶりで楽しかった。龍も笑顔で加奈子も笑顔。話してる内容なんてどうでもよかった。
この時間がずっと終わらなければいいー。
そう龍は思っていた。
続く。
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