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しおりを挟む「なんと見事な黒髪・・・本当に女神カミーリャの化身では?・・・あ、殿下?」
宰相補佐の呟きに返答も出来ず。
自分はフラフラと彼女へと近づいていった。
「・・・これで、よしっと。後は晩御飯の支度・・・あれ?カイル殿下、どうされました?あぁ、魔石は大きかったですよ。どうやら火の属性っぽいかな、と思いますけど。」
此方を伺ったまま、首を傾けた彼女。
黒髪がシルク糸のように、しなやかに揺れる。
魔石の話をするその顔は、とても綺麗でずっと見ていたい程だけれど・・・
「ツバキ殿・・・すまないが、確認させて貰いたい。
・・・貴女は、1年近く前にホーツウェル国に降臨した方ではないだろうか?」
意を決して、自分は直接確認をする。
途端にピクリ、と彼女の動きが止まった。
その顔を見ると、表情が抜け落ちたかのように無表情になる。
「・・・なぜ、それを?」
しばらくの間ののち、絞り出した彼女の声は低く震えていた。
怒りと怯え、そんな感情が伝わってくるようだ。
まずは彼女を安心させたい。
「誤解しないでほしい。貴女をホーツウェル国に引き渡そうなんて思っていない。我が国の守護女神であるカミーリャ神の化身のような貴女には、我が国で安心して過ごして貰いたいから。
・・・ただ、彼の国から、現在彼方に滞在している聖女と一緒に降臨したとされる女性の捜索と保護を依頼された。
保護ののち、ホーツウェル以外の国に滞在するならば、必要経費は全て払うとまで。」
「・・・お金は要りません。私は今、猟師兼冒険者として生業を立てていますから。身一つで私を追い出したあの国の施しなど、一切受ける気は有りません。」
「何だって?!」
聞き捨てならない言葉が聴こえてきた。
身一つで追い出した、だと?
ホリックの話では、彼女が自ら立ち去ったとか、あの馬鹿聖女に追い出されたとか色々と話があったが。
「身一つ、って、どういうこと?」
「そのままの意味です。あの国の聖女は、愛の女神の容姿にそっくりな茉莉花さんだけだと。聖女に図々しく付いてきた貴様など必要ないと、本神殿長でしたか、神殿で一番偉い方に言われまして。
それでも他の方が、黒髪はスカルペル王国の守護女神の色だって庇ってくれてはいたので・・・その間にこの世界の必要な知識は詰め込んでいました。」
「それで?なぜ貴女はこんな所に?」
「此方の世界に来て1か月くらい経った時でしたかね。私を庇っていた神官さんがね、見目の良い方だったんですよ。私の世界の言葉では『イケメン』と言われる部類・・・それに嫉妬した例の聖女の茉莉花さんが、私を追い出せと言ったそうですよ?それで、その日のうちにあの国と此方の国の境目のこの森に放置されました。」
「「はぁっ!!?」」
いつの間にか、自分の隣にいたゴルドー宰相補佐も一緒に声を上げた。
「私が此方に来た時の衣装のまま、身分証もなく、お金も渡されず。馬車に乗せられ・・・です。」
「なんじゃと!?・・・して、貴女はどの様に生き延びたのだ?」
「元の世界から此方に一緒に持ってきた荷物の中身に、先程赤熊を倒した武器がありました。何とかアレを死守できましたし、サバイバルの知識もなんとなくありましたから。数日、森の中で過ごしました。で、魔獣化した熊に遭遇して戦っていた時に、S級冒険者のザックさんと出くわして。そのまま保護していただきました。」
「冒険者、ザック・・・?」
「ディートリッヒ辺境伯の、冒険者活動名ですな。」
「はい。彼が辺境伯様と知ったのは結構後だったんですけどね・・・その後は、身分証明の為に冒険者登録をする事を勧めてもらって。この家を使う事の許可をもらって。それからは、街道の管理人としてここに住んでいます。」
たまに様子を見がてら、この家にも寄って行きますよ、と、彼女は漸く、ふわり、と笑みをこぼした。
しかし・・・しかし、まぁ。
「あンのっ、馬鹿聖女がぁっ!!」
「・・・殿下。」
彼女の話を聞いて、あの馬鹿聖女の事を思い出し、私怨が再び沸き起こる。
ギリギリと歯噛みをして、拳を握り締めたら、宰相補佐に嗜められた。
「ーーー ふふっ」
「っあ、ごめん、つい・・・」
「いぇ、『馬鹿聖女』って、代弁していただきましたから、嬉しくて。」
くすくすと笑う彼女の笑顔を見て、ささくれた気持ちが浮上した。
「いや、自分もあの馬鹿聖女に散々言われて、嫌がらせされて、はらわたが煮えくり返っているから。」
「何を言われたんですか?」
「『“モブ顔”王子なんて寄越すな。イケメン寄越さない国なんて知ったこっちゃない。魔素溜まりの浄化になんて行かない。そんな国なんて、魔獣にやられて、ホーツウェル国の属国になればいい。どうしても派遣して欲しければ、イケメンの王太子を寄越せ』だってさ。」
「あ゛あ゛っ?」
彼女の眉間に皺が寄る。
美人がガンを飛ばすと、すごい迫力になるんだ・・・初めて知った。
「うわ・・・やっぱり、あの子は勘違いしたお馬鹿聖女ですねぇ・・・」
「だろ?本当に腹が立って仕方なくて。だから自分は、聖女になんて頼らなくても良いように、聖魔法・・・特に浄化魔法の魔石への添付について研究中なんだ。」
「成る程・・・分かりました。魔素溜まりの浄化についてはお手伝いできる、かも、です。明日、ディートリッヒ辺境伯邸に向かう時に同行させて頂いて、辺境伯様に相談させて貰っても良いですか?」
「願ったり叶ったりだよ。赤熊を倒せる程の魔法が扱えるなら心強い。自分からも辺境伯にお願いしよう。」
彼女の後見人は、ディートリッヒ辺境伯なのだろうから、許可を取るのは当たり前か。
それでも、あの馬鹿聖女を見返すチャンスが出てきた事に、嬉しさが込み上げてきた。
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